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三十三話 創造神、トーナメントに参加する④

 選考大会予選当日。


「今大会はエチゴヤ商会のご厚意で身代わり人形が使用されます」

 訓練場の中心には、石でできた舞台が存在し、訓練場に大勢の観客が集まっている。

 客席に囲まれた、平地部分が戦いの場である。

 ここには、巨大な石を加工して埋め込んであった。四メートル四方に加工された、硬岩である。それを碁盤のように、丁寧に並べているのだ。

 隙間には接着効果のある緩衝材を敷き詰めてあり、まるで一枚の岩盤のように見えるだろう。

 魔力を練って皮膜状に覆って馴染ませているので、より強度を増している。

 こういうところは意外としっかり出来ている。学生であれば、砕けることもない。


 俺はグループごとにわかれた控え室に待機していた。

 他に出場する学生たちも数人いて、皆ガヤガヤと雑談をしている。このグループにはイザベラ派閥の者はいないらしい。


「俺、これに勝ち残ったらあの子に告白するんだ」


「この選考会の優勝賞品のこの剣……なんだこれ、聞いたこともないな、ミスリルの短剣?」


「俺たち一緒に最後まで勝ち残ろうぜ」


「優勝賞品はミスリルか。私にふさわしい物だ」

 こいつら自分たち学生が低レベルになっていっている可能性を棚に上げてよく言う。いくら子供とはいえミスリルも知らんのか。


「でも、今年はルーファス様も参加してんだろ」


「ああ、やりずれーな。でもよ、これでもし勝ったりしたらルーファス様の騎士になれたりするんじゃないのか?」


「マジかよ! 勝てれば本当の勝ち組になれんじゃねーかよ」

 本人がいないからと言いたい放題だ。


 ……しかし、一つだけ分からない点がある。


 それは――

「ところで選考大会って何するんだろうな?」

 俺のつぶやきに控え室の生徒たちがズッコケる音がする。


「おい、編入生。お前、そんなことも知らないで参加していたのか!?」

 声をかけてきたのは、前夜祭で俺が視たLV.10以上の一学年の生徒の一人だ。


「いや、だいたいはわかっているんだ。あれだろ、魔術や武術で殺しあうようなもんだろ?」


「全然違う!!」


「じゃあ、普通に殺しあうとか?」


「まず殺す前提の話を直せ!!」


 彼はその後、俺に大会の説明のため口を開く。漢字の漢と書いて『おとこ』と読ませるような生徒だが、意外と面倒見がいいのかな。


「大会は身代わり人形(ドール)を使って行うんだぞ。だから命に関わったりはしない」


 身代わり人形――人型の案山子の形をした主に決闘などで使われるアイテムだ。これを使えば、何でもありの野良試合とは違い、アイテムの制限やスキルの制限など事細かにルールを定める上で互いに何のリスクもなしに決闘を行うことができる。ただオーバーキルが起こった場合は残りダメージが本人に返ってしまうというデメリットがある。


 俺の今までの決闘で使われてこなかったのは、本当に俺を亡き者にしようとしていたのだろう。であれば、すこしばかり痛い思いを与えても構わないだろう。


 どうして何のリスクも無いのかというと、それはドールを用いた決闘ではHPが全損せずに何割HPが削れたかで勝敗を決めるという物だからだ。ゆえにHPがゼロになることは決してないのだ。


「まぁ、大会の説明はこんなもんだ。ドールがあるからお前の訓練場を破壊した攻撃は封じられるかもな。万が一、許されても死ぬことはないから安心してお前と闘えるがな」


 ふむ、このドールはどうやらただの弱者のためのアイテムのようだ。

 これなしでは俺に立ち向かうことさえできないと公言しているようなものではないか、情けない。


「第10回戦! 次の生徒は舞台で準備してください!」


 外から呼ばれ、俺や俺と同じ控え室にいた10人の生徒が舞台へ行く。観客席には俺の試合を応援に来たルーファスたちがいた。


 それに別の席ではエインリオたちも観戦していた。自由にしていいと言ったのにここに来るのか、見に来ることもないだろうに。エインリオが笑顔で手を振っている。あ、ネーヴァに怒られてる。きっと『騒ぐな』とでも言われているのだろう。

 エインリオが手を振ったことで少しエインリオが注目されこれから試合をする生徒や観客席にいる人たちを魅了していた。


「ああ、私の天使だ」


「可憐です」


 審判も舞台の上に上がり試合の準備をする。

「ドール、接続!」

 審判の指示が出て、俺たちはドールに触れる。

 ドールは触れたら勝手に魔力を繋ぎ、体力の管理をしてくれるようだ。これを発明したのは、天才だ。誰だろうな?


