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三十二話 創造神、トーナメントに参加する③

男が現れたことで周囲のざわめきが一層増した。


記憶にない名前だ。とは言え、知っている貴族など数えるほどだろう。俺にとってはどうでもよいことだ。


「君のことを少し調べさせてもらったよ。一人身でこれほどの戦闘力を得た君は我が家に使える十分な資質がある。君は軍で最速の昇進を果たせる、悪くないだろ?」


勝手に俺が軍属になることがこの男の中では決定していた。


この下劣極まりない男が魔物でないことを嘆くようにため息を吐く。

俺がこの国を創った時はみんな頑張り屋さんだったのになぁ。こんな馬鹿が出るようになっちゃったのか。


「どなたか存じ上げませんが、俺には軍に入る予定はないので」


「フンッ! お前が考えることではない。私の言う通りにしていればいいのだ。安心したまえ、昇進も確実に調節することくらいシャルータ家には造作もないことだ」


無表情を貫いていたシオンの顔が激変する。それは愛想笑いなどの相手に好意を持たせる表情ではなく、寧ろその逆、激しい怒りによる憤怒、侮蔑の表情だ。


何も知らないとは言え、俺を下に見るような戯言を言い出して俺の時間を一刻でも無駄に使わせるこの男は……。


「ひぃっ!!」


その殺意同然の視線を真っ向から受けたデモンゴは思わず一歩後ずさる。背後で控えていた執事も瞠目するだけで身動きができない。

この異様な変わりように気が付く者はそう多くはないだろう。華麗な席にはあろうはずもない殺意を含む威圧だ。


腕に覚えのある者は機敏に感じ取ったが傍観に徹することしかできなかった。

触らぬ神に祟りなし、だと言いたげに。


シオンは害虫でも見るように冷や汗を流す男を見て、口を開いた。


「あなたにはできませんよ。それに俺を支配するつもりなら命を賭ける覚悟はおありですか? 惰眠を貪るような豚に俺が? 御冗談を……豚には豚に相応しい家畜がおりますよ」

俺はクスクスと笑いながらに答える。


「き、き、貴様ッ!! 平民風情が何を言っているのかわかってるのか! この私に対した暴言、只では済まさんぞ!!」


「まったく俺の言うことを理解できないとは貴様は言語が分からないただのブタのようだな。いいか、もう一度言う…………命を賭ける覚悟はおありか?」


「話にならん!! 学生の命が私と等価なわけなかろう。何様のつもりだ? 拾ってやろうと言うのに……気が変わったぞ。家畜はどっちか教えてやらねばならんな!!」

男の言うことに周りの生徒たちも心配そうに俺を見る。


大人としての余裕なのか、子供の戯言とばかりに達観するデモンゴは後ろ手に指をクイッと曲げる。

執事がデモンゴに近づき用件を聞く。


「罪状はなんでも良い……あの小僧を刑罰で捕まえる。後はわかっているな、孤独の身では助けに動く者はいまい……いたとしても……」


「承知しました。ただちに手配します」

ここまで汚れているとは、現王はこんなで大丈夫なのだろうか? 情けない限りだ。


「何をしているのだ、シャルータ男爵?」


突然声をかけられたデモンゴは俺への暴言を言いながら振り返る。


「っ!? へ、陛下!! 陛下がなぜこのようなところへ」

イスタールの登場にデモンゴが青ざめる。


「なぜかって? わしは孫に会いに来てはいけないのか?」


「い、いえ、そ、そういうわけでは――」


「それでじゃ、さっきの刑罰や本人の望んでいない軍への強要、本気で言ってるのかな。そういう態度を常にとっているなら、この国の貴族としてふさわしくないので今後のことを考える必要があるが?」

イスタールが真顔で問い掛ける。


「め、滅相もございません。わ、私はただ――」


「陛下、彼も悪気があったわけではないでしょう。少しばかり酒に酔っておいでなのではないでしょうか、ねぇ、シャルータ男爵?」


「じ、実はそうなのですよ。ははは。そ、それでは私は所要を思い出しましたのでこれにて失礼します」

デモンゴは俺を睨んで周りで話していた生徒や貴族の冷たい目線を浴びながら会場を出ていく。


「急用なら仕方ありませんね。何の用があるのかはわかりませんが、頑張ってくださいね」

シオンはデモンゴにニヤニヤして言う。


「わざと煽ったんですね、シャルータ男爵からはお爺様が見えないようでしてたし、シオンさん、最後に顔が黒い笑みでにやけてたよ」

イスタールとともに俺の元に来るルーファス。


「この件は後ほど話しますので、初代様」

イスタールに小声でささやかれる。


そのまま「皆さん、お騒がせした」、と言って社交的な笑みで謝罪するイスタールに賛同するような称賛の拍手が上がった。


「皆さまもシオンくんと関りを作っていたいと思いますが、彼も他の生徒たちも選抜戦が控えているのだ、関りを持っておきたいなら選抜戦の後にでも十分間に合うだろう。だから、ここは控えてくれ」


