二十七話 創造神、魔物狩りをする①
俺が遅刻した日から数週間、授業でクラスの皆と同じようにやっているのだが、さらに注目されるようになり、教師方からはもうお前に教えようともお前が我々の上を行ってしまうため教えようがないと言われたりもしたが、俺はあることを考えていた。無論、アスカロンたちのことではなくだ。彼らはあれ以来沈静化したが、裏で何かしているらしい。
で、考えていたことそれは、王都の屋敷を守るためにメネアと特訓している子たちは実は学園で学びたいのでないのか。また、学園で見識を増やしてはどうかと。
時々、王都の家の方へ帰ったりするときに聞いていると、皆家での生活がいいらしく行かなくてもいいとのことだった。しかし一人の武士のような少女は行きたそうにしていた。
イスタールに何か大きな貸しでも作って学園に口利きしてもらおう。
「今日は学園の迷宮で魔物狩りをします。みんな、リラックスしてくださいね。でも、護衛の方がいるからと言って油断をしないように」
フレイヤが号令をかけ、迷宮の目の前でクラス全員が集合する。
「今回はあなたたちにとっては初めての迷宮のようなものだし、課題は簡単なものにしようと思います」
まず、俺達はフレイヤ先生の説明を聞き、魔物の狩り方や解体法などを学んだ。
「課題は三階層以内にいるFランクのウルフか、もしくは、Eランクのフォレストウルフを討伐、皮を剥いで持ってきてください。それの質を私が判定して、質に応じて点数を付けるからね」
「ここの迷宮は学園の物でさ、何年も使われているんだってよ。こんな場所で怪我なんかしねーよな」
フレイヤの話に飽きたオーランドが隣にいる俺に話しかける。
「しっかりと対処をすればな」
「なんだ、ビビってんのか、シオン」
迷宮の薄暗い入り口に入り、クラスメイトたちと歩いていると、同じSクラスのスミスがオーランドとの会話に入る。
「どうとってもらっても構わんよ。ただ油断して足元をすくわれないように気をつけろよ」
「はっ、俺はなぁ、冒険者を親父とやっててな、Dランクまで行ったんだぜ。こんなところで傷なんて負うはずがないんだよ」
「へぇ、Dランク冒険者か、すげぇな。この歳でDランクってかなりすごいじゃねーかよ。ん? 親父とって?」
「ああ、俺はスミス・ミルダって名前なんだ。で、俺の家、ミルダ家の男は代々魔物を狩ることで自衛の心を養っているとかなんとかでよ、俺も魔物を狩らされたんだよ」
ちゃっかり自分が貴族であることを言ってくるスミス。そして、家名がアリアと同じで年齢が下のようなので弟らしい。
ふむ、この程度の子供でDランクなら俺がギルドを立ち上げた時の子供たちはBランクくらいになってるぞ、世界の質が落ちて、ギルドの査定の質も落ちたのか。いや、スミスが後からついていっただけの金魚の糞状態という可能性もあるか。
そういえば、盗賊の依頼の確認とオークの盗伐の金をギルドで受け取らなきゃいけないか。
「よし、ここからはそれぞれ分かれます。三階層以下には行ってはいけませんよ、それ以上行くと凶暴なやつがいますからね。そこより下に行かなければ、なんの問題もありませんからね」
フレイヤは怖がらせるためか、本当のことなのかそんなことを言う。
「俺がそいつを倒してやる」
案の定それに反応してしまい、気合を入れこむ馬鹿――スミスだ。
「シオンさーん」
遠くから俺を呼ぶ声がする。
その正体は手を振りながら近づいてくるルーファスだった。
「シオンさん、一緒にやりませんか、魔物狩り」
ルーファスが「やりませんか」と言ったその瞬間に一部の女子生徒がこちらに顔を振りかぶる。
おそらくは、衆道のことを思ったのだろうが、俺にその気はない。ルーファスにはあるかもしれないが。
「あの、私と組みませんか?」
「はい、はい、私も組みたい」
「ちょっと! シオンくんのパーティーメンバーになるのはアタシよ!」
