十八話 創造神、生徒会に入る
絶対に負けられない。
アリオット・ルーセントは、自分の槍を手入れし、決闘への準備を整えていた。
アリオットの槍は自分がリリスの騎士であるという象徴であった。
最大の特徴は、速度であろう。
一撃目で相手の心臓を一刺し、かわされれば少しずつ傷をつけて弱らせてから確実に倒せばいいだけの事。
アリオットは、誰よりも速く主であるリリスを守る意思で鍛えてきた。
槍も厳選され、硬度基準ギリギリまで、厚みを削ぎ落とし、軽量化させていた。
ましてや、相手は魔術で訓練場を破壊したと言われている平民、魔術師型の新入生だ。
おそらく、武術の方は全然ダメな典型的な魔術使いなのだろう、と予測している。
自分の思いに反して主はあれに深入りをしようとしている。
非常に頭の痛い思いだ。
分を弁えて傅いていれば許せる。しかし、先ほどの様子からそんな態度は見られない。
我らが主の領域が汚される。
もっと、強く。
強く腹心として無二の右腕にならなければ。
主がこんな俗物を憂うのも自分が弱いからだ。
しかし、仕える主と同程度の詠唱速度を持つ。
いや、それ以上かもしれない。
だが、それでもアリオットには負ける理由がなかった。
アリオットとシオンの間に立ったのは、公平さに心配が残るが審判役のリリスだった。彼女自身はこういった場ではちゃんと平等に判断すると言っている。
すべて自分の力、裁量を任されてる。
場所を移動する。
四方をミスリルの分厚い壁に囲まれたトレーニング室だ。
ミスリルにはさらに【付与魔術 硬度上昇】の魔術が、発動されていた。
これは、迷宮から手に入れたミスリルだ。
少々派手に魔法を使っても、壊れないぐらいの耐久能力はある。
ゆっくりとアリオットとシオンは位置に付く。
距離にしてお互いに10歩ずつ。
自分なら3歩で接近して倒すことができる。
だが、シオンも魔術を使う事ができるだろう。
突然シオンは何もないところから剣を出した。
「はじめぇ」
敬愛する主の声で決闘が始まった。
それでもやることは変わらないとアリオットは地面を駆ける。
・・・
シオンは思っていた。
朝、絡まれて、昼、絡まれて、夕方、絡まれる。
もしかしたら、夜も絡まれるのではないか?
対策として威圧して周るというものを考えたが、それでは俺が危険視されて近寄る者がいなくなってしまう。
ふと、シオンはアリオットの方を見ると、こちらを睨んでくる。
リリスがシオンに近づき、
「すまんな、あいつはしっかりしたやつなんだが、私の事となると過保護になってしまってな」
とのこと。
「主であるならば番犬の躾もやらなければいけません」
スヴァルトが話に割り込む。
「いやはや、そう言われると面目ないな」
「?」
「不思議そうな顔をしているな。私が執事の横やりの言葉に怒ると思っていたのか?」
「ああ」
「まぁ、君の貴族に対する思いは爵位の持たない者と同様のものなのだろうな。だが、私の家は実力主義なのでな、ルイン家にはそのような半端者はいないぞ。で、私の見立てでは執事の方と女性
がかなりの強者だと感じてな。かけ離れた強者には礼儀をかける価値がある」
「クフフ、いい心がけですよ、リリスさん」
へぇ。
スヴァルトが弱者を称賛すること自体珍しい。というより、話すことすら珍しい事であった。
「わー、スヴァルトがヒューマンと話してるー。はぁー、すごいこともあるんだね」
「確かにそうですね、あのスヴァルトが」
エインリオとネーヴァがスヴァルトの反応に驚く。
「では、そろそろ始めるぞ」
距離にしてお互いに10歩ずつ離れる。
ふむ、アリオットは槍でくるのか。
なら、俺は剣で行こうかな。魔術だとすぐ終わってつまんないそうだしな。
シオンは【空間魔術 宝物殿】から不滅の聖剣デュランダルを取り出す。
さすがに神刀天羽々斬を使うのはかわいそうになり、止めた。
そもそも学生相手、下界の者相手に使う物じゃなかったと思い出したのだ。
聖剣ならいいのかと言われると、まぁ、しょせん聖剣だしさ、大丈夫でしょ。
「そっちのタイミングでお好きにどうぞ」
余裕のある態度でシオンが告げる。
「その余裕に胡坐をかいて後悔しないことだな!」
アリオットが駆ける。しかし、シオンはアリオットが槍で突き刺して来るまで暇であった。
【スキル 思考加速】によって加速されたシオンの視ている周り全てが遅くなっている世界でアリオットは鑑定される。
ステータス
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[名前] アリオット
[年齢] 12
[性別] 男
[Level] 26
[種族] ヒューマン
[職業] 槍士
[HP] 5641
[MP] 1582
[力] 5143
[器用] 1582
[敏捷] 3023
[スキル] 【槍術LV.3】【社交LV.2】【護身LV.1】【疾走LV.3】【回避LV.2】
[称号] 【リリスの従者】【ルイン家の執事】【ランサー】
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特に飛び出している能力はないようだ。
魔力があるのに魔術付与しないのは、なぜなのだろう?
