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九十一話 創造神、観客に徹する

「いいの? 彼女」

 黙っていたエルフの少女がメネアと男を指して尋ねる。


「そうでした! 彼女を止めてください! 彼女が危険です。彼は【狂信】の二つ名持ちのBランク冒険者のガガットです。何を仕出かすか!」

 そっちで止めれば良いと思うのだが、あの男のことだ。執着が強いのだろうな。敗北させるまで襲ってくることが予想できる。


 確かこの世界に降り立って絡んできたのもBランクだった気がする。Bランクと言っても色々居る者だ。その両方が俺に突っかかってくるとは。はっ、外を出る時はヘルメスか! いやでも、これはヘルメスではなくシオンの知り合いたちが集まった宴だ。仕方ないか。


「良いではないか。ここは酒場で酒の席。乱闘などよくあることではないか! それにメネアだって手加減はできる。それなら、怪我人が出ることもあるまい」

 俺は飲んではいないが、空気に呑まれたようだ。


「彼女が死んでしまいます」

 体格の差、筋力の有無などで測った結果がこの言葉。

 メネアのレベル484までにされたステータス上昇からの肉体の最適化が今のメネアを作っている。たかだか二桁ではわからないのも無理もない。


「オリビア、違うの」

 エルフの少女が女性の肩に手を乗せて顔を横に振った。


「危ないのは、ガガットなの。やばいかも」

 彼女には違いが分かったようだ。そうだ。それでいい。だから、俺にこの後のことを想起させるな。


「おーい、あんちゃん! 大見得切ったんだ。10秒は持ってくれよ!」


「よっしゃ、みんな外に出ろ! これ以上店じゃ出来ねぇ。あの嬢ちゃんたちが払ってくれるとはいえ、進んでやることじゃない」

 酒場に集まった冒険者のほとんどが越後屋を知っており、我らに好印象を持つものだ。メネアを応援する声が大半だ。

 何故にここの人たちはメネアの力を知っているのだ?


 そう疑問に思っていると、飲み物を注ぎに来た従業員が教えてくれた。

 越後屋での訓練を見たいといった人には公開しているのだと言う。

 そうやって興味のある見物人たちを自分たちの仲間になるまで引きずり込んで苦しみを味わわせたいという黒い部分があったりするみたいだ。

 そっち側に居るだなんてズルい。私たちと所まで堕ちましょう、という具合に。これで皆理解しているのか。


「っは、好き放題言ってくれるもんだぜ。ガキ相手に10秒なんて笑えもしねぇ」


「ふふふ。そうですね。あなた如きにかける時間なんて3秒で十分ですから」


「「「おおー!」」」

 メネアの宣言に酒場が沸く。


 その挑発にガガットの青筋は膨らんでいた。

「……自己紹介がまだだったな、女。俺の名はガガット。【狂信】のガガットと言えば分かるか? わかるよな。ああ゛!?」

 自分で狂信と言ってしまうスタンス怖い。認めてるってことだよな。

 信じているのは、あのエルフの少女のことか。狂った信者は恐ろしいなぁ。視野狭窄に陥りやすいのだもの。


 ガガットの言葉に一部の冒険者がどよめく。

「【狂信】って言えば、『氷結の魔女』のとこのメンバーじゃねーか! こりゃ、見物だ(派手に負けるところが)」


「あの凶暴なことで有名な? (そんなに凶暴には見えねぇな。今は飼いならされて角折られたユニコーンってことか)」


「待って。去年、女剣士に打ち負かされたって聞きましたよ(小物じゃん。負けて子分になったってことでしょ。メネア様が負けるはずないじゃない)」


「それが氷結の魔女だ。つまり、あのエルフの嬢ちゃんは氷結の魔女ってことだ(俺、あの子すごいタイプなんだが、どうしよう)」


「あれがSランクか。なんでSランクになるってやつは皆小っちゃいんだ(どうやったら身長で縮むんだろうか)」

 妙なところで共通点を発見したもんだ。ライオスはデカいじゃないか。


「知らない名ですね。名声を轟かせるのは主様お一人のみ。それ以外の有象無象など不必要です」

 危険思想出た。今回の俺の目的とは違うと思うのだが。

 メネアにもいずれは【狂信】のような名が付きそうだ。


「っち! これだから無知な女は…… もういい、さっさと始めようじゃねーかよ」

 この間もメネアは酒を飲み、ふらついている。闘っている時も飲む気なのか。そして、その瓶で殴らないだろうな?