と、女子生徒が最初の一人をかわきりにクラスメイト達が群がってくる。
その光景にオーランドは自分がモテていると感じ、喜んでいる。しかし、その中には男子生徒もいる。迷宮で安全に狩りをしたいから訓練場を破壊した俺と組みたいわけか。
「む、しかし…」
あまりにも多くの生徒が来るものだから俺は困惑する。
「どうしました? 行かないのですか?」
フレイヤがここに集まる生徒を見て、近寄る。そして、俺を確認して納得したような顔をする。
「なるほどです、じゃあ、班をこっちで決めます。五人一組になってもらいます。今回の課題はパーティーでやってもらうからね」
そうして俺は解放され、結果、俺、ルーファス、オーランド、ルウ、最後にアルマだ。
そのアルマが俺を目の敵にしている。原因は不明だ。
「絶対に負けないから」
アルマは俺に言ってくるのだが、何を勝ち負けとして、そもそもなぜ勝負ごとになっているのかがわからない。
「ああ、頑張ろう」
何を頑張るのかは知らないが、俺はアルマに返事する。
クラスの集団から離れようとするとき、シャナークが懲りずにまたも突っかかる。
「おい、シオン。どちらが多く魔物を倒せるか勝負しろ。貴様が負ければ、我々の奴隷になれ!」
フェアって言葉知ってる?
シャナークにも勝負を挑まれる俺。召喚魔術のときにやられてもまだ向かってくるのか。精神がたくましいな。
・・・
「む、そろそろ、来るぞ。左側の岩の陰からだ」
「わかったよ、シオンさん」
ルーファスが風魔術を詠唱し、出てきたところを倒す。一層目は岩場が中心の層だった。
石造りの床、壁面、天井。それらは一面苔むしており、それが淡い光を放っている。
空気はひんやりとしていて、そうした冷気が足を踏み入れた者達に緊張を芽生えさせる。
ここの階層には、フォレストウルフではなく、ウルフとゴブリンしかいないようだ。
迷宮では予想していないことが起きると思っていたのだが、ここはそんなこともないようだ。普通すぎて、というより、何もなさ過ぎてつまらん。
「えっと、この魔石を学園から支給されたマジックバッグに入れればいいんだよね」
「そうだよな、確か」
マジックバッグ、バッグ内の空間を広げてその分荷物を入れられるようにした魔道具の一種。
かなりレアなもののようだが、このマジックバッグ、容量少なくない? これだけで満足なの?
俺も話をよく聞いていなかったので、護衛として来ている冒険者の顔を見る。冒険者は俺と目を合わせ、頷く。
「ゴブリンの死体って何に使うんだろうな」
「死体がアンデッド化しないように持ち帰って焼くだけだろ」
「そんなことより、なんで今、魔獣が来るってわかったのよ?」
「は?」
アルマが変なことを言うが、冒険者も不思議そうにしていた。お前は疑問になっちゃダメだろう。
俺はアルマの唐突なことに疑問を覚える。
なぜなら、ただ【スキル 気配察知】で周囲を警戒していただけなのだから。しかも、この程度のことは出来て当たり前、出来ない方がおかしいと言えることだったからだ。
「それもそうだけど、俺はもっと気になることがある」
「なんだよ、オーランドまで」
「いや、その方って王国の王子様だよな。何気にシオンが話してるから俺も普通に話しちまっているが」
「そうだな、王子だ」
「いやいや、『王子だ』ってなんだよ、王子だぞ、王族だぞ、失礼だろ。俺、いや、私も大変失礼なことを言いました、すみませんでした」
オーランドは急に気にしだし、口調を直してルーファスに謝り倒す。
「気にしなくていいよ、学園では貴族の地位とかは使ってはいけないっていう決まりがあるしね」
「ありがとうございます。それともう一つ、聞きたいことが」
「敬語はいらないよ、で、何かな?」
「わかりました、じゃなくて、わかった。えっと、シオンのことを『シオンさん』と呼んでいるのはなぜです――なぜなんだ?」
オーランドは敬語になりそうな言葉を必死に直そうとしながら言う。
