閑話 聖女、回想する
私の名前はリンと言います。
ただの農村の娘の一人です。
その農村の娘が奇妙な運命に巻き込まれます。
それは、聖痕。
私が五歳の時、右の手の平に変なアザが出来ていました。
よくわからない不思議なものだったので隠していたのですが、村に来た教会の人が見つけてしまいました。
教会の人はかなり興奮し、村の長と私の父に話をしました。
「彼女は神に選ばれた存在です。聖女様のご降臨されたのです」
「何? 神様? 聖女? わたしが? ……はぁ?」
私は突然のことに困惑する。いきなりそんな与太話を持ち出されたのだ、訳が分からなくなるのも当然だ。
だが、神殿の神官がこんなところまで来て私みたいな普通そうな子を連れて行っても徳があるとは思えない。
それは村長も父も思っていたことだ。
だからこそ、村長たちは私を聖女だと思い込み、私は神殿に行くことになった。
教会の人に連れられたのが大きな街の立派な教会。
私はそこで神の声を聞く修行をすることになりました。
修行中、教会の偉い人が何人も私を見にきました。
私、修行しなくて良いんですか? 挨拶の度に色々と中断させられるのですけど?
修業を始めて一週間ほど経過した頃です。
最初は空耳かなと思っていましたが、どうやらそれが神の声らしいのです。
本当に私は聖女という存在らしかったのです。
そして、私は神様の声を聞き、その中から意味のある言葉を発するだけです。
何を発していたのかはわかりません。ただ、教会の偉い人が全員、私に頭を下げていました。
その日から私は、聖女と呼ばれるようになり、お世話係が5人付きました。
部屋のグレードも上がるようになりました。
夢のような暮らしです。聖女としての品や勉強をすること以外は。
それから、神の声が聞こえるようになってから一年ぐらいが立ちました。
神聖魔術を覚えた私は聖法国というところに馬車で連れて行かれるそうです。
その道中、私たち聖女一行は、盗賊に襲撃を受けました。
私たちを守っていた騎士たちは、他に誰もいない中次々と倒れていきました。
私は馬車を出て、助けようとしますが、お付き神官のリナに止められてしまいました。
「リン様、騎士とはいえ、何の利益になっていない者を治癒する必要はありません」
と、そんなことをほざいていました。
この騎士たちを治さずに放っておいたら私たちがあぶないじゃない。
一瞬でも「これは毒の類です。危険ですので私が神聖魔術を」とか言うかと思った私がダメだった。
案の定、私とリナは盗賊に捕まってしまいました。
そして、腕に何らかの魔道具と取り付けられました。脱出を試みるために神聖魔術を使おうとすれば、この魔道具に魔力を吸われ、魔術が使えなくなっていました。
しかし、盗賊には私の正体がバレていないようです。リナが盗賊に何かを言おうとした時に私のことを話そうとしたのは、なんとか阻止できました。この神官は無能なのか、とわかりました。
その後、二人の少女も捕まったそうで、私たちと同じ牢に入れられ、同じように腕輪をつけられました。
二日ほど過ぎた頃に牢の番人が盗賊のボスらしき人と話す声が聞こえました。私たちを貴族の令嬢と思い、誰かに売りつけるようです。ということは、後から捕まったこの二人は貴族の令嬢なのでしょう。
すると、牢のある部屋の入り口の方がうるさくなってきました。時に金属音や血の吹き出す音が聞こえてきました。
誰かが戦闘をしている証拠です。冒険者が来たのでしょうか?
牢の前にやってきたのは、女性三人と黒衣に身を包んだ綺麗な少女でした。
その少女は私たちを閉じ込めていた牢を斬り壊し、解放してくれました。
少女は令嬢らしき少女たちに声をかけました。どうやらこの三人は学園の生徒さんで知り合いのようです。
黒髪の子が喚き、もう一人の茶髪の子を落ち着かせていました。
冒険者の女性とその少女が学園の生徒のことを話しているのを聞き、貴族の子供の相手をしていると疲れるという話をしているときには、つい笑いそうになりました。
「何してんの?」
少女がこちらに来て私に言いました。
「え?」
突然話しかけられ、私は驚きのあまりそんな返事をしてしまいました。
そう、彼女は、男の子だったのです。どっちか紛らわしい容姿です。
「何をしてる?」という問いは、もしかしたら、彼は【スキル 鑑定】で私のことを視たのかもしれません。しかし、私は教会で隠蔽のスキル宝珠という物を使わされ、【スキル 隠蔽】を手に入れていたはずなのですが? それは、自意識過剰でしょう。それがあれば、聖女であることを隠せると神官の人が言っていたのですから。
「なんですかっ、貴方は!?」
リナが少年に怒鳴りはじめました。よくもまぁ、そんな元気があるものです。それに恩人に向かってそれはないでしょう。私でもわかることです。お付き神官のリナは本当に無能のようです。
「リナ、大丈夫だから。それで盗賊に捕まった訳だったわね。そうね、たぶんだけど、馬車が貴族の乗るようなものだったからじゃないかしら。捕まえた後は私が「リン様!!」わかってるわよ。えー、私は特別な地位にいるのね。それで、盗賊たちは私のことを知らなかったから、貴族だと思って馬車を襲ったんじゃないかしら」
途中でリナが口を挟む。
わかってるわよ、貴方じゃないんだから、私はそんな軽々しく行ったりしないわよ。
「特別な地位にいるなら護衛がいるだろう。それに神官なら傷ついた護衛を治癒して盗賊くらいはなんとか出来そうなものだけどな」
「それが護衛たちは、馬車と馬で並走していたんですが、突如馬と護衛たちが倒れていったのよ。それで成すすべなく私たちは捕まっちゃったの。その後は、彼女たちと同じようにこの腕輪をはめられたのよ。そしたら、魔術が使えなくなってしまったの」
「わかった。あとで外してやる」
少年との会話を続け、なんとこの少年がこの腕輪を外せるそうだ。
洞窟の出入り口が見えるようになり、少年が私たちに手をかざし、魔術を発動させました。腕輪が外れ、喜んでいると、少年は玉のようなものをどこからか出し、全員の頭に触れ、またも何かしらの魔術を使いました。
「すごいんですね、その魔道具、盗賊が盗んだ物でしょうか?」
いつも茶髪の少女を抑えていた黒髪の少女がおかしなことを言う。
「そうね、そんなものまで盗賊って持っていたのね、てっきり魔道具の類は戦闘用以外は売っちゃうものかと」
そのもう一人の茶髪の少女も追随して言う。
何を言っているの? さっきこの少年が魔術ではずしたんじゃない?
リナも彼女らと同じようなことを言い、彼がさっきの頭に触れた時の魔術で何かしたのかと思った。
つまり、私には効かなかったってこと? 神様の声が聞こえた時にもらえたこの加護のおかげかしら?
洞窟を出て少年は仲間と思しき人たちに私たちを預け、また洞窟に入っていきました。
そして、シルファリオン王国の王都まで送ってもらい、私たちは神殿に向かいました。まずは状況の説明です。
地理の勉強がここで役に立ちました。
王都に着くなり、少年はすぐ、どこかに行ってしまいました。
また彼に会ってみたいです。彼の姿が見えなくなり私の心に虚無感が生まれました。
これが何なのかはわかりませんが、気のせいでしょう。
冒険者の女性と別れ、私とリナは神殿に向かいました。
またあの少年と会えるでしょうか?




