十三話 創造神、冥界へ
シオンとエインリオは冥界にやってきた。
如何にもな地肌をした不毛の大地に尖った山、噴火した山から伸びる雲が重苦しく空に満ちている。地や空には悪魔らしき怪しげな影が跋扈している。
「ここは相変わらず暗く、陰気臭さが出ていますね」
「ああ、それが悪魔にとって力を増幅させるものだからな」
冥界は、悪魔へのバフやそれ以外へのデバフがある。
種族が悪魔には、攻撃力アップとHPの自然回復。それ以外の種族には、継続ダメージとMP吸収。
天界も天使へのバフとそれ以外の種族にデバフがある。
種族が天使以外なら、攻撃力ダウン。種族が天使なら、状態異常無効・防御力アップ、HP自然回復。
話して歩いていると、天界とはまったく違う門を見つける。
天界と同じように門番はいる。しかも、10人くらい。
「おい、人族と天使族が冥界に何の用だ? ここはお前らのような愚物が来ていいような場所ではない! ここには悪魔王と悪魔公が支配されている地であるぞ!」
「知っている。だから来たんだ」
「なんだと!」
「落ち着けって、いいじゃねえか。たまには人族も殺したいだろ。それに今日は公爵級の方々がこの地に来ている。きっと何かあるんだ。だから天使の魂を渡したら褒美がもらえるかもしれんぞ」
別の悪魔が話に割り込んできやがった。というか、ここに来る客なんて俺くらいしかいないだろ。
「いいから、通してくれないか?」
「待てよ、俺らは門を守れって言われてるんだ。だからよぉ、暇なんだよ。ちょっくら、相手してくれねぇか。ま、拒否なんかさせねぇけど」
そう言うとまわりの悪魔たちも笑い出した。
「まずは俺にやらせろよ」
「いいや、俺だね。はやく絶望を見せてやりてぇ」
「俺は最後にボロボロになったあとで。回復させて拷問の遊び道具にするんだ」
どうやら通してくれないどころか戦闘になるらしい。
しっかし、悪魔も調子に乗ってるやつらが増えたな。少し駆除して程度を教えてやらなければ。
「どうせ、俺らを殺そうとしているんだろ?殺そうとするんなら早くしろ!お前らにあてる時間はもういらないから面倒でしかない」
「はっはっは。威勢がいいじゃねーか。じゃあ、しっかりと絶望というものを味わわせてやるよ」
門番の悪魔の一人が背中に担いでいた斧で腹を掻っ捌こうとしている。その近くで別の悪魔が回復の準備をしている。
「ひゃはははは、俺らは優しいからよ、ちゃんと回復もさせてやるぜ」
だが、斧はシオンに当たらず、空振りをした。
「おいおい、ちゃんと当てろよ」
周りからヤジが飛ぶ。
「ああ、今度こそ」
しかし、シオンの姿は見えず、困惑する。
すると、いきなり顔に何かをくらった。その方向を確認すると、シオンが悠然と立っていた。
起き上がりもう一度シオンを殺そうとするが、また当たらず身体中を殴られ蹴られる。
そして、神刀天羽々斬で腕を斬っては神聖魔術で強制的に治す。
悪魔族にとって神聖魔術は痛みでしかないが、効果自体はある。普通悪魔は再生ができるが、敢えて神聖魔術を使う。
斬って、貫いて、火魔術で体の中から焼き、逃げようとすれば【空間魔術 天衣無縫】で引き寄せ、蹴って、気絶させ、痛みを与えむりやり起こす。
それを繰り返す。
絶対に気絶させず、休むことをさせない。
シオンは軽く力を振るい、遊んでいてもこの悪魔は耐えられない。
「そういきり立つでない。ちゃんと相手してやる。小僧ども」
そんなことをしていると、まわりの悪魔たちが乱入し、シオンに襲い掛かる。
エインリオはそれを見て楽しんでいた。再びこの方の従者になれたことに感謝をしていた。
シオンが悪魔たちに程度を弁えさせていれば門から一人の悪魔が出てきた。
「なにをしているのですか、皆さん?」
「スカイリア様、これは――えっと、人族と天使族が攻めてきたので、その対応を」
「彼は敵ではなく、客人ですよ。紹介が遅れてすみません。私は悪魔階級侯爵級のスカイリアと申します。今回はあなたの案内を請け負っています」
「やっとか。じゃ、行こうか」
「はい。ところで彼らはどうでした?」
「弱いな。階級は魔将級といったところか」
「いえ、男爵級です」
「あれでか?」
「すこし甘くし過ぎた感が否めませんね」
天界と同じように皆が集う部屋に案内される。
「お久しぶりです、アシュタロト様。スヴァルトでございます」
紳士的な執事の姿をした男の悪魔、元公爵級で現悪魔公のスヴァルトがシオンの目の前で跪く。
「スヴァルトだー、おひさー」
「ちっ、貴様も来ていたのか、エインリオ」
「これこれ、スヴァルト、落ち着きなさい」
「すみません。ルシフェル様」
「ふふふ、今回もお遊びの類ですかな?」
