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百三十五話 侵入と宝玉

「帝国、下がらせちゃってよかったんですか?」

 帝国軍は竜騎兵、英雄一人と多数の同胞を失ってかつて王国のものだった砦に帰還した。


「それにそんなものまで持ち帰ってきちゃって。向こうさん、きっとお怒りだよ」

「これはちゃんと返すさ」(綺麗にとはいかないけど)

 この戦争で得たものはそれなりにある。

 一覧はメネアに渡してあるが、ざっくりとこんな感じだ。

 英雄一人。

 竜それなり。

 人まぁまぁ。

 死体たくさん。

 竜が想定よりも弱く、数は減ったがうちの龍の下に就かせるつもりだ。

 負傷者も死体も関係なく装備は剥ぎ取り、生きているなら尋問。死んでいるならメルクーアの素材行きが決定している。


「で、この後はどうするんで、旦那?」

「コホンッ」

 メネアのわざとらしい咳に摩耶が反応して背中を反射的に正す。

 帝国側の峡谷の入り口にあるヴェール砦だが、その周辺は平原になっていて見晴らしが良過ぎる。

 きっちり門前は固めている。

 こりゃ、普通に攻めるのは時間がかかるか。面白くするには……。


「主様、ここは彼女たちに任せては貰えませんか」

「ん?」

 メネアが言いたいのは、摩耶たちに作戦立案から実行を彼女たちに一任して砦を落としてくることだった。


「できるか?」

 基本的にシオンは自軍を信用していない。

 シオンの一強が過ぎたのだ。どの兵士も彼には子供のようなものに映っている。

 子供の見た目をしている癖に。

 上に立つ者の慈悲とでも言うのか、不安なのだ。

 弱者の力で事を実行できるのか。

 雛が必至に食らいつこうと頑張る姿。

 つい、任せるよりも自分で進めてしまった方が早いと考えてしまう。

「はい。可能かと。主様、もう少し彼女たちの力を認めてくださいませ。もう一人で闘えるだけのものは持っております」

「……。過保護であったと?」

「はい」

「…それもそうか。では、任せてみよう」


 大峡谷でもシオンは自分で突貫し、摩耶たちには指揮や援護射撃、互いに守れるよう群でいるようにしていた。シオンと同じく前に出たライドウにもゴーレムを付けていた。

 それ以外にメネアから小言を別で貰っていた。

 峡谷に残っているワイバーンの解体や帝国兵の捕獲はメイド隊に任せて作戦会議を城で行うことになった。

 ただシオンの決定でスヴァルトが監査になることは決まっている。


 砦入り口は鉄格子の門で封鎖されている。破城槌でもあれば話は別だが、そうでない限り固く閉ざされた門を突破することはかなり難しい。さらに言えば敵が黙って見ているわけもなく、様々な手を使い必ず妨害してくるだろう。

