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八十六話 創造神、手早く済ませようとする

「いいんだな?」

 赤毛の虎人がニヤリと笑う。


「ほとほと俺はお前がリーダーだってことを疑問に思ってたんだよ」

「御託はいい。さっさと来い」

 赤毛の虎人は腕に力を溜める。魔力で身体強化をしているのだろう。


「うぉぉぉぉ!」

 メビウスは赤毛の虎人の攻撃を腕で軌道をずらし、カウンターを狙う。


「ずっとそうだ。お前はいなしてばかり。そんなんじゃもう俺の攻撃から避けられねぇ。俺の力を見誤るんじゃねぇぞ」

 拳の一撃かと思いきや赤毛の虎人は蹴りにシフトチェンジ。


「間違えてねぇよ」

 メビウスが一歩退いて赤毛の虎人の蹴りが届かない。そのままメビウスの右ストレート。

 赤毛の虎人の対応は地面に両手をつき、足をメビウスの右腕に絡ませる。絡ませた足に力を入れて身体を起こす。そして、メビウスにまたも蹴りを行う。しかし、メビウスは蹴りを受け止め、下に流す。同時に右腕をあげて一回転。後ろの地面に叩きつける。

 赤毛の虎人はすぐに足を腕から放して受け身に移る。


「お前も魔力を使ったらどうだ」

「確かにこれ以上長引かせてもな。これをやって終わりだ」

 赤毛を正眼に見定めて構える。

 スキルの前兆がシオンには視えた。咆哮の準備だ。


 基本的には聴覚からの状態異常が多い。

 ただ厄介なのが、空気を震わせる振動が身体を突き抜けて魔力に干渉するタイプ。立つことさえままならなくなる。これは通常のスキルの枠にあるから誰でも使える。

 後者ではないこと願う。このスキルを魔王軍の位階が低い者でも持っていると勇者側との差がより広がる。魔王が勇者を打ち破っても一向に構わないが、圧倒的では種族が絶滅する。ヒューマンは衰退もしているから尚更に。


「はっ、ほざきやがる」

 メビウスの言葉に周りは過度に受け取った。だが、それが正解だ。


「いかん。全員耳を塞げ!」

 これからしようとすることを理解した虎人が知らない者にも忠告する。虎人はその忠告に従って防御の姿勢を取る。


「一体どうしたのでしょう?」

 能天気にスーリア領の若き太守は捉えていた。もちろん俺はすでに耳を塞いでいる。完全に効果を遮断できるわけではないが、これが一番簡単で効果を減らす対処法だから。


「いいから塞いでおけ」

 ちゃんと範囲はこの辺りと絞ってあるだろうな。そこが不安だ。

 メビウスは吼えた。込められたスキルは【特殊スキル 震圧の咆哮】。

 音の衝撃波が駆け抜け、周囲の木々や建物を揺さぶる。


「うっ!?」

 赤毛の虎人がよろめく。他の虎人たちもスーリア領の者も全員が身体を強ばらせて、その場にうずくまった。

 案の定、赤毛の虎人は完全に動けなくなっていた。


「まぁ、俺を信じろって」

 その瞬間に魔力が解けて、赤毛の虎人は自由の身になった。

 だがもう、完全に戦意を喪失している。


「あ、あぁ……わかった……お前がボスだ……従う」

「おぅよ」

 メビウスがこちらに来た。


「君たちの目的はここの占領だろう。それは困ってしまう。元とはいえ俺の国を滅茶苦茶にされるのは不快だ。そして、俺としては希少な存在の君を出来るだけ殺したくはないのだ。ここで退いてくれるならそれを大きな心で許してやろう」

 そう言って俺は指輪を一つ外す。


「指揮官の君なら賢い選択をしてくれると信じているよ。それとも、俺と戦うか? 俺はそれでも構わない。惜しくはあるが、やむを得ないな」

 メビウスは俺を見て考え、答えを決めた。


「いいや。退かせてもらおう」

「おい!」

「お前はあれに勝てると思うか?」

「そんなのやってみなくちゃ分かんねぇだろ」

「だから、お前はまだダメなんだよ。ある程度強くなると分かっちまうんだよ。化け物の境界がよ。俺にはわかるぜ。俺には化け物にしか見えねぇついでに言えば、あいつの後ろに俺たち、いや、全ての生物を嘲笑う悪魔が見える気がする」