 素直に従うと、俺たちを包むように大きな円形の陣が現れた。半径50メートルの円の結界、外に出ても負けだ。


「それでは、始め!」


 号令の直後、生徒たちは距離を取り詠唱を開始したり、武器で突っ込んでくる。


 魔術を使おうとする彼らの足元に出ている魔術陣はその色や形から風魔術や火魔術だと分かる。が、どれもが中級魔術の中でも低位の魔術だった。しかも全員が中級を詠唱で使おうとしている。

 無詠唱のスキルを持っていないのだから詠唱は仕方ないと思うのだが、それでも長ったらしい詠唱は攻撃してくれと言っているようなものだ。無詠唱ができないのであれば中級よりは詠唱の短い下級の魔術にすべきだ。


 次に武術の方だ。一番遠い俺を狙いに来ている。さらに一緒に突っ込んでくるのに連携などせずに向かってくる。

 控え室で自分の武器を自慢し、性能を自ら話す馬鹿に聞いた。

「なぁ、お前たちは手を組んで連携で倒すつもりなんだろ? なんで誰も盾を持っていないんだ?」

 連携をするというのであればせめて誰か一人は盾役を入れておくものだろう。だが、彼らはこう言った。

「盾なんてかっこ悪いじゃん」


「攻撃なんてかわせばいいしね」


「俺の家の騎士だって盾を持たずに戦えてるしさ」

 そして、俺に向かってくるこいつらを見て理解した。こいつらは俺をなめているのだろう。


 どうやら俺が魔術をできるから武術の方でなら勝てると思い込んだのだろう。


 あーあ、せっかく何か面白い人材でもいるかと思っていたんだがな。この程度の素材しかいないならこんな茶番さっさと終わらせよう。


「ちゃんと見てろよ。これも魔力操作でできることだからよ。【スキル 魔力放出】」

 俺は剣を振り上げる先頭の生徒に向かって魔力を波のように流す。これもすでに失われていた技術だ。


「うえっ」「おぉぉ」

 すると、先頭の生徒を始めとして次々に嗚咽をたてて俺を中心に近くにいる者から昏倒していく。

 魔術を使う者は魔力を自然に認識することができる。そして、それをスキルにまでしたものが【スキル 魔力感知】になる。スキルにまでならなくとも自然に認識してしまうことから強烈な魔力に当てられた魔術師は俺の魔力で船酔いのような状態になって倒れてしまう。


 代わりに受けた身代わり人形も精神の負荷によって壊れてしまい、その余剰分で生徒たちも倒れてしまった。人形を壊すほどの精神への負荷って壮絶なものだな。


 気づけば俺以外に立っているのは、俺に大会のことを教えてくれた男子生徒のみとなっていた。強烈と言っても俺にとっては微弱な魔力を出しただけなのにこの惨状。その男子生徒も剣を杖の代わりにしてやっと立てている状態だ。ところによっては観客席でも舞台の上と同じようになっている者もいる。


 体術でボコボコにしても良かったのだが、このまま勘違いしてもらったままの方が容易く対処できるな。

 俺と親切な男子生徒以外が立っていうだけで残りは倒れているので、審判も困惑しながらも俺の勝ち残りを宣言する。

 観客席もざわざわとしていく。声援を上げてくれる者もいるのだが、中にはあっさり終わった試合に文句をいう者や何か不正を働いたと騒ぐ者、賭けで大損をして逆恨みをする者と色々いる。


