二十八話 創造神、魔物狩りをする②
「わっ! 魔物だ!」
オーランドが斥候の役割を果たすようになり、魔物の発見をしたようだ。まだ声を出してしまうあたりは未熟だが、それを今さっき学んだばかりの子供に言うことは酷というものか。
「当たり前だ。迷宮には魔物が棲んでいる。だが、魔物からは素材を採取することが出来る。素材を換金することも出来る。つまり『金』みたいなもんだ」
「そんなの思えねーよ!」
オーランドに思いっきり怒られる。
「ゴブリンくらいならやれると思うぞ。まず一回目の授業だな。教師もそれほど期待はしていないだろう。あれに向かって魔法を放ってみて」
「お、俺が魔物を?」
「魔物と戦うなんて……私、はじめてだよぉ」
「大丈夫だ。フォローはする」
ルウとオーランドは臆しながら俺に顔を向ける。
実際下級魔術を最低でも5発くらいで倒せるはずだ。
「仕方ない。俺が手本を見せよう。
◆◆ ◆」
俺は動き回るゴブリンに下級魔術【風魔術 風弾】を発動させる。
「どうだ、簡単だろ」
「簡単じゃありません!」
「あんなに速く詠唱できません! それに動く相手に当てるなんて…」
魔術の方も加減を精一杯せねばならんのか。手加減とか面倒だ。全部吹き飛ばそうかなー。
「でも実際にゴブリンは大した魔物じゃない。二人も勇気を出せ……ほら。ゴブリンがまた来たぞ」
「今度は二体もかよ!」
「そうですよね。いつかはやらなければいけないことですから……それにシオンくんがいるんですから、安心ですね!」
俺ではなく冒険者の方を頼ってやれ。ほらー、落胆して肩を落としているじゃないか。
「◆◆…◆」「うぉぉぉー」
オーランドは自分の剣でゴブリンに斬りかかり、ルウが魔術を唱える。
「【水魔術 水の矢】」
水の矢が放たれると、命中しゴブリンを転倒させる。
「今です。動きは抑えました」
ルウがゴブリンを止め、アルマが槍でとどめという連携のようだ。
「やった! アルマちゃん、ありがとう!」
「やりましたね! 私の方こそありがとうございます!」
ゴブリンを倒しただけというのに、二人は手を取り合って小躍りしていた。
微笑ましい。
だが、アルマはハッと気づいたように笑顔から真顔に変わり、そっぽを向く。
「と、当然です! 私は学園で主席で卒業するんですからね! これくらい出来ないといけませんから!」
恥ずかしさを誤魔化すようにして言った。
仲いいな、この二人。
ん?
「ど、どうしました?」
「いや、何でもない。それよりも目的の敵が来たぞ」
「え?」
体高1メートルに満たない獣、Fランクの魔物、ウルフである。
数は10。しかも、中にはウルフに乗るゴブリン――ゴブリンライダーもいる。ゴブリンライダーはただゴブリンが獣に乗っただけだが、魔物のランクも上がり、ゴブリンの上位個体になる。集団で現れたそれに、ルウは小さな悲鳴と共に尻餅をついた。
経った今、やっとの思いでゴブリンを倒したのに次がより多く襲われることになれば怖がることはわかりきっていたことだ。
カタカタと震える彼女を安心させるべく、俺は微笑と共に言葉を紡ぐ。
「大丈夫だ、ルウ。この程度の魔物、すぐに俺が打ち払おうではないか。しかし、迷宮の中で動けなくなってはいけないぞ」
そして俺は詠唱を始める。
「◆」
次の瞬間、魔物の群れ近くに複数の魔術陣が出現し、風が荒れ狂う。
10の魔物が適格に急所のみに風の刃に斬られ綺麗な素材に変わるのに、一秒とかからなかった。
「ウルフとゴブリンの群れを、一瞬で……! シ、シオンくん、凄いです……!」
「あまりこの程度で褒められても困るのだが」
「何言ってるんですか! 多数の相手を一人で倒したのですよ。Cランク冒険者のこの人だってできませんよ。ねぇ!」
アルマが早口言葉のように俺の返事に反論する。
そして、この冒険者はCランクだったのか。「ねぇ」と聞かれても頷いちゃダメだろう。それにCランクならこれくらい一人で倒せなきゃどれほど低レベルな依頼が回ってくるんだ?