イスタールが一言告げれば、渋々納得するしかないだろう。独占するつもりだろうと邪推する者はいない。それは勇敢ではなく蛮勇だということも知っているからだろう。

それに今さっき、シオン自身が一切取り付く島がないことを公言したのだから。


それからは早かった、あっという間に貴族たちは姿を消して次々に移動を始める。まばらになったことを確認したイスタールは改まってシオンに向き直った。


「これでいかがですかな?」


「ここで国の蛆を消そうとしたんだが?」


「それはさすがにここではお止めください」

イスタールは「途中で入ってよかったのじゃ」と独り言をつぶやいていたが、俺には聞こえた。


「で、何しに来たんだ?」


「そんなに警戒しないでくだされ。わしは単に試合の観戦に来たのだし、これから頑張る孫の友人に一言ぐらい労いの言葉を掛けようとしただけのことですので。と言いたいのですが、一つお耳に入れていただきたいことがありましてな」

イスタールの話した内容は、俺を貴族の騎士に迎えるのか、一代限りの貴族にしようと企てているようだ。


「ワイバーンを大量に狩ったことが貴族の耳にも届きまして、そんな戦力を放っておくことを良しとせずに取り入れた方がいいとの意見が多発していまして。初代様を煩わせないようその意見を否定しようといたんですがの、否定の言葉が見つからなかったのですじゃ」


「まぁ、俺のことは秘密にしてあるから仕方ないだろうな」


「そうですよ、いきなり竜を狩るなど多くの者に目をつけられてしまいますぞ」


「それは俺も反省してるんだ」


「それでですな、お願い事がありまして」


「他にも何かあるのか?」


「いえ、同じ要件なんですが、初代様、貴族になってくだされ!! 決して義務とか領地とかつけませんから。爵位も低めにしておきますから」


「ぬぅ」


「であれば、どこかに所属――それは成らぬことでしょう? ならば、やはり貴族に」


「くぅ、自分でまいてしまった種か」

結局俺はイスタールの話を了承してその会話は終わった。


イスタールとの話も終わり、以後俺の近くによって来るのは、トーナメントで俺に勝つと宣戦布告してくる者と先王とどんな話をしたのか気になった者、そしてリリス会長がオーランドから身体強化魔術のことを聞いたらしく俺に習得の仕方を聞いて来た。


オーランドは一発殴ったが、それ以外には問題らしいこともなく貴族の俺のことについての聴取という面倒な事態も避けることが出来た。これが国王パワーというやつだ。


俺はイスタールとの話を後回しにして【固有スキル マップ探査】に映るある二人の反応やその周りの人物の様子をマーキングして【空間魔術 遠視】で覗き見る。



・・・



「ねぇ、ネーヴァさん。あれ食べようよ」


「エインリオ、あなたどれほど食べるつもりなんですか?」

エインリオはシオンから渡された金でネーヴァと共に選抜戦で盛り上がっている街の屋台を周っていた。


「どれほどって私が満たされるまででしょ、やっぱり」


「私は武具やシオンの家に置く家具とかを見ておきたいんですけど」


「大丈夫、大丈夫。そんなのいつでもできるしシオン様は待ってくれるよ。この祭りって何の祭りかは知らないけど一週間もあるんだから」


「知らなかったんですか。この祭りは学園同士が武術や魔術で競う大会の選考大会のようですよ。それにシオンも参加するんですから、当然入場チケットを先に買っておきたいというのに、貴方はさっきから食べてばっかで」

