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百五話 決着と波乱

 観客の喧騒が止み、星が墜ちたことによって生み出された轟音の残響だけが木霊する。

 シオンとアウロラが戦っていた結界内に試合場は既になく、地上からは巨大な氷星の上層部のみが顔を出している。

 結界外に影響はないようだが、上空にも、氷星の周囲にも二人の姿は見当たらない。


「確か身代わり人形って一度のみの効力ですよね」

 メネアがそう呟くと周りが青い顔になっていく。まさか国王が見守る試合でSランクを両方失う可能性があるとは。この試合に越後屋が仕入れて提供しているためにメネアら開発部は一部を解体して原理を掴んでいる。


 よくは見えなかったが、シオンが最後の最後にアウロラの心臓を一刺し。その後、巨大な氷が降るも斬ったシオン。追い討ちの氷塊がズドン。

 現にアウロラの身代わり人形は傷ついていた。あれがシオンに与えられた攻撃のものだろう。


「救助! あの二人を救助するのよ! 早く!」

 アウロラの仲間であるオリビアの叫びに人々は意識を取り戻す。


 王都でも名高い冒険者や武人が結界内へと駆け寄るが、氷の巨星の前にどうして良いものか思い悩んでしまう。アウロラの上級【氷魔術 氷絶彗星】により生成された氷の隕石。そのあまりの規模の大きさに面食らっていたのだ。


「で、でけぇ……」

「これ、どうやって破壊すればいいんだ? ハンマーで砕くか?」

「下手に触れるな! 触った傍から逆に傷を負うぞ!」

 試しに砕かれた試合場の石で触れてみたら、石に氷が纏わりついて凍る。

 他でも壊してやると息巻いて来た若い冒険者が武器を手に精一杯の一撃を加えた。ところが、ひびが入るどころか武器が氷に触れた瞬間冷気が武器を伝って、彼の腕を白く覆った。その様子を見て慌てて仲間が引きはがす。


