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百十九話 魔王と戦士たち

 シオンは異空間の自分から本体に意識を戻す。

「ふむ。ようやく集まってきたか」

 シオンはマップを見て徒党を組み始めた者たちを確認する。ついでにここに向かって走る集団も視えている。


「俺は陰から援護に徹するとしようか」

 空に悠々と立つ魔王に立ち向かったのはあの勇者の彼と愉快な仲間たち、王の近衛の【剛毅】アークに騎士団。いや、騎士団は国王の待つ闘技場に集結する最中のようだ。アークだけが魔王をはっきり捉えているかのように来ている。


「ワ、ワレ、我ノ復活ノ時ハ来タ。ひゅーまん共ヨ、恐怖セヨ! 今日コノ時ヲ以ッテ世界ハ滅ビヘト前進スル」

 女性は朗々と言葉を紡ぎ出現した。

 繭から目覚めた魔王は嗜虐を求めているのか避難民の多くいる王城に進もうとしている。相対するのも時間の問題だ。


 さて、援護援護。

 シオンは自身の腕に巻いている鎖を外す。

 ドローミの能力は対大罪縛りと成長の停止・停滞。まぁ、悪特攻みたいな。

 で、もう一つの鎖がグレイプニル。こっちは不壊と貪食。これをフェンリルのリルに見せると機嫌が悪くなる。


 俺に縛っていた時は大罪系スキルは所持していなかったからドローミの成長の停滞とグレイプニルの貪食のみ。貪食は魔力を与え続けることで満足させてそれ以上を吸われることはなかった。

 そんなわけで魔力ももうほとんど残っていない。他のところで付与魔術を使い過ぎた様子。

 魔王に対するメンバーにかなりの不安を抱えているが、戦いが始まる。そこへぎりぎり勇者が間に合う。


「魔王! 貴様のように人を平気で殺せる奴を僕は絶対に許さない!!」

 下で何やら騒ぎ立てている羽虫に目線を向ける魔王。


「ユ、ユル、許サナイカラナンダ?」

 暗澹と揺らめく幽鬼のように佇み、赤髪をなびかせる女性が真っ向から勇者の言葉を否定する。


「君が魔王? 本当に魔王か? そんな風には?」

 勇者は魔王の顔立ちや自身よりも少し大きいくらいの身長、身体を見て正体を疑う。何ら人と変わらない。同じ人間なのではないか。


 けれど、俺には視える。

 それは一種の人種が夢想する腹ペコ系幼女魔王ではなく。それは物語に出てきそうな憂いに満ちた瞳を持つ美人な青年でもない。ただ純粋に誰もが予想する姿をした魔王だった。

 まさに暴虐の化身。まさに破壊の具現。まさに絶望の権化。

 身体からあふれる魔力は人間がどれほど努力したところで到達できるそれではない。

 どういったスキルで姿を誤魔化しているのかはわからないが、シオンの警戒レベルは引き上げられた。

 スキルでその姿になっているようだが、見るからに常時発動しているものだ。それもずっと前から。あまりに自然過ぎる。


「何か行き違いがあったんじゃないのか。僕たちは本当に相容れないのか!」

 うわお。ナンパですかい? 女と見るや交戦を避けようとしているな。懐がデカいですなぁ。


「勇者様、しっかりしてください。あれは間違いなく魔王です!」

「……ぐっ。そうだったね。危うく魔王の手に乗るところだったよ。卑怯だぞ! さぁ、目的を吐け! お前は何が目的だ!」

 この勇者すっげぇ。自分から言っておいて魔王の所為にしちゃったよ。


「ギ、疑問ダッタ。コノヨウナ下等ナ人種ガ我ラノヨウナ優秀ナ種ヨリモ支配シテイル領域ガ多イコトニ。ナゼ我ラハイツモ狭い思イヲシナケレバナラナイノダ。故ニ我ラハ世界ノ覇者トナル。ココハ狭イガ足掛カリダナ」