「この調子でフォレストウルフもとって来ちゃおうよ。どうせ、まだ授業の時間はあるんだしさ」
「ま、まぁ、シオンがいればどこでもなんとかなるだろうし、いいんじゃないか」
ルウの提案に護衛の冒険者が許可を出す。
俺たちは3階層を目指して歩く。ウルフとゴブリンの混成団の戦闘以来ゴブリンの団体とも戦闘を行った。
今回の護衛として雇われたCランク冒険者は感心していた。
先ほどのも、ゴブリン二匹にゴブリンアーチャー三匹と数の上では分が悪かったのだが、シオンが咄嗟に的確な指示を与えることでどうにかなった。
オーランドとルウがゴブリン二匹を剣と魔術で抑え、その間にルーファス達がゴブリンアーチャーのうち二匹を始末、そこでオーランドが反撃に出る、という形でだ。
オーランドが一匹倒した後にちょっと隙が出来てしまっていたが、シオンが観察に徹していたことで無事切り抜ける事が出来た、というところか。このシオン少年がやったことを自分たちはできるか?、と感じていた。
オーランドが10匹の魔物との戦闘からずっと俺を見てくる。
「さっきから質問ばっかで悪いんだけどよ、聞いていいか?」
「なんだ、特に変わったところはないが?」
「いやよ、さっきからお前が光って見えるんだが、何してんだ?」
「これは身体強化魔術だ。よく使うだろ」
「しんたいきょうかまじゅつ?」
「え? また何かの魔術なの!? てっきりシオンくんが普通に神々しいのかと思ったよ」
は? 神々しい? 何言ってんだ、こいつ?
「それってなんですか、シオンさん?」
これも知らないのか。オーランドとルウは仕方ないとしてもルーファスまで知らないとは思わなかったぞ。
「教えようか?」
俺にとっては神界での癖で魔力を垂れ流しにして無意識に身体強化をしているだけのいつもの状態でしかない。
そんなことで一々騒がれても……。
「いいのか!」「やったー」「これでまた一歩近づける」
最後のアルマの言葉は不穏だが、これくらいはいいだろう。ルーファスも無言でいるが、笑みがこぼれている。
「お、俺にも教えてくれんのか?」
「ああ、入ると良い」
「よっしゃー!」
叫ぶほどにまで喜ばれるとはな。
オーランドたちの修業が迷宮内で始まった。
「身体強化魔術は、一度魔力を感じれば後は簡単だから」
「いや、シオン、全然簡単じゃないって!」
「っていうかさっき呪文を唱えなかったわよね!? どうやってやったのよ!?」
「これ、私達に出来るの?」
「出来る気がしないんだが…」
「シオンさんにとっては簡単なんだろうが…」
皆弱気だな。ここで躓かれると、こちらとしても難しいな。
「身体強化魔術は魔術というけど、放出系ではなく実際は体内に魔力を循環させる事が重要なんだよ。だから普通の魔術の様に魔力を属性変化させる必要はないんだ」
呪文を唱えなくても効果を発揮できるから、身体強化魔術は魔力系のスキルを覚える足掛かりとしても役に立つんだよな。
ここから高水準の人材を育てるのも一興か? それとも、うちのメイドたちを強化してみようか?