「治癒の魔術が使える奴はいないか!!」

「火魔術で溶かすんだ! 誰か、魔術師を―――」

「これ、溶けるのか?」

「それ以前にこんな魔術見たことねぇ。これじゃぁ、あの二人はもう……」

 皆が狼狽する中で、氷塊に近づく者がいた。


 氷の目の前まで来てメネアが一礼する。

「どうでしたか、随分と楽しそうでしたが?」


「嬢ちゃん。シオンは――」

 状況を信じられないメネアが錯乱していると冒険者は口を噤んだ。


「ああ、割と楽しかったぞ」

 シオンの声が聞こえる。その声は明らかに氷の方から。

 氷に亀裂が入っていく。

 完全に氷が砕けて周囲に飛び散っていく。かなりの大きさなものも混じって危ない。


「今日は良き日だ」

 姿を見せるシオンと、その脇に抱えられたアウロラ。会場が喜びの歓声で包まれた。

 シオンの手には刀身の欠けた刀が一振り。

 あれで二つ目も斬ったということなのだろう。

 シオンとアウロラの安全が見られ、観客たちも安堵する。


 が、異変はどんな時でも起こる。

 歓喜の声をあげていた会場が殺気立つ。

「うぉぉぉ!! 殺せぇぇ!!」

 観客たちが狂ったような叫び声をあげる。

 最初は狂った客がどちらかの完全な勝敗を決めさせようとしていたのかと思われた。しかし、その歓声は広がり、全体の観客が叫び声をあげる。


 見に来ていた王族はすでに避難していた。入れ違いに神官たちが会場入り。神聖魔術を唱える。

 王族が魔眼と勘違いしていた疑似魔眼の看破能力で対抗策を考えたのだろう。


 神聖魔術でも瘴気は消せる。ただし完全とは言えない。瘴気の対処法は人の精神を乱している術者を倒す。もしくは、術者以上に精神を安定化させる魔術か魔道具を使うことだ。


 もちろんうちの者はこの中でも平気な様子。冒険者も幾人かは正気を保っているが、下位の冒険者はダメだった。

 どうやらここにはそんなことができる術者はいないらしい。教えたところで無意味か。

 この感じは前にもあった。骸骨竜の時の瘴気。

 今回は骸骨竜のものとは違うようだが。

 ここだけじゃない。街中に瘴気が感じられる。


 まずここを抑えるとしよう。

 この瘴気の原因。マップ探査では観客たちが瘴気に毒されて敵性反応が非常に多くなって見分けられない。

 しかし、瘴気の流れからそれを実行している術者を逆探知できる。

 会場に五名ほどの闇属性を使っている魔術師。この規模の観客を全員見ていると潜入されても難しいか。


『メネア』

 伝達の魔術でメネアと情報の交換をする。


『こちらで一人目の術者を捕縛いたしました』


『よろしい。摩耶たちは?』


『彼女たちはこういった感知は出来ないので暴動を起こしている民衆を抑えさせています』


『外にも瘴気の流れがある。俺はそちらに向かう。メネアはここを任せる。終わり次第、越後屋をまとめろ』


『了解いたしました。ご武運を』

 シオンはこの瘴気の集まるところへ見物しに行く。

 編まれた事件はゲリラのように前触れなく訪れる。



 ・・・



「始まったか」

 王都にある少し高い一軒家から王都全体を見つめる男がつぶやいた。

 細工は流々。

 予め用意した魔物に手を焼き、注意はそちらに向いている。


「これより我らの王が復活成される」


「その先、我らの神の降臨は近い」


「新たな時代の幕開けだ」


 そう言い残して男は一軒家に作られた地下に潜る。


 さぁ、王都の民よ。上手く踊るがいい。

 我らの真なる王の顕現はすぐそこまで来ている。


「我らに楽園を与えたまえ」

 人は世界はどうしてこうも醜いのだろうか。いつの日か世界を救わねば、と考えるようになった。


「信仰も何もない愚者どもが」

 暗い階段を下り、儀式の間へ歩く。

 瘴気を辿ってここまできたシオンも大量の魔力を消費して【スキル 隠密】と【スキル 偽装】を併用してバレずに忍び込む。


「瘴気も次第に集まってきています。同志たちよ、そろそろ儀式の間へ行きましょう! あと少しです」

 幹部が教徒たちを連れて邪神の石像をすり抜けて奥の儀式の間に移動する。

 この石像も瘴気吸収に一役買っている。奥の儀式の間は広大な近く空洞となっている。


「それでは、これより我らの王の復活の儀式魔術を行う。瘴魔結晶を中央に」

 幹部の言葉に従って部下が中央の儀式魔術の方陣へ。その周りには贄が用意されている。もちろんヒューマン。どこからか攫ってきたのかヨボヨボの爺さんや俺よりも小さい子供。色々だ。


「我らここに魔を導く王、世界の安寧を嫌う者を。多くの魂を捧げ、偉大なる王の再臨を願う」


「「「我らが王の再臨を!!」」」

 幹部の叫びにその部下たちが続く。

 街に漂う瘴気がこの地下空洞に集まり、贄を黒い泥に変えていく。その泥は重力に反して上に形を作り出す。


「我らの王のご帰還だ!!」

 歓声を上げて喜ぶ教徒たち。

 泥が卵の様に人の身長を優に超える巨大な三つの繭を作り、黒の殻が割れていく。その一つに小さな穴ができる。そこからこちらを覗いてくる眼には信奉者たちに恐怖を感じさせられる。しかし、それと同時に歓喜を思わせる。


 やらんとしていることが魔王の召喚だとわかって観察していたシオンはその場を去り、メネアから知ったアリアの誘拐の解決に動く。

 ここにあの勇者がいたなら何故と聞いて俺に苛立っていただろう。シオンとしては面白そうやせっかく一生懸命に儀式をしているのに邪魔してやるのは勿体ない、などと考えた末の行動なのだが。

 ただすんなりと事を済まされてもなんとなく腹立たしかったりつまらないのでちょっとした妨害を仕込む。


 今ここで強力な個体が三体増えるのは、ヒューマン側に堪える。加えて、ヒュドラも召喚済み。どう考えても王国側が負ける。最悪滅ぶ。

 だが、ここまでこの人たちは頑張って周到に準備したのだ。過剰戦力だからと言って魔王召喚まで止める気にはならない。

 魔王の繭とは別の二つの上級魔族の繭。その片方を送還する。


「儀式をジャマするとは無粋な輩デスネ」


「然り、下等なヒューマン族らしいヨネ」

 先に上級魔族が繭から飛び出す。二体とも水牛のような角をして、2対の翼を持ち、隻眼だ。レベルは329。区別の仕方は目の傷が右にあるか左にあるかだ。

 送還の陣が完成する前に逃げられ、術が中断されてしまった。


「まったく我らの王の再誕の儀を邪魔するとは度し難いバカデスネ」


「その通りヨネ。我らの王の前には、ひれ伏すのが賢い行いヨネ」


 こちらの隠れている場所も感づかれたか。

 では、退散しよう。

 シオンの姿が霧のように搔き消える。

 消えたシオンのいた場所に魔族の爪が通過する。

 シオンは建物の外へ無事脱出できたが、地下の大空洞から地上の建物が魔族の手で貫かれて建物が吹っ飛ぶ。手を始めに魔族は地面を割り、出口を広げて地上に飛び出る。










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