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九十二話 創造神、こっちも久々に会う

 式典に備えて一足先に王城に訪れ、控え室でゆったりしていた。お菓子や紅茶が用意されて摩耶とウルはバクバク食べている。それをゼノビアが品がないと諫める。


 アドニスの使いの者がシオンたちの控え室に来たことでそれは崩れた。

 シオンは後ろに付いてくるメネアを抑えて控え室に留まるように言う。


「失礼します。アドニス様、お連れしました」


「入れ」

 アドニスの許可で執事が扉を開け、中に進むよう促す。


「座れ」

 シオンは座ることなく入った扉の前から動かずにいる。入れだの座れだの。亭主関白気取りか!


「用件とは何だ?」


「言葉を弁えろよ。成り上がり者」


「話の内容を言え」

 皮肉を素知らぬ様子で流すシオン。


「ちっ。相変わらず気にくわないやつだ。まぁ、いい。成り上がり者。我が傘下に加われ。今までの非礼を詫び、俺に下るなら許してやろう」

 こっちは傘下と来たか。笑顔を浮かべてはいるが、表面上だけなのだろうな。


「これから叙勲式で侯爵家がお前に国家転覆罪から殺人罪などの罪状が捏造されて叙勲式で吊し上げられるそうだ」

 なんと! これが今の貴族の実態か。我々は今、不正を目にしている。


「お前は男爵が授与されるが、相手は候爵。どれだけの貴族に横暴だと訴えてもお前を信じようとする者はいないだろう。そこで救いを用意した。だが、俺もただの人助けをするつもりはない。この俺の下に来るなら俺が協力してやろう。どうする?」

 シオンの上に立てたことでアドニスは優越感に浸る。

 殺人罪。俺はそんなに殺してないんだが。バレるようなことはしていないはずだ。


「協力? それは脅迫の間違いでは?」


「何だっていい。それで答えを教えろ」


「無理」

 脅されようとシオンは揺るがない。


「そうか、残念だ」

 やけにあっさり引き下がる。


「これだけじゃお前はどうにかしてしまうのだろう。話は変わるが、屋敷の居心地はどうだ?」


「あそこには多くの奴隷がいるそうじゃないか。管理は大変だろう。誰かが減らしてくれることを祈っているぞ。いやなに、不幸は起こってほしくないものだ」

 また脅迫。傘下に入らねば、シオンの屋敷に住むメイドや執事に不幸が訪れると言っている。


 屋敷の中はゴーレムやフェンリル、ホルスに見張らせているため安全は保障されている。とすれば、外。外出中に襲う気か。それでも越後屋の従業員同様に鍛えられている。摩耶なんかはいつの間にかAランク冒険者になっていた。


 自衛が出来ないのは、イスタールから呼ばせてもらった執事たち。あれらは俺の管轄ではない。傷つくことがあっても別に困らない。殺された場合、イスタールに犯人捜しでもさせればわかる。自分の身内が先王の執事たちの殺害の真犯人です、と。


 これらの言葉はなんら俺への脅迫にはなり得ない。


「反省もせずに脅迫を二度も。そんなにくれるなら俺もお返しをしないとな。俺からもプレゼントだ。お前に脅迫してやろう」

 アドニスも護衛の二人もシオンが何を言っているのかわからなかった。

 それだけ危険のない安穏とした日々を送っていたのだろう。甘やかされて育てられ、自分の我儘が他者に強制しても通ることが当然と思ってやがる。親と王は両立できないか。


「俺はお前たちの首を今すぐにでもかっ飛ばすことが出来る。お前たちはどうする?」

 シオンの脅しの見返りを求める言葉は『次にどんな動きをするのか』という大雑把な問い。


「貴様は!」


「さて、どうする? 騎士たちには家族がいるみたいだな。子供の名前はメイフィスとガストだったか」

 この名前をピンポイントで言い当てたことに護衛は狼狽える。


「俺に手を出した場合、もしも不幸が訪れてしまわないように祈っておこう」

 王族に手を出すことなどありえないと思いつつもカタカタと震える護衛二人。


 王族を脅そうとするだけでも立派な処罰理由になりえる。しかし、シオンはお構いなしに動く。彼は自分たちでは止められない。言葉による牽制も武力による脅しも何も通じない。彼は簡単に実行できてしまう。王族? 子供? 彼には関係ない。皆等しく殺される。


