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四十一話 創造神、アピールする②

「王女殿下!?」

「危険です。こちらにお戻りください」


 護衛の声を聞かず、俺のもとに来たアリスが問う。

「ねぇ、シオンはどうしてシオンじゃないの?」

 聞きながらに私の身体をぺたぺたと触っては不思議そうな顔をする。


 これはアリスの【付与魔術 疑似魔眼】が原因だ。

 アリスもルーファス同様に【付与魔術 疑似魔眼】が使える。疑似魔眼は使用者によって能力が異なる。


 ルーファスの場合は、魔力を色で見ることができる。その流れも視ることが可能で相手の魔術への対応によく使われる。


 一方で、アリスの方は、看破の能力を持つ。【スキル 看破】は相手の何らかが違うと感覚で感じる。だが、疑似魔眼の能力で看破の力を使えば、相手何らかの違いを視認することが可能となる。


 今の俺の状態は、シオンでもありヘルメスでもあるため俺をシオンだと気づけたわけだ。

【スキル 看破】を私に使っても私に偽っている情報がないために気づくこと出来ない。


「これは、初めまして、アリス王女殿下。私はシオンではありませんよ。彼の知り合いではありますけどね」

 抱きつくアリスを護衛のもとに返し、お偉方の視線が俺に集中する。


「おっと、失礼。皆様にもご挨拶を。私の名はヘルメスといいます。エチゴヤ商会という商会の支配人をしている者でございます。こちらはメネア。エチゴヤ商会の事務を担当しています。此度は親戚であるシオンくんのどうしてもという要請があり、こちらに来させていただきました」


「シオンの知り合いなのか! では、シオンにゴーレムを召喚する魔道具を与えたのはあんたか!」

 代表さんが私の名乗りに一番に反応する。

 娘のアリアは王都からミルダ家の者に馬車でこの都市に向かっているようでここにはまだ到着しておらず、この事件に巻き込まれることはなかったようだ。


「そういえば、確かにあれを渡したのは、私ですが。それをあなたに何か言われるいわれはないはずですが?」


「ま、まぁ、そうですね」


「あれが奪われようものなら、シオンくんをこんな場所に止めておくわけにもいきませんね。後日、最近の出来事でも事細かにシオンくんに聞いてみましょう。学園長殿、シオンくんは頑張っていますか?」


 ギルドのトップである代表さんは俺の功績を知っているためこの街から離れるのは、困るのだろう。顔が青くなっている。

 シオンの影響で出る利益を王都で聞いている商人たちも青くなっている。下手すれば、ワイバーンを狩るほどの冒険者を敵に回るため、暴力で済まされると怖いらしい。


 だったら、そっとしておいてくれればいいものを。


「はい。シオンくんは非常に優秀な生徒ですよ。ところで、あなたはシオンくんとはどのような関係なのですか?」


「シオンくんとですか…。それは、……親戚のようなものですかね。それで副学園長殿、名乗りましたが話を進めてもよろしいでしょうか?」

 私の回答に学園長は、「確かに似た趣がある」とつぶやく。


「ふん。聞かん名だな、エチゴヤ商会か。事務を担当している者がメイド服とはどうなんだ? それでお前たち、たかが新参の商人風情に何ができる?」


「私もメネアも多少の武術や魔術を心得ている身。避難の助力くらいはできるかと」


「来賓の皆さまは、安全な避難場所に心当たりがある方はいませんか?」

 俺の質問でイスタールが挙手をする。


「儂が知っておる。して、ヘルメスよ、それを知ってどうするのだ? 未だに街にもあのような怪物がいるとしかわからぬ状況、安全な場所への誘導は容易ではないぞ」


「そこはご心配なく。私自身は空間魔術が使えますが、未だ上級の魔術は使えない身でございます。しかし、たまたまある魔道具を手に入れまして、そのある魔道具というのは、思い浮かべた場所に転移を可能にするというもので」


「転移だと!? あの失われた技術の魔術が使えるというのか。いや、そのようなものなどありえんわ! このようなときに下らない冗談を申すな!!」

 間の抜けた声を上げた副学園長が、すぐに内容を理解して俺の話を一蹴する。


 空間魔術の高度な技術や複雑な陣、適正がなけれないけないため、本来は気軽に使えないらしい。使うことが出来れば、色々と楽になるのに。


「しかし、これはそれを行うことが可能でして。とはいえ、疑われても仕方のないことです。ふむ、どうしましょうか……」


「どうだろうか、ヘルメスとやら。儂をあそこの観客席の辺りに転移させてみてくれ。儂があそこを思い浮かべて転移が出来るのだろう?」

 俺のことを気づいているであろうイスタールが俺の話に乗ってくる。


「しかし、先王陛下! もしものことがあったら……」


「副学園長殿。では、どうしますか? 彼の提案を受けなければ、我々はここで来るかわからない救助を待つのか? それとも衛兵たちが未だ倒せない相手に外に出て避難場所まで誰一人欠けることなく移動できますか?」


