閑話 学生、試合に挑む②
「オーランドくん! 試合を始めます、早く来なさい!」
「へいへい、今行きますよーっと」
こいつには、俺の引き立て役をやってもらわないとな。
身代わり人形が壊れたらそれで終わってしまう。全力で攻撃していくと簡単に壊れてあいつにダメージが通って名を言われるかわからない。身代わり人形の許容範囲内で痛めつけてやる。今までのバカにされ続けた恨みだ。
「ん……? おいおい、これは俺の家に伝わる由緒ある武具だ。このような格式にある大会や戦場へはこの武具で出向くのがしきたりなのだよ。だから、そんな目で文句を言わないでくれ。これはルールでも認められていることなんだ」
俺の視線に気づいたやつが生意気に何か言ってくる。
何か不満があるように思われたのかもしれない。しかし、全くの見当違いだ。
別にお前がその装備でここまで勝ち上がり、強力になってようが、どうでもいい。
「文句とかない。いい試合をしよう」
「早々に勝負をあきらめて観客を飽きさせるなよ」
審判が奴からの合図に頷くと、手を大きく上げた。
うわぁ、買収されてやがる。腐った世の中だぜ。だが、それでこそ勝った時は面白いじゃねーの。
「それでは、シャナーク・エイビス対オーランドの試合を始めます!」
不思議だ。
目の前には俺が見ることもできないようなすごい装備に身を包んだやつがいる。それにも関わらず普段の制服に剣一本の俺にはまったく恐れがない。
シオンとの一対一の組手の特訓がそうさせているのか? シオンに比べれば、大したことがない気がする。
重厚な鎧を着たシャナークがこっちに向かってくる。
剣にも鎧にも何かしらの付与魔術がかかっているに違いない。
だが、動きが遅い、わかりやすい。
わかる、わかる、わかる。こいつの次の動き、剣の機動、それがなんとなくだが分かる気がする。
両手で大剣を振りかぶって上段から斬りこむ狙いがよくわかる。気合の声と一緒に振り降りされるキラキラと光る大きな剣。
せっかく両手で持っているのにほぼ右手で支えられているあの大剣。左手はただ添えられているだけだ。
俺は剣を下から振り上げ、あいつのキラキラとした籠手の右手の方に剣をたたきつける。
俺の狙いは成功し、両手で持っていた大剣を手放して落とす。
ここまで簡単に叩き落とすことができると罠の可能性を疑ったが何もなかった。シオンならこういう場面は絶対に罠だからな。
剣の落とした音が思った以上に響いた。
静まり返る会場。
追撃はしない。ここで追撃されなれば、それなりに屈辱だろうからな。見逃されたとして。
そして、俺の意図に気付いたのか、剣を拾った奴の顔は怒りに満ちていた。
まぁ、恥をかくのは嫌だよな。
先代国王様も見に来てるらしいし。こいつはけっこういい所の坊ちゃんだからな。
悠長に近づいてからの攻撃。遅すぎる。
一応身体強化は使っている。だけど、この分なら使うまでもなく大剣を回避できる。
シオンとの組手を受けていく内に他の相手が遅く感じるようになった。
迫ってくる大剣の横薙ぎ。
その大剣の腹を俺は剣で思いっきり打ち付ける。
「くっ!?」
またも落ちる大剣。
せっかくいい剣なんだろうけど、使い手がこれじゃ意味がない。
また待ってやっていると、今度は自分で落としていた。剣を当てられ、衝撃で手がしびれて持つことができないのだろう。
さすがに目の前で膝をついている相手に何もしないわけにもいかないので、剣を横に振る。
「がっ!!」
呆然としているシャナークの顔に加減された剣の薙ぎ払いがあたる。
身代わり人形はまだ壊れない。
「はい、これ」
俺は少しの距離を飛んだシャナークに大剣を渡す。
「―――っ! 審判!!」
片手で顔をおさえながら審判を呼びつけ、片方の手で俺を指さして怒鳴るシャナーク。
それを聞いて、頷く審判。
なんだ? これにどういちゃもんをつけるんだ? 俺は普通にやってるぞ?