 ご丁寧にどうも。上級魔族の片方は仕留めてあるし、出鼻は挫けさせたかな。時間もくれたことだし。勇者には少しばかりの感謝かな。


「故ニ、故ニ、故ニ、故ニ、故ニィィィィィィ、オ前タチヲ殺ス」

 緩やかとなった魔王の言葉と同時に地面が歪む。

 無詠唱で放たれた【地魔術 歪な大地】によって軟化したように蠢く地面となった。


「くそっ、何だこれ!?」

 本物の上級魔術に慣れ親しまない現代の戦士、今に定着した知識しか教えられていない勇者に動揺が走る。


 まず、空にいるのはフェアじゃないな。

 魔王の足に一本の鎖が巻き付き、地面に落とす。

「グッ!? 行ケ!」

 墜落した魔王の呼び声で軟化した地面から堅いゴーレムが出現する。

 だが、ゴーレムも軟化した地面に対応できずすぐに転ぶ。それでも少しずつ勇者たちに進む。

 地面から上に半月状に歪んだ地面に重力に逆らうように立ち、【水魔術 水刃(スパイラルブレード)】で無数の水の刃を撃つ。


 軟化した地面はようやく魔術の効果を失い、歪な形で元の堅い地面に戻った。

 水の刃は一部盛り上がった地面に阻まれるが、それでも多くの刃がライオスたちを襲う。

 踏ん張りが利くようになったライオスらはそれぞれに水の刃を打ち落とす。

 魔王は一連の攻防をじーっと見つめるのみ。その内では思考加速と並列処理のスキルが働いている。


「ゴーレムがいない?」

 水魔術を防ぎ切り、次はゴーレムと対象を探すライオスだったが、いた場所にはその残骸しか見つからない。

 ゴーレムは地面でライオスたちに見えなくなった瞬間に裏でシオンが鎖を使い、ゴーレムすべてを締め付けて圧殺していったのだ。


「魔王、貴様を倒すのは俺だ」

 勇者が逆さの大地に立つ魔王の下に飛び、剣を振り絞る。

 が、魔王の身体は水になって下の地面に落ちる。


「分身? じゃあ、本物は?」

 ライオスの足元の地面が揺らめく。


「こいつ、地面から!?」

 魔王は地面に潜る【地魔術 土中潜行】を使ったのだ。

 地面の外に出てライオスに奇襲をかける。


「ふん。柔いな」

 気を取られる奇襲ではあったが、魔王のパンチを軽々回避する。

 回避したライオスは今も連続に拳を振るう魔王を避け続ける。

 避けてからカウンターやノックバックなどを仕掛けるのがライオスのいつもの闘いの運びだ。それを繰り返して生きてきたからこそ【スキル 鷹の眼】を獲得し、自分のスタイルを確立することができた。

 けれど、その鷹の眼を以ってしても段々と魔王の攻撃に回避しにくくなってくる。


「なんだ!? 重い? どんなスキルだ?」

 先ほどまでと違う魔王の拳の威力に回避に努めのではなく剣で受け止めるようになる。

 腹ではなく刃で受け止めたはずだ。けれど、魔王の拳が傷ついていないのは、同じく【地魔術 硬化】で拳を覆ったからだ。


「おい、そいつは僕のだ!」

 分身を斬りつけ、ライオスと交戦する魔王を見つけたところで急転換して上段に剣を構えつつ仲間の援護を受ける。


「勇者様! いけません!!」

 勇者が迫っていることに背中で感じ取り、勇者が近づいてきた瞬間に振り向き、カウンターで空いている胴体に一撃決める。


「ぐぼっ!? ごふっ!」

 反撃を喰らった勇者は来た道を転がって後退する。勢いが止まり、姫様が神聖魔術で回復してくれるのだが、腹にもらった拳で吐き気がこみ上げる。


「【スキル 闘極破天】かな。良い物を持っている。これは鎖を見せる必要がありそうだな」

 遠目にシオンが魔王の使用するスキルを考察する。

 闘極破天:攻撃ヒット数で攻撃力が上昇していく上位スキル。


 ライオスに効かないパンチを繰り返していたことからシオンがこのスキルと判断した。

 しかし、シオンは所々に違和感を感じている。魔王のあの闘い方は持っているスキルに慣れていない様子だ。けれど、戦士系のスキルの中でも上位の闘極破天を持っている。

 あの魔王はどこか歪な気配に思えてならない。


 勇者を撃退した魔王は振り戻り、ライオスをもう一度殴る。ガードは間に合ったものの最初の頃とはまったく違う拳の威力に吹っ飛ばされる。

 追い打ちにライオスを高速の一歩で接近する。


 だが、叶わなかった。

 魔王の腕を鎖が捕らえ、歩みを止めていた。

 その片腕を解こうとするもう片方も縛る。ちょうど磔にされたようになる。

 魔王は腕を内側に引っ張り、鎖を放つ張本人を引っ張ろうとするも鎖は動かない。

 鎖の先を見るが見当たらない。建物で死角になっているわけじゃない。何も無いところから鎖が伸びている。


「グルルラァァァァ!!」

 術者を発見できず鎖から脱却できないことにイライラを募らせていく魔王。

 動かせないと即決した魔王は破壊を試みる。片腕に魔力を集中させ、強引に魔力を暴走させて爆発させる。


 縛っていた聖鎖グレイプニルは破壊に失敗したが、腕に隙間を作って鎖から抜けることに成功した。

 見る見るうちに魔王の腕は驚異的な回復力で治り、もう片方の腕を手刀で切る。

 切れたところから鎖が緩んで外れ、落ちる腕を回収して自分の腕にくっ付ける。


「遅イ?」

 そう言う魔王の腕を繋がる回復力が低下していた。

 聖鎖ドローミの効果は成長の停滞・停止。その応用で治癒力を抑えて、聖鎖グレイプニルの効果である貪食で魔力を吸い取り、回復の魔術を使う余裕を無くすために必要な魔力を減らしていた。

 それでも魔王は気力で腕を繋げる。


 鎖から完全に放たれた魔王は咆哮を空に向かってあげる。

 魔王のみが持つ【固有スキル 魔王】によってこの場全ての生物が恐怖に苛まれる。

 魔王の眼がこちらに向いた。


「視ツケタ」

 その一言からシオンは身体の違和感を察知した。あの咆哮には感知の力も混じっていたのだろう。

 あー、これは不味い。大変に不味い。


「――――【強奪(ゴォ・ウ・ダァ・ツゥ)】!!」

 魔王の口がそう告げる。











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