十話 創造神、奴隷を育てる②
「主様、お久しぶりでございます、このメネア主様のために粉骨砕身の思いで尽くさせてもらいます」
メイド服を着て現れた女性、メネア。
この子は俺が貴族にとらわれていたのを助け、生活ができるまで育てるつもりが俺に仕えるようになってしまい、眷族までになってしまった。
「メネアには、こっちの35人の武術の指南と家事の指南をお願いしたい」
「では、そちらの5人は?」
シオンのそばにいたタイタン、ウル、ゼノビア、ライドウ、そして椎名 摩耶たちはメネアの声にビクッとする。
「この五人は別だ。タイタンには鍛冶をやらせろ。 まぁ、種族的にドワーフなんだ、当然だな。次にライドウは、騎士団に入っていた経歴がある。別メニューで厳しくして良い。ウル、摩耶には、俺がこの世界で必要な知識を入れる。ゼノビアはエルフだ。ライドウ同様にエルフなりの訓練メニューにしてくれ」
話しているうちに日が落ちてき、今日はお開きにした。メネアは俺がちょっと40人分の食料を買いに行っている間に彼らに何か言っていた様子。
なお、食事はメネアが俺と奴隷40人分を作った。
ステータス
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[名前] メネア
[年齢] 332
[性別] 女
[Level] 484
[種族] ダークエルフ
[職業] 魔拳士
[HP] 51405
[MP] 20066
[力] 50903
[器用] 19865
[敏捷] 39628
[スキル]【家事LV.8】【奇襲LV.7】【武器破壊LV.4】【魔術破壊LV.1】
【教育LV.6】【索敵LV.6】【調教LV.4】【騎乗LV.4】【威圧LV.7】
【分身LV.6】【虚身LV.6】【隠形LV.5】【付与魔術LV.4】
【精霊魔術(風)LV.4】【暗殺術LV.9】【拳術LV.10】【拳王術LV.5】
【無詠唱LV.5】【立体起動LV.6】【闘極破天LV.4】【起死回生LV.5】
【敵性感知LV.7】【手負いの獣LV.8】【一騎当千LV.5】
[固有スキル] 【豪腕無双LV.6】
[耐性] 【魔術耐性LV.7】【物理耐性LV.6】【精神耐性LV.4】
[称号] 【真のメイド】【チャンピオン】【熟練魔術師】【創造神の眷族】
【竜殺し[成竜]】【魔物殺し】【行き過ぎた忠臣】【粉砕者】
【鬼教官】
[加護] 【創造神の加護】
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あと168年も生きていれば、種族がハイダークエルフになるだろう。
レベルもまだ一回も限界にまで到達していない。眷族の中ではまだまだ新入りな方だ。
・・・
翌朝、俺は家をメネアに任せて5人とBランク冒険者御用達の魔獣の森の奥に向かう。
全員が震えている。それもそのはず、魔獣たちがこちらを見ているからだ。
「お前たちにはここでレベル上げしてもらう」
「どうせ、私たちを肉壁として使うんでしょ。そっちのウルって子はスキルも何も持ってないみたいだし」
「確かにそうだ。鑑定で見たな」
【スキル 鑑定】は、スキルレベルが7以上になるとステータス画面が見れるようになりそれによって戦いのための情報が集めやすくなるため【鑑定】のレベル上げは一般のものよりも高く設定している。
この世界の生物の鑑定の最高位はレベル6までなのでまだステータスというものやレベルなどという世界のシステムを知らない。
ゼノビアが【スキル 鑑定】のLV.2で分かることは、鑑定対象のスキルの個数や称号、名前くらいなものだ。
「ええ、そうよ。だからそんな子を育てたって無意味でしょ」
ウルはゼノビアの言葉を聞き、うつむく。
俺の創り出した者が否定される。つまりは、俺の行いが否定されている。よって、俺自身が否定されていることにつながる。
「無意味? それをなぜおまえが決める? 彼女は何もないからこそこれから何者にもなれる。しかし、お前はもう既に弓兵でしかないだろ。彼女はこれから知識を得、理解したうえでなりたい者になる。氏族という集まりが悪いとは言わないが、閉鎖的空間で短絡的に武器の熟練を始めた種族とは違う」
知っている。視てきた。
神は常に進化を望んでいた。
シオンの急な怒りにゼノビアは黙る。
ゼノビアはシオン、いや、創造神アイゼンファルドとしての考えを理由も無く否定したのだ。些細な一言だった。しかし、アイゼンファルドの怒りの琴線に触れてしまった。
