九十話 創造神、飲みの席に参加
突然のことだったが、王都の越後屋本店の従業員がほとんど酒場に集まっていた。メネアがせっかくだからと呼んだらしい。
屋敷のメイドたちは酒場や使用人ようの邸宅で夜な夜な俺で酒盛りをしているようなことを誰かから聞いたような覚えがある。
「よっ! シオン、スカルドラゴンの時ぶりだな」
「こっちに戻っていたのか」
「おう。で、そこの嬢ちゃんがお前の昇格を祝って酒盛りするってことで俺も昇格するからついでに参加させてもらったってことだ」
「お前は大勢で飲めれば良いだけだろ」
「ギルドにちょうど行く用事があったので主様に縁のある者もお誘いいたしました」
メネアがギルドに? いったい何をしに行ったんだろうか?
ライオスから大き目のテーブルに招かる。
「お、あの人の席だって行こ、行こ」
摩耶は一早く飲み交わしたいのか急かす。
「よくこんなに集まれたな。摩耶が急に言い出したことで無視しても構わなかったのだぞ。俺の祝いだとしても」
「そんな冷たいこと言うなよ。それにお前の祝いってのもあるが、こんな早くAランクになったマヤたちが飲みに行くってんなら行くだろ。エチゴヤ商会とのパイプのためにも」
「はっきり言うなぁ」
「それはお前が滅多にギルドに来ないからだぞ。ギルマスから泣き言言われんのは俺だけになってるんだからよ」
摩耶たちはライオスや他の有力パーティからも誘いを断るそうだ。指名依頼も越後屋から離れたくないという理由で断っているらしい。ついでに俺にも来ていたようだが、俺が滅多にギルドへ行かないため溜まっているようだ。
宴会は進み、酒も進み、店にいた他の冒険者も参加しだして無秩序な状態と化した。
酔いではっきりとした意識がなく、俺に酒を進めてきたが、俺の年齢ではまだ飲めない。それなのに、ぎゃーぎゃーと騒いで酒を飲んでも誰も見ていない、と言う。
「よっしゃ、お前が今まで何やらかしてSランクにまで登りつめたか言ってみろぅ!」
宴の席も半ば、誰かが外に吐きに行こうとすると、すれ違いにあるパーティの一団が酒場に入ってきた。
「あ゛あぁ。ここも満席かよ!」
店の状況にケチを付けて入ってきた一人目は大剣を背負った大柄な男。見た目から獰猛な犬のような感じが見受けられる。
「ガガット、昇格式が近いのです。前日なのですからどこもこのようなものですよ」
「オリビアが正しいの。こんな時間に到着した私たちが悪いの」
「そうですよ。アウロラはちゃんとわかっています。ギルドで宿は抑えてもらっていますから大丈夫ですよ」
後から入ってきた他二名は両方とも女性だ。
大人しめの者、種族はエルフか。白フードで顔を隠している。それと男を律する者。こっちは普通にヒューマン種のようだ。
「けど、お腹減ったの」
「そうだよな。宿はあっても飯に辿りつけねぇじゃねーか」
「じゃあ、次を探しましょ」
男は酒場を見渡し、ニヤリと笑って仲間に向き直る。
「すまんすまん。ギルドの宿の件は聞いていたぞ。って何やってんだ? 座らないのか?」
もうひとり仲間の男が酒場に駆け寄る。
「ああ、待ってろ。すぐに空く」
扉の近くに座っていた冒険者が新しく酒場に入ろうとする四人組に気づく。
「ん~? あんな見かけない奴らだな。ちょっとばかし遅かったな。ここも満席だ」
「Sランクの昇格式目当てなんだろうさ。それよりもシオンが俺たちの目当ての料理を作ってくれるってよ」
「マジかよ! 俺も料理の争奪戦に参戦だ」
俺は作るなんて一言も言ってないんだが。酔いで幻聴まで聞こえ始めてるじゃないか。こら、そこ乗らない。俺は作らないぞ!