「えっと、それは…」
ルーファスは考える。そう呼ぶ理由は、シオンが圧倒的に強いことやあの綺麗で力強い剣士ならたった一度でも使いたいと思わせるほどの剣を自在に使い、剣に使われるのではなく、剣を支配していることを知っているから尊敬の意を込めてそう呼んでるのである。
しかし、それを言ってはいけないと口止めされている。ルーファス自身も誰かに言うつもりなどないし、これほどのことを誰かに言ってしまうことはもったいないと思っている。
「それはな、俺がルーファスのお兄さん的存在だからだ」
俺は自分でも何を言っているのかわからなくなりながらも【スキル 弁明】【スキル 詐術】を最大までレベルを上げて適当に流す。
「ふーん、そうなんだ」
オーランドたちはそれで納得したような顔をして別の話題に移る。
あまりこのスキルを取ったことはなかったが、最大だと適当にごまかしてもなんとかなるのか。
「で、シャナークに言われたことはどうすんだ?」
「うーん、どうしようかなー? 勝負を受けた訳でもないしなー。でも、やってあげないとまた面倒を持ち込んできそうだしなー」
「いいじゃん。面白そうだしよ。どうせ、授業で魔物は狩ることになってんだから。それをちょっと多めに持っていけばいいだけだろ」
「それもそうか。魔物の死骸はどうするんだろうな?」
「ああ、それはな、冒険者ギルドに素材を売って自分の分の金にしていいんだとよ」
俺の疑問にオーランドが答える。
「だから、俺たち平民はこういうところでも金を稼ぐんだよ」
「そんなに金がないのか?」
「違う、違う、遊ぶ金だよ」
キメ顔で言うオーランドに、はぁー、と俺はため息をつく。
まぁ、俺は生徒会の業務としていくらでも迷宮に入れるから、別に今、戦わなくてもなぁ。いい感じの手加減もまだよくわかってないし。
「なんだよ」
アルマやルウもオーランドを冷たく見つめる。
「それにしても迷宮というのは、ここまで広いものだとは思いませんでした」
ルーファスが迷宮の大きさに感嘆の声を上げる。
「そうか? 迷宮というのは、通常でこれ以上だぞ?」
皆で進んでいると、十字路の右側の通路からゴブリン二体とゴブリンアーチャーの三体と相対する。
「うわっ、よ、よし、俺がこいつらをやってやる」
「私が先よ」
オーランドとアルマが言い争いをしていると、ゴブリンアーチャーが矢を飛ばす。
俺は二人の服の首元を掴み、後ろに体を引く。
「なんだよ、シオン」「邪魔しないでよ」
二人の言葉は地面に刺さった矢を見ておさまる。
ゴブリンは人間の小児ほどの大きさだ。ゴブリンは雑魚だ。1対1ならFランク冒険者でも苦戦しない。
だが、戦闘経験のない10歳の子供にいきなり戦闘を任せることはできないので、俺と経験のあるルーファスが前に出る。
ルーファスは杖を持ち出し、魔術を詠唱する。俺は先に魔術で地面から二本の棘を作り、それを折って槍のようにして、一匹に高速で投げつける。俺の持っている武装では階層ごと破壊しかねない。魔術であればまたも訓練場の惨状になるかもしれないため武器を石の簡単な物にまで格下げしたのである。
風魔術でゴブリンの腹を斬り、俺の投げた石槍がゴブリンの頭に刺さり、前衛が突然いなくなり、焦るゴブリンアーチャーに残った石槍を振り回してとどめをさす。
冒険者も万が一の時のために戦闘に備えていたが、無駄に終わった。
戦闘が終わり、ルーファスが言い争いをした二人を怒る。
オーランドは自分の実力で倒してみたかったらしく一人で突っ走ったらしい。
アルマは自分の手柄のためだそうだ。
それを踏まえてちゃんと話し合いが始まり、俺は家でもゼノビアたちに教えたように陣形を取るように言い伝える。
なお、話し合いの最中に襲ってくる魔物は俺と冒険者で片づける。
ゴブリンが多い。ここの近くには巣があるのかもしれない。
俺たちはオーランドとアルマ、俺を前衛にして、ルーファスとルウが後衛に進んでいく。




