三十九話 創造神、因縁?の対決をする?
「さぁー、次の試合はシオン選手対アスカロン選手の対決です。両者ともに非常に優秀な学生と聞き及んでいます。シオンくんは数々の授業で上位の成績者として名前が挙がる生徒だそうです。色々な戦い方ができるということでしょう。対するは、アスカロン・ルイン様! ルイン公爵家の神童であり、術者として最も評価されている魔術師であります。そして、なんとアスカロン様は公爵家に伝わる秘術を使用することができるそうです。私もぜひとも見てみたいものですね」
司会が高らかな声が会場に設置されている四角い箱から響く。これは闘技場でもよく使用されているマジックアイテムで、所謂拡声器の役割を果たす。
「ほぅ、勝ち進んでトーナメント後半になると実況が付くようになるのか」
以前交わした王兄派閥組との選抜戦での勝負は俺から魔術や剣術を教わった学生が順当に勝利を収めていた。あとは、俺やルーファス、アルマたちが勝てば勝負の件は終わりになる。
もちろんオーランドたちにも色々と教えて強化をしてある。俺は自身にステータスやスキルを使用不可にできる【スキル 限定】を使用して試合に挑む。
オーランドやルウは、戦士向きだったので属性付与と身体強化、魔力鎧を低レベルではあるが学生程度なら十分なほどに。
ルウは、戦士向きではあったがオーランドのように剣を使うのではなく、弓の戦闘を得意とした。なので、オーランド同様に属性付与と身体強化は当然として、魔力鎧の代わりに隠密と視覚強化のスキルを習得させた。
アルマとルーファスは、二人とは違い術者系だったので、身体強化からついでに学び習得した魔力放出、魔力放出からさらに魔術妨害のスキルを習得した。あとは、魔術威力が三分の一になる省略詠唱や二人が使えないと言っていた別属性の魔術も使えるようになった。
俺の出番になるまでに別の試合を見たが、ひどかった。ちょうど魔術使い同士の試合が行われていたのだが、
突っ立ったまま詠唱する、放つ、外すだったり、親御さんに買ってもらったらしき魔道具で防ぐ。
突っ立ったまま詠唱する、放つ、外すだったり、親御さんに買ってもらったらしき魔道具で防ぐ。
と、この繰り返しだった。
誰も彼もがまともに動こうとしない。威力のある魔術を放ち合い、くらった方がそれ以後集中出来ずに魔術を詠唱することもかなわずただただぐだっと終わる。
ここは優れた戦士や魔術使いを輩出するところなはずなのにこの体たらく。
これならアルマたちでも勝ち進むことは余裕だろう。
魔力反応と発動兆候から魔術の特定とまではいかなくとも発動タイミングと属性を理解して相殺だったりを狙っていかないと。欲を言えば、魔術と魔術を組み合わせて強化したり。
「シオン。僕はね、とても悲しいよ。この選抜戦はそれぞれの学園から最も強い生徒が親善試合に出場するための戦い。王国の才能ある者たちの神聖な戦い。それなのに……」
親善試合には将来有望な人材を見定めるために、大貴族はもちろん軍部のものであったり宮廷魔術師、国王や王子などが顔を見せることがある。
今回のように先王が来ることは今までなかったのだ。
出場する男子生徒の中には、先王と一緒に来ている美しき花と呼ばれているアリエス王女殿下に目に留まる絶好の機会と息巻く者もいるようだ。賭けもあるが、アスカロンはこっちも狙っているらしい。
「アスカロン様は俺が親善試合にはふさわしくないと?」
「その通りだ。本当に選出されるべきものが誰かを皆に知らしめるために僕がお前を倒す」
そこまで公爵家に伝わる秘術というか、道具に頼っているだけで自信があるようだ。俺の過去の記憶では秘術とかを作った記憶がないからあの魔道具はその子孫が作り上げたものだろう。
「精々俺を愉しませてくれよ、お坊ちゃん」