ネーヴァはエインリオの様子をため息をついて呆れる。


「あなたがそんなに食べるから注目されていますよ」


自然と人々の注目はネーヴァとエインリオに集まっていた。

皆が皆、精巧な人形を眺めるかのように、足を止め、声を止め、そっと視線を寄せてしまう。


「ほんと、ネーヴァさん……注目されてますね……」


「そうですね。ですが、そんなことよりも彼女たちもここに来ているようですし、早く冒険者ギルドに行きますよ」

街の中心近くまで歩けば、一際大きな建物、冒険者ギルドが見えてきた。入り口は大きな魔物の素材を受け入れることもあり、かなりの大きさがある。


一度エインリオたちが立ち入れば、すぐに喧騒が広がる。


「あの、すみません、そこの方。ここにウル、ゼノビア、マヤという冒険者はいますか?」

ネーヴァに聞かれた受付員の女性はネーヴァたちに見惚れていて少しの時間動いていなかった。


「あの? 大丈夫ですか?」


受付にいた女性がネーヴァを見て、緊張した面持ちで返事をする。

「は、はい! 大丈夫です。それでですね、マヤちゃんたちのことですね。先日にこちらに来ていますね」


「そうですか、ありがとうございます」


「あの、お名前を教えてもらっても? 私はエレナっていいます」


「ネーヴァです。もう一人はエインリオです」


ネーヴァが名前を教えるとエレナは小声でフヒヒと恍惚な表情になっていた。

「ネーヴァ……ネーヴァお姉さま」


「ねぇ、ネーヴァさん。せっかくギルドに来たんだしさ、私たちも登録しておこうよ。毎回検問で待たされるの面倒だしさ」


「それもそうですね。では、エレナさん、お願いできますか?」

先ほどからこちらを伺っている冒険者が五人、エインリオたちに接近する。


「ぎゃはははは。おいおい……。こんなひょろっとした女が冒険だと。冒険者も舐められたもんだなぁ。そんなのよりお前ら、俺の女になれよ、色々と楽しましてやるぜぇ」


「ああ、これがマヤの言っていたやつですか。これをシオンも乗り越えた訳ですね」


「こいつら、うるさいなぁ。ネーヴァさん、こいつ消す?」


汚い冒険者の発現にネーヴァはマヤのギルド体験談を話しを思い出して、エインリオは汚いものが近づいたことで気分を害していた。


「ああ、何言ってやがる」


「私たちは身分証が欲しいだけですから。エレナさん、使えるんですよね?」


「はい。ギルドカードはどの国でも使えますよ。ギルドには種族や年齢、性別などでの敷居はございませんので」


「では、お願いします」

ネーヴァが汚い冒険者を無視して登録を進める。


「それじゃ、なおさらだな。仕事もしない冒険者なんて必要ないな。こういうのを入れるからギルドの質が低くなるんだよ」


「仕事ですか。では、これを」


ネーヴァは【空間魔術 格納庫(アイテムボックス)】から魔物を取り出す。

その魔物にギルドの冒険者たちは騒いでいた声を止め、出てきた魔物の姿を見る。


「こ、これは、ミノタウロス!! ランクAの魔物ですよ!!」

エレナの叫び声に冒険者たちはまたも騒ぎ出す。しかし、内容は世間話や下品な会話からミノタウロスのことに変わったが。


「ふ、ふん。どうせ拾っただけなんだろ」


「しかしよぉ、20頭ものミノタウロスが落ちてるもんか?」

言い訳を無理にでも考える男に笑いかける。


「じゃあ、てめぇはこんな女どもがミノタウロスを狩ったとでも言えんのかよ、あぁ゛」

汚い冒険者は突っ込みを入れた冒険者に恫喝する。


「確かランク制度がありましたね。この人のランクは?」


「Cランク冒険者のデボットさんです」


「後ろで野次を飛ばしている人や笑っている人もですか?」


「皆さんはDランク、Eランクの人たちです」


「ふふふっ、この冒険者ギルドって基から質が低いんだね。この程度くらいしかいないんでしょ」


「エインリオ、あまり事実を言ってあげるものではありませんよ。そんなことも分からないくらいにここは腐っているのですから。クフフ」


「なんだと、クソアマ! よく吠えるじゃねぇかよぉ!」


「自分で言ったんじゃない。馬鹿なの? いや、考えることもできないくらいに使うことがなさ過ぎて腐ってるんでしたね。私程度が冒険者になれないなら、私たちに勝てないあなたたちはクズでゴミで生きる価値がないってことでしょう。自分の言った言葉も理解できてないなんて悲しい事ね」


「てめぇ………そんなに死にたいのか」


「面倒ですね。エレナさん、ここで試合できるところありますか? いいですね、エインリオ」

「もちろんだよ、まだ狩っていないやつを見つけることもできたし、絶望ってのを感じさせてやりたかったんだよねぇ、こういうやつらに」

過去にもこのような馬鹿なやつらに因縁を吹っかけられることが多かった。


「あ゛! どこに行く気だ! 逃げんのか!」


「人の話はちゃんと聞こうよ。頭だけじゃなくて聴覚も終わってるんだね。でも、私は優しいからもう一度言ってあげる。あなたのような馬鹿が無闇矢鱈に人を襲わないように馬鹿でもわかりやすく誘導してあげてるの。認識する頭も無い様だからね。理解出来たら、殺してあげるから早く移動してね。分からないようであるなら、そこにずっと居たらいいんじゃない?」


そして、一番手っ取り早く始末する方法は、返り討ちにすること。このような人間は叩き潰さないと次から次と増えていくから困りものですね。












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