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九十六話 創造神、騙される

 中々の速さだ。よく見たら騎士の中には【剛毅】のアークの訓練に参加していた顔がある。

 まるで監視されていたかのような速度だ。

 四方から剣を突きつけられ、笑みを浮かべたまま両手を上げる。


 解体ナイフが給仕の子から騎士の一人に恐る恐る渡される。

 いや、危険物じゃないよ。ただのナイフだから。あ、刃物とか厳禁だった?


 出席者たちの視線が集まっている。

 駆けつけてきた騎士の中でも、一際立派な鎧をつけた大柄の男が俺に向かって叫んだ。部隊長とかかな。


「貴様ッ…………何を考えている!? この御方を誰と心得るか!」


「?」

 ……誰? 給仕の子じゃないの?


 未だ剣に囲まれていながら笑顔を保つ俺の前で、男は声高々に言った。お、出るか水戸黄門?

「この御方等は現国王陛下の御子息と御息女、ルーファス・フォン・シルファシオン王女殿下、アリス・フォン・シルファシオン王女殿下。その両名なるぞ!」

 ルーファス? 顔が違うぞ? 影武者にしたってこれは騙されないだろう。


 騎士たちに守られている二人の子供が懐から懐中時計を取り出してペンダントを押すと姿が変わる。懐中時計が変装の魔道具として働いていた。


 はいはーい。知っていますよ。知っていますとも。

 俺が二代目にあげた物なんだもの。

 あの頃はこの世界にも強者は大勢いたからそれさえも騙しおおせるようにかなり強力なものにした。

 だから、なんの注意もしていない俺は気づくことができなかった。


「このような刃物を、殿下に直接手渡そうなどと……如何にゲストと言えど、限度があるぞ!」


「慌てなくても大丈夫だ。大したものじゃない、危険でもない」

 使い手によっては危険になるかもしれないが、ルーファスなら別に構わないだろう。


「いい。この人は大丈夫だから」

 意外にも第一声はアリスだった。


「し、しかし」


「妹の言う通りだ。私たちを害する目的があったのならすでに私たちはいない。如何にお前たちに守られていようとな」


「私たちはそこまで落ちぶれているとは思えませんが」


「そうなのかもしれないが、常に上を行き、可能にするのがこの人だ」

 しっかり騎士たちを説得する中、アリスはいつの間にか俺の腰に抱き着き、説得しているルーファスは剣を撫でまわしている。説得は無いが落ち着いている。


 まぁ、説得も終わってルーファスから変装をしている理由を聞いた。

 王族が執事やメイドに扮するのは、二代目国王が幼いからの伝統であると言う。

 二代目にそれをやらせた初代国王は次代の国王であう二代目に近づく者の資質を試す一環として、二代目に使用人に変装させてその列に紛れさせた。


 現国王メビウス・フォン・シルファシオンの時は神の一族が即座にその正体を見破り、子供である王子に対しても礼を尽くし、イスタールはその様子に深い感銘を受けたと言われている。


 これも裏はある。

 二代目は真面目で一生懸命な子だった。次代の王に俺が決定したことで緊張からかあまり笑わなくなった。だから、当時の俺がいつも勉強ばかりの二代目に息抜きとしてある遊びを提案した。