「待って、ガガット」

 今にも戦いが始まろうとしていたその時、オリビアがガガットに声をかけてきた。


 それを塞ぐようにメネアが喋りだす。

「あなたには選択肢があーる。謝る(dead)か(or)私と戦う(alive)か? どちらに……しっます……か?」


 それはどちらも死なのでは? あ、でも、過程が違うか。闘って死ぬのと何もせずに死ぬのと……。


 酒も飲んでないのに何故俺はこんな思考を?

 俺の空いたコップに横から静かに摩耶が酒を注いでいた。

「何してんだ?」


「へー? 何がぁ? シオン様も一緒に飲もうよぉ。この美味しいジュース……」

 アイアンクローで吊し上げても酔いでまともな答えが返ってこない。


「あん? 今なんて?」

 そりゃ、分からないだろうな。


「とにかくお前はここでdeathなのですよ」

 いっぱい勉強したんだな。偉い、偉い。

 皆、固唾を飲んで見守っているのだ。緊張感に包まれる中、乱闘が始まる。


 ガガットが低い姿勢で構えを取り、そのまま前に直進する。その動きは獣のようにしなやかで、瞬時にして常人には見えない速度へと至る。

 メネアは、というと一息ついていた。


 ガガットが攻撃圏内に入った瞬間、大きく息を吸い、息を止めて連打を決め込む。

 手加減で済んでシオンは安堵する。さすがに酒場の乱闘が殺害現場に変貌するのは嫌だ。盛り下がるしな。


 手加減抜きで遊びの乱闘なら自分にデバフをつけて【スキル 手負いの獣】で攻撃力上昇。デバフには速度低下だろうか。

 あの男が接近してくれるから移動系は不要。カウンターで一発。あの男の身体が四散して臓物が撒き散らされていたことだろう。

 良かった。これで本当に良かった。そうなっていたら全員の酔いが一気に冷めるな。


「お、おいっ。何が起こったか分かったか!?」


「いや、メネアさんにいきなり『狂信』が前に現れて、何かしようとしたらああなったとしか……」


「私は見えたわ! メネア様の拳があの男の顔面を捉えていたものっ! 多分!」

 従業員は普段からメネアの訓練で目が慣れていたのかわかったらしい。だが、正解とは言えない。確かに顔面もあった。それだけではない。色んな所に殴っていった。あれ、回復薬で治るかな?


「ひゅー、ガガットがこんな風にやられるなんてね。いやー、凄い物を見た気がするよ。三発くらいかな?」


「アウロラの言っていたガガットが危険というのはこういうことだったのね。私は四発だったわ」


「私と同じくらいなの? 六発なの」


「いやいや、新たに生まれたSランクは男だって情報だぞ。ステータスは見えないが、俺とガガットより上なのは確かだろう。それを連れている主ってのはもっと上かもな」


 各々メネアが何発殴ったのかを冷静に判断して告げている。正解は七発。一発見えづらく打ったのがある。


「ガガットにとっても良い薬になると思います。それで、私たちがご迷惑をお掛けしてしまったことについてなんですが…… ええと……」

 この始末、どうつけるのだろう。俺は関係ありませんよぉ。だから、俺の方は見ないでくれるとありがたいかなぁ、なんて思っちゃったりしてます。


「これは前哨戦なの。昇格式が楽しみなの」

 エルフの少女が区切りをつけた。


「そうか。これから昇格式でSランク同士の闘いが見られるんだ。これはお互いの配下の者同士の対決だったのか!」


 ライオスが陽気に振る舞ってくれている。しかし、昇格式にはお前も出るのだぞ。それを忘れてないか?











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