十二話 創造神、学園に入る②
シオンが王都の家に転移で戻ると、メネアが門前で待ち構えていた。
「おかえりなさいませ」
メネアは空間の歪みを感知し、来たようだ。
「ああ、ただいまだ。よくわかったな」
「このくらいはメイドなら普通の嗜みです。それとレベル上げの件ですが、40名の内最低で30、最高で54まで上げました。死傷者は0名です。ただ35名のメイドは本日、レベルの上昇で酔い、使い物になりそう有りませんので休ませています。明日明後日には復活する予定でいます」
ウルは1から30まで上がったようだな。職業は暗殺者にしたらしい。
ここから暗殺型の勇者になるか、別のものになるのか、見ものだ。
「ひさびさにやりあってみるか?」
シオンはメネアに提案する。
「よろしいので? 今は弱体化されていらっしゃいますよね?」
「これくらいのハンデがあればいい勝負にはなるだろう。今日はつまらない者ばかりだったからな」
「わかりました。場所は庭をお使いになりますか?」
ここの庭では俺らの戦いに耐えられないだろう。異界であれば周りにも気を使うこともない。
「いや、平野の異界でやる」
アリシアたちとの闘いで使った異界を選ぶ。
メネアが戦闘用の服に着替えるのを待ってから異界へ行く。
万が一の家の守りに、召喚した神獣フェンリルと神鳥ホルスの闇・神聖・火・水・雷・地・風・氷の各属性で計九体にやらせる。
・・・
「では、いきます」
弱体化しているとはいえ、シオンの技術は凄まじいものであるからメネアは先手を譲られている。
メネアは魔術を【スキル 無詠唱】を用いて発動させながらシオンに走り近づく。
【付与魔術 加速】【付与魔術 身体能力強化】【付与魔術 魔術付加・火】【スキル 分身】
さらには、メネアはシオンに【付与魔術 ウィークネス】で弱体化をさせる。
分身に紛れ、【スキル 隠形】で背後から暗殺術を用いた短剣で首を仕留めにいく。
それでもシオンはメネアたちの身体の動きから次の行動を予測し、すべてを避ける。
背後に回った本体の短剣に【空間魔術 空間連結】で空間に歪みを生じさせ、小窓のような物が生まれ、空間がそれぞれ繋がれてメネア自身たちの攻撃で分身たちを斬らせる。
「なっ――――?!」
メネアは思わず声を出てしまった。
通常、空間を繋げてもそれを自由に把握し、すべての攻撃に合わせることなどできないはずなのである。
シオン自体の弱体化に加え、魔術による弱体化、自身の強化をしても隠形を見破られ、シオンの一回の行動で全てを終わらせられたのだから。
この時点でシオンの技術の高さを思い知らされる。
「では、次はこちらから行くぞ」
即座にメネアはシオンから離れる。
次の瞬間にきたのは、【付与魔術 加速】を使ったシオンが目の前に現れた。
もちろんメネアは警戒していた。【スキル 索敵】で魔術でも体術でも対応はできるはずであった。
しかし、シオンは目の前に現れ、言う。
「あとで治療はしてやるからな」
そう言い、メネアの腹に拳打を二発、回し蹴りを一発、一瞬のうちに叩き込む。
かなりの距離飛ばされるメネアは受け身を取りながら態勢を整える。
が、着地地点にまたも突然現れたシオン。そしてメネアに打ち込まれる拳と蹴り。
離れたと思ったら、今度は避けて見せろと言わんばかりに【雷魔術 雷弾】を5発撃ち込む。
メネアは満身創痍になりながらも【スキル 隠形】【スキル 虚身】で回避していく。
なんとか4発は避けるが最後の一発はくらう。そして、メネアはその場で主の強さを再確認して笑顔で倒れる。
シオンは【神聖魔術 ハイヒール】でメネアを損傷のない状態に治癒する。
雷魔術で荒らした草原を【地魔術 地形操作】と【森魔術 植物操作】【森魔術 植物促進】の各上級魔術で元通りにする。
シオンはメネアを魔術で元に戻った大木の木陰で休ませる。
しばらくして倒れて気を失っていたメネアが目を覚ました。
「お、起きたか」
シオンは隣りで寝かせていたメネアの顔をのぞく。
「―――――!! すみませんでした。今起きます」
「いい、もう少し休んでおけ」
顔を赤くするメネアにシオンは微笑みながらこたえる。
「――はい」
小さな声で顔を隠し返事をする。
・・・
異界から家の庭へ戻ると、イスタールの使いの者が玄関前に来ていた。
フェンリルたちにはシオンが説明していたので通したようだ。