 それは彼に直感のスキルがある故の出来事だった。人の持つ覇気や魔力ではない第三の何かが彼にそう感じさせる。まるで薄氷の上に立たされるような気分だった。


 聞こえてるよぉ。

 シオンが笑顔を彼らに向けるとビクビクとしていた。

 これなら四人の聖女の内、眼の持ち主に会うのが楽しみだ。どんな風に見えるのか。


 まぁ、それより彼らはこっちのヒューマン種よりも分かりがいいな。対してこっちのヒューマン種はダメだよ。強者か弱者かなんて読めないんだからさぁ。分かりきったところでそれは戦闘中。精々が強者の慈悲や同情でお情けをもらって惨めに生きる。

 負けても生きていれば再起は図れるというが、そんなのは極少数。大抵は自分に自信を持っていた分、心が折れて再起不能となる。

 まぁ、ともかく撤退を決めてくれた。のも束の間だった。


「撤退なんて許すわけねぇだろうが!」

 一人の杖を持った魔族が俺たちの前に現れた。姿は虎人族では無い様だが。


「私は魔王軍骸騎団副団長クルルト。我らは魔王軍。敗北などあってはならない。ましてや、たった一人の子供に背を向けるとはなんと情けないことか」


「う、うそ。魔王軍の、それも副団長クラス」

 あれで恐れられるほどの魔族なんだ。認めたくない現実、と。


「お前たちが不甲斐ないと監査役の俺の評価も下がるんだ! だから、だから、この俺様自らここをぶっ潰す」

 杖を持った魔族は杖を掲げる。

 あーあ。長引く。


「え、これ、まさか住民の人!?」

 現れたのは、大量のアンデッド。中には、上位種も混ざっている。


「一緒に領を守ってきた仲間たちになんてことを……」

 住民は虎人が出てきた時点で家の中に引き籠っていて被害は無し。

 それにしても随分と数が多い。


「あれは!」

 領主の少年が叫ぶ。


「お父……様」

 あらら、少年にとっては酷なことを。


「貴様、何てことを。人を何だと思っている!?」


「何故だ。俺様の術は理解されないのか?」


「当たり前だろう!」

 叫んで怒りを露わにして目立っている人もいるが、中には家族のなれの果てを見て泣いている者を見かけた。

 そのせいか衛兵も一歩ずつ後ろに後退りしていく。


「わからん。アンデッドは最高の兵だぞ。兵糧を必要とせず、感情も無い。素晴らしいことではないか」


 衛兵が彼を睨む中、彼は語りだした。

「アンデッドはいいぞぉ。先程も言った感情が無いという件だが、感情とは人を人たらしめるが、時として邪魔なものにもなってしまう。甘言に惑わされず、敵を殺すことに躊躇することがなく、傲岸不遜な輩もいない。人よりも陣形が完璧に取れるぞ」

 彼の言い分にも一理ある。

 心があっては感情の揺らめきによって対処に遅くなる。


 故人を蘇らせ、縁のある者に向かわせるということが彼らには苦痛に感じさせるのか。

 人を使い捨ての先兵にされていることが彼らには許せないのだろう。

 だが、このままでは被害が増える。


「敵の前で感傷に浸れるほどお前たちは強くないだろう。目の前に居るのは敵だ。敵を倒さねば、お前たちは卑劣と呼んでいるそれに殺されるぞ。

 浄化した魂を冒涜し、必要のない悲しみと憎しみをばらまき続けている敵に無残に殺され、お前たちもあのようになりたいのか!?」

 かつての王だった俺ならこんなことは言わないだろう。慰めの言葉もかけないだろうが。

 今の俺は王ではない。王であれば、民が弱者であることを歓迎でもしたかもしれない。反乱の恐れを考える必要が無いからな。起こったとしても容易に鎮圧可能だ。


 しかし、現在は違う。王ではなく神として話す。彼らには子供の戯言程度にしか聞こえないか。

 シオンの言葉は冷徹で残酷なのかもしれない。しかし、この世界の真理を告げている。


 シオンの言葉に怒りの感情を見せる者がいるが、今はこっちに憎悪を向けるのではなく、敵に向けて欲しい。


 しかし、感情があることでプラスにもなる。マイナスになる心があれば、プラスもある。感情によって力が発揮されることがある。仲間との助け合い、優勢になった時の勢い。復讐なんかも勢いを付けさせる感情だ。俺としてはその復讐によってどんな力が発揮されるのかを見たい。だから、きっと彼とは相容れないだろう。


 それにしても彼は魔族関係で何かあったのかな?