アスカロンは紫色に輝く魔石のついた指輪を嵌め、醜悪に笑う。何かしらの術の発動に必要な魔道具だろう。
俺のスキル、魔力感知で観客席にいるイザベラや取り巻きたちから魔力がアスカロンに流れているのが分かる。
あの指輪、微小の闇魔術が含まれているな。この時代では、脅威になるかもしれない。
しかし、彼はこの試合にあの指輪の力に頼っているようだし、試合が終わった後でこっそりと封印しておこう。
「お前ごときが親善試合の代表として出場することはあってはならない。そして、お前が代表としての実力がないことをこの僕が証明してやろう」
「それでは、双方用意はいいな。はじめ!」
自尊心が肥大化したアスカロンが、俺に向けて指輪を嵌めた指を動し、詠唱する。
「◆◆ ◆。【火魔術 火の矢】」
この魔術で決着を着かせようとアスカロンが放った【火魔術 火の矢】に、見物していた観客たちから驚きの声が上がる。編入試験で俺が放った魔術と同じ魔術だが、あの時の俺の威力程はない。
俺はアスカロンが魔術を放つのと同時に【無魔術 魔力の矢】を発動。魔力の矢は基本の技で最低位の魔術だ。
視界を埋めて迫りくる火の矢を、一発残らず正確に捕捉して迎撃のために放つ。
俺の魔力の矢とアスカロンの火の矢の衝突によって鼓膜を震わせる破裂音と衝撃が連続し、発生した衝撃が俺とアスカロンの頬を打ち、髪を震わせた。
俺の加護には、魔神の加護がある。魔力の矢に過剰に魔力を流さなくとも威力が大幅に上がる。
俺は威力を手加減のために弱めていたが、真っ向から全弾迎撃して見せた俺に対してアスカロンは驚きを隠さずに感心したように口を動かしていた。
「いささかお前を侮っていたよ。畑を耕すことしか知らぬ土臭い者が、まぐれでこのアヴァントヘルム学園に来れるわけもないか。しかしだからこそ余計に目障りというもの。分を弁えたまえよ」
俺はしていないが、畑を耕す事や作物を育てる事ばかりをしている者をそれで馬鹿にされる理由はない。
「代々我が家にて洗練された魔術、ルイン家の力をとくと見たまえ。さて同じ芸ばかりではせっかく集まってくれた皆を飽きさせてしまうな。僕のとっておきだ」
俺を容易く捻れると思ったようで予想以上に手強かった事に苛立つとは、なんとも行動が安直な少年である。
またアスカロンは詠唱を始める。
「◆ ◆◆ ◆……。【火魔術 紅焔光輪】」
アスカロンの周囲の熱量が上昇し、豪炎が生じたかと思えばそれらは蛇の群れの如く動き、アスカロンの両手の間に集中し、ぐつぐつと沸く溶岩のような塊が巨大な球体を作る。
会心の魔術が直撃した事にアスカロンは歓喜の笑みを浮かべ、これでまずは一つの身代わり人形を消費させた、と安堵したようだった。
だが、俺は火の弱点属性の魔術である水魔術で攻撃を防ぐ。そして、無傷の俺が姿を見せた瞬間に、アスカロンの笑みは崩壊した。
しかし、まさかアスカロンが上級の魔術を使うことができるとは思わなかったな。
「そんな、僕の最強の上級魔術だぞ!? 身代わり人形を使わずに自力で防いだのか! なんだんだ、その水は!? そんな魔術を僕は知らないぞ!!」
「ふむ。知らないか。ではせっかくだ、教えといてやろう。これは、【水魔術 大瀑布】という。古よりあらゆるものすべてを引きずり込み飲み込む渦潮という逸話が残る海域を魔術にしてみたというものです。これは実に厄介な魔術でねぇ。まぁ、俺が自分で使っといてなんだがね」
「大瀑布? それが僕の上級魔術が消した魔術か! お前はそんな魔術をたった一人で使っているのか!! ふざけるな! なんなんだ、その魔術は!? そんなもの魔術ではない!! ……」
情緒不安定なアスカロンは怒鳴る途中で急に黙る。
大瀑布は豪炎を飲み込み、巨大な水の球体から蠢くように出てくる無数の蛇がアスカロンを見て嗤う。
