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百話 創造神、Sランクの方の式典もあるのよ

 今度はSランクの方の式典。

 つまり、あの矢鱈滅多煩わしい貴族の社交界の翌日。


「オリガ。式典というからにはドレスコードがあるのではないのか?」


「いえいえ。確かに式典ですけど、冒険者の、ですよ。気品なんて求めちゃいけませんよ」

 そうかもしれないが、何か釈然としない。あまりにはっきり言っているからか。


 普段の黒の和服を着たシオンが王都のギルド受付のオリガと話す。

 ここにオリガが居る理由は俺が滅多にギルドに来ることがなく、王都で担当したことがあるのがオリガのみだったから。

 そして、今日も見栄えだのなんだのでメネアたちもいる。


「ごめんね、マヤちゃん。マルスさん(王都ギルドマスター)が貴族も来るからって。昇格式だけだから」

 Sランクの昇格式はギルド側の仕事だが、国の指導で行われている。

 ギルドは基本中立を保っている。


 しかし、世知辛いことに本当の中立だけではこの世の中やっていけない。なので、せめて少しばかり国とギルドでお互いに干渉し合うことでギルドは守られている。互いの干渉はほんの少し。国の願いに応えることはあるかもしれないが、全てではない。

 個人情報なんかも一切厳禁となっている。国から見たメリットは冒険者の退治する魔物。ギルドが遠回りに国防を担い、金を落とす。


「仕方ないかぁ」

 摩耶のコミュニケーション力は底が知れないな。


 そして、やってきた昇格式開会直前。来賓席には各国の代表や有名冒険者が、その外周を覆うように設けられた見物席には一般の人々が押し寄せ、会場は人で埋め尽くされていた。

「午後に行われる模擬試合では、氷結の魔女殿が相手を務めるそうですぞ」

「おや、氷結の方ですか? 私は剣聖の試合を楽しみにしております」


 来賓席では早くも模擬試合がちらほらと話題になっている。その多くは貴族たちによるものだ。ある者はあわよくばスカウトしようと、またある者は新たな脅威と成り得るか調査の為に。思惑は千差万別であるが、その根本にあるのはS級冒険者の力によるもの。この式典はそれだけの価値があるのだ。


「皆様、静粛にお願いします」

 会場に響くは王とギルドマスターのマルスの声であった。雑多な音はピタリと止まり、人々の注目は壇上に上がるマルスに向けられる。


「大変お待たせ致しました。これより昇格式を開会します。この度、栄えあるS級へと昇格しますのは、冒険者シオンと冒険者ライオス・アルトであります」

 各所で僅かな囁き声が起こる。

 その後、シオンとライオスの戦果をマルスが述べる。


「それでは本日の主役に登場して頂きましょう。シオン、ライオスは壇上へ」

 騎士服を着こむライオスを先頭にパーティーメンバーも一緒に歩き出す。

 うちは黒い礼服を着飾る俺に、それを囲うようにして隣りに白のドレスに身を包ませたメネアが、紅きドレスのゼノビア、黒のドレスのウル、それから摩耶も寄添うように共に歩む。


「何と美しい……」


「あ、あの者たちがあの先頭の小僧の仲間なのか!?」


「いやいや、演出上の雇われ者であろう? ――何、違うのか!?」

 叙勲式でもメネアたちは姿を現しているが、シオンの目立ちと前列の貴族の壁でほとんどが見えていなかった貴族がシオン一行に目を奪われる。


 何よりも注目を浴びたのはドレスアップした3名だろう。メネアたちは普段化粧を全くしないのだが、本日は軽めの化粧が施されている。エルフは昔から見目麗しいとされていた。

 摩耶もギルドではその二人に負けず劣らず注目を集めていた。

 ギルドの中にはロリコンだっている。ウルにも一定数のファンがついている。


 その元々凄まじく器量の良い彼女たちがさらに一歩大人びた雰囲気を漂わせていた。それにドレスで着飾っているのだ。社交場で鍛えられた貴族の目であろうと、目を離さずにはいられなかった。無意識に感嘆の息を漏らしてしまう。


 ただその渦中に居ながら自分は無関係と思っているシオンにも視線が多く向けられている。女性の綺麗さから男性からの視線は妬ましさから来る敵対心や値踏みだが、女性からの目線はシオンに集まっていた。その逆もまた然り。


