二十四話 創造神、しわ寄せが来る
ギルドの一室でギルドマスターのマルスとカルタナがソファーに対面で座っている。
「それでですね。盗賊を倒す前にオークの集団と遭遇しました、その数40匹ほど」
「マジかよ! いくらオークでもそれだけ多ければ…。それで被害は」
「最悪全滅するかと思いましたね、オークの上位種もいましたし。しかし、全員が無事なのは、シオンがいたからでしょう」
「まぁ、ワイバーンを倒した冒険者だからな、そのくらいは」
「40匹の内35匹を軽々と倒すような人材ですよ、彼は。その中には上位種もいました。これをそのくらいで済ませますか? ワイバーンは一匹ずつ相手することも可能でしょう。それならば、Aランク冒険者でも何日か籠っていればなんとかできるかもでしょう。しかし、オークは集団で攻めてくるんですよ! 一対一とはわけが違う。さらに、王城にあっても普通なくらい強力な魔道具を持っていたんですよ! 彼と彼の師の強さはそういう次元じゃないんですよ」
「お前にそこまで言わせるほどの人材か」
「私は絶対に彼とは剣を交えさせたくないですね」
「カルタナからしてもそう思うか」
「あれでなんでDランクなんですか!? 私なんか目じゃないくらい強い。闘い方が全然違いますよ、Bランク…Aランクでもおかしくないとあれは。それとですね、彼から聞いたことなのですが、彼には師のような人物がいるらしいです。彼が師からもらったという魔道具を今回の盗賊に使っていました」
カルタナはオークとの戦闘を思い出しながら答える。
「魔道具か。どういう代物だ?」
「ゴーレムを召喚するというものでした。あの魔道具から数種類のゴーレムが10体以上出現して盗賊どもを殺していきましたよ」
その言葉にマルスは大きなため息をつく。
「そうか、わかった。ありがとよ。その情報が知れてよかった。今日はもういいぞ。護衛で疲れただろう。帰ってゆっくりとしてくれ」
一礼してカルタナは部屋を退出し、マルスは一人で考え込む。
「とんでもない新人が現れたな。こういう者は暴れるやつとは違う方向で対処に困るものだ」
マルスは再度大きなため息をつき、天上を見上げる。
・・・
「初代様、孫のことは本当にすみませんでした。まさかあそこまでだったとは思いもよりませんでした」
「俺はそこまで気にしてないからいいって」
「ありがとうございます。ところで、学園はどうでしたかな?」
「なぁ、イスタール、この時代の若者は結構血気盛ん過ぎるのではないか?」
「何かありましたかな?」
「ああ、学園での決闘が二回と騎士に喧嘩を売られて戦うことが二回だ。それにお前の側近たちとも戦ったな。この少し期間にだぞ」
「初代様はとても尊きお方です。きっと周りの者がほっとけないような輝きを纏っておられるからでしょう」
「いや、良い風に言ってもただただ喧嘩を売られているんだが。断ってもいいが、その時に滅多打ちにしておかねば、裏から忍び寄ろうとするからな、仕方ないのだ」
「ところで、最近、魔王を信奉している【楽園の使徒】なる者共が魔王復活を企み活発化しているようです。帝国でも戦争を仕掛けようとしていますし、聖法国では勇者召喚が行われたとか。十分気を付けてくだされ」
イスタールの苦労が目に見えて伝わる。
「聖法国か」
「何かあるのですか?」
「あそこは俺嫌いなんだよな。『弱き民に幸せを、誰も悲しまない国を』とかのできもしない妄言や正義を宣う頭の中が腐っている連中でさ。しかも、それに奥深くには熱心な狂信者もいるしさ。うっとうしいんだよね。理想ばっか掲げてんのが。その癖、異種族に関しては奴隷にすることや集落を攻めることを良しとして、自分たちを正当化することにばっか集中してるんだ」