昔もあったあれか? 子供の職業が戦士型だから魔術を学ばしても無駄だと思われているのか?
だから、職業の二つ持ちが少ないのか。まぁ、二つだと中途半端になってしまうから仕方ないか。
≪マスター、これも生物の停滞の証拠では?≫
≪お、久しぶりだな。この頃、反応がなかったな≫
≪申し訳ございません。神々の方に私の反応を見つけられ、神々の仕事を手伝っていました≫
≪そうか、向こうはどうだった?≫
≪はい、皆さん、マスターが不在で寂しくされていました。特に、【幻の神 イグヴァ】さまの対処が大変でした。それと、別世界の管理者の方がマスターにお会いしたそうにしていました≫
≪まぁ、元気そうでいいか。俺も一度戻ってみるかな≫
≪ところで、この者の処分はどうされるので?≫
≪処分って。んー、普通に倒そうかなと≫
≪マスター、二度と歯向かわないように徹底して叩き潰すのはどうでしょうか?≫
≪却下。なんか似たようなことを前にも言われた気がするな≫
シオンはエルとの会話を終わらせ、目の前まで近づくアリオットを見る。
「さて、やりますか!」
シオンはアリオットの槍を剣で受け流し、足を引っかけ、転ばせる。
「騎士の闘いで足を使うとは、なんて汚いんだ」
これが停滞、これが平和ボケという物か。戦闘にズルも何も無い。ただ勝利すれば、その者が全て正しい。
「これは闘いなんだ。お前は『足が引っかかって転んだから何もしないでくれ』なんて言えると思うのか? それで相手は躊躇してくれるのか? 精々が笑われるだけだろうよ。さ、もう一度来てみたまえ。君の輝く様を俺に見せてみせろ」
「クソォォォ」
アリオットは雄たけびをあげながらシオンの身体を貫こうとする。
アリオットの攻撃を軽やかに躱すシオンは綺麗な顔で微笑を浮かべ、化け物のように美しかった。
はじく、はじく、はじく。
シオンはアリオットの攻撃をいとも簡単に流す。
「ほれほれ、こちらからもいくぞ」
シオンの剣の一撃、一撃が重くアリオットが防御を続けるしかなくなっていた。その防御も一撃ずつの攻撃に耐えられなくなってきていた。
そして、ついには、剣の攻撃からの防御の上から蹴り飛ばしを受けてアリオットは動かなくなっていた。
「この程度で強者に立ち向かい、力量の差もわからんなら誰かを守るなど甚だしいぞ」
まったく大した実力もないのに挑んでこようとすんじゃねぇよ。
「アリオット先輩!」
最初に駆け寄ったのは、リリスではなく、生徒会の書記アルマだった。
すでに生徒会に選ばれていたのか。
「生きてる……。良かった。今、回復を――」
アルマはほっと胸を撫で下ろした。
剣や蹴りで負った傷をアルマが【水魔術 癒しの水】を使い、治していく。
「ありがとう、シオン。手加減をしてくれていたのだろう」
「お礼を言われるようなことでない」
「いや、シオン、君は本来もっと速く確実にアリオットを倒すことができただろう。しかし、アルマの回復魔術が届くまでに調整し、戦士として必要な見極めることを教えてくれていた。礼を言う」
リリスはアルマによって治癒されいくアリオットを見つめる。
その細めた目には、幾ばくか慈愛の心が見て取れる。
本来であれば、飛んでいって抱きつきたいほど心配しているのだろう。
そうしなかったのは、彼女の矜持が許さなかったのかもしれない。
「その気になれば、あっさりと寝首をかかれる相手に、命を助けられたのだ。それが何を意味するか。わからないほど、あいつの頭は硬くないよ。首にもせん。この者は私の従者だ。従者を首に出来るのは、主しかおらん」
「よく彼をわかっているのですね」
「ああ、あいつは私の最初の――友だからな」
決闘が終わり、生徒会室に戻る。
「さて、シオン、改めて生徒会に入るかい?」
「ああ、入らせてもらおうかな」
そうしてシオンは生徒会に入ったが、次の日、シオンは学園長に呼び出しをくらって学園長室へ行く。
「シオンくん、君に先王陛下から手紙が来ている」
シオンが渡された手紙の中身を確認する。その内容は王子たちの護衛に異論と唱える貴族グループの騎士たちとの決闘日程が決まったという内容であった。
そして、シオンは思う。
また決闘だよ。
槍士<ランサー<熟練槍士<ファランクス<ヴァルキリー<槍聖




