十五話 創造神、学園に入る④
シオンとエインリオが王城にいる頃、家にいるメネアとスヴァルトは争っていた。
掃除の技術勝負、留守の間家を守るための闘い、料理の味の勝負、敷地の草の処理勝負などをしていた。
他のメイドたちはその二人を見て、メネアが自分たちにここまで求めているのかと絶望をする。さらに、戦闘において新しく来た執事の人に恐れていたあのメネアが明らかに手加減をされていることに驚愕していた。
「ふむ、まぁそのくらい力があればこの家の守備はできるでしょう。家事の方も及第点ですが、いいでしょう。これならばあなたにこの家の管理を任せられるというものです」
「ふん、おまえなんかに言われんでもやりますよ」
地に膝をつきながらメネアはスヴァルトに言う。
「あなたはもう限界のようだ。このメイドたちの教育は私がしておきますので、休んでいなさい」
「チッ、私は嗜好なるシオン様にメイドたちの教育を任された身、その仕事を取らせるも――」
メネアはスヴァルトに反論しているうちに力尽き、俯せで倒れた。
「まったく、あれだけ私にむかってきたのですからもう倒れる寸前だったのにまだ気力が残っていたとは。いい加減休みなさい」
スヴァルトはすでに眠っているメネアを持ち上げ、寝室に連れていく。
メネアにかわりメイドたちの教育を始める。
「さて、あなた方にはこの家にふさわしいようになってもらいます。これから頑張ってくださいね」
スヴァルトがメイドたちに笑顔で言うが、メイドたちはその笑顔が悪魔のように見えた。
そして、初日にシオンに連れられた者たちはシオンの信者にふさわしくなるようにと、スヴァルトに鍛えられる。
・・・
「ただいま」
「ただいまだよー」
シオンとエインリオは家に帰ってきたわけだが、家の前には悪魔のスヴァルトしかいなかった。
シオンはメネアもいないのかと、疑問に思った。
「おかえりなさいませ」
「メネアと他のメイドたちはどうしたんだ?」
「メネアは寝室にて休眠をしています。他のメイドたちに関しては庭にてこの家にふさわしくなるための訓練をしています」
「そ、そうか」
シオンはさらに疑問に思う。
『家にふさわしくなるって何? 俺はいない間の掃除などをしてくれていたらよかったんだけど』と。
「メネアがもう寝室で寝るなんて珍しいな。スヴァルトが許すとは思えんが?」
「その件は私がメネアの実力を確認していたらですね、思った以上に食って掛かれたので手加減をして対処していたのですが、メネアが疲れ伏して倒れてしまい、寝室でお休みになっています」
「えー、スヴァルトはもうメネアちゃんと戦ったのー。いいなぁ、私も遊びたーい」
「エイン、無理をさせてはダメだぞ。ところで、実力って戦闘の?」
「はい。それもございますが、他にも家事の勝負をしておりました」
「それで、どうだった?」
「ぎりぎりではございますが、この家の留守を任せても大丈夫でしょう」
「そうなんだ。まぁいいや」
シオンはとりあえず気にしないことにし、家が傷つくことがないように、この拠点に防御機能を搭載することにした。
結界を張り、ゴーレムを配置し、フェンリルたちに不審者を撃退するように言い含めておく。
家に魔術で強化したり、仕掛けで武器が出てくるようにしたりと色々備えておいた。
結局家の強化で学園の寮に戻らず、王都にいた。
・・・
休日が終わり、学園にシオンは転移で向かう。
そして、それについてくるものが二人。
「ついてくんの?」
「うん。この間の二人もいるんでしょ。それにシオン様といると楽しいから」
「私も離れるつもりはありません。シオン様の世話は私の生きがいですから」
俺ってそんなに自分のことできないと思われているんだろうか?
そんなこんなで学園の前まできていた。
周りにはメイドや執事を連れた貴族の坊ちゃんや嬢ちゃん、一人でいるものや仲のいい者同士でいる平民の子供たちが登校していた。
もう子供たちのなかでグループが出来ていた。
「おい、お前!」
近くで怒鳴る声が聞こえた。静かにして欲しいものだ。人の罵声は何よりもうるさく、他者を苛立たせる。
「お前だよ、無視してんじゃねーよ」
どうやら声をかけられている人は怒鳴る相手を無視しているらしい。そんな奴の相手をするなんて大変だな。
「だぁかぁらぁ、なに無視してんだよ、お前!」
声が近づき、シオンは肩をつかまれる。
「ん? 俺に何か用か?」
「あ゛ぁ゛、俺はシャナーク・エイビスだ。俺の家は侯爵家だぞ。お前ごとき平民にそのメイドはいらないだろ、だから俺にそこのメイドをよこせ。そしたら、俺様を無視したことは許してやろう」
シャナークと名乗る太った子供が取り巻きの子供と執事が笑いながら言う。
人前でよく言えたものだなぁ。絶対スヴァルトもエインもキレてるよ。
俺は大人だから気にしない。
というか、俺が貴族じゃないことが分かったのだろうか?