 それでも俺は……俺の気分的には、面倒になってきた。

 本当にごめん。もうなんか怠い。

 だから、終わらせるね。


 俺は「あっ」と声を出して何もない空中を指さして、全員の目線がそれに釣られる。

 ついでに指した先に大き目の爆発を作る。


 視線が逸れている数瞬に魔術を使う。選択するは、【空間魔術 消滅閃孔エリミネイトレイ】。アンデッド集団を原子にまで分解して消し去る上級魔術。そして、術者を捕えて終了。それで余っているアンデッドも活動停止。

 と考えて術者の背後に回ったのだが、フードの下の正体はただそれっぽく見せていただけの消したのと同じアンデッドだった。


 偉そうに馬鹿なことを口にしているかと思えば、中々に警戒心が高いじゃないか。

 でも、もう俺のテンションは早く終わらせたい、になっている。まだいる余りは、摩耶たちがなんとかしてくれるだろうよ。虎人たちがどうでるかはわからんが。


【固有スキル マップ探査】で術者を探し当てる。

 発見。

 領の外に建てていた小屋に一人潜んでいた。周りには、アンデッドの護衛。それにしてもどれだけの準備と用心深さがあればこんなにも入念にアンデッドを用意するんだ。


 もう空間魔術で一掃することは出来ない。先程街中で急に大量に出現したアンデッドに使った魔術【消滅閃孔】は対抗手段を用意し、メタ装備で決め込んでも2割の確率で対抗レジストがようやく可能になる。それゆえに禁術認定され、賢者の塔で厳正に封印されている。


 それでもこの魔術を使ったのは、街での魔術による被害を掛けないため。

 あれだけの数、一々中級魔術で倒していくのでは時間がかかり被害者が出てくる。しかし、上級魔術で一斉に倒そうとしても威力が高いので街に被害が出る。ならば、空間系の貫通力がなく、威力は高いが全く損害を与えない【消滅閃孔】。


 禁術レベルの魔術なので魔力もそれなりに掛る。俺に取り付けているドラウプニルにはメルクーアの認証が必要なため魔力も制限が課されている。


 残りは上級魔術を数十発程度か。あまり心もとないな。

【固有スキル 形態変化:刃身】で生み出す剣を用いてアンデッドの首をかっ飛ばす。


 若干作業チックになろうと油断してしまった瞬間、四方から雷撃・風刃・火柱・氷嵐の魔術陣が。

 シオンは我に戻り、まず剣を発射して火柱の魔術師を倒す。街にいたアンデッドには上位種が混じっていた。


 火柱は潰せたが、他の魔術が完成する。

 魔力を多めに込めて剣で風の刃にぶつける。折れた剣を手から捨てて電撃と氷嵐を躱す。

 これだけの魔術とアンデッド、種族はリッチか。

 次の剣を持ち直し、雑兵アンデッドの中に飛び込む。


≪【形態変化:刃身】の熟練度の上昇を感知。使用可能となる武装が一部解放されました。使用可能:剣・槍・鎌≫


 エルがスキルの成長を知らせてくれる。ただワイバーン戦などでレベルがかなり上がったことでアンデッドの雑魚では全然上がらない。

 身体は作ったもののエルは俺のスキルでもある。こうして変わらず教えてくれる。


 今しがた使えるようになった鎌を振り回してアンデッドの首を刈り取り、槍で魔石を砕き、剣で上半身と下半身を真っ二つに斬り、蹂躙する。

 だけど、これが上手いもので、熟練者の死体を使ったスケルトンは鎌の軌跡が見えているようで俺が大鎌を振り下ろした瞬間の隙を狙って槍を突いてくる。

 スケルトンなので見分けがつかないから紛れられると面倒だ。しかし、シオンには傷を付けることさえ叶わない。

 死角から飛び出る槍を鎌が止めることなく態勢を屈ませて蹴りで骨を粉砕する。それでもスケルトンは再チャレンジで熟練者たちが円状に囲う。一斉に槍や剣で刺すもジャンプで上に回避される。