この魔術には幻惑系の効果も併せ持つ。この魔術になった元の海域も幻惑の能力を持っていた。そのせいで船員などが同士討ちだったり衰弱死だったりしていた。
死を経験させられてまともな精神ではいられないだろうな。ふふ、どれだけ死んでいるのか。そろそろ解除してやるか。
「さて、あなたの実力のほどは分かりました。親善試合に出場する他校の選手がどれほどのものかは知りません。しかあし、少なくともあなた程度では、あまりに未熟でしょう。ここで敗れるのが貴方の為です。では、お返しです、【火魔術 紅焔光輪】」
アスカロンが発動させた豪炎の数倍の大きさの魔術を複数出現させる。
「あ、あ、あぁぁ……」
目覚めたと同時に絶望が目の前にある。これが報いというやつだ。散々他人を見下してきたのだろうな、これがお前の運命のようだ。
「早めに降伏する事をお勧めしますよ。俺としてもルイン家の御子息が本番でもない選抜大会予選会の最中に不慮の事故、というのは事態を起こしたくはないですしね」
「そ、そうだ。僕はルイン家の子息だ。僕に傷をつけて試合が終わったらお前とお前の大切なものを潰してやる!!」
まだそんな気概があるとは、タフだな。
「はぁー。あのさ、俺は別にここでお前を殺してもいいんだよ。今のだいたいのこの国の戦力は見て取れた。この程度なら俺の力でもなんとかなる。そもそも俺が少しでも力を入れていたらすぐに終わっていたんだよ。それを君の見せ場を作ってあげようとちゃんと考えて手加減してあげたんだからさ。感謝してほしいよ。
で、俺が与えた選択は二つ。事故として消されるか慈悲を乞うかだけがお前に許される行動だ」
最初は小さくつぶやくだけだったが、後の方は威圧を込めて言う。
幻術を使えば事故と思分けることも可能。どういう事故にしようか。
彼の頭の中ではたかが平民と侮った相手に降伏する事への恥辱や、身代わり人形の庇護が切れた瞬間に訪れる死への恐怖がせめぎ合っているのだろう。上級魔術なら身代わり人形でも耐久力を超えれば繋がっている対象にもダメージが通る。
まさか俺が子供の生意気な言葉にイラつくとは、な。散々煽っておいて何一つ面白みがない。
俺は戦闘狂というわけではないが、どんな手で反撃してくるのかといったことを楽しみにしていたんだがな。
「さ、そろそろ自らの未来を選択してくださいね」
「う、うぅぅ、わかった。ぼ、僕の負けだ。降参するから! だから、早くこの魔術を消してくれえぇぇーー!!」
「早いなー。もうちょっと粘ってくれれば面白くなりそうなのに。でも、騒がずとも聞こえている、お前の情けない声が」
私はアスカロンに背を向けて審判役の先生に視線を向けた。
私の視線を受けた審判は、俺が複数行使した上級魔法に対する驚きを抑えると、高らかに俺の勝利を宣言する。
「勝者はシオン!!」
勝者宣言が競技場に響き渡り、一拍の間を置いてからどっと観客席の生徒や教師たちから轟くような歓声が上がる。
おっと思った以上の歓声だな。
「ふむ、やりすぎてしまったな!」
アスカロンの発言に苛立ちを覚えたからといって、いささかやりすぎてしまった。我ながら大人げの無い事をしてしまったな。
そういえば、結局アスカロンが言っていた秘術とやらをみることはなかったな。
彼の指輪と観客席の彼の支持者が繋がって魔力が流れるのはわかっていたが、まさかあれだけのことが秘術と呼ばれるものであるはずがないし。
何だったんだろうか?
おっと、指輪の能力を封印しておかねばな。この指輪からは、魔族の気配がするんだよな。まさかその魔族を封印していた指輪を魔道具として活用していたわけでもあるまい。
一応、封印をさらに強化しておこう。
もし、魔族が入っていた場合は装備者の近くの瘴気を吸収して強化し、封印されたであろうその魔族が指輪から出てきてしまう。