「へぇ。奪い合いになる程美味しいんだ。いいなぁ……」
「同意なの。私も食べたかったの」
「アウロラ、干し肉だよぉ。お食べ」
「侘しいの」
アウロラと呼ばれるエルフの少女。ひどく気落ちしている。もう一人も女性からもらった干し肉をチビチビかじる。確かに侘しい。
「よし。待ってろ。椅子開けてくっから」
「ガガット、何を仕出かすつもりですか!?」
大剣持ちが酒場の中へと歩き出すのを見て女性が呼び止める。
「うっせ。ちょっとだ。すぐに食べれるようになる」
「やめなさい! 余計な問題を起こさないでくださいよ」
「オリビアが正しいの。暴力はダメなの」
「わかってんよ。極力控えるようにする。なるべく、な」
大剣持ちは店内を見渡した時に決めた見た感じに癇に障る相手に近寄る。
そいつは女に囲まれ、王様気分でも味わっているようなクソガキだ。
「よぉ。ガキ、随分とお楽しみなようで」
「ん? 何か用か? 俺はまだ酒は飲めんぞ。ついでに、料理も作らんぞ」
「いや、用って程でもないんだがよ。悪いんだが、そこの席どいてくんね? どの店も満席でよぉ。優しいガキは譲ってくれるよなぁ! どうせ酒も飲まないんだろ、いいじゃねーか」
これは絡まれていると言う奴だな。まだ酒は飲んでなさそう。しまった! ヘルメスにしておけばよかった。
「はっはっは。言うではないか、雑兵。これが宴の席で良かったな。良い笑い話だ」
「はっ、女の前だからって強がんなよ。ちゃんと言わねぇとわかんらいようだから、もう一度言う。そこを退け!」
「そっちこそ分かっていないようだな。俺も特別にもう一度言おう。殺すぞ」
「あ゛! 表出ろや。後悔させてや――」
「ふん!」
あ、メネアが殴った。
メネアの足元を見ると、酒瓶が転がっている。ついでに樽も。それを見て俺は顔が青くなる。
「誰だ! メネアに酒を飲ませたのは!」
「え? ダメでしたか? メネア様は飲んでもいい歳だと思ったのですが?」
「ああ、年齢はいい。だがな、酔わせると暴走するんだよ!」
メネアはテーブルを片手で持ち上げ、今殴って表に出た男に投げつける。
「ちょうど表に出たな」
ライオスはメネアと大剣持ちを肴に酒をのんびり飲む。
「うぅ。おりゃー」
足がふらつきながらも拳を構えて地面に叩きつける。店の中に出来たのは小さなクレーター。後で弁償か。
越後屋で溜まっている金の使い道が増えたぞ。良かったな。
「うぅ。主様に手を出す輩は私が排除! わははは」
一歩で外まで出て、大剣持ちが立ち上がったところを殴り飛ばす。常日頃からメネアも制限をしているため今も無意識に手加減は出来ている。
「ふふふふ、よく飛びますね。そんなに飛ぶのがお好きなら私が叶えてあげましゅよ」
あ、ヤバイ。人死が出るぞ。
飛ぶっていうか打ち上げるが正解かな。
「んだよ。シオンの料理が食べれると思ったのによ。兄ちゃん邪魔してんじゃねーぞ」
「決闘だ! どっちに賭けるか決めな!」
賭け事がいきなり始まった。ライオスは酒を片手に高みの見物を決め込んでいた。もう酔ってる。なら、俺も静観。
「賭けの条件が違うだろ! どっちが勝つかじゃなくてあの兄ちゃんが何秒耐えられるかだろうが!」
よくわかっていらっしゃる。
「ちっ! ゴホッ。俺は女子供には興味ねぇ。あのガキを出せ!」
手加減されてたとはいえ、復帰する。回復薬を飲み、喧嘩に備える。
「主様に対する不敬は極刑」
うんうん。酒の席での乱闘はよくあることだ。
「そ、そこのあなた! あなたが彼女の主人なのでしょう。私たちはあの馬鹿のパーティの者なんです! まずは非礼を詫びます。申し訳ありませんでした!」
この人も大変だ。いつもこのような後処理を行っているのか。
頭を下げるのに躊躇がなかった。普段から誤っている証拠か。なんて悲しい癖なんだ。
「あの馬鹿は私が責任持って連れ帰ります。 だから、どうか決闘を取り下げさせて頂けないでしょうか。このままではっ! あっ、もちろん、ご迷惑をお掛けした相応のお金はお渡し致します」
店の外にいて中で何があったのかわからない様子。
「彼が俺に難癖をつけてきたことで生まれたこのクレーターの修繕費もあなたたちが、ということになりますね。本当によろしいのか?」
「それはちょっと」
テーブル代くらいだと思った? 残念、このクレーターもです。と、言いたいところだが、消費を少しでもしたい。