1-1 奈落脱出劇 1
いつもご覧頂きありがとうございます。
さあ干しイカも本格的に始まります!
...お願いします、誰かもっとマシな略称考えてください。
前回のあらすじ。
僕はあの神しばいてやると決めた。
「いやそれあらすじじゃないから!粗いだけだから!」
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猛獣の唸る声が聞こえる。間近で。
「のわぁぁぁぁ!?」
そこで双頭の犬が口を開けてたとこを思い出して、慌てて飛び起きた。
「グルルルゥ...」
「え、生きて...いやうん待って。背後からやばい声が聞こえるんだけどマジで待って」
恐る恐る後ろを向くと、そこには目を開いてこちらを凝視している犬の姿があった。
さよなら、僕の3度目のライフ。
「...くわぁ」
「に、逃げ」
パクっ
「ふんっ」
「え」
いきなり立ち上がった犬は欠伸をすると唐突に僕を咥えて上に放った。
推算、上空10メートル。受け身とっても無事じゃ済まなそうな高さなんですが。あれ、僕こんなとこで死ぬの?
トンッ
ポスッ
「ふぇぇ...え?あれ?生きてる」
視界が高い。どうやら犬の背中に乗っているらしい。
「ってええええええ!?」
犬が走り出す。前から来る風に煽られながら必死に首の毛を掴むと、さらに速度があがった。
「な、なん...うえええ!?」
なぜ犬が走り出したのかがよく分からず、振り向いた先にはいつの間にか小さな鳥が立ってこちらを見ていた。
あれ、コカトリスでは?
説明【コカトリス】
地球でいう、鶏のような姿をしたモンスター。その視線に捉えられたものは、全て石となる。魔王は一度石化して、呆れられながら勇者一行の祈祷師に治してもらったことがある。
「ああああやばいやばいやばい!!お犬様!あれやばいから速度上げて!!」
「がうっ!」
意思疎通は出来たらしく、さらに速度を上げる犬に体を伏せて掴まる。
『スキル【危機感知】が反応しています。5秒後、対象は右半身』
「お犬様、左に!」
「ばうっ!」
左側の顔が吠え、犬はそのまま左に横っ飛びした。瞬間、ポケットから落ちたらしい小石が灰色に染まり、崩れ落ちるのが見えた。
「バカじゃないの!?死ぬよ?何ここ余裕で死にかけるんですけど!?」
「がうがうっ!」
「ばうっ!」
犬が吠えて僕に危険を促してくるので、振り向く。と、コカトリスがすごい速度で走ってきているのが見えた。鶏の姿とはいえさすがモンスター...あれ絶対某ボルトさんより早いと思う。
「これ逃げてたらキリなさそうだなあ...」
「がうっ!」
「グルルル...ばうっ!」
ピコンッ
『スキル【テイム】の発動を確認。モンスター : オルトロス をテイムしました』
「て、テイム!?っていうかオルトロスってあのオルトロス!?」
前の世界では、魔王城の近くにあったダンジョンでボスを務めていたモンスターだ。確かレベルは...およそ70!
説明【オルトロス】
魔王軍の最年少にして最古参の幹部。ふたつの頭を持つ巨大な犬のモンスターで、それぞれの頭に人格が宿っている。対勇者戦では、人類軍決死の大魔法を魔王の代わりに受けて死亡した。
「よし、行くよオルトロス!あのクソ鳥をぶっ飛ばす!」
「「グルゥ!!」」
急回転するオルトロスに振り落とされないように掴まり、顔を上げる。
コカトリスが、こちらを見ていた。
「オルトロス!!」
「がうっ!」
「ばうっ!」
僕の呼び掛けに応え、地を蹴るオルトロス。瞬間、足元の地面が砂になって崩れた。
「...はっ、一瞬意識飛んだ!とりあえず、あいつに見られちゃダメだ!止まらずにあいつ倒すしかない!!」
「ばう」
「がうがうっ!」
「ばう」
「ん?」
ピコンッ
『オルトロスが【獣語疎通】の使用許可を申請しています。許諾しますか?』
「じゅ、獣語疎通!?きょ、許諾!」
「ご主人!あたしにいい考えがある!」
「おうっ!?」
突如、右の頭が女の子の声で喋り始めた。さすがに驚くわ。と、驚いてる暇がないことを思い出して、できる限り真剣な顔をする。
「あのコカトリス、あんまり当てるの上手くないみたいだし、岩の欠片とか飛ばせば目くらましになるんじゃないかな?」
「なるほど、あいつがそれを石化?...っていうか砂化させてる間にとどめさすって感じか」
「そゆこと!」
「お姉ちゃん、来るよ」
また知らない声がした瞬間、視界が上に飛び上がる。違う、またオルトロスが跳んだのか。
「これじゃ埒が明かないし、やるしかないか!オルトロス、そこのでかい岩をぶち壊せ!」
「「了解!!」」
また視界が加速する。と、指さした岩の目の前にいた。速すぎるだろこいつ。
「よっこい!」
「しょー」
「のわぁぁぁぁ!?」
目の前の岩が砕け散り、その欠片は見事コカトリスに飛んでいく。
「行っくぞー!」
「あいあいさー」
「頭突きするなら先に言え!!ってうわぁぁぁっ!?」
こちらの忠告を聞くことなく、コカトリスに真正面から突っ込んでいく。と、危険察知スキルがアラートを鳴らす。対象は半径70cm圏内。
────まさか、石化の視線を広げてきた!?