「彼が歴代最速のシオン殿か。おい、彼の姿を脳裏に焼き付けておけ。彼とはコネクションを持ちたい」


「まだ若いな。見た目は綺麗な少年に見えるが、あれで剣が振れるのか?」


「あら、私は好きでしてよ。優美な佇まいではないですか」

 背中に視線を感じ取り、シオンは心の中で溜息を吐く。

 それでも顔は絶えずにこやかにして見る者の印象が悪くなることはなさそうだ。その頭の中がようやくかもしれない強者との試合に臨むことで一杯だとは誰も思わないだろう。

 ライオスと並び立ち、客席に振り返る。

 これで新たなS級冒険者として認められた。



 ・・・



 昇格式が終わり、一度解散して試合開始時間直前となった今は、どこを見ても人、人―― 席は満員、その間の通路を売り子が歩き回り、会場は熱気に包まれていた。


『お前らー!!この日を待ち望んだかー!この瞬間を待ったかー!?』

 アナウンスの声が闘技場のあらゆるところに設置されたスピーカーから響き渡る。

 同時に大勢の人々から大賑わいを見せる一般席。一般の席より豪華な高級席、貴族席からは拍手が聞こえる程度だ。


 遂に始まった昇格式後のSランク同士の対決。

 この対決の前からすでに予選が始まっており、何の予選かというとSランクに挑戦する機会が与えられるための予選。優勝者にはSランク四人の内から一人を選んで挑戦する権利を得る。一日目は本戦を決める予選から始まってから計五日間で優勝者を決める。


 今回の予選に出場する選手は合計で600名。

 その中からでも優勝者になる一人は非常に名誉あることで、昔の大会で優勝した者はその後に貴族に抜擢された事も実際にある。

 予選は適当に一グループ約五十名がバトルロイヤル式に戦い、その中から生き残った二名の本戦出場者を決める。

 一試合の五十名はランダムに配れた番号に従い。それまでは他の試合を見学するのも良し、番号を呼ばれるまで控室で待機しているのも良し。

 予選は全て大会初日で全て終わらせ、何事も問題が無ければ本戦は二日目から始まる。


 まぁ、そんなことより結果はウルが優勝した。

 予選には越後屋から他にテスタロッサが出場していた。


「なんだ、ゼノビアたちは参加しなかったのか?」

 シオンに名指しされて肩をびくつかせるゼノビアら。


「その、ですね」


「なんだ?」


「ウルとはちょっと闘いにくいと申しますか」

 いつもの強気発言がなく、手遊びしながらもじもじと答える。


「差が開き過ぎたのか?」


「はい」


「まだ子供だ。成長はこれからだろう。長い目で見てやってくれ」


「あれでまだ成長するんですの!?」

 何かがおかしい。


「確認だ。ゼノビアとウルではどちらが強い?」


「ウルですわ」

 即答。ていうか、そっちだったの。


「私はもうウルとは勘弁ですわね」

 視てみた結果、レベルはまだゼノビアの方が上だ。それでも嫌がられるウルとはいったい?


「名のある強豪を打ち倒し、勝ち登ってきたのは、Aランク冒険者のウルだぁぁ!!」

 ウルの紹介が始まる。ここまで頑張ったのだなぁ。


「途中、仲間であるテスタロッサ選手との試合もあったが、それでも両者突き進んだ! そして、仲間の屍を乗り越えて勝ちをもぎ取った彼女が挑むSランクとは誰なのか!!」

 観客席では今名の挙がったテスタが「無念」と気を落としていた。彼女は優勝したら剣聖に挑むつもりだったのだ。


「主」

 ウルが俺を呼び出す。それでわかるのか? そこはしっかり名を呼ばなければならないのではないか?


「では、登場してもらいましょう。本日Sランク冒険者となった新星シオン・ノヴァウラヌス卿だ!!」

 もう貴族の呼び方に切り替わったのね。新星だって。俺の家名の由来もそんな感じ。


「あの者、先ほど居なかったか?」


「ええ、いましたな。ギルド長の計らいでパーティメンバーもあの場に呼んだようです」


「では、勝利をあの小僧に譲るということか。このような大舞台でそんなことを仕出かすつもりとは」


「わかっております。この試合後には八百長と」


「ああ、それであの小僧の名も少しは落ちることとなるだろう」

 俺と向かい合う、全身黒づくめの忍び装束に身を包むメイドのウル。


「この開けた舞台では、ウルのような暗殺者にはきついんじゃないか?」


「平気」

 愚問だったな。俺としたことが。ウルは忍者衣装で予選を勝ち上がってきたのだから。


「緊張はしていないようだな」


「うい」

 それは緊張をしていないということでいいのか?


「俺を殺すつもりで来い」


「最初から」

 俺とウルの闘いがこれより始まる。

 格上を唸らせたお前の闘い楽しみにしているぞ。










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