シオンも体は子供だが精神は子供ではない。ただ否定された程度ではキレないだろう。
古くからエルフは弓を使う傾向にあり、例に外れることなくゼノビアも主に弓を使っている。弓の才が無い者は、裏方に回され、酷い所では蔑まれたりする。
剣や槍を使う者もいるが、少数派だ。
ウルの職業無しの状態は問題だが、レベル1というのはさほど問題にならない。今の時代、一般人の平均レベルは5しかなかった。俺やメネアには一般人もこの時代の戦士も同じようにしか映らない。
「あのー、私はどうすればいいのでしょう?」
静観していた椎名が聞いてくる。
「椎名にはこれらを渡しておく」
そうしてシオンは椎名に剣、槍、盾、弓、斧を渡す。
「そんなにすごいものをけっこうな数すんなり渡していいのか?」
「いらないものだし、それでもここ程度ならあれ大丈夫でしょ」
タイタンが俺に話しかけてきた。
「タイタン、あれ打ってみたくないか?」
「したいです。何卒お願します」
ドワーフ族の酒と武器の作成への意欲は変わっていないようだ。
「跪かないでいいから。レベル上げを一通りやったら打ってみろ」
「うぉぉぉぉ、ありがとうございます! 儂は昔から物語にもなられた伝説の鍛冶師にあこがれていましてな。あの武器たちはまるでその鍛冶師が打ったかのように素晴らしい一品です」
そんな話をしながら、魔獣を狩っていく。
俺が魔獣に魔術や刀で傷つけ、最後にゼノビアたちに倒させる。パワーレベリングである。
休憩を開けたところでしていると、椎名が木陰で
「あなたは何なのですか?あなたは私が異世界人だと知っていますね」
「ふむ、どうしてそう思った?」
「私は生前会社というところで働いていまてね。そこではかなりブラックで、――ブラックというのは色のことではなく、――「知ってる」 そうですか。まぁ、人間関係が色々あるところでしてね、私は人の感情がだいたいなんとなくわかるようになりました。そして、あなたからの視線とかでわかりましたよ」
「今回の勇者は悪い存在ではないようだ。そうだな、俺は椎名 摩耶、お前を知っている。だが別にどうする気もないよ」
「やっぱり勇者だってこともわかってるんですね。私はけっこう本を読む方でね、その本ではこういう時って勇者は利用されるもんなんだ。それでどうせ陵辱されちゃったりしてー、鬼畜的なことをするんでしょ! はぁはぁ」
一度目の死を迎える前──つまりは『前世』での彼女は、ライトノベルや薄い本を好んで暇さえあれば本を開き、そうでなければネット小説を愛読する会社員であった。
魔法という空想の中でしか登場しなかった存在が実在することに狂喜乱舞したほどであった。
しかし、あったのは、絶望だった。
神と名乗るものに会い、この世界に降り立ってその世界の人に騙され、奴隷にさせられた。転生して早々、死にたいと思っていた。
だけど、今は別。私は、全てにおいて完璧なショタに養われている。仕事はしなくちゃ、メネアさんに怒られるけど労働時間も管理されて残業は無い。
素晴らしき異世界ライフ。
ここには二人だけでメネアに怒られる心配がないと、摩耶が段々と言葉を崩して敬語を止め、自由な喋り方になる。
本当になにもする気はないんだけどなぁー。
「俺が何なのかは強くなれば教えてやる。俺を飽きさせない存在になれば、な」
「じゃあ、せめてなぜ和服を着ているのか教えてください、リアル牛若丸さん」
「ふふふ、俺もその世界にいたことがあるからだ。これはその時に気に入った服でな。それと、源義経は実在した人物だからリアルなんて言わないんじゃないか?」
幼年期の彼には今の俺の姿は多少似通ってはいるな。
実際に会ったら、彼、ではなく、彼女、だったが。男勝りな性格をしていたから勘違いされていたのだろう。
「あなたも異世界人なんですか?!」
「さてな」
・・・
「ウル、お前は何になりたい」
「ウル、神様になりたい!」
む、驚いた。まさか神とは。
「どうして神になりたい?」
「困っている人、助けたい」
「それは神でなくともできるのでなないか? 例えば聖職者であれば治癒ができる。戦士であれば魔物から人々を守れる。生産職であれば人の暮らしを手助けできる」
まず彼女が何をしたいのか聞き出さなくては。神には、成長していけば成れるかもしれない。だが、その前にそもそも何がしたいのか、どのような存在になりたいのかを決めなければならない。