 舞台にいる生徒の内、なんとか立とうとする豪華な鎧と大剣を装備した一番偉そうな男が叫び始めた。

「あんな結果が認められるか!」

「何かズルでもしない限り、あのガキが勝てるはずがないんだ! 無効だ! こんな試合は!」

 偉そうな生徒の叫びに援護する偉そうな貴族の格好をした豚。


 しかし、俺は無視をして舞台を降りていった。降りたところで、後ろの方より男達から罵声が聞こえたが、気にせずにそのまま控え室の方に歩いて行った。

 喧噪が騒がしいが、シオンの頭の中は魔力を放出した際にステージの瓦礫が影響を受けて変質し、属性を持ってしまったことで後悔していた。


「おいっ! あのガキが逃げるぞ! 捕まえろ!」

 一番最初に文句を付けだした男が、周囲の参加者たちに向かってそう叫ぶが、見学に来ていた他の参加者や観客たちは冷ややかな視線を送るだけで動くことは無かった。それどころか……


「衛兵の方、その者を追い出してください」

 学園長の引き連れてきた衛兵により、騒ぎ立てた豚はすぐさま身柄を拘束された。


「この試合で負けてしまった者達の中には、奴らのように……とまではいかなくとも、納得のできない者もいるであろう。しかし、それを含めてそなた達が未熟であり、あの者が一枚上手だっただけの事である。これを教訓とし、次の機会には油断無きよう全力を尽くすのだ」


 観客たちは学園長の迅速な行動に拍手を贈り、そのついでといった感じではあるが、敗れて舞台を去っていく参加者たちにも拍手を送っていた……しかし、まだまだ大会は終わらない。

 今日の試合が終わったので俺はさっさと控え室を出ようとしたのだが、……


「あっ! シオンくんは少し待っていてください」

 と名指しで引き止められた。

 勝ち残ったもう一人の親切な男子生徒くんは先に帰ってしまった。


「何か用事でしょうか? 試合の事なら不正はしていませんが」

 俺の質問に、教師は首を横に振り否定している。


「不正だなんて少しも疑っていませんよ。だって、もうそういう生徒だとあきらめていますから。ただ、先程の試合を見た何人かの貴族の方が、シオンくんと会わせろ、と言っておりまして……その為の対策をすると上の方から通達がございましたので、少々待っていただきたいのです」


 ――との事だった。俺は別に貴族を振り切るくらい造作もないと言ったのだが、それは困る、と教師が涙目になっていたので、少し控え室で待つ事にした。

 俺が【固有スキル マップ探査】で視た限りは、数人の貴族が出待ちをしていた。ついでに俺を止めた教師が学園長の近くにいることも視えた。そして、その学園長がある人物に教師を連れて会っていることも。



「あのシオンとか言う小僧は随分と遅いな」


「子爵様、まだ試合が終わってあまり時間が経っておりません。恐らく何らか大きな魔術を使ったので、少し休憩をしているのでしょう」

 横に仕える使用人に子爵様と呼ばれる男はシオンの出入りにイライラしていた。


「あいつも小僧を狙っているようだな……男爵のクセに、わしより先に声を掛けるつもりだな」


「落ち着いてください旦那様。あの者が先に声を掛けたとしても、旦那様の方が爵位は上なのですから、悠然と構えた上でシオンとやらに声をかければいいのです……実力があると言っても、所詮は経験の浅い若者です、男爵よりも子爵である旦那様に声をかけていただく方が喜んでついてくるでしょう」

 などと、下級貴族達が自分の従者と話している。そこにいた貴族達はシオンの情報を何一つとして知らずに来たのだろう。


 そんな貴族達の前にシオンが出口から姿を現した。

 貴族達がいる所からは、シオンの横に居る人物が見えにくいらしく、その上この場にいる他の貴族を出し抜こうと、シオンにしか注目していなかったのが災いしてしまった。


「この無礼者!!」

 シオンに駆け寄る貴族たちを一喝するその人物は、イスタールであった。


「「「先王陛下!!」」」


「そなた達は礼儀というものを知らぬようだな」

 そうして俺はイスタールに連れられて訓練場の外に出ていく。


「あの、初代様。こうして安全出られたことですし、貴族の統括に関しての話はあまり怒らないでいただけると……」

 俺に怒られるのが怖いのか、さっきまでの威厳がない。


「わかった、わかった。だから、ウソ泣きはやめろ。誰が爺の涙で同情すると思う」


「では、後ほどここに来てください」

 イスタールから別荘の地図が書かれた紙を手渡される。


「じゃ、また後でな」


 俺はエインリオたちと合流するため観客席の出入り口へと向かう。














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