使いの者が持ってきたのは、学園の合格通知だった。
ちょうど学園は入学式から数日しか経っていないようで明日から二日間は普通に休みらしいので「その間に移動の準備をしていけ」とのことであった。
さっそくメネアに王都の家を任せ、学園都市の寮への荷物移動をしようとする。
メネアはメイドを連れて行くように言うがシオンはそれを断った。
理由を聞けば、シオンは天界と冥界から一人ずつ来るという連絡を受けたことを説明する。
「あー、それは大変そうですね。あの方々は苛烈でありますから」
メネアは正直に納得しながら言う。
「そうなんだよね。はぁー、断ったら勝手に来そうだし」
これから疲れる予感をシオンは感じる。
「ああ、そうだ、家具は適当に買っといていいから。資金はこれを売って作ればいい」
シオンはメネアに要らない特質級の黒竜の爪でできた短剣を渡す。
メネアからしてもこの短剣はとるに足らないものだと知っているのでこれが売れるか疑問であった。
しかし、この世界の者からすればその短剣は喉から手が出るほど手に入れたい代物である。
それを後々、シオンたちは知ることになる。
・・・
学園都市から帰る際に転移で出たのでそのまま学園都市内に入るわけにいかず、裏通りに転移する。
幸いにも、だれもいなかった。
シオンはイスタールから伝えられた通りの寮に向かう。
衛兵に合格証を見せ、学園に入り、寮を探す。
休みなので生徒は少く、だいたいの生徒は都市の店に行った模様である。
学園の先生と敷地内で会うと、自分より強い存在に遠くから睨むか都市のことを説明してくれる人とそれぞれがいた。
そうこうしていれば、寮を見つけ、自分の部屋に入る。
イスタールが用意したのは、広い一人部屋だった。だいたいの者が二人部屋で貴族でも一人部屋が珍しいのにだ。
シオンは問題児が勝手に来られる前に天界、冥界の順に転移で向かう。
ここは最上階層第七天アラボド。
守護する天使は最低で第四階位の主天使。ここに就けることを天使界隈では至上のことと敬っている。
その天界の門を守る主天使は疑問に思っていた。
『なぜここに第三位階の座天使の方々が待機しているのか』と。
すると、突然ヒューマン族が転移で現れたのだ。当然、天使たちは剣を向けるが、座天使の方は跪いていた。
「お待ちしておりました、創造神アイゼンファルド様。いえ、今はシオン様とお呼びすればいいでしょうか?」
「ああ、そっちで頼む」
門番の天使たちはわからなくなっていた。目の前の少年に座天使たちがひれ伏し、創造神と呼んだからである。
「では、こちらにどうぞ。第一位階熾天使の方々がシオン様の来訪をお待ちしています」
「ああ、ありがとう」
「もったいなきお言葉」
シオンは座天使の一人に案内され、熾天使たちの待つ部屋に入る。
「アシュさーん!」
俺が賢者だったころの名を出し、くっ付いてきたのは、当時智天使の一人で賢者の時の従者だったプラチナブロンドの髪を後ろで纏めた凛々しい天使――エインリオであった。
「エインリオ! 失礼でしょ、それに今はシオン様と呼ぶんだよ。シオン様、エインリオが失礼しました。覚えてらっしゃるかわかりませんが、サリエルです」
「覚えているぞ、絡み酒のサリエルだな」
「違います! 希望のサリエルです」
俺がそう答えるとサリエルは忘れるように頬を膨らませて言う。
「お久しぶりです。天界の統率者をしております、知識のラファエルです」
髪の毛綺麗、胸も大きい、落ち着いた物腰、柔らかい笑顔と言葉。
天使族というより、女神っぽいな。
「創造神様にそう言ってもらえるとは、ありがたく思います」
個性を否定するつもりは無いが、うちの神々もこんな風に落ち着きを持って、神様らしくしてもらいたいものだ。
「前に会ってからしばらくするな。偶に来ても仕事でいなかったりするからなぁ。他の美徳の者は仕事か?」
「はい、それで今回の要件はエインリオですか?」
「ああ、勝手に来られる前に来ようとな」
「確かにそうですね。あの子なら勝手に行っちゃいそうですし」
「やったー! またアシュ―――シオンさんと一緒だー! いいでしょーサリエル」
「うるさいっ! そのニヤケ顔を向けるな」
サリエルもシオンについていきたかったようだ。
「下界ではあんまり暴れるなよ」
「はーい」
「じゃあ、次は冥界に行くとするか」
「うん、私も行くよ」
そうしてシオンとエインリオは冥界へと向かった。