三十八話 創造神、商会を発足する
目の前には百メートル四方の敷地で中央の奥に二階建ての洋館が建っている。
建物は凹のような形になっており、真ん中に入口がある。
ゆっくりと開いていく門の奥には、馬車通路よりも更に盛大な出迎えが待っていた。護衛であろう騎士たちが剣を斜め前方に突き上げ国章が刻まれた盾を前面に構える。その間から二列目に並ぶ騎士が槍を斜に掲げて、通路に城門から城へと続くアーチを作り出した。
あらかじめ空間魔術でメネアに連絡していたので別荘の前には、メネアも待っていた。
「イスタール先王陛下とアドニス王兄殿下、ルーファス王弟殿下、アリス王女殿下がすでにご到着されています」
アドニスも学園の生徒であるためここに住んでいる。アリスはイスタールと遊びに来たらしい。
「にしても、大げさだな」
「それだけ先王陛下が主様に会うことを楽しみにしていたしていたということでしょう」
「いや、この前の前夜祭の時に会場で会ったんだが」
「それはそうと、マヤたちがご迷惑かけなかったでしょうか?」
「ああ、問題なかったよ。安心して魔獣を倒すのを見れる程に」
「そうですか。それはよかったです」
「メネアの指導のたまものだな」
「ありがとうございます」
メネアは顔を赤くして頭を下げる。労いの言葉くらい言っておかねばな。
「後でイスタールに頼みごとがあるからメネアも一緒に来てくれ」
「我々の発足する商会の件ですね」
シオンはメネアらと共に建物に入る。
・・・
「おー、あんまり変わってないな。この剥製の像もエアリアルドラゴンのまんまだし。この屋敷に付与した防衛システムも変わってない」
「それはそうでしょうな。ここは初代様が建てた別荘ですぞ。代々大切に扱われ、ここにいる給仕の者も一流のものしか配属されないのですから」
俺たちが屋敷に入り、周りの置物を見ているとイスタールが階段から降りてくる。
「遅くなってすみません、先王陛下」
この屋敷に入った時から給仕が徘徊しているため一応言い方を変える。
「いい。お主が冒険者なのはわかってる。無理に言い換えなくともよい」
「ありがとうございます」
別にそんなことも無いのだが。まぁ、ここは言う通りに。
「少し話がしたいこっちの部屋に来てくれ」
イスタールはシオンを部屋にうながす。
俺がイスタールと話す間、マヤたちは与えられた部屋に行く。
屋敷の二階、様々な文献が詰まった本棚に囲まれた執務室。そこで話すことになった。
「さて、イスタール。話ってなんだ?」
「以前話していた爵位の件が決まりましたのでお伝えに」
「そうか。こっちも話したいことがあるんだ」
「それはいったい?」
「この国で商会を立ち上げたいと思ってな。金を稼がねばならんのだ」
「なるほど。ということは、商業権が必要と言うことですね。わかりました。初代様の頼みとあらば用意いたしましょう」
イスタールが即答で許可してくれた。ささっと公文書の紙に一筆書き、印を押した。
「正式な商業許可証は後日渡しますが、この許可証だけでも問題なく使えますからの」
イスタールはそう言って直筆の許可証を手渡してくれた。
「すまんな」
「ところで、どのような品をお売りになるのですかな?」
「魔道具とか魔術付与を施した武具や防具とアクセサリー、それから薬品関係を扱おうと思ってるんだ。目玉商品は、魔剣にしようかなと」
「魔剣ですかっ!?」
イスタールが大雑把な商品ジャンルの『魔剣』という単語に食いついてきた。
「あ、ああ。この時代に合わせて能力が一つだけの武具が多数やかなり少なくなるが100本くらいの二つ三つ能力をつけた剣を販売しようと思ってるんだ」
「初代様、さすがに国防のためにもそれほどの数の魔剣を気軽に売買されては困るのですが」
「当面はこの国の貴族だけに売るつもりだけど?」
「それなら、まぁ――。いや、王家に優先権をつけていただきたいのぅ。それに魔剣の類次第では宰相にも相談をしますのでその時は説明をお願いします」
「了解だ。魔剣や魔槍などを売る場合、まず王家または国王の近衛に対して商談を持ちかけるようにしよう」
そんなやり取りを経て王国での商業の許可が下りる。
「先ほど魔剣や魔槍とおっしゃっていましたが、どのような物を?」
「じゃあいくつか渡しておこう」
見本用として魔剣や魔槍、魔弓に魔術用の杖を各5本、薬品の魔力回復薬と体力回復薬、栄養剤を数種類渡しておく。
武具のほうは、魔術が一つしか付与されていない量産品。俺が自分で作っているが、集中する必要がなく、空間魔術の術理の手という魔術で機械的に量産している。今、俺の手元には魔剣等が1000本ほど作ってある。
「こ、これは迷宮産で稀に見つかるものよりも優れた逸品ですぞ。この魔力効率の高さ!」
「これを商品の目玉にしたいから、月に10本くらい売るつもりだ」