猪突猛進するオルトロスを転生したばかりの僕が止められるはずもなく、範囲へと突き進んでいく。
「ああもうどうしろと!!」
『スキル【危機感知】が反応。対象、全身。5秒後』
死ぬ。オルトロスは無事かもしれないけど、レベルが20しかない僕は余裕で死ぬ。
こんな所で終わるのか?僕は、彼女と再会せずに終わってしまうのか?
瞬間、生前神様が言っていたセリフが脳裏を過ぎった。
『他人の強くてニューゲームってサクサク進むから面白いよねー』
「...ッ!!ステータスオープン!!」
ヴンッ
探せ、必ずあるはずだ。あの神様が転生させてきたなら、前世で育てたスキルはそのままのはず...
『影魔法 Lv100』
「あった!!【潜影】ッ!!」
ドプンッ
「あれ!?」
「っ?」
オルトロスが驚く声が聞こえる。が、姿は見えない。影魔法、【影隠れ(かげがくれ)】の上位派生スキル。それがこの【潜影】だ。影隠れと違って、対象は自分だけではない。自分が触れている生物を連れ込むことが出来る。
「よし、コカトリスの真後ろに出すから、一撃で仕留めること!」
「これご主人がやったのか!すごい!」
「任せて」
どうやら知らない声は左頭らしい。ズレてる右頭を姉と呼んでいたから右が姉なのだろう。
「出すよ!3...2...1...今っ!」
黒に包まれた世界が光で溢れる。それは外に出たということであり──────目の前にはコカトリスの後頭部が見える。
「いけぇっ!!」
「「グルルァッ!!」」
「コケーッ!?」
オルトロスの爪が、コカトリスを引き裂く。その爪は見事コカトリスの心臓部分への一撃となり、コカトリスは灰となって崩れ落ちた。
断末魔「コケーッ!?」って...まんま鶏じゃねえか。揚げたら美味しいんだろうか。
「やったー!」
と、オルトロスが飛びついてくる。
「ちょっ、重い重い!待って、僕死ぬから!その重さはさすがに僕死ぬから!!」
僕よりも大きい犬が飛びついてきたら死にかけるに決まっている。特に大型犬のサイズ×2以上の大きさなのだから、余計に死亡率が上がっている。
「お姉ちゃん、この人死にかけてるから」
「え、嘘ごめんご主人!」
「ご、ゴメンで済んだら警察はいらないんだよなあ...」
死因:契約獣による圧殺 とか嫌すぎるだろ。
「ケイサツって何ー?」
「知らんのかい!...って当たり前か」
ここは異世界。警察なんていないし、いても警備隊とかなんだろうなあ...レベル70のオルトロスにワンパンされるくらいの強さの。
なんで知ってるかって?いや、オルトロスの練習台になるかな、とか考えてけしかけたら警備隊全滅しちゃって焦ったってソンナコトナイヨ?急いで回収したとかソンナコトモナイヨ?なんか数ヶ月黒い巨大な犬が討伐依頼に出てたとかソンナコトモナイヨ?
さて、なんの覚えも無い記憶がカットインした気がしたが気にせず、改めてオルトロスを見る。
やはりでかい。今の僕が何センチくらいか分からないが、前世でレベル20の時は確か160ちょいくらいだった気がするので、多分2メートルくらいあるんじゃないだろうか。大型犬の2倍サイズでは到底収まりきらない。
「オルトロス、ここってどこか分かる?」
「わかんなーい!」
「私たちも気づいたらここにいたし」
「はえー。じゃあいつかは分かる?」
「わかるー!」
「本当に謎だけど」
オルトロスは声を合わせて言った。
「「魔王歴、978年」」
「...今なんて?」
何が転生だあのクソガキ。今頃腹抱えて笑っているであろうことが予想できる。殴りたい。
「ま、魔王歴978年って言ったな?」
「うん」
「そう」
ではここで、魔王レンの記録を思い返してみよう。
─────魔王歴978年。鷹宮練及び松野高校2年6組は、王都レヴューテに勇者として召喚される。
そして、唯一魔族になってしまった練はクラスメイトとの奈落探索中に取り残されて、
「「?」」
オルトロスに出会うのだ。
「行くよロスちゃん!」
「...私たちは、レン様のために」
次回、奈落脱出劇 2。