 ライドウが壊すという案があったが、余計な抵抗を受けることが想定されることから却下に。

 そんなこんなで話は進み、やることは決まった。


「あの。また捕まえたりしなくていいんですかね」

「もう要らないな。余計な捕虜もリスクも負う必要はない。ただ、折角砦を手に入れるんだ。貰えるものが増えるならそれに越したことは無い。素早く決めろ」

 帝国兵の持ってきた備蓄もついでに狙う。リターンは多い方が良いに決まってる。焦土作戦を決断させる前に奪い返したい。

「じゃ、明日の夜に開始ってことで」


 夜。

「ふぅ。さて、この人数であのでっかい砦を落とせるかな」

「問題ありませんわ。もし、歴戦の勇士がいたなら峡谷の時に投入するはずですもの」

「それであの砦の中の陣容が薄いってことになる?」

 どうやって帝国に奪われたのかは帝国軍と砦にいた王国兵士しかわからないことだが、この砦は堅塞固塁を誇っていた。

 けれども、摩耶たちの中には内側をどう攻めるかの話になっていた。


 まず始めにゼノビアとウル、テスタロッサが警戒の眼を殺す。

 いつも通り黒衣の忍者装束に身を包み、出来る限り肉眼で見られない距離まで平原を移動する。

 近くで歩いていた哨戒班は落とした。


「さっと行く」

「まずは某とウルが」

 身を屈めて一気に三人が地面を駆け、高速機動からスライディングのように地面滑って門前まで近づく。

 門番は二人、見張りは一人。


「ん? がっ」

 暗闇の中を移動する三つの黒い影に気づいた見張りが目を凝らして前に身を乗り出したすぐにゼノビアの矢が額に刺さる。

 ウルは勢いのままスルッと焚き火で出来ている門番の影の中に。テスタは抜き身の刃の横薙ぎで門番の声が出る前に首を斬る。


「どうした?」

 相棒の門番が急に静かになったことに違和感を持った門番がテスタの方に来る。

 だが、背後のウルには気づかないまま影から飛び出たウルに首を刺されて倒れる。

 三人とも鮮やかなお手並みで。

 警戒の眼を排除し、死角になるように外壁に沿ってメイド隊が潜む。

 その間に空間魔術で足場を作り、摩耶とライドウが外壁の上に侵入する。

 下の砦内部の門前にも帝国兵がいる。


「あれはどうするか」

「私が攪乱するからライドウさんは門開けて」

「むぅ。まぁ、よかろう」

 先日峡谷で戦ったばかりだが、闘争心がまだ疼いているらしい。

 摩耶は足場で落下を軽減しながら人気のない場所に着地する。


「と言ってもいきなり中央に突っ込む気はないからなぁ。こっち行ってみよ。偉そうなの捕まえれば何とかなるかな」

 摩耶は砦内部の廊下を適当に歩く。

 砦の内部は敗色濃厚ムードで兵士たちは酒どころか飯も進んでいない様子。その分、警戒も薄れているから見回りも少なく、人に会わない。


「あ、ようやく人だ」

「む。女? リュース殿のパーティにいた奴か?」

 摩耶を見かけた兵士は見覚えのない顔に自分の記憶から思い当たる節を参照する。


「おっと。騒がれる前に」

 真っ直ぐ心臓に一刺し。

 できるだけ静かな一撃を務めたつもりではあったが、倒れる金属鎧の音に廊下の角から兵士が大声を張り上げる。


「今のは何の音だ!」

 廊下で挟み打ちされそうになったら天井や壁を走り、摩耶は追いかけられながら砦中央の吹き抜けに移動する。

「よし。摩耶のお陰で大騒ぎだな。今のうちに門を開けるとしようか」


 その摩耶の追いかけっこを司令部から出てきた武官が二階から広場を見る

「たった一人の賊如きに、いつまで手間取っているのだ!」

「あれはただの賊ではありません! 先の戦場で先陣を切った一番隊の隊長を殺した奴です!」

 下の階の兵士から報告が上がる。


「あいつを殺ったのが奴か。ならば、ここで友の仇を討ってくれる」

「敵は化け物です。司令である貴方が前に出ないでください」

 今にも飛び出しかけている武官を止める副官。


「ぬぅ。ならば、さっさと殺せ。あれが化け物だろうと幾らでも殺しようはあるだろう。あれは間抜けだ。囲まれるように動いている。ならば、この状況を存分に使わせてもらおうではないか。距離を取って矢を一斉に放て! それで片が付く」

