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百十二話 勇者と模倣

 上級魔族がアリアのいる倉庫に来る。アリアは力尽きてシオンが助け舟を出す。メイドにスミス、イニシア、アリアの救護を頼んで王の側近たちのところまで誘導。


「敵性は二つです」

「ご学友はお二人が気絶状態、一人は立ち向かっている様子です。どうぞ」

「我々一時引きます。御存分に」

「了解した。俺の突入次第お前たちに信号を出す。その後に合流。アリアたちの保護を頼む」

「「「承知」」」


 スミスの突入から臨戦態勢で監視を行っていたメイドから単身で行く許可をもらってシオンはメイドを下がらせる。

 ここは彼女たちの監視の管轄だったのだ。一応許可はもらったので好きにさせてもらう。


「よーいしょっ!」

 メイドたちが居た場所は倉庫を上から覗ける位置にある建物だ。下に降りるのは面倒なので、跳躍して上から落ちて倉庫に入る。

 もちろん、天井はぶち抜いてショートカットさせてもらった。同じくその天井にシオンとは別の大穴が開いていた。


「現れたのデスネ」

「来たノネ。でも、こっちが先なのヨネ」

 さっきの大穴は上級魔族が降って入ってきたのが原因か。

 中の状況はあまり詳しいことを聞かなかったが、面白いことにはなっているようだ。


 アリアが勇者になっている。上級魔族を前にしては成り立ての勇者では敵わないだろう。

 誰がしたんだろうな? アリアをさらに注視してステータスを覗く。

 タナトスに認められたか。

 ステータスの加護の欄に【魔の神 タナトス】の名前があった。

 勇者化など全くとして予想もしていなかった変化だ。

 これを笑わずにいられるか。

 高揚せずにはいられない。 

 シオンは口に手を置いて笑いを抑えようとするが、どうしても漏れる。


 勇者になるには二つの方法がある。

 一つは最近頻発している異世界人の召喚。称号にたまに勇者と付け加えられることが多い。


 もう一つは自然発生。

 魔王に恐怖したヒューマンのしたことは勇者探し。しかし、探すにも自然発生の勇者では十年で見付け出せたならかなりの強運だ。さらに、魔王の数に対してあまりに生産が追い付かない。条件を満たせる者がそもそも滅多にいないのだ。


 そこで目を付けたのが異世界からの召喚。

 異なる世界からヒューマン種を呼び出して勇者の称号を強制的に付ける。これは人為的なためか自然発生よりも勇者の質が劣る。勇者となる者の性質も問題だ。殺人鬼など呼び出したくもないだろう。できるだけ召喚主に従順なら良好。


 魔王を一人にする案もあったのだが、やはり世界丸ごとを魔王が単独で恐怖を与えるのは不可能ということから却下された。


 勇者とは何か。

 自然発生する条件は、比類なく深い自己犠牲の精神と英雄への圧倒的な素質。ただ聞いただけなら、生産が追い付かないなんてことがあるのか、と思いたくなる。単に難しいのだ。


 英雄への素質ならまだ何とかなる。いつかは出てくる存在だ。

 しかし、それ以上に厄介なのが、自己犠牲の精神。人種は生まれながらに自己保存の欲求を持っている。自己犠牲のそれも類を見ないほどのものなど稀有な存在に等しい。そんな勇敢なる者らしからぬシステムで選ばれている。


 しかし、最近では召喚された異物の勇者が多いようだ。よって平等を期して召喚に伴って魔王側も強化したのだ。勇者が何人もいるように魔王も複数いる。

 それでもアリアが勇者となったのは、中々現れない自然勇者になれる存在が出来たからだ。


 メイドが見ていた情報を聞いた限りでは、スミスは正確には自己犠牲のつもりではない。自らで行っていることだが、姉を救って脱出することなら無可能ではないと考えていた。なので、自己犠牲とは違う。勝算のある戦いは犠牲とは言えない。


 だが、やはりそういう家系か。アリア・ミルダ。ミルダ家。ミルダ、これは摩耶の世界ともこの世界とも違う世界の言葉では【光】を現す言葉。

 ミルダ家初代当主は勇者ではないが、それに近いような存在だった。そして、現当主アレス・ミルダ。彼はギルドマスター。この家系は上に上がっていくような運命なのだろうか。ということは、アリアの弟であるスミスもまた将来的に何かあるかもしれんな。


