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九十四話 創造神、流れに身を任せる

「男爵」


「はい。何でしょうか、陛下?」

 誇った表情をしている男爵に国王が声をかける。


「この我を欺けると思うたか?」


「へ?」

 誇り切った顔が歪む。天秤はまだ傾ききっていないようだ。


「その程度か?」


「いや、しかし、ご覧ください。この罪状の数々を」

 男爵は国王に書状の内容を強調するように見せる。


「いい機会だ。皆にも伝えておこう。我が国には初代様から受け継がれる特務という組織がある」

 軍務大臣もわからないといった表情で国王を見つめる。


 ええ、作りましたとも。何をするにも情報が多く手に入って楽だった。敵を知り己を知らば百戦危うからず、というしな。

 何とか体裁はこういって保てたわけだよ。本当は最初、城に勤めていた者たちの情報を集めて冷やかそうとしてたなんて言えねぇよ。


「特務は非常に優秀な組織だ。どんな情報でも集めてくれる」

 これは牽制のつもりなのだろうな。裏で何をしても暴く出すことの。


「我の眼は、どこにでもある。そのことを覚えておくと良い」

 国王専属の隠密部隊――特務機関に監視させているほどにこの国の貴族は信用に能わないと今の国王は考えているのか。


「例としてあげるとするなら、カリオン騎士爵はようやく婚約を決めたようだな。おめでとう」

 名を呼ばれた貴族は慄く。婚約のことは誰か近しい者から聞けばいいかもしれないが、国王の言った『ようやく』の部分。侯爵は婚約決定としか周りには言っていない。長い間、婚約に踏み決めていなかった内面的なことなどを分かるはずがない。


「オットー子爵。個人の不倫などに興味ないが、複数の妻と円満に暮らす姿は内外共に好印象を与えると思うぞ。隠す必要はないのではないか? 数年も続けていると、主の奥方と愛人の仲も深まっているようだ。良からなぬことを二人で結託しているという情報が上がっている。早めに手を打つこともお勧めしよう」


「はい」

 こんな内輪のことまで詳しく国王は知っている。

 しかし、これらは個人のことだ。真実はわからない。しかし、言われた当人の顔色を見れば、それは一目瞭然の事実と理解できる。


「トリアス子爵は汚職か。これはコウズ男爵と繋がっているな。これが物的証拠か。手っ取り早く、子爵並びに男爵の爵位を剥奪。次代の者に引き継がせよ。両名共に罰を覚悟せよ」

 一段下にいる犯罪者でも読めるように国王は床に書類をばら撒く。それを必死に読み漁り、顔色を悪くしていく。


 二人の貴族が近衛兵によって式典から追い出される。


「さて、証明はこの辺でよかろう。我が眼を疑う者はいるか?」

 誰もいない。

 俺的には牢獄でも断首台でも構わなかったのだけれども? 誰かいない~? 異論ある人いない~? 断首台ってどんなだろう。いないかな~? いないかな~? 奴隷の首輪は抵抗レジストしちゃうから意味ないんだよ。代案は~?


「しかし、これでは我は他者に任せっぱなしということになる。これでは頼りっぱなしの王と解釈される。そう思い、我の方でも調べさせてもらった。調べると言っても単にゲームをしただけなのだがね」

 この話から国王はどこか楽しそうな雰囲気を醸し出していた。威厳があるかと思いきや軽い態度。


「特殊な遊戯をしていてな。その間に少々話をさせてもらったんだ。相手は王城に仕えていた書記官のヘストという名前だったか。彼が作ったこれが出鱈目であることを喋ってくれたよ。ああ、彼はもういない。不運なことに何故かその場で死んでしまったのだ。実に嘆かわしい」


 男爵は自分の駒の名を呼ばれて冷や汗をかきながら考える。まさか……口を割ったのかっ!? そんなはずはない。あやつには、呪術も仕込んで脅しを入れていた。


 俺にはわかるぞ。国王の奴、書記官の人の精神を壊したんだろうな。

 最初は喋りだすところから徐々に精神を言葉で蝕んでいったのかな。

 恐ろしい男だ。おぉ、こわ。


「とにかく、我自身でも調べ、これが虚偽であると認められる。これで我が眼の信用性が証明され、男爵の述べたことを偽りと見なす。これでもまだ何かあるか、男爵?」


「……いいえ」


「其方の考える我は余程軽く見えたか?」

 男爵は下唇を嚙み、悔しさや終わりへの葛藤を胸に。その様子を見て国王は嗤う。


 そもそも俺が証拠を残すなんてヘマはしない。俺は第一殺してなんかいない。全員蘇生させて有効活用している。蘇生させずとも殺るなら徹底的に根絶やしにする。見くびらないでほしい。