「オーランド、先ほどから相手の出方を窺うばかりで積極性が見られません。己の力を出し切って攻めるように」
何を言い出すかと思えば、そんなこと。それでいいのか、そんなことをしたらすぐに終わってシャナークがかわいそうだろ。まぁ、そろそろ潮時か。最後に叩き潰して終わらせよう。
「わかりましたよ。終わらせればいいんでしょ」
「「は?」」
何を言っているのかわからないというような顔をする審判とシャナークを無視して剣を振る。
「ひっ! オ、オーランド! 貴様、貴様も許さんぞ、絶対に!!――」
慌てて剣を構えるシャナークに俺は上段で斬りこむ。
シャナークは反射的に掲げた剣で防御しようとする。
剣の衝突を避け、俺は上段の斬りこみから突きに変更する。
両手を上げて無防備になった顔面を狙った突きはしっかりと決まってシャナークが気絶した。
同時にシャナークの身代わり人形が壊れた。
「あの、身代わり人形壊れたんだがよ」
サクサクと進行していったが、各試合観客は盛り上がっていた。
・・・
「ふふふ、これは、これは、可笑しな異物がいるじゃないか。――あれ、俺ってこんなに血に飢えてる感じだったか? よっぽどこれまでが暇だったんだろう」
殺人衝動があるわけではないが、多少の戦闘狂な部分は認めている。
「さてさてさーて、これを皆はどう思うのかな。オーランドたちはしっかりと異変に気付けているようだし、魔力感知を習得できたかな。メネアたちと集まってこの騒動をどうするか決めてから動くとしよう。せっかくの騒ぎだ、ここで恩を売るというのも一つの選択だしな」
シオンは舞台上でシャナークに警戒しているオーランドと不自然な魔力を帯びているシャナークを選手用の通路から見る。
「主様! アレはいったい何でしょうか? あの倒れている者から妙な魔力が出ています。それに随分と汚い波動の魔力をこの学園都市の各地から放出されているようですが」
試合を観戦していたメネアが俺のもとまで来ていた。
そう、目の前で起こっている変異が至る所で始まっていた。
「さぁ、何だろうね。で、どうしようか? アレには、俺たちに敵性があるみたいだしね」
視なくても分かることだが、一応【固有スキル マップ探査】でアレに敵性があることはわかっていた。
「そうですか。敵性があるのであれば蹴散らせばよろしいかと。それよりもエチゴヤ商会を立ち上げることに成功いたしました。今の客足は少しですが、いずれ多くなるかと。貴族の中でも噂になっているという情報もあります」
「そうか、これで生活資金は何とかなるな。で、話を戻すと、倒すことは容易にできる。だけど、アレはここの者たちにとっては脅威となるものだ。だからこそ、アレの処遇をどうするか」
「始末ではだめなのですか?」
「調べれば、アレの基になっているシャナークくんは危険な状態で少なくとも数か月の間、投薬などで身体を徐々に変化させられて、今ではこんなのになった。無事助けるなんてことは奇跡でも起きない限り不可能に近い。まぁ、これ以外にもいるみたいだからちゃんと直す気があれば可能だけど。俺たちにとってはおそらく無意味な薬物だ。だが、これが伝染しないためにも対抗策は必要だ」
「私の方でも確認できました。アレはもうすでにヒューマンではなくなっていますね。体の変異が始まっています。おや、やっと衛兵が到着したようですね」
二人は異形のものに変化しつつあるシャナークを眺めて、動じることなく冷静に分析をしている。
10名ほどの一団はオーランドの見るシャナークだったものの背を杖で指し、詠唱を始める。
人数は少ないようだが、実力者たちなのだろうか? しれとも、被害が大きすぎて人をあまり回せないのか? 俺は彼らを役に立たないと判断しているが。
観客席に移動して、頬杖をついて座りながら分析する。
「魔術があんなに近づくなんて何を考えているのでしょう」
メネアも俺の隣に座り、衛兵の練度の低さを嘆く。
「珍しい特性ですね。アレは色々な耐性を獲得しています。火耐性、水耐性、地耐性でしょうか。私たちからしてみればなんでもない事でしょうが、……」
基本属性は、風・水・地・火の四属性。効果的に効くのは、風属性のみということ。
アレは、放たれる三つの属性を大幅に威力を削っている。
見ていると、アレは活発に動き始めた。自身の魔物に近い身体を動かそうとする。
身体が慣れてきたのか、無意識に身体強化魔術を使っているのか、もしくはその両方か。
「ああ。愚物ににしては大したものだ。無理矢理に限界まで能力を使われて耐性獲得にまでなったのだろうよ。保って二日生命活動を維持できればいい方か」
「いったい誰が、何のためにしたことなんだろうか? シャナークくんの家は貴族でも上の方の位だろ。それが数か月前から投薬とか、しっかりとした計画されてるようだし……」
「主様、これを機会に我々の商会のアピールをしてもよろしいでしょうか?」
「どういう風に?」
「ベタですが、ある程度崩壊したところに我々が回復薬を配ったり、住民を助けたり、アレらを駆除などをして救世主になってしまうという風に」
「人員は、どうする? 摩耶たちも使うなら王都の屋敷で暇してるホルスたちも使ってやってくれ」
「了解しました」
「急がなくてもいいぞ、今のところは50体ほどが街に出現してるみたいだから」
「シオン様!」
市街を散策していた摩耶たちが俺のもとに来る。
「この後にある事を行う。それはメネアから聞いてくれ。それより市街地の方はどうだった?」
「ひどいです。私たちが見ていた中ではいまだに一体も倒せてはいませんでした」
はぁー、大苦戦ね。
これは予想以上に平和ボケが進んでいたか。弱いのだからこれくらいは対処してほしいのだがな。
「主様、衛兵たちは壊滅いたしました。抵抗というよりは練習の的になったようです」
「あの、シオン様? あの子たちの加勢はしないんですか?」
摩耶が舞台上に集まるアルマやルウ、俺が教えていた学生たちを指す。
「試合での動きは良かったのに、すぐに調子に乗って評価を下げるような真似を。自分たちがアレに勝てるとでも」
メネアの厳しい意見だが、正しい。勝てる相手でもないのに挑もうとするとは。
「さぁね、どういう気持ちなのかは知らないけど、ここで終わってしまえば俺が教えた意味がない。それに意外と負けはしないんじゃないかな。とにかく、俺たちもそろそろ動こうか。メネアは摩耶たちにこれから行うことの説明。摩耶、ゼノビア、ウル、テスタはその学生たちのフォローを頼む。最初は指示だけでもいいが、窮地になったら戦闘に入ってやってくれ。念のためこれを渡しておく」
シオンは宝物殿から【シオンの外套】を持ち出す。
この装備には、【スキル HP自然回復】や【スキル 魔術反射】。そして、新しく追加した【スキル 危機感知】に【スキル 身体能力上昇】の効果がある。
こういった装備に付与されたスキルは、他者にも使うことができるようにはなるが、スキルに使う魔力消費が少しだけ多くなる。だが、それくらいのデメリットなので便利だ。
「「「了解です!」」」
「主様、私たちはどこへ?」
「ああ、俺たちはお偉方に顔を覚えてもらおうと思ってな。正義の味方としても優秀な商人としても。姿を変えて」