 と、考え込んでいる場合ではなかったな。上級魔族二体はアリアに荷が重すぎる。

 颯爽登場してきた俺に注意はしているようだが、先に勇者を潰すように回っている。

 後のことを考えると勇者が成長しきる前に消しておきたいのはわかる。勇者には魔族特攻が備わっているからだ。それに加えて自然回復能力まで尋常じゃない。

 厄介この上ない。


 ちなみに、人造勇者はこれの劣化バージョン。

 自然回復でも追い付かない速さでボコれば、簡単に殺せる。学園都市で邪魔勇者にやったような感じだ。


 シオンは瓦礫の中から手ごろな石を掴み、足を上げてフォームを取る。

 隻眼の魔族の目に目がけて投げる。

 見事に眼球の側に当たる。それを連続で行う。

 最初こそ無視をして勇者を倒そうとしていたが、チビチビと鬱陶しい攻撃を繰り返すシオンにイラつき始める。

 投げつけられた方向を睨みつける。


 しかし、シオンの姿はない。

 今度は後ろから石が飛んでくる。腕をただ振り払うだけで防げる。威力もない。何の付与効果もない。

 だから、余計に苛立ちが募る。こんな防御さえ要らないものに無駄にガードさせられる攻撃。

 腹立たしい。

 先ほど降ってきたヒューマンは魔王様の召喚を邪魔しようとしていた奴だ。


 最初に姿を見て以来、石をぶつけているのは奴で間違いないのに姿が見れてない。

「ちまちまとうざいデスネ」

「わかったのヨネ」

 盗作の隻眼が咆哮を放つ。


 盗作というのは奴の称号にあるものだ。そう名乗っているのか名の欄にも盗作の隻眼とある。

 シオンは陰で咆哮を抵抗することに成功できたのだが、盗作の隻眼のステータスに【スキル 咆哮】やそれに似た効果を持つスキルが見当たらない。ただすぐに咆哮を使えた理由が視えた。


 盗作の隻眼のステータス欄には、【特殊スキル 完全模倣】とそれを強化している【称号 模倣犯】があった。

 上級魔族ともなれば、かなりの年数を生きてきている。一体どれだけのスキルを模倣してきたのだろうか。

 さてと、こいつらをどうするか。


 今更かもしれないが、魔族と人族の領土を賭けた生存競争に割って入るつもりはない。

 それこそがこの世界の在り方なのだから介入する必要がない。だが、生存を争うわけでもなく人族が絶滅するのは違う。ただ蹂躙されるだけではつまら――成長にはならない。最後には限りなく薄い希望に縋るか諦める。


 けれど、俺も全面的に協力するということじゃない。それもまた成長に繋がらない。やることは、ただ魔王側と人族側の大きな開きを狭めるだけ。

 人の手でも魔王を討てる範囲にまで俺が引き延ばすのだ。

 ならば、ここで上級魔族を二体とも倒すのはあまり良くない。


 シオンの取った行動は、「【水魔術 烟霞】」

 雨の水がシオンの魔符と魔術で水煙を作っていく。

 巨大な二体の上級魔族の自分たちさえも包み込んでしまう程の霧。腕を振り回し、風を起こして晴れさせようにも一向に霧は晴れず、雨の効果で余計に霧が濃くなる。


 シオンは剣を三本創り出し、地面に刺す。

「【固有スキル 形態変化:刃身】」

 三本の剣がシオンに変身する。

 これはシオンの身体が剣になったり作ったりできることから、逆もあるのではという帰結に至った。

 身体からの剣。なら、剣からの身体。


 事前に試してみたところできてしまった。熟練度が上がり、スキルレベルが上がったことも関係しているのだろう。魔符や魔術の分身などより便利だ。ただの分身ではシオンのステータスを完全に反映できない。分身なのだから本体の劣化は許容しているのだが、それよりも重要なのは強度。脆いのだ。


 二人の自分には上級魔族の相手を任せ、もう一人にはここに置いて勇者の確保とイニシアたちの避難をメイドに命じさせる役目を言い渡した。その後は、各戦場に偵察を命じる。

 本体の俺は魔王を見に行く。今頃は儀式も完成している頃合いだろうからな。


 しかし、さすがにシオンの分身と言えども上級魔族を抑える力は持っていない。あまり干渉もよろしくない。そこで、剣分身には誘導と孤立をさせるように命じた。


「「【空間魔術 転移】」」

 二人のシオンが霧に紛れ、上級魔族の足に触る。

 霧の中にあった上級魔族の巨大な黒い影は消えた。









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