「叙勲式の進行を勘違いで遮ったのだ。終わり次第処分を下す。この場で魔術を使った者もだ。そして、男爵はルイン公爵家の縁者であったな。ルイン公爵、自らの周りくらいはまとめておけ。公爵も騙された側だ。処分は出さない」


 今の王も立派に王をしている。王に求められるのは、我ではなく公平。王に個の情は必要とされない。民を導く為に王がいる。そんな人々の傀儡を王と呼ぶ。

 それでも心が折れることなく王をできている彼を称賛しよう。


「はっ」

 絶対この件を裏で手を引いていたのって公爵だよなぁ。でも、ここでそれを立証はできないんだろうなぁ。


「情報は正確に扱わねばなりませんね」

 シオンは結界を自力で抜け出してニヤケて男爵の肩に手を置く。


「いくつかよろしいでしょうか?」


「さすがはSランクとなる者だ。あの結界を自力で」


「この程度の結界、素人の児戯に他なりません。まさかこの程度のことで陛下にお褒めの言葉を頂くとは。恐悦至極にございます。一つだけ言わせてもらっても?」


「すでに我が貴公の無実を証明したにもかかわらずか?」


「俺の方からも証明しなければこれからの信用は得られないでしょうから」


「早く済ませろ。式典が差し支えている」


「ありがとうございます。簡単なことなのでご安心を。精霊が消失。それも外的要因なら、精霊王が出てきます。如何に精霊王の存在を隠せても、精霊を害したのであれば、精霊王との対決です。男爵の言う精霊消失が事実だとするなら、今頃は王都の大半が滅ぼされていることでしょう。そもそも精霊を独占して何が悪いのですか? 強制的に他者に服従させるほうが酷というものでしょう。……さて、これでどうでしょう」

 大まかに言いたいことだけ言って一息つき、国王に促す。


「……良い。続きを」

 男爵はこれで社交界での発言力と信用を失った。蜥蜴の尻尾切りで援助もしてもらえないだろう。

 聞いてみたい。

 最初に俺を追い落とすように上から言われたときはどんな気分だった? 息巻いていたか? お前たちの派閥は俺に対して忌避感を抱いていたからなぁ。だが、最終的な結果はお前の自滅。なぁ、今どんな気持ちなんだ?


「はい。冒険者シオン。前へ」

 進行役の高官に呼ばれて前に出るシオン。


「多数の翼竜ワイバーンの討伐。大盗賊団の討伐。学園都市に巻き起こった異形の襲撃事件の多大な貢献。他にもさまざまある。これらの褒章として男爵位と領地を授ける。場所は後々に文官から聞くと良い。公爵家のあの不治の病が完治に向かっているのも貴公の働きのようだな。並びに王室白十字勲章を授与をする」


 公爵家の不治の病といえば伝わるようで参列していた貴族から式典の最中にも関わらず声が上がる。それだけ驚かれることだったのか。


「ありがたいと思います」

 顔を上げたシオンの眼は王たちをまるで品定めをするような目つきだった。これに軍務卿などの一段下にいる貴族たちの背中がぞくりと震えた。

 立場が逆転している。


「では、始めるぞ。◆◆【特殊スキル 命名:ノヴァウラヌス】」

 シオンの名前の欄にノヴァウラヌスと称号に男爵が追加された。家名は先に提出する決まりだったのはスムーズに式を進めるためのようだ。


 スキルについては名がない限り他者に名前を勝手につけるなんて出来ないのでこういったスキルが存在する。しかも、特殊なことに詠唱付きのスキル。


「会議で出ておったあそこですな」


「ええ、この前のヴェールの近くです」


「あんな子供によりにもよってあそこか。大丈夫なのか? ヴェール砦付近の領と言ったらもうあそこしか」


「あの者はSランク冒険者。何とかするだろう」


「ただでさえ帝国に近いのに。その上、魔物も……。もし、彼が失敗するようであれば次に攻められる領地は……」

 貴族たちからそんな不安そうな声が聞こえる。彼らの反応を見る限りどうもあまり良くないところのようだ。あのルイン公爵が笑顔を見せている。あれはにやけ顔か? 汚い顔だ。


 その領地が俺の物になったということだな。学生でありながらSランク冒険者となり、領地持ちの貴族となった。ただまだ学生ということで卒業してからということになる。


 なら、好き勝手にさせてもらっても構わないということか。


 これにて国王の役目も終わり、進行役が国王の退出を宣言する。

 貴族たちを含めて全員がもう一度平伏して国王の退出を待つ。
















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