「ここで首を斬るだと! ふざけるな! お前ごとき我が騎士の敵ではないわ!」

 騎士の心中を知らずアドニスは大言壮語を叩く。


「脅迫は誰でも使う。言うことを聞かなければ、親、恋人、友人、知人。それらがどうなってもいいのか、って。当然俺も使える者ならなんだって使わせてもらう。返答を聞こうか?」


「ここで俺を殺せばお前は本物の国家反逆罪に問われる!」


「それがどうした?」

 シオンは意にも介さない。騎士の思う通りシオンを止められはしないのだ。


「さっき俺の周りに不幸が訪れると言っていたな。やってみろよ。それよりも先に俺がお前らの大切なものを壊してやる」

 最後まで脅迫で閉めた。この威圧だけで控える騎士たちは一歩後ろに身じろぐ。


「既にうちにお前の所の暗部が来ていたが、部下は大切にな。忍び込むほどうちに入りたいとは思わなかった。そんな彼らを侵入者として消さなければならない俺の身にもなってくれ」

 業を煮やした影がシオンの後ろに現れて、首にナイフを突きつける。


「初めまして、と言ってあげた方がいいかな? 名もなき影さんや?」

 クスクスと嗤うシオン。出てきた影は越後屋に潜入しようとしていた暗部の一人。


 シオンの挑発たっぷりの言葉に霧のように曖昧だった黒い男が、怒りの篭った殺意をバラ撒き始めた。

 上では他の影に「マヌケ」と呼ばれているのが聞こえる。

 俺は地獄耳なもので聞こえてしまう。誰だって悪口には敏感に聞こえるようなものだ。俺からしてみたら、影にも関わらず存在を察知されてしまう時点で丸裸の暗殺者はマヌケだ。

 そして、人のプライバシーを覗きこまれるのはいい気分じゃないな。


「ま、今回は無かったことにしてやろう。助かってよかったな」

 ナイフを意にも介さずシオンは椅子から立ち上がり、マヌケ君の肩に手を置いて一言言ってからサロンの出口に足を向ける。


「それとお前。お前の殺気も見逃してやっているのだ。感謝しろよ。ま、来るなら来てもいいぞ。お前は俺を楽しませられるか?」

 シオンは天井にも顔を向けて挨拶をしてサロンを出ていく。単純に彼をマヌケと言った上司もお粗末である有無を置き去る。


「お前たちは【剛毅】のところで指南を受けていたこともあったな」

 シオンが見えなくなったところでアドニスは護衛と影に問う。


「ええ、まぁ。あります」

 甘やかされた者があの剛毅の厳しい鍛錬に付いていけるはずもなく最後まで剛毅に反発していた。そのことは黙る護衛。


「俺がこの場で許可を出せば、あれを殺すことは出来たか?」


「ふ、不可能です」

 自分の主はなんと恐ろしいことを言うのかと思う正直な騎士。


「では、二人がかりなら?」


「結果は……同じ…だと…思います」

 王子の命令なら、あれに立ち向かわねばならないという恐怖が身体を震わせ、言葉にも影響が出る。


「それでも奴には後悔させねばならない。奴の身内に良いのはいないか?」


「ダメです。屋敷の方も商会の方も調べさせた結果は人質になりそうなのは――」

 頭の中で何度も考えたが、首を横に振る。


「いえ! 騎士団の者数名を使えば捕らえることが可能な者はいます」

 これ以上の失態は許されない。片割れの騎士が否定する前に入り込み、チャンスを得ようとする。


「その者は?」


「アレス・ミルダの娘のアリア・ミルダです。その者は魔術には長けているようですが、魔術耐性の魔道具を持たせた騎士なら捕獲は容易いかと」


「ミルダ家か。あの家なら多くの貴族に嫌われていたな。それも利用させてもらおう」


「聞いた話ではアリア・ミルダは以前にも捕らえられたことがあるとか」

 盗賊団にリンと同じく捕まっていた時の話題が出てくる。


「その盗賊団は?」


「あの者によって討伐されました。ですが、その盗賊団は貴族に指示されていたようです」


「その貴族に話をつけろ。その者にこの話を振って再チャンスの機会を与えろ。断るようならその貴族を捕えろ」


「了解いたしました」


「……影よ。祝宴には毒が付き物だな。シオンのグラスにもきっと何者かが仕掛けることでしょうね」


 誰が、とは言わない。その何者かとは、恐らく、今、話しかけられた人物を指している。

 つまり、何者かが勝手に察し、勝手に仕掛けるのだ。アドニスは全く関係がない。


「は――」

 暗闇の中で男が頷き、静かにその気配を消した。









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