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閑話 奴隷、わからない

 シオンたちが王城で王と話している頃、王都の家では回復したメネアがメイドたちと組み手をしていた。


「あの人、メイドたち全員と戦っているわよ! まったくいったいどんな体力してんのよ!」


「ほんとすごいよね。しかも的確にみんなのダメなところを注意してくるしさ。でも仕方ないんじゃない、ああでもないとシオン様たちについていけないしさ」

 木陰で休んでいるマヤにゼノビアが話しかける。


 ゼノビアと摩耶はこれまでシオンがしてきたことをだいたい知っていた。


 冒険者になって間もなくでありながら、Bランク冒険者を圧倒し、オーガを一撃で倒し、ワイバーンを大量に狩ってきた。


 これだけのことをシオンはやってきたのだ。十分注目され、ゼノビアも摩耶もその情報を耳にすることは当然であった。


 さらには、王族からの警護の依頼であった。それは、王族から信頼されているということは誰でもわかることである。


 しかも、自分たちが恐れているメネアがシオンの執事を名乗る人に手加減されても勝てなかった、そんな人をシオンは従者にしているのだ。


「次! 早く来なさい!」


「はっ」


 メネアの掛け声で前に出たのは、ライドウである。


「あ、ライドウさんだ。あの人、騎士団長だったらしいけど、メネアさんにはさすがに勝てないかな」


「いや、元はこの国の騎士団長だったんでしょ! 勝たなきゃ不味いでしょ!」


 ライドウはメネアに斬ってかかったが、身体を半身にしてかわされる。その後もライドウは体術を混ぜながらメネアを斬りかかるが、すべてギリギリのところでかわされ続ける。


 最後はメネアに顔面を殴られ、吹っ飛んでいく。

 近くにいたメイドがシオンから支給された回復薬でライドウを治療する。


「もっと小技を増やしなさい! それと、ここにあるもので目潰しなんかを狙いなさい!」

 終わりにはメネアからダメ出しが飛んでくる。


「お、お前さんら、今日はもう終わりかのぉ?」


「あ、タイタンさん。いえ、あとはランニングと勉強です」


「いいわよね。あんたは鍛冶をするからって組み手をしないから楽そうで」


「おうよ、体力作りと勉強はあるが、他はないからの。鍛冶に専念できるってもんじゃ。そして儂はな、いつかあの方の剣を作るんじゃ」


「あの方ってシオン様?」


「ふっ、何を当たり前のことを。シオン様の素晴らしい鍛冶の技術でできた剣を見れば、ドワーフ王だろうが、教えを乞うじゃろうな。あー、もう一度あの素晴らしい剣を見たいもんじゃ。そしていつしかそれを超える武器を作り、シオン様に使ってもらうんじゃ」

 タイタンがすでにシオンの虜になっていることにゼノビアは驚いた。


「ふーん、シオン様って色々すごいのね」


「そうだね、ゼノビア」


 摩耶は『だってあの人は私が異世界人だってわかっても何もしていないんだから』と心の中でシオンを称賛していた。


 普通は異世界人、それも勇者であればいいように吹き込んで利用するはずなのだ。それだけ勇者というのは、異質なのである。


「お、嬢ちゃんたち、シオン様のことを話してたのか? 俺にも教えてくれよ」


「あ、ライドウさん。もう平気なんですか?」


「おう、シオン様の回復薬のおかげでな。それでよ、ぶっちゃけ、シオン様って何者なんだ? 奴隷にこれだけのものを与えるなんざ聞いたことがねぇ」

 ライドウたちはこの家に来てから鍛錬や勉学をしていたが、それだけでも十分珍しい事なはずなのにシオンは奴隷である自分たちに宮廷で出るような料理や充実した生活を与えてくれていた。


「私が知るわけないでしょ! こんなにすごい回復薬なんて私の里でも見たことないもの!」

 ライドウの問いにゼノビアがいらいらしながら答える。


「はっ、これだからエルフは。シオン様は素晴らしい。そのことだけで充分じゃよ」

 ゼノビア、摩耶、タイタンの話に入ってきたライドウは、シオンの印象を聞いてくる。


「そうですね、シオン様はワイバーンを大量に狩ったそうですよ」


「ほう、それは誠か? っ!? 大量だとあのワイバーンを」


「ええ、たぶん。あと、私が聞いてしまった話なんですけど、この家にいるいつも撫でている犬って実は、フェンリルらしいです」


 摩耶がそういうと、ゼノビアたちは沈黙した。まさか、自分たちの癒しの存在がSSSランクの伝説の魔獣であったとは、信じたくなかった。


「ははは、何の冗談だ、マヤちゃん?」


「そうよ、マヤ! それはいくらなんでも嘘だってバレるわよ」


「いえ、紛れもない真実です」

 またも沈黙になる。


 そこへメネアがきた。

「ええ、あの狼は主様の召喚獣であるフェンリルですよ。それにこの家を訓練中の間は、あなた方のかわりに守ってくれるのは、他にもいますので。安心して訓練をしてください」

 なんとメネアがあっさりと正体をばらしたのである。


「やはり、あの方、シオン様は素晴らしいお方じゃな」

 それを聞いてもタイタンは変わらず、シオンを讃えていた。


「は、ははは、なんなんだ此処は?!」


「やっぱり、シオン様ってすごい人だったんだー、ははは」


「マヤ、これはすごいってもんじゃないわよ! フェンリルよ、普通フェンリルを家の防衛にあてるっておかしいの! というか、フェンリルが飼われていること自体がおかしいのよ」