「10本ですか、ちょっと多いかもしれないので5本になりませんかのぅ」
「わかった。5本な。だが、商会で売る武具をどれくらいの値段で卸そうか?」
「そうですな、ミスリルの剣でも金貨200枚は必要となるでしょう。ですから、それ以上の機能を持つこれらの武具はそれ以上の価値があるでしょう」
「却下だ、高すぎる。これにそこまでの価値はない」
「いえ、これが適正価格です。むしろ少し安いくらいですぞ」
「じゃあ、お前たちに売るときは金貨100枚にする。他は、金貨200枚以上ということにする」
イスタールがさらに値段を上げようとするので、申し訳なくなってきたため値段を固定する。生産にかかる費用は一本に金貨以下で作れるから気が引ける。
「で、どれくらいいる? 売ろうとしてる武具は持ってるけど?」
俺はイスタールにとりあえず聞いてみたが、それがまずかった。
イスタールは魔剣などの武具を300本を買いあげた。いきなり金貨3万枚の商いになった。これなら一般相手にも十分な売り上げになるだろう。
「次はこちらの話を聞いてくだされ。初代様の貴族入りが決まりましたぞ。爵位は最低の騎士爵で、領地も世襲も必要ありません」
「すまなかったな。俺が蒔いた種だというのに」
「いえいえ。それでですね、時期はまだ決められていないのですが、式典の時は来てください。そこで貴族位を渡すことになるので」
「了解した」
・・・
「じゃあ、はい。これ商業許可証ね。王城に行くときなんかは持っていうように」
「はい。ありがとうございます」
許可証を俺から受け取ったメネアを見ていたゼノビアと摩耶はポカンと口を開けていた。
「あれ? 商業許可証? しかも、先代国王様の直筆? あれ? なんだろう、何かがおかしい気がする」
「まったくですわ。何でしょうか、この違和感は? こんなにもあっさりと終わっていいはずがないのに、なぜメイド長はあんなにも……」
――大げさな。
ゼノビアと摩耶が混乱している間、ウル、テスタの子供組はイスタールと共に降りてきたアリスと遊んでいた。
「メネア、お前に商会の支配人を任せる」
「しかし、私は経理系統のスキルを持っておりませんが?」
「それは俺が貸してやる」
「分かりました。お任せください、王国随一の商会にして見せます。それでは、商会名をどうしますか?」
「む、商会名か」
「はい、はーい。私いいのあるよ」
俺とメネアが商会の名前に悩んでいると、摩耶が入り込んでくる。
「越後屋っていうのはどう?」
「マヤ、エチゴヤというのは何なのですか?」
「あー、えーっと、エチゴヤっていうのは、私の国の時代劇――まぁ、劇で大商会の名前ですよ」
それは俺も知っている。大事なことを忘れているぞ、摩耶よ。越後屋は悪徳商人のイメージが付くということを。こっちでは知っている者などいないとは思うが。
「大商会ですか。いいですね、それではエチゴヤ商会の運営は私にお任せください」
「よろしく頼む。これが生活資金になるからな」
せっかくだ、ここにいる摩耶たちにも商会の幹部くらいにしておこう。
「摩耶、お前たちも暇なときは手伝ってやって欲しい」
この国の従業員を雇う合法的な方法は。四つ。
・ギルドで斡旋してもらう。
・ギルドで求人の貼り紙を出す。
・人脈を頼り、知り合いを雇う。
・奴隷を買い、従業員にする。
この国では別に奴隷が禁止という訳ではない。
様々な理由で住む場所や借金をした者への救済措置として作られたものだ。
「暇な時なら構わないけど、給料は出るんですか? ブラックは嫌ですよ」
「こら! 主様にその態度なんですか!!」
「給料は出るぞ。身内だから幹部ってことにして多めに出そうと思っている」
「私の忠誠はシオン様に」
急に態度を変えたな。そこまで金が欲しかったとは。
摩耶とメネアに先ほどイスタールと変わした取引の書類を手渡す。
「主様、これは?」
「最初の仕事だ。さっきイスタールに売りつけてきたから事務手続きはお前たちに任せる。納品は俺がやろう」
書類を読んでいた摩耶にそれを覗いていたゼノビアの顔が青くなっていく。
「シオン様? この魔剣や魔槍の類300本とあるけど!? しかも金貨3万枚もの大金が…」
「魔剣ですの?! 何故そんなものがこんなにあるのです?」
「そうだよな。魔剣のそれも低品質の物を300本しか買わなかったんだぞ。まだあと700本以上もあるのに」
「な、七百も……」
「あれ、この間武具店に行ったんだけど、魔剣ってかなり希少なものなんじゃなかったっけ。あれ、じゃあこれって何? ははは…」
「確かに、これくらいのものなら安く済みますからもっと買っても良いと思いますが?」
「メネアさん、あなたもですか」
「では、任せたぞ」
「はい。お任せください」