「わかったわ」
「え、ちょっと一人で理解しないでよ、アルマちゃん」
そうして、俺達は身体強化魔術の練習を開始した。
「むむむ、魔力は感じるんだけど……呪文を唱えずに魔力を操作するってのが難しいね」
「たしかに……。こちらの思う方向とはまったく別の方向に魔力が動いてしまう」
ルウとルーファスは魔力を感じる事は出来るみたいだけど、その先が上手くいかないみたいだ。
二人は長年呪文に頼ってきた所為で、呪文を使わない魔力操作の感覚が掴めないみたいだな。
この中であれば、最初に身体強化魔術を使えるようになるのは、アルマかもしれないな。
アルマはもう出来つつある。きっと才能があるのだろう。
そして、オーランドはというと……。
「ハァァァ………、フゥー、うぉりゃぁぁぁ!」
あまり魔力が集まっていないので、ただ叫んで疲れている奇人に見える。
・・・
教えながら歩き、身体強化魔術を練習しながら魔物を倒し、二層目の後半あたりまで来ていた。
二層目は、森林系の層でここから出てくる魔物がゴブリン、ウルフに続き、フォレストウルフも入ってくる。魔物のレベルは一層と変わらずにレベル3程度だったが、単純に数が増えるようだ。
「ふっ」
アルマが近くの細い木に魔力を込めた拳で殴ると、バキバキと音を立てて木が倒れる。
「もう出来たのかよ!」
予想通り最初に身体強化魔術に成功したアルマにオーランドが驚きの声を上げる。
しばらくして次々にできる者が出始めた。
ルーファスは手に魔力を込め、目の前の岩に殴りつけると、岩に亀裂が入る。割れはしなかったようだ。
ルウは、足に魔力を集中させ、跳躍をすると、木の枝へ乗り移った。
自然破壊だが、迷宮内ではどんなに壊したりしてもそのうちに直っているものなのだ。だから、魔術を高威力でぶっ放しても問題はない。
護衛の冒険者もできるようになり、残りはオーランドのみとなった。
「なぁ、シオン、お前って魔術とかすげぇだろ。どんなところで誰にどんな修業を受けてそうなったんだよ?」
それに乗っかろうとする者がいた。
「そうよね。試験の時も訓練場を破壊したんですもの、いったいどんな人に教わったのかしら?」
「誰にどんな修業か……。自己流かな?」
「言っちゃいけねー人なのか?」
「罪人として追放された正義の騎士とかかしら?」
こそこそと話してる様子を見てルーファスは後ろで二人の意見に乾いた笑いをしていた。
「オーランド、まだできないのか?」
「本当に俺ができるようになるのか? 魔力ってさ、魔術使いの才能がないと分かんないんだろ? 魔術使いのルウや両方ともできるアルマとルーファスと違って戦士の俺じゃあ無理だって」
「練習をすれば誰にだって自分の魔力はわかるようになるぞ。ただ魔術使いは魔術を使うから自然と自分の魔力を感じることができるだけだ」
「わかったよ。俺にだってやって見せんぜぇ」
「まずは、俺がお前に付与魔術をかけるから、その魔力の感覚でやってみろ」
「付与魔術? ああ、あのホワーンとしたやつのことか」
「そうだ、それこそが魔力だ」
「◆◆。【付与魔術 物理防御】」
「おお、この感覚かぁ。なんかこの付与魔術、結構強い感じがするんだが?」
「気のせいだ」
俺はオーランドの付与魔術の強さの感覚を流す。
オーランドは拳に魔力を溜め、地面を殴る。
ドォォォン。
煙が晴れ、見えた光景は、ちょっとしたクレーターの真ん中で倒れるオーランドだ。
「良かったな、成功だぞ」
俺はオーランドに神聖魔術をかけてボロボロのオーランドを回復させながら言う。物理防御の効果範囲を通り越してしまったらしい。
「あの、シオンくん、オーランドが動かないんだけど」
「ああ、あれは魔力切れってやつだ。調子に乗って魔力を集めすぎたんだろ。クレーターができるくらいだったしな」
オーランドが気絶をしたので、護衛の冒険者が背負い、フォレストウルフは狩らずにウルフの方だけを持ち帰ることになった。