「そうだよ、ルー」
シオンは傲慢の称号を持つルシフェルを愛称で呼ぶ。
大罪系スキルはそれぞれ世界で一人しか手にすることのできないスキルだ。だからといって、一人一つというわけではなく昔は俺が怠惰・傲慢・憤怒・強欲・色欲・暴食の六つ持っていたこともある。これは美徳系スキルにも同じことがいえる。
そして、美徳系固有スキルも大罪系固有スキルも神に届きうる力。
しかし、これらは悪魔や天使だけが手に入れることのできるスキルではない。人族だろうと獣人だろうと誰でも手にすることができる。
一時期は世界間が繋がってしまい、異世界人がこちらの世界に来たことがあって【スキル 憤怒の支配者】を持って暴れたこともあった。その怒りの内容までは知らないが。
「部下たちの前でその呼び名はやめてください。今は冥界の統率者なのです、威厳というものが」
「いいじゃん、ルシフェルゥ。せっかく来てもらえたんだからさぁ。ね、シオン様ぁ」
「ルシフェルだけずるい。私は、ねー、私はー」
この集まりでも軽い感じを保ちながら話すのは、怠惰のベルフェゴールだ。
そして、ルシフェルに愛称で呼ばれたことに対する文句を言うのは、嫉妬のレヴィアである。
「とりあえずそっちから来るのを避けるために今日は冥界に来た」
「ああ、なるほど。今はシオンさまでしたね。天界からエインリオ殿が行けば、冥界からスヴァルトが急いでそちらに向かうでしょうからね」
「そうなんだよ、困ったことにね」
「シオン様。私にもあだ名つけて」
レヴィアがぐずっている。
このように悪魔は味方や気に入っている者に対しては親切な対応だが、敵や見方でも敵でもない者には、苛烈だ。
そこは、天使と似ている部分がある。
「俺にそんなセンスがないことぐらい知っているだろ」
「むー」
「私の準備は出来ております。シオン様の世話は天使ではなく私にお任せを」
スヴァルトがレヴィアとの会話に割り込んできた。そんなに焦らなくてもいいのに。
レヴィアがスヴァルトをにらんでいる。話を遮られたからって殺気まで出さなくても。
「あんまり下界で暴れるなよ」
「わかりました、シオン様」
天界でエインリオに言ったことと同じことをスヴァルトに言う。
「では、下界に戻るか」
・・・
下界では、まだ日が照っていた。
シオンたちは学園の寮の自室に転移で帰ってきた。
「シオン様の部屋でこの小ささとは」
「まったくだよ。そこは意見が合うね」
「はいはい、わかったから」
まだ休み初日なので一度、王都の家に戻ることにした。
エインリオたちと転移で家に戻ると、メネアが待っていた。
「おや、そちらのダークエルフはどちら様ですか?」
スヴァルトが真顔で聞いてくる。
「シオン様、そちらの御方は?」
「こっちは悪魔のスヴァルト、そっちが天使のエインリオだ」
「上位種である者を支配下に置くとは、さすがです。では、天界と冥界へ行ってらっしゃったのですね」
「で、この家の管理を任せているダークエルフのメネアだ」
「よろしくねー、メネアちゃん」
「ふっ、シオン様の身の回りの世話はどうぞ私にお任せを」
「ええ、よろしくお願いします。私はシオン様から直々にこの家を任されておりますので」
笑顔でメネアたちが握手をしているが、目は笑っていない。
「ところでメネア、あれは?」
そういってフェンリルとホルスにじゃれつくメイドたちを指さす。
「申し訳ございません。メイドたちがフェンリルたちを見つけた瞬間ああなりました。おそらくシオン様が飼っているただのウルフと思っているのでしょう。レベル上げで荒んだ心を癒すためにじゃれつくことを許可しています。不愉快であれば、すぐにでもやめさせます」
「いや、かまわないんだが。過酷なレベル上げをしたのか?」
抱きつかれ、モフモフされているが、彼は妻子持ちだ。歳はフェンリルの中では若い方。家族は神界で暮らしている。
「私はそうは思いませんが、彼女たちには過酷のようで」
「ふっ、あの程度の者の管理もできないとはな」
「恐れながら、仕事は全て終わらせています。なので、多少の休みがあってもいいのでは?」
スヴァルトとメネアは仲が悪いのか?
「今日はただ紹介したかっただけだ。この後はイスタールに会いに行く」
「先王ですね、わかりました。本日はどちらにお泊りになりますか?」
「ああ、学園都市の寮にしようと思っている」
「かしこまりました」
何故かスヴァルトは王城についていきたかったようだが、メネアと話があるようであった。
エインリオと共に王城へ向かう。
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