「そんなことは言われなくともとっくに試しましたよ! ですが、そのすべてが躱されたんです。後ろから迫る矢をどうして躱せるのか聞きたいですよ!」

 自分が考える殺す手は出し尽くしたと相手が上官にも関わらず自棄になって答える。

 砦の内部では兵士や指揮官の怒声が鳴り響いている。


「お。良い並び」

 戦闘は中央で繰り返され、首が横並びになったのを見計らって摩耶が剣を横薙ぎに振るう。

 さすれば、兵士の首が同時に三つ飛んだ。


「入れ、入れ」

 こうして摩耶の攪乱は大きくなっていき、ライドウがその間に鉄格子の門を開け、メイド隊が砦へ侵入する。


「今だ! 今が好機だ。矢を射掛けろ!! 外壁のバリスタも使え!」

「は?」

「あの化物に向かって矢を撃てと言っている!」

 突然の指示がうまく飲み込めず兵士が聞き返すと彼の隊の隊長は要領の悪い兵士に激昂して怒鳴りつけた。

「しかし、今撃てば確実に味方に被害が出ます」

「構わん。あれをどうにかしないと損害は増えるばかりだ! それとも何もせず死ねるか?!」

「……わかりました」

 苛立つ隊長に短く返答した兵士は心の中で謝罪しながら近くの兵士たちに弓を持つよう指示を出した。


「励んでいるようで。私からちょっとした手助けでも」

 砦内部に霧が立ち込める。弓兵は狙いが付けられなくなる。

 兵士たちは突破された門に背を向け、死に物狂いで経った今隣で死んだ戦友の敵討ちで視野を狭め、摩耶を追いかける。

 背中を見せる隙だらけの帝国兵を仕留めていく。

「クフフ。これは虐殺もいいところですね、これは。しかし、シオン様の仰っていた英雄なる者はここにはいないようですね。すでに帝国に帰還したのでしょうか」


「ふざけるな。これが戦いであって堪るか!」

 門の突き破られた音で会議室から出て今の惨状を見た砦の指揮官である武官が叫ぶ。

 命の危機が迫った状況にも関わらずあまりの情報量に頭は冷静になる。こういう時の思考は、『どうせ』が付き物だ。


「皇帝陛下より預かったこの神器で何もかもを破壊してくれるわ」

「摩耶! 上のを止めますわよ」

 何かしようとするのに気づき、ゼノビアが弓を武官に構える。

 ゼノビアの声に反応して摩耶も動く。

 矢が放たれるも副官の剣にまぐれか同レベル帯だったのか阻まれる。

 ゼノビアの妨害が食い止められたのを見て摩耶が地魔術を使う。

 自分の足元に壁を作り、ジャンプ台のように跳ねる。

【空間魔術 格納庫】から蛇腹剣を取り出し、振り抜くことで遠心力に引っ張られて刀身が伸びる。壁に刺さったのを確認して刀身を元に戻す。

 摩耶の身体は剣に引っ張られ、武官のところまで到着する。

 副官に守られる前にもう片方の剣で武官を斬る。


「一手遅かったな」

 倒れる武官の持っている宝玉に魔力が流し込まれ、赤く光る。

「魔道具?」

 一際大きな光を放ち、玉から何かが放出される。


 魔道具の固有名称は効果のまんまの併呑の宝玉。効果は魔物を宝玉内に吸収と内側からの放出。

 現在までに入れてきた魔物を持ち主から強制的に魔力を吸い取って際限なく出し続ける。

 神器と伝わっているようだが、今流に言うならロストアイテムと分類されている過去の遺物だ。

 長年帝国が集めてきた魔物が解放されて一階に落ちていく。


「一足先に私は逝きます。皇帝陛下、万歳!! フハハハハ」

 宝珠の魔力吸収のスピードと一匹に必要な魔力量はそれなりに多く、武官の鍛えられた肉体は見る影もなく萎れていく。

 人は上官の出した魔物に混乱し、魔物は目の前に現れた獲物に咆える。


「はっはぁ。ここは私に任せるがいい!!」

 仕事がこっそりと開門することだけだったライドウは増える敵に感激する。

 武器は持ってきていないが、拳で一匹一匹殴っていく。

 メイド隊も動揺することなく処理する。

 放出された魔物は数分で掃討され、帝国兵も多少だが生き残った。

 薄れる意識の中、皇帝から重要なアイテムを授かる栄誉を受けて命を賭してまで使った魔道具が敵を誰一人も傷つけられない事実に涙が零れる。


「私の人生はなんだったのだ。私は、私は、犬死するために生きてきたのではない」

 これまでの人生を走馬灯のように振り返り、無念の涙が止まらない。

「ふーん」

 地べたに這いつくばる自分を見下げる摩耶を敗者ながらに睨む。


「人の死に目なんて中々見られないことだけど、貴方は最後まで自分のことなんだ」

「皇帝陛下のために役立てられるのだ。帝国兵は皆幸福だ」

「そうなんだ」

 帝国の人の心情は知らない。武官の言う通りなのかもしれないし、違うのかもしれない。

 敵どころか仲間さえも、いや、結果としては仲間だけ殺したことにただ自分の悔しさを嘆くこの武官に悲しく思う。











併呑の宝玉

効果 魔物を宝玉内部に吸収する。魔物を一斉に吐き出す。中に入れた魔物に従属を強制する。

所有者の命の限界まで魔力を引き出す。


※勝手ながら最近は私的なことで忙しくなって参りました。大変未熟ながらしばらく投稿の方が出来なくなりますのでご注意を。

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