精神の崩壊は、近い。



 ・・・



 その夜、Bランク冒険者であるザッツが仲間とともにシオンへの報復に家にまでやってきていた。


「ここが奴の家か。ギルドでこの俺に恥をかかせやがって。ここには奴のメイドどもがいることはわかってんだ。そいつらを犯して奪ってやれば、奴の苦しがる表情が見られるってもんだ」


「へへ、早く行ってやっちゃおうぜ、ザッツ」


 ザッツたちはシオンの家に忍び込もうとしていたが、それを見つめるものが一人と一匹、さらに地中からゴーレムが侵入者を認識する。


「じゃあ、やるか」


「それ以上進めば敵という認識でよろしいですね」

突如として彼らの耳に聞こえられた言葉。


「ああ、お前は奴のメイドかぁ。お前からやっちまうぞ。恨むんならシオンの野郎を恨むんだな、なんせこの状況は奴のせいなんだからな」

 そういうと、ザッツたちは笑い出した。


「私が主様を恨むことなどありはしない。シオン様を愚弄したことは贖ってもらうぞ、ゴミども」


 笑っていた仲間の一人が急に倒れた。ザッツたちはそいつの身体を確認する。すると、胸が空洞になっていた。


「なんなんだよ、なんなんだよー、これはー」


「死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない……」

 メネアから感じる死の気配によってザッツたちは震えて動けなくなっていた。


 逃げようとすれば、突如、氷に足をとらわれた。


 そして、ゴーレムが大きな手で一人を掴み、身体をねじりながら引き裂いていく。

 じわじわと苦しみながらそいつは殺されていき、仲間たちは怯えていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


「もう俺はシオンたち、いや、シオン様にはかかわらない。だから、せめて命は助けてくれ」

 ザッツが地面にうずくまりながら命の慈悲を乞う。


「なぜ? あなたたちは私の大切な主様を愚弄し、あまつさえ苦しめようとした。ならば、それは許されることではない。よって、あなたたちは何もできずにただただ死んでゆくのです。そしてそれは絶対であり必然のことなのです」

 メネアは冷え切った目で侵入者たちを一瞥する。


「死゛にだぐない」


「この程度の者たちに、これほど使うこともありませんでしたね。あなた方も私も主様のために張り切りすぎてしまいましたね」

 メネアはフェンリルたちに声をかける。


「まぁ、いいではないか。あの者どもは主と敵対したのだ。それがどんなに罪深いことなのかは我々

 が教えてあげなければな。スヴァルトやエインリオでは死んだ後でもひどい目にあうのだから」


「おや、あの悪魔を知っていたのですか?」


「ああ、シオンが大賢者アシュタロトの頃に一緒にいたからな」


「そうでしたか」


「主が今回はどんな道をゆくのか、楽しみであるな」


 そうしてメネアとフェンリルの会話が終わり、フェンリルが死体を灰にし、風でどこかへ吹き飛ばす。



 ・・・



「なんだと! ザッツたちと連絡が取れない?! まさか、あいつらしくじったのか?!」

 ザッツたちと同じくシオンに恨みを抱いている者がもう一人、歩兵師団の副長グラーフである。


「やはり冒険者など役に立たん。次は闇ギルドで依頼して俺に楯突いたことを後悔させてやる」


「次などありませんよ」


 グラーフは、突然聞こえた声に反応して、声の方へ剣を向ける。

「何者だ? ここに侵入してきたということは死んでも文句は言わんな」


「死ぬ? なぜ私が死ななければならない。死ぬのは我が主に牙を向けた者のみです」


 だんだんと窓からの月明りで声の主が見えてくる。

 そして、現れたのは執事服を着た者だけだった。


「ふん。貴様など俺は知らんな。それに主? 誰のことを言っている?」


「まったく、無知というのは。まぁいい、貴様には感謝しているのです」


「感謝だと?」


「ええ、私のコレクションも飽きてきたので新しいのをと思っていたのです。そしたら、なんと主に歯向かう者がいました。なので、あなたには私のコレクションに加わってもらいます。主にはちゃんと許可ももらっていますから大丈夫ですよ」

 スヴァルトは空間を開き、その奥には多くの種族が涙を流して吊るされていた。


「助けてくれー。もう嫌だー。殺してくれぇ―」

 そんな呼び声がグラーフに聞こえた。瞬間的に生きている。いや、生かされていると感じた。


「さぁ、存分に抵抗してください」

 次の瞬間、グラーフは何かに身体中を掴まれ、その空間へと引き込まれてゆく。


「嫌だ、なぜだ、俺はお前に何もしていないじゃないか」

 次の日、歩兵師団副長グラーフは突如いなくなっていた。

 その痕跡はなく、消え去ったようであった。


「シオン様を煩わせる者は全て私の玩具になる。これでシオン様は喜んで下さるでしょうか?」

 そして、スヴァルトは何事もなくシオンの世話をする。


 シオンはスヴァルトが何をしているかをもちろん知っているが、黙認した。これで自分で処理せずに済んだと、スヴァルトを褒めた。


 シオンは気にせず自分のクラスへと向かう。













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