「それは……」


「彼の言葉を信じれば、我々は安全にここを脱出できますが。あなたには、それ以外の方法がありますか?」


「うっ! わかりました。しかし、……」


「私が先王陛下の代わりに実験に協力いたしましょうか?」

 イスタールの側にいた護衛の女騎士が挙手をする。


「では、騎士様、私と手を繋いで行き先を思い浮かべてください」


「はっ、はい。よろしくお願いします!」

 この女騎士さんは、純情なようだ。何か言われるかもしれないが、ここは私の証明のために耐えてくれ。

 転移の魔道具に扮した物を持った手と反対の手で女騎士の手を握る。

 ヘルメスとしてでは使えない上級魔術である【空間魔術 集団転移】で一般の観客席に転移する。


「すごいですね、初めての感覚です。これが転移ですか」

 来賓室に顔を向け、手を振る女騎士。その光景を見て、来賓たちは驚きと感嘆が起こった。


「まさか、本当に…」

 転移はそれ自体が非常に高度で、本来、術者であっても個人で使用できるだけで称賛される。

 だからこそ、この高度で複雑で、でも便利な術を少しでも容易にするため予め緻密に組まれた陣で転移をできるようにしたり、転移を補助するための魔道具は貴重なもののようだ。


 それをさらに、魔力を流すだけで特定の場所に正確に転移させる力を持つ魔道具があったとなれば、驚くのは無理もない。


 さまざまな職種の来賓や護衛たちの視線が俺の持つ魔道具に集中する。

「どうでしょうか、皆さん。ここは彼らの善意を頼らせてもらいませんか?」

 転移を来賓に信用させたところでイスタールが周りを見回して提案する。


「そうですね。先王陛下の言う通りです。ここまで救助に来てくれた彼の行動力に感謝いたしましょう」

 学園長がイスタールの言葉に賛同する。この人はまともな人のようだ。なのに、なんであれが副学園長になってしまったんだろうか。


「いつ敵が来るやもしれませんので、決断をお早く。私たちと一緒に転移をするのか、それともここで別の救助を待つのか」

 俺は未だ決めかねている大商会のお偉方に決断を迫る。俺としては、ここでアレに殺られても支障はないからどちらでも構わない。


 彼らはシオンとしての俺に強く魔道具の強要をしていた。その魔道具がどこから流れてきたのかも調べている、と代表さんも言っていた。わからなかったようだが。

 そして、その渡した張本人が今ここに目の前にいることでどう対応することが最善か悩んでいる、と見て取れる。


 もし、ヘルメスと行動を共にしてシオンに会うことになったならば、シオンがヘルメスに告げ口をするのではないか。その他にも色々なことが考えついてしまう。

 ヘルメスが自分たちの印象を悪くとらえれば、魔道具の情報が手に入りにくくなる。

 この街の騎士でさえ後れを取るような状況の最中にこうして無傷で来ることが出来てしまった彼らには、暴力のような手段を選ぶと逆に返り討ちにされかねない。


「私はここに残らせていただきます」

 ここに残ると言った貴族に来賓室のお偉方の視線が一挙に集まる。


「なぜですか、ガルガルド伯爵?! ここに居ては危険です。逃げましょう」


「お前は逃げるといい、シャルータ男爵」


「どうしてですか?!」


「あそこにいるのは、他でもない私の子のシャナークなのです」

 長いな、早く決めろよ。切り捨てるならさっさとしろ。うだうだと面倒だ。


「では、どうすればいいのですか。一応はあなたの意見も聞いているのです。ここにいる方々を転移したいのですが」


「おい、お前たちは商人だといったな。なら、あれをどうにかできる体力回復薬(ポーション)や薬はないのか?」


「ありません。アレを治すことはできません」


「ところで、ガルガルドよ。貴様の子息であるシャナークが斯様に変化し、このような出来事にまでなっているのか説明が欲しいのじゃが」

 静かで重い口調。国王らしさが出ている。


「先王陛下。私は………ある薬売りから聖人になれるという薬を買いました。始めは騎士にのみ売っていたらしく、その騎士たちは力が溢れるようだ、と話しておりました。その騎士たちに異常は無く、私もその薬を買いました」


「ふむ、大方当っているな。それ以外にも隠していることがあるだろうが、今は言わないでおいてやる。この件が終わり次第罰を受けてもらう。すでに王族の諜報機関が貴様らのことで調べがついているぞ」


