十六話 創造神、授業を受ける
案内されたSクラスと書かれた教室に着いた俺たちは、教壇の前に立たされていた。
教室はかなり広く、生徒が座る席は前から後ろに行くにつれて順に一段ずつ高くなっている。
周囲を見渡した限り、この教室の生徒の人数は20人近くか。どうやら自習の時間のようで、この時間で俺たちの自己紹介にするとのことだ。
「訓練場をどうやって破壊したんですか?」
「得意なものって何?」
「君の魔術特性は何かな? 訓練場を燃やしたって聞いたからやっぱり火属性?」
「彼女はいるんですか?」
「どんな女の子が好みですか?」
軽い自己紹介を終わらせた後、かなりの数の質問をされた。
さらには、エインリオやスヴァルトのことも聞かれたが、一人の声によって止められる。
「うるせえんだよ、平民ごときが調子に乗るんじゃねえぞ」
それによって周りの貴族の子供たちが増長し、煽ってくる。
貴族の子供たちの態度はどこでも同じらしい。
「シオン様、やはりこのような者共は駆逐していくべきです。それでなければ、さらに増えるだけです。だから、どうか殲滅の許可を」
「スヴァルト、お前のその気持ちはうれしいが、殺してしまえばそこまでではないか」
「なるほど、この者たちをあえて生かすのですね」
シオンはスヴァルトと小声で会話するが、シオンはスヴァルトのこのすぐに殺そうとするクセをいつか直させようと思っていた。
殺せば、証拠隠滅の面倒または俺が蘇生することになる。スヴァルトもエインリオも神聖魔術が使えない。あっても使おうとしない。
「はいはい、そろそろ授業時間が終わるので、質問は終わりにしてください。シオンさんは、あそこの後ろの席に座ってください」
担任らしき男性教師が皆に言う。
席に着くと横にルーファスがいた。どうやら学園長が席に配慮をしてくれたようだった。
しかし、王子という王族の近くの席にいることによって、さっきの怒鳴ってきた奴らから睨まれている。
それを気にせず、ルーファスと話していると、鐘が鳴る。
次の授業は訓練場での実技とのことだった。
先日、焼けた訓練場は数人の教師と学園長が元の状態に戻したみたいだ。
「では、実技の授業を始める。まだ入学してから初めての授業だ。比較的に安全な召喚魔術をする。召喚魔術とは、テイムと召喚のことを言う。魔物を召喚してからテイムするも良し、魔物を見つけてテイムするも良しだ」
白衣を着た女教師がやって来て、授業を進める。
「はい、この召喚陣に手を乗せ、魔力を注いでください」
皆が先生に言われたとおりに紙に描かれた召喚陣に両手を添える。
怒鳴ってきた奴の周りが騒がしくなる。
先生が近づいていき、召喚陣から出た生物を見る。
「おや、フォレストウルフか」
先生の説明によると、この魔物は一般的な魔物なのだそうだ。
「さすが、シャナークさんです」
俺にとっては一般的というよりは、ただの雑魚なのだが、周りの様子はその太っている少年に称賛の声をあげていた。
「ルーファスは何を呼ぶ気なんだ?」
「どうしよっか、僕は魔力が多い方だし、ウォータイガーを呼んでみるよ」
他の生徒はFランクの魔物ばかりで唯一Eランクの魔物をテイムしたのは、シャナークだけのようだ。
召喚魔術の失敗は二つある、一つは魔力が足らず召喚で呼べない場合、もう一つは召喚には成功したが、テイムできない場合である。
もし、ルーファスが失敗したらDランクの魔物であるウォータイガーが学園で暴れだすことになる。
「ではルーファスさん、お願いします」
「はい」
ルーファスは今までの生徒と同じ要領で進めていき、召喚陣から赤い光が出てきた。