「シオン様、このゴミどもを焼却処分しても宜しいでしょうか?」
「シオン様ー、なんでこんな奴らはさぁ、生きているのか不思議だなぁ。今ここで亡き者にしちゃおっかー」
あー、やっぱり怒ってる。しかも、二人のつぶやきもあいつらには聞こえてないみたいだし。
「シャナーク様が貴様を求めていらっしゃるのだぞ、はやく来い、女」
「そうだ。平民ごときに時間を割いてやっているんだぞ」
「そこの平民のクズ二人も俺の僕になれ。俺に使われるんだから、光栄に思えよ」
さらに、取り巻き共が煽ってくる。
あー、気にしない、気にしない。――やっぱ、無理。こいつ一生逆らえないように恐怖を叩き込んでおこう。
シオンがギルドで使ったように【幻魔術 闇黒郷】を使おうとする。
「おーい、シオンさーん」
遠くからルーファスの声が聞こえた。ルーファスは妹のアリスとともにアリシアの転移で学園に来ていた。
「これは、ルーファス王子殿下、アリス王女殿下、おはようございます」
「え? ああ、うん。おはよう」
シャナークたちは王子たちに態度を急に変えて挨拶し、王子たちの前では分が悪いと思い、舌打ちをしながら去っていく。
ルーファスは突然知らない者にシオンとの話を止められて、顔をしかめながら挨拶をする。アリスに至っては冷たい目でシャナークたちを見て、挨拶をしようともしない。
この子はまだ学園に通える歳ではないからアリシアと一緒にルーファスを送りに来ただけのようだが、意外とすでに聡いのかもしれない。
「アシュ~、さすがに~、子供に幻魔術やったらさ~、ショック死しちゃうんじゃないかな~」
「アリシアよ、一回くらい死んだところでなんの問題もないよ。それに俺がしなかったらこいつらが蘇生できなくしてしまうからな」
「じゃあ~、まだいい方かな~? そういえば、ずっと前にアシュになめたこと言って暗殺を仕掛けてきたやつって~どうなったんだっけ~?」
「天界に拷問好きの知り合いがいてそいつに渡した。神聖魔術でまだ生きているんじゃないか? しっかりとおもちゃを長く大切にして遊ぶ奴だしな」
「うわ~、そっちも嫌かも~」
そんな会話をしてシオンたちは学園に入っていった。
シオンはエインリオたちと学園長室に向かう。
「学園長、シオンくんが来ました。」
「通してくれ。よく来てくれた、私はグランバルトという。前は宮廷魔術師だった。国王さまから聞いてはいたが、君は間違いなく天才だ。入試試験で最後の問題を解いてくれた」
「最後ってあの簡単な問題ですよね?」
「簡単かー、あの問題はな、現在王立魔術大学で研究されている未解決問題なんだ」
……ん?
「流石に嘘ですよね!?」
「ついでに言うと、生徒がAランク冒険者を倒すのは無理なんだ。魔術で学園の教師が張った結界を破り消し炭にするようなものはいない。他の教師からは君を教師にしようと錯乱しているものまで出たぞ」
「で、そうだとしたらどうするんですか?」
「君は常識を欠いているようだね。その年でこれだけの力を身につけていると言うことは、色々と特殊な事情があるのだろう。俺達にそこを詮索するつもりはない。……ただ少し、協力を頼みたくてな」
「……協力?」
脅しじゃないの、これ?
「ああ。実は今、このアヴァントヘルム学園は秋期に開催される年に1度の武術と魔術の親善大会に毎年負け続けている。今の戦歴は1勝12敗なんだ。だから、大会で勝利してもらいたい。君がいることで周りも影響を受けるものが出てくるだろう」
学園長が頭を下げながら言う。
大会には全5校が参加する。
この王国内の学校経営を司る上層部は基本的に実力主義を掲げており、大会の結果が、そのまま予算の配分に直結する制度になっているらしい。
予算が多ければ、施設を充実させることが出来るし、優秀な教官を金の力で呼び寄せることも可能だ。
そうすれば、噂を聞きつけた優秀な学生が、本校を受験しにやってくる。
生徒が集まれば、それだけ多額の入学金が入ってくるというわけだ。
「もはやこの大会は、ただの生徒同士の競技の場ではない。見るに堪えん政治の世界と化しているな」
「そこで、我々が勝てば、その状態の変更を言いやすくなり、変わるかもしれないんです」
ふむ、口では何とでもいえるな。
「こんなことを頼めるのは、君しかいないと私は思っている。冒険者になりたい。魔法を上手く使いこなしたい。強くなりたい……。そう思っている子供たちを、正しく導くためにも、大会の勝利が必要なのだ。シオンくん。この通りだ」
「……その大会にある程度強い奴はいるのか? 俺を愉しませるものがいるのか? そして、学園長のその役目はしっかり果たされるのか?」
「? ええ! もちろんですよ。それに大会では選抜されたもののみが出てきます。十分シオンくんのように強い生徒がいますよ」
ある世界の地球という星では、子供でも恐れる技量を持っているという本があるからな、この学園にいるかもしれないな。
「そうか。期待はしないでおく。それと、生徒にあまり敬語で話さないようにな、威厳がなくなる」
「そうですね。君と話すと何故か敬語になってしまう」
学園長と約束を交わし、シオンは自分のクラスへと向かう。