 そして、大鎌が熟練者たちを一蹴する。


 未だ残っている雷・風・氷のリッチはまたも魔術を唱える。

 雷や氷の魔術属性は中々いない、と以前に誰かが言っていたが、こんなところにいたとは。


 考える頭は無いようで俺をターゲッティングしたまま単純に魔術を放つ。

 しかし、俺に届くことは無かった。俺とリッチの間にいた雑兵アンデッドに当たりアンデッドの数が減ってくれた。


 さっきから剣を投げてリッチに当てようとはしている。しかし、リッチを護衛するアンデッドに阻まれる。火柱のリッチを倒した時にはいなかった。つまり、この集団を扱っている魔族が指示を出したということ。


 これだけの集団だ。扱いきれるとは思えない。近くにいるはず。それでもいないとなると魔族の魔王軍での地位はもっと上に居てもいいはず。そういう嗜好なのか、本当に副団長クラスの魔族なのか。であれば、こんなにも警戒をする必要がない。


 ……止めだ。こんなの可能性なんていくつでもある。

 探しだして倒す。それでいい。


 再度【固有スキル マップ探査】を使用して探し出す。

 近づいてくる。


 ふむ。見渡す限りまだアンデッドはいるが、ジリ貧。このままではアンデッド集団が削られていく。埒が明かないと見て俺を倒す可能性がある自分という手段を使ったのだろう。

 アンデッドで闘いを見て対策でも考えてきたかな。


「何故私の出てくる方向がわかっていた?」

 本体の一人称は俺様、ではなく、私だったか。そんな余計なことが頭を過ぎる(よぎる)。


「さてな。勘かもしれないぞ」

「ありえんな。其方はわかっていた」

「あらら。まぁ、俺は感知力が高いのでね」

「……」

 考えてる、考えてる。


 俺の正体は何でしょう。魔術師? シーフ? 剣は魔術で飛ばしていた? 剣を振り回していたのは、適当? 感知力が異様に高いのは、第三の職業? 狭めることは出来ても、可能性の数は無限さ。考え出したらキリがない。

 未来予知もそうだ。勇者のやっていた予測のスキルだが、未来の一つを見せているに過ぎない。未来にはいくつもの可能性が秘められている。

 ああ、ああ。だから、世界は面白い。


「結論は出たかな?」


「……其方、職業を二つ以上持っているな」


「どうだろうね」

 すげぇな。当てたよ。当てられちゃったよ。


「しかし、だとするなら、其方のステータスは……」

 ! 驚いた。ステータスを知っているのか。魔族側に鑑定屋は無さそうだ。鑑定のスキルが使えるということ。今の時代では稀な現地人かもしくは無知だが知識のある異世界人か。


「それで出てきたのは、一騎打ちでもするつもりなのか?」


「その通りだ。これが一番勝算がありそうだ。アンデッドでは倒せない」


「お前の輝きを俺に見せてみろ」

 すでに魔術を完成させてから出てきたらしく、【闇魔術 呪炎】を放つ。

 あの魔術には呪いが込められている。触れるのは危険か。

 なら、人差し指に魔力を集中させ、魔力弾を闇魔術に向けて撃つ。

 魔力弾は闇魔術を平然と打ち破り、尚も魔力弾は現存。魔術を貫通したまま魔族のもとまで届き、魔族の肩を貫く。

 あーあ。


「ぐっ」

 魔族は肩を手で押さえながらもアンデッドを自身の前に配置する。

 数十体のアンデッドが俺に襲い掛かる。その間に回復する算段のようだ。


「やはり出てきて正解だったようだ。今の私では勝てないようだ」

 この魔族は力を見極めるのが上手いらしい。一合の殺り合いで実力差を理解するのは、俺的には遅いが、今の世界的に考えれば早いと言える。これは弱肉強食の魔族の国ならではなのかもな。その部分が虎人族の習わしに似ているところがある。それのお陰で虎人族は魔族と組んでも違和感なく居られるということなのだろう。


「そうかい。それで、逃げるのかい?」


「逃がしてくれるのか?」

 どうやら収穫は虎人の彼だけでは無かった。

 ここの太守の少年には悪いが、彼は俺がいずれ収集するとしよう。


「ああ、虎人の彼にも言ったが、俺はあまり希少な存在を消したくはない。次はもっと珍しい存在になって会えることを願おう」


「そう。私はもう其方とは会いたくないけど」

 それを最後にクルルトの姿は消えた。転移の魔術まで。良いものを見つけたようだ。

 俺は愉快な気持ちで余りのアンデッドの掃討戦が行われている領内に戻る。














なんとかようやく100部分まで……。

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