「? ウル、わからない」
おそらく彼女は【称号 先祖返り】という称号でステータス値に表れない強靭な力を恐れられ、碌に他者と関わりが持てなかったのだろう。
「そうか。ではウルよ、勇者になってみないか?」
聞き耳を立てていた全員が驚いた顔をしていた。
「勇者ならば治癒・狩り・物作りができる」
俺はただ子供のウルにわかるよう簡単に説明する。
「それがいい、ウルそれがいい」
「ちょっとあんた、子供に何を言っているの?! 勇者になんかなれるわけないじゃない!」
「何を言っている? 勇者になれない、だれが決めた? 弱いから無意味、だれが決めた? それを決めるのは、ウル次第だ! それに俺は無価値なものなど決して使わないし、創った覚えなどない」
シオンは威圧を含めてゼノビアに視線をむける。
「っ!」
ゼノビアは強烈な威圧に怯むが、創るという意味はわからなかった。
「まぁ、でも、その気持ちはわからんでもない。だが、そんなお前も弱者であることを忘れるな」
一人シオンをずっと見続ける男、ライドウは黙って事の顛末を見守っていた。
そして、レベル上げがだいたい終わって家に帰ると、
「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」
35名のメイドがきれいに並んで立っている。
奥にはメネアがいた。
「主様、お帰りなさいませ。本日はこの程度までしか仕上げられませんでしたが、明日からより一層メイドの質を上げてまいりますので、ご容赦を」
メネアは頑張りすぎるからなぁ。メイドたちがメネアを怖がって見える。
「あー、もういいんじゃないかな」
「そうですか、ではあとは私が彼女たちのレベルを上げておきます」
「やりに行くならゼノビアたちも連れて行ってくれ。明日からは用事があるのでな」
「かしこまりました」
「お迎えに参りました。私は王城で執事をさせてもらっています、ヘイデスと申します」
家の前に馬車が止まっていた。おそらくイスタールが用意してくれたものだろう。
「ご丁寧にどうも、俺はシオンです」
「では、学園に馬車でお連れ致します」
馬車にゆられながらいると、道中には魔物やら盗賊やらがいたが、俺は壊滅させた。
そんなこんなでアヴァントヘルム学園都市についた。
王城からの馬車ということで長い列を回避し、検閲を素通りする。
そこは学生中心の街だった。カフェなど飲食店や娯楽施設が存在した。
そのまま学園へ向かい、学園長と顔合わせをする。
「ようこそ、アヴァントヘルム学園へ。私は学園長のグランバルトだ。
今回は王子と王女の護衛とのことですが、学園に入るには誰でも試験を受けなければなりません。その点はすみませんが、学園は平等ということですので、試験を受けてください」
「わかりました」
「では、試験の説明をさせていただきます。まず、筆記試験があります。内容は魔術陣や算術、読み書き、歴史などになります。続いて実技試験では実力の試験となります。質問はございますか?」
「いいえ、ありません」
「そうですか。では、こちらの部屋で筆記試験となります」
『魔物が50匹いました。冒険者は10匹ずつ狩りました。冒険者は何人ですか?』 や、
『この下に書かれている魔術陣を解読しなさい』
なんだこれ? これは――――簡単すぎる。はぁーー、勉学の質さえもさがったというのか。
歴史に至っては誰でもわかるような問題だった。
いや、これはあえて誰でも入れるように簡単にしているだけのはず、学生はもっと賢いはずだよねぇ。そうだといいなー。
最後の魔術論だってこれが出来なきゃ魔剣さえ作れないことになる。
この簡単すぎるテストをちゃちゃっと終わらせたのだが、試験官に見せたところ、
「もう終わったのか?! はやすぎるではないかっ! 魔術についての問題もあったはずなのに」
試験官が落ち込んだ様子だがシオンの目には入らなかった。
次は実力の試験だ。
称号 チャンピオンは拳士の上位職です。
拳士<ソルジャー<熟練拳士<グラップラー<チャンピオン<拳聖
レベル上限は1000までです。
【スキル 手負いの獣】:デバフの数によって自身にバフをつける。
職業は就いているものに沿って効果が変わる。
職業 拳士、称号 チャンピオン なら拳士系統のスキルが獲得しやすい。称号で職業の強化。チャンピオンでは、拳士の能力を40%アップ。