「確かに息子の願いに応え、様々なことをしました。しかし、この度の事態は私の考えではありません!」

 ガルガルドが必死に弁解する。しかし、シャルータ男爵の言っていた魔族の伝言に魔物を送り込むという言葉がまさかこれのことでは、と焦る。


 彼には弁明のスキルを持っていないようだ。こういうときにスキルを使われると厄介だな。元々こういうようなスキルはレベル上げを難しくしてはいるが、少し難度を上げることにしよう。

 ガルガルドの計画は協力者である魔族がなんらかの騒ぎを起こし、それに乗じてアレスを殺害することだった。


 そのためにシャナークと同じように薬を自分の騎士たちにも飲ませていた。その騎士は今、街で暴れる化け物になってしまっている。


 国王直轄の諜報部に気づかれていても、隠して薬売りのことだけを喋る。

 しかし、魔族の言う騒ぎがまさか自分の息子を犠牲としたこのようなことだとは思っていなかった。


「これらの情報はここに居る商人たちが広めるであろう。此度晒した恥、貴様らの命で償ってもらうぞ。ランドルフ、カリファ!」

 広めることでガルガルドに関係する何者かが幾つか出てくると考えての発現だ。これで商人たちは話すことを許可されていることに気が付いている。


 イスタールが護衛にいた二名の騎士の名を呼ぶ。

 片方は王城で俺と手合わせしたときにいたお爺ちゃん。もう片方の転移の証明に協力してくれた鎧を着た女性もイスタールの側近らしい。王族直属の称号持ちの側近なのかな?


「「はっ!」」


「まずは奴隷落ちさせろ。死なせるな、この程度許される行いではない」


「了解いたしました」


「あのー、そろそろ避難した方が。今までここが狙われなかった方が意外と申しますか、何というか」


「そうだな。ヘルメスよ、聞いておきたいのだが、そなた等であればどうにかできるのではないか?」

 イスタールは俺のことに気づいている。当然だ。メネアが近くにいて控えているのだ、それだけでシオンとヘルメスを繋げられる。そのうえでまだ俺に期待をしている。


「そうですね、私たちがアレをどうにかするとすれば、殺すことぐらいでしょうか。治すための薬物などを作るためには、アレのサンプルが必要になってきますから。さらにそこから対抗薬を作るとなると時間がかかるかと」


「では、彼らは何をしようと?」


「きっとアレの中核となっている者を助けようとしているのかと。シャナーク殿と彼らはご学友なのでしょう」


「助けることが可能なのか?!」


「彼らでは無理でしょう。例え逃しても私の部下が付いておりますので、討ち逃しはしないでしょう」


「あの子は貴様らの踏み台ではない!!」


「ふふ、ああなってしまった以上、止める方法は殺すしかないと思います。それとも彼らが本当に友と呼べるような存在なら心に訴えかけてみますか? もしかしたら止まるかもしれませんよ」

 俺にとっては今更シャナークくんのことなどどうでもいい。有効活用のための道具としか考えていない。


「くっ! 何を見え透いた!」

 ガルガルドが唇を噛む。


「それにしても中々勝負の決着が見えませんね」

 お偉方の中の商人が話題を変えるため、アレとオーランドたちの闘いに注目する。


「それでは転移するためにその魔道具を先王陛下に。場所を思うだけでいいのです」


「わかった」

 イスタールが実際に思った通りの場所へ転移した。

 シオンがあらかじめ避難場所を見つけておき、そこへ【空間魔術 集団転移】を使っただけというのがタネである。

 避難場所は、学園の地下にあるシェルター。生徒も多くがそこにいる。



 ・・・



「じゃ、メネア。あとはよろしく」


「主様はどちらへ?」


「俺はシオンとして動くとするよ。武勲を上げてみようかなと思ってね。それにヘルメスで街の民間人を救えば、それも宣伝になるしね」


「了解しました。こちらはお任せください。この方々をここで守っています」


「毎度毎度すまないねぇ」


「何をおっしゃいますか! 私は主様のために働けることが嬉しいのです。謝らないでください!」


「ありがとう。これから頼むね」

 その言葉はうれしいのだが、ワーカーホリックになってしまう。どこかで休みを取らせた方がいいな。でも、メネアはただ休めと言っても休まないだろうし、どうしようか。


「はい!」

 メネアが元気よく返事をする。ヘルメスはメネアの了承を得て、お偉方に別れを済ます。


「皆さま。私はここで別の所へと行かなくてはなりませんので。心配せずとも、私の部下であるメネアはここにいますので安心してください」


「待て! こんな状況でどこに行くというのだ!」


「私は逃げ遅れた人たちの救助を。私もそれなりに戦えますから」


「だが、……」

 アレスの止めようとする声を無視して外に通ずる階段を上る。













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