「これは!」
なにやら女教師が驚いている。
陣からウォータイガーが出てき、ルーファスの前に座り、顔をなめている。
「なんと! ウォータイガーですか。しかも、テイムもできているようですね。優秀そうですね」
「ありがとうございます。フレイヤ先生」
すると、他の生徒たちが驚きの声をあげる。
「すごいなぁ。さすがはルーファス様です」
「成人したらルーファス様の下で働こっかな」
「俺も騎士に志願してみよっかなー」
と、称賛の声が聞こえる。
「ちっ、アドニス様に比べればあんなの大したことないってのに」
シャナークくんはアドニス派閥の人のようだ。
そして、ルーファスは色々と人気者のようだな。
「次はシオンくんもやってみてください」
「わかった」
シオンは悩んでいた。何を呼ぶべきなのか。後ろではエインリオとスヴァルトが期待の目で俺を見ている。
今回、すでに呼んだのは、フェンリル、ホルスくらいなもんだ。
ふと頭によぎったのが、天使か悪魔を呼ぶことだったが、学園ではしたくなかった。他にも配下はたくさんいるのに、俺の眷族となった者は性格が特徴的だから、出したくねぇんだよなぁ。
シャナークがフォレストウルフを連れて見に来る。自己紹介の時から俺を目の敵にしているようだ。
「どうせ雑魚しか召喚しねぇんだろ」
取り巻きからもヤジが飛ぶ。
一番安全そうでまともな賢者時代の一番最初の友になった者を呼び出した。
「来てくれ、ネーヴァ」
そうしてシオンが召喚した魔物は、小さいスライムだった。
『ヘイムダルか? いや、姿は違うようだな。しかし、この魔力の波は……。なるほど、また下界に降りたということか』
周りの知らないであろう風景には一切気にせずに俺の今の姿に興味あり気に見ていた。
「ふははは、スライムかよ。最底辺の最弱スライムならお前にお似合いだな」
確かにスライムは弱い。小さくほぼすべての攻撃が弱点となる。
しかし、ネーヴァは特殊だった。
出会った当初、ネーヴァは固有スキルを持っていた。転生者というわけではない。
始めから特別な種類のスライムだったわけでもない。
ただ生存競争に勝利し、生き残っただけ。相手を喰らうことで自らを成長させる。
そして、俺と出会い、さらにネーヴァの力は増幅して今や本当にスライムなのかと問われるほどにまでなっている。
「残念だったね、シオンくん。君は訓練場を燃やすくらいの人だから期待してたんだけどね」
フレイヤ先生の最後の方の言葉は小声で言っていたが、シオンには聞こえていた。
「先生でも俺の友をバカにするならさすがに怒りますよ」
講師に威圧を送り、フレイヤはたじろぎ怯む。
「はっ、スライムを召喚した奴が何言ってるんだよ! しかも、友だってよ。才能がねぇんだよ、俺のような貴族じゃねーんだから」
シャナークくんが俺に罵詈雑言を捲し立てる。Sクラスの平民の生徒がシャナークの言葉に俯く。
「俺の友をそこらへんのただのスライムと一緒にするなよ! ネーヴァはけっこう強いぞ」
「あのそのスライムって名前を持っているんですか?」
「ああ、グラトニースライムだからな。名前を持つならそのくらい強くなければな」
フレイヤ先生が顔を青くし始めた。
「あの、そのスライムは本当にグラトニースライムなのですか?」
「ああ、そうだぞ」
「本当にあの遥か昔に都市を飲み込み、壊滅させ、英雄たちによって討伐が組まれる程のスライムなのですか?」
「ま、まぁな」
そういえば、昔そんなこともしていたな。領主にムカついたからネーヴァの能力の実験でやりすぎたやつだったか?