 その遊びが今も伝統として残ってしまっていた。


 後悔はしていない。二代目はそれから笑うようになった。

 と、そんなどうでもいい昔の思い出より列に並ばねば。


 そういえば、ルーファスは最初に会った時より印象が違うな。もっとはっちゃけた性格なのかと。聞いてみるか。

「え、そりゃ、近くにこんな色々と騒がしい人がいれば大人しくもなりますよ」

 はっはっは、誰だろ。オーランドかな? その視線は俺と話しているからだよな。さっさと退散しよう。


「ところで、摩耶たちは?」


「摩耶たちはある目的のために別行動だそうです」


「ほぉ。王城に乗り込む下準備か?」

 シオンが仕事(諜報)に熱心なものと過度な期待の予想は大きく外れることとなる。


「そのようなものです」

 摩耶たちは全ての料理とお酒を制覇をしに行き、食べているところを貴族やその子供たちに捕まり、ヘルプをメネアとシオンに求めている最中だった。

 舞踏会は社交の場。見知った相手同士で親交を深め、知らない相手同士が互いに知遇を知るための機会の場。

 そのため、決まったパートナーのいない者は招待された者の中から探さねばならない。男性であっても女性であっても一番に目をつけるところは変わらない。

 美人さんに殺到する。


「シオン・ノヴァウラヌス男爵にございます。叙勲式におかれましては大変お世話になりました。あの場で私の身の潔白が証明されねばどうなっていたか」


「礼は良い。我はあの場を正したのみ。王とは公平な者のことだからな」


「然様ですか。本日は及ばずながら私と越後屋から献上したき品がありますのでお持ちいたしました」

 どうだ、この礼節っぷりは。越後屋だからって賄賂なんかじゃないよ。この王に通用するとも思えないし。


 シオンは先ほどのことがあって人の眼に触れぬよう【空間魔術 格納庫】に仕舞った布に包まれた剣を取り出す。


「これは特別に作りました魔剣でして、持ち主に速度上昇・能力開放などの強化を付与するばかりか風魔術と火魔術を使用可能としたものとなっています」


「何っ!! ……いえっ、失礼しました」

 国王の側に立っている騎士が剣の能力について聞き耳をたてて効果に声が漏れ出る。


「ふむぅ。先王は剣好きなのだが、私にはその辺りの才が無くてな。いまいち掴めない。これを使った場合に予想されることはなんだ?」

 うっわ。難しい質問来た。大規模に言わないと喜ばれないやつだ。


「うーん。例えば、そこの騎士の方なのですが」


「は、はい!」

 こちらに興味津々か。返事が早かったぞ。


「彼の戦力が三~五倍くらいですかね。才能さえあれば、十倍も」


「ふむぅ」


「あとは、指揮系統の騎士なら騎士団自体の能力が五倍。それ以外にも使いっていただければお分かりになると思います」

 国王に抜刀を許された騎士が剣を手に取り、魔力を込める。

 魔力を通すと魔剣から薄い光の刃が覆い、その上かから炎が吹き上がった。


「剣から炎が!!」

 王の座る席で起きた誰からもよく見える炎で悲鳴が起こる。


「良い。大丈夫だ。これは我が許可したものだ」

 駆けつけて剣を抜く騎士を制止する。


「なんという魔力伝導率の高さだ」

 この状況でも騎士は持っている魔剣に見とれて浸っている。


「ん? これは魔刃か!?」


「ほぉ、お主は魔刃が使えるのか。それは誉れじゃの」

 魔刃は達人の証とされている。それを出せた騎士に国王が褒める。


「はぁ、ありがとうございます。しかし、私は魔刃を使えた試しがないのです」


「この剣がそうさせるのです。この魔剣は魔力の伝導率が良く、魔刃を出しやすくするために作られたものなのです」


「なんと! これはすごい」

 これを使ってもらって魔刃のスキル化を目指してもらいたい。


「それをなんと今回は五十本程つけさせていただきます」

 最終的にはセールスっぽくなった気がする。


「これを五十か!? 迷宮からでも年に数本しか出回らんと言うのにそれだけの魔剣をどこから……」

 顎に手を当て、考え込む国王。


「越後屋からはこれを」


「これは薬か?」


「中身はそれぞれ滋養強壮と精力増強・育毛剤・疲労回復薬・解毒薬・体力回復薬など多数をそれなりの数用意させていただきました」


「こんなにか!? 噂には聞いておるぞ。越後屋の品はどこの店でも売り切れらしいな。我も買えていなかった一人なのだ」

 すごい喜んでる。メネアのいう順番は間違っていないのか? 最初に何故その二つを並べた?


「それとこれは王妃様に。先日買われていったものと届けさせてもらいました」


「あら、助かるわ」

 王妃まで良い笑顔。よっぽどうれしいのだな。摩耶に感謝か。くっ……。


 渡すものも渡して横にずれる。次も待っている人はいる。この後はきついか。

 ここでようやくメネアが摩耶たちのヘルプに向かい、俺は盾を失った。さっきからチラッチラッ見てくる。


「お初にお目にかかります、越後屋の若様」

 一番最初に話しかけてきたのは、商人。


 それに対する周りの反応がこちら。

「ふん。新参の小僧にまで挨拶とは、アスト商会は見境がないな」

 これが俺に纏わる話題の大部分。俺とその商会のことが気に食わないようだ。

 越後屋は売れているから妬みで。アスト商会とやらは商人としてのやり方に忌避感があるご様子。


「私は今回叙勲されましたシオン・ノヴァウラヌス男爵と申します」


「我らアスト商会は帝国からも珍しい物を取り揃えてありますので是非とも一度足をお運びください。それとこちらは私からのものにございます」

 手渡されたのは、ワイン。嫌味を言われながらも商人の顔はにこやかだ。


「ささっ、一杯どうぞ」

 給仕係に頼んで空のグラスが俺に渡る。


「今はいいです」


「そんなこと仰らず」


「俺、まだ飲めないんで」

 年齢が、ちょっとね。


「これを機会にということで」

 俺もそんなに法律に詳しいわけではないが、これはわかるぞ。


「あ、おい、勝手に注ぐなって」


「し、失礼いたしました。しかしながら、男爵様の就任祝いとして、一番に味わっていただきたいと特別に取り寄せたもので御座いまして」


「勿体ないし、俺の代わりってことで飲んでくれないか。気持ちだけ受け取っておく。これは君にあげよう」


「……さ、左様で、御座いますか。で、では、ありがたく、頂戴いたします」

 給仕の男は残念そうに持って帰っていった。そんなに飲んでほしかったのか? 前にも思ったが、俺に男色の気はないぞ。


「どうした、飲まないのか?」

 給仕とのやりとりが終わってもグラスを持ったままで飲まない商人。

 今更ながらに失礼な行動を取ったと気づいた俺。だから、固まっているんだ。


 でも、あの酒ってそんなに美味そうじゃなかったんだよなぁ。やっぱ竜源酒だよ。特に天竜が出したのは気に入ったな。この世界にいたな。今度白霊山に求めに行こう。

 この世界に来た俺の目的にぴったり。


 給仕の男性、まだ飲んでない。

「顔が青いな。大丈夫か?」


「……え、えぇ。はい」


「せ、席を外させてもらってもよろしいでしょうか?」


「ん? 俺は構わんが」


「申し訳ございません。急用で退席させてもらいます」

 グラスを持って行ったまま会場の外に出て行ってしまった。悪いことをしたか。次からは貰い物は受け取ってから捨てよう。














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