「そうなんですか。わしは聖法国に関しては関わり合いがなかったものであまり知りませんので。初代様がそう評価するのであれば何らかの事が起きても関わり合いにならないようにしておきます。どうか初代様もお気をつけて」
「まぁ、気を付けるが、って話を逸らすなよ」
「はっはっは、何の事だか。まぁ、若者は向上心が高いということはでいいことなのでは?」
「それが俺の方向に向かなければな」
その後、一通り情報を共有する。
「そろそろ俺は行くよ」
「転移ですか。いいですな、一瞬で移動できるというのは」
「ああ、便利だぞ。王というのは、自由が少ないからな、休暇もなかなか取れんだろ、それがたとえ先代であっても」
シオンは過去の自分の体験を含めて感慨深くうなずく。
「ええ、国王の大変さはよくわかりますな。ですが、もう儂は王の座を譲った身、もうじき休暇を取って見せますよ、初代様」
イスタールは机に足を乗せ、部屋の壁を指さす。俺と部屋に二人しかいないとはいえ……。
「頑張ってくれ」
俺は王城を後にし、学園の方へ転移する。
「おーい、もう姿を見せてもいいだろう」
シオンは誰もいない場所はずのところに声をかける。
「やはりバレていましたか」
「別に隠れなくてもいいのにさー、スヴァルトにダメって言われててずーーっと隠れてたんだよー、こっそり行こうとしたら空間魔術で空間ごと止められちゃうしさ、疲れちゃったよー」
姿を現したスヴァルトとエインリオが喋りながらこちらに来る。
スヴァルトが使った魔術は、【空間魔術 空間固定】という名前の通り空間を限定して物体をその場に留める魔術だ。
「たまには一人の時間もお過ごしされたいと思い、こうして陰から見守らせていただきました」
「ずっといたよな、それって一人なのか、ちょっと離れて三人で一緒に過ごしているだけなんじゃ」
スヴァルトたちはずっとシオンの後をつけていた。ギルドで依頼を受ける時もオーク襲撃の時も盗賊討伐の時も王子兄が連れてきた聖騎士と闘った時も。
「いやぁー、あのふざけた騎士を目にしたときは、殺してやろうかと思いましたが、シオン様のお創りになったあの書物――ラーグリフを見れたことに私は満足です」
「はいはい、さっさと寮に戻るぞ」
「うん、シオン様、一緒に寝ようねー」
「どうせダメだって言っても入ってくるんだろうが」
ここでスヴァルトが俺に何かを言いたそうにする。
「どうしたスヴァルト?」
「実はですね、今、急に冥界の方でで重要な案件とかで呼び出しを喰らいまして」
不機嫌そうにして言うスヴァルト。
「行けばいいじゃないか」
一方でスヴァルトがいなくなることでシオンと二人になり喜ぶエインリオは嬉しそうに適当なことを言う。
「チッ、仕方ありません、仕事を持ってきた悪魔に粛清しましょう。では、シオン様、暫し失礼します。エインリオ、シオン様をしっかりと守れよ」
「わかってるってー、ほらほら行っちゃいなよー」
ニヤニヤしながら言うエインリオにスヴァルトはイラつきながらも冥界に戻る。
・・・
「ううー、朝か、久しぶりに睡眠をとったな」
俺は部屋に置かれている時計を見る。まだ時間はあるはずだ、エルとスキルや所持品の整理ことで話そうとしていたのだからな。
しかし、時計を見れば、何故か壊れてる時計が壁にぶら下がっていた。
「ん、なんで時計がこわれているんだ?」
シオンはとっさにエインリオを探す。すると、部屋の周りもヒビが入っていた。そして、ベッドから落ちて床で寝るエインリオ。
事態はすぐに判明した。エインリオが寝相で暴れたということが。
壁は魔術で治せるのだが、時間が分からない。
≪エル、現時刻を教えてくれ≫
≪おはようございます、マスター。今は、9時ちょうどですよ≫