講師なだけあってグラトニースライムの歴史を知っていた。ネーヴァを退治しようとした奴らにはそこにやってきたことを後悔させてやったけどな。
フレイヤ先生の言葉を聞いた生徒たちがシオンとネーヴァを見る。
「あれってネーヴァさんだよね」
「ええ、そうですね。あの方の前では仕方ありませんが、しっかりと仲良くしましょう、エインリオ」
「うん、そうしよう」
エインリオとスヴァルトがお互いに頷く。
「先生! 魔物に名前があるのは珍しい事なんですか?」
学生の一人がネーヴァの名前を聞いて疑問に思ったのだろう。
「そうですね。召喚した魔物は皆さんも種族名で呼んでいますね。その中で名前を付けられるというのはより上位種に進化して一定以上の強さを持った魔物だとされています」
フレイヤは、進化の過程を説明していく。
ステータス
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[名前] ネーヴァ
[年齢] なし
[性別] なし
[Level] 971
[種族] グラトニースライム
[職業] 魔物
[HP] 93202
[MP] 75333
[力] 90012
[器用] 55723
[敏捷] 96095
[スキル] 【隠形LV.8】【サイズ変更LV.10】【魔力感知LV.9】【回避LV.9】
【危機感知LV.9】【威圧LV.9】【水魔術LV.8】【氷魔術LV.9】
【風魔術LV.8】【空間魔術LV.8】【解体LV.9】【採取LV.5】
【偽装LV.6】【反撃LV.7】【思考加速LV.10】【無詠唱LV.10】
【指揮LV.6】【分裂LV.8】【捕食LV.10】【並列思考LV.9】
【槍術LV.10】【槍王術LV.8】【鋼糸LV.7】【索敵LV.10】
【擬態LV.10 対象 ヒューマン、黒竜、悪魔】
【体術LV.10】【闘王術LV.1】
[特殊スキル] 【自己再生LV.10】
[固有スキル] 【分解LV.8】【無限連鎖LV.10】
[耐性] 【魔術耐性LV.9】【物理無効LV.10】【状態異常無効LV.9】
【精神異常耐性LV.9】
[称号] 【知恵者】【スライム最強】【創造神の眷族】
[加護] 【創造神アイゼンファルドの加護】
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「嘘だ! こいつは自分がスライムを呼んだからこうやって嘘をついているに違いない」
「シャナークよ、真実とは時に残酷よなぁ」
シオンがそう諭すが、シャナークたちは聞かない。
「みんな、だまされちゃいけないぞ!」
取り巻きの者たちもシャナークに支援する。
皆もさすがにネーヴァがまさかグラトニースライムとは思ってはないようだ。
俺としては、どっちでもいいのだが。
すると、フレイヤ先生が、
「テイムした魔物と術者同士で戦ってみたらどうだ?」
と、提案してきた。
「これも授業の一環だから、相手に攻撃を何度か当てた時点で決着としようか?」
「俺はそれでいいいぜ」
「問題ありませんよ」
今回の生は絡まれることが多いようだ。面倒になってきた。
シャナークとの戦いは、次の時間の授業にすることになった。
「なぁ、どっちが勝つと思う?」
「そりゃ、シャナークじゃねえのか。貴族だし、強い奴を家で飼いならしてたりするんじゃないのか?」
「けど、シオンくんのスライムだって強いかもよ。先生が驚くくらいだしさ」
「あのスライム、ネーヴァっていう名前なんだね。かわいかったなぁ」
「確かになんかかわいかった」
「なんだろうね、あのかわいさ」
それを聞いていたエインリオとスヴァルトは、小さいスライム状態のネーヴァの前で笑っていた。
「ネーヴァさんがかわいいだってさ、よかったねー」
「クフフフ、ネーヴァ殿はかわいいですからね」
ネーヴァはいつも大人っぽい女性の姿に擬態している。俺がアシュタロトの時に名付けたら自然とこの姿になってしまったのだ。今は久々に呼んだことで元のスライム状態だが。
あの時は急に変わるから笑ったのを覚えている。その後、泊まっていた宿屋を半壊させてしまったことも覚えている。
「うるさいですね、それはこの姿の時ですから。それよりも、アシュタロト、久々ですね」
「ああ、この後、戦うことになっちゃうけど、問題はないかな?」
「大丈夫ですよ、ついでにこの天使と悪魔で準備運動しましょうか?」
ネーヴァが言った途端に、エインリオたちが震えだした。
「ご、ごめんね、ネーヴァさん」
「すみません、ネーヴァさん。これはその……」
この二人がすぐに謝った。しかし、謝っても二人はネーヴァにしごかれることになった。
シオンは視界をシャナークの方へ移すと、シャナークは宝玉のついた杖を持っていた。
そして、授業の始まりを知らせる鐘が鳴る。