「今の時間は9時と、って9時!?」
9時からは授業が始まる、学生たちはとうに学園にいるだろう。
言い訳だが、今までは寝る必要がなかった、神だし。
賢者だったり暗殺者だったりした時はスキルを多くとっていたりしてエルに管理させていたので、生活系のスキルもとって任せていた。
だから、寝過ごすなんてことはなかったが、今回はそんなスキルをとることをすっかり忘れていた。
現在は二人でフリーな状況、つい油断してしまった。
しかし、俺は思う。一日くらい授業に参加しなくたってバレないだろう、どうせ俺の顔が知られているわけもないし。
どうせ遅刻ならと開き直る。
焦ったところで仕方ないし、授業中に途中参加する方が目立って迷惑になる。
そもそも注目されるのは嫌だ、目立てば厄介事が来る。
その点で言えば、こんな初日から数日で遅刻なんてドジ踏み、大失態と言うほかならない。
正直に寝坊しました、そう弁解すると心に決めてから数十分。
俺は学園へと続く大通りを歩いていた。
「もしかしてよ、おまえも遅刻か?」
「あ、ああ」
「まさか寝坊だったりしないか?」
「まぁな」
「おお! 俺もなんだよ! 良かったぜ仲間がいて」
事情を知ってテンションを上げる男。
どうやら俺と同じで、遅刻をした不届き者のようだ。
名門中の名門、真面目な人ばかりが多いと思っていたのだが、こういう人もいるらしい。
お互いの事情を話つつ、自然の流れ、会話しながら共に学園へと向かうことに。
「あ、俺はオーランドだ」
「シオンだ」
「よっしゃー、シオンだな」
仲間を見つけてテンションが上がっているようだ。
やっと普通な少年に会うことができた。
今までの男たちときたら、やれその女をよこせだの、やれ俺より目立つなだの、と面倒なことに巻き込む奴らだったが、この少年は大丈夫そうだ。
「え! じゃあシオンもSクラスなのか!?」
「一応。むしろオーランドがSだとは思わなかった」
「……どういう意味だよ?」
「だって初日から数日で遅刻してる問題児だし」
「そりゃお前も一緒だろうが! ところでよ、そのSクラスで話があるんだけどよ、なんと訓練場を破壊した奴がいるらしいぜ。しかも、なんかここでは珍しい黒髪で真っ黒な東方の服装で少女と見間違えるほどの美少年なんだよ」
「うっ。そ、そうなのか」
「ん? そういや、シオンも黒髪だし、顔も―――? なんてな、そんなやつがいきなり遅刻なんかするわけもないかー、ははは」
偶々ながらも付き合い易そうな人間と関係を持つことが出来た、これは僥倖だ。
「にしても授業、居ないのがバレなきゃ嬉しいんだけどなぁ……」
「そりゃ無理だぜシオン。なにせ最良たるSクラスは人数が少ないんだからよ」
「じゃあバレないという奇跡は無いってことか」
「まぁ、大丈夫だろ。貴族たちに少し言われるかもしれないけどな」
学園には触れ合うことの無かった貴族がまだまだウジャウジャといるんだ。
また絡まれるぅー。
オーランドは平民だそうだ。
Sクラスに入れる平民はやはり少ないそうで、そういう意味でも俺は仲間だと言う。
「てかシオンは珍しい容姿してるよな」
「そ、そうか? ちょっと遠い所から来たからな。ホントに悪目立ちして仕方ない……」
「ふざけんなー! 俺からしたら羨ましいぞ!」
「羨ましい?」
「だってそんだけ見た目がよければよー、女の子にモテモテだろうが!」
「そう、なのか?」
俺がオーランドの謎の圧に怯んでいると、オーランドは説明し始めた。
「お前は知らないだろうけどな、アヴァントヘルム学園にはこの国屈指の可愛い子たちが――」
オーランドは俺にひたすらかわいい女の子について語ってくる。
これが友になるのか。




