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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第二章
8/21

誤解と予測と転送

「ーーだからね。気持ちはわかるけど、あまり無責任な発言をすることは却って相手を傷付けることに繋がるんだ。今回は事情が事情だから俺も目を瞑るけど、次からは気を付けて発言するように」

「はい。すみませんでした・・・」


 夜の静かなコロン村の中央広場には、正座の構えをとるアヤメと、仁王立ちのまま呪詛のような説教を垂れるレイの姿があった。

 ちなみにキータは付き合ってられないと早々に家へと戻っている。


 長い長い、それは始業式の校長先生の話のように長い説教を喰らったアヤメは、やっと終わったのかと軽くため息をついて立ち上がろうとするが、長い正座の弊害、足の痺れに苦しめられる。


「おや。何をしているのですか?」


 すると背後からレイ達に声をかける人物が。

 後ろを振り向くとそこには怪訝そうな顔でレイを見つめるジークがいた。何故か警戒したような視線をレイに向けるジーク。警戒されるような真似をした記憶の無いレイは軽く首を傾げるが、ジークの次の発言により、多量の冷や汗を掻かされることになる。

 

「他人の趣味をとやかく言うつもりはないですが、さすがに外と言うのは。マリー様や他の方もいます。出来れば室内でお願いしたい」


 ジークの苦言が何を示しているのか気付いたレイは後ろにいるアヤメを見る。

 アヤメはいまだに足の痺れが抜けていないのか、四つん這いで腰を抜かしたようにプルプルと足を震わせていた。


「いや! 違いますよ! 違いますからね!」


 その後、ジークの変態を見るかのような視線に耐えながら、必死にこれまでの経緯を話し、弁解したことで謂われなき誤解をなんとか解いたレイ。

 足の痺れが抜けて、現在は普通に歩けるようになったアヤメの顔が何故赤いのかは推して知るべし。

 

「すみません。どうやら妙な誤解をしてしまったらしい」

「いえいえ。確かにあれでは誤解を与えてしまっても仕方ない。説教の仕方を考えるべきでした」

「しかし、人間牧場ですか。何とも不愉快な話です。マリアにいた住民の代表からも話を聞いたが、そんなことは一言も話していなかった」


 人間牧場という言葉に顔を僅かに顰めるジーク。やはり同じ人として何か思うところがあるのだろう。そのまま黙りこんでしまう。


「あっ! そういえばジークさんは何故夜中にこんな所を歩いていたのですか?」


 暗い雰囲気に耐えかねたレイは咄嗟の機転で話題を変えようと、ジークが何をしていたのかを聞く。


「あぁ。いくらガードクリスタルに守られているとは言え、人間相手には意味のない代物ですから。先の襲撃があってから、見回りをするようにしているんです。後そこの少女にも用があった」


 ジークはそう言って、未だに茹で蛸のようになっているアヤメへと視線を向ける。


「ウチですか? 一体何の用です?」

「あなたも兄を探していると聞いて少し気になったんです。うちにも妹を探している奴がいるからとても他人事とは思えなくて。マリアは最大規模を誇るレギオンです。その分プレイヤー数も多い。もしかしたら何か助けになれるかと思ったんですが」

「それはわざわざありがとうございます。ウチも正直兄のゲームキャラについては詳しくないのですが、多分兄貴の性格からして、サスケだったかコタロウだったかそんな名前を着けていると思います。あと縛りプレイが大好きなんで、何かに特化したステータスとかになってると思うんですが・・・これくらいしかわからなくて」


 アヤメはレイには見せたことのない殊勝な態度でジークに感謝を伝える。

 ジークはアヤメからの情報で何やら考える素振りを見せた後、軽く頷くとアヤメを安心させるような優しい声色で声をかける。


「いや。充分貴重な情報です。私達のレギオンの傘下に『武士道』と言われる、全員が戦国武将の名前をキャラネームにしているレギオンがいます。そこでならもしかしたらお兄さんのことを知っている人物に出会えるかもしれない」

「確かに兄貴はその時代が大好きで良く『無双だぁ!』とか『我こそは戦国一の武将なり!』とかゲームしながら叫んでました。マリアに着いたらその『武士道』というレギオンの方に会ってみようと思います。ジークさんありがとうございます!」


 殊勝な態度のまま、しっかりと頭を下げて礼をするアヤメを尻目にジークは見回りに戻った。


「良かったね。もしかしたらお兄さんの居場所がわかるかもしれない」

「そっそうね。 じゃっじゃあウチは誰かさんのせいで疲れたからもう休むわ!」


 アヤメは先の疑惑がまだ尾を引いてるのか、レイの顔を見ようとせず、更に誤解を与えそうな言葉を残して足早に家へと戻っていこうとする。


「あっ! アヤメちゃんちょっと待って!」

「えっ!? 何よ・・・」


 物凄い嫌そうな顔をしながら振り替えるアヤメ。


「いや色々あって忘れてたんだけど、今後の事について相談したいことがあってね。後でキータ君達にも話すけど先にアヤメちゃんにだけ話しとこうと思って」

「えぇ~。レイさんがウチ達に相談しないといけない事とか厄介な匂いしかしないんだけど」

 

 レイはアヤメ達と別れた後に起きた事、マリーが「慈悲王」であり、そのマリーを排除しようとする動きがある事、それにアロスと呼ばれる男が関与しているのではないかとレイが思っていることをアヤメに話す。


「あのか弱そうな人が『慈悲王』だったんだ。それで『慈悲王』を亡き者にしようと何者かが動いているのではないかとレイさんは考えてるわけね」

「あくまでも仮説なんだけどね。転移して4日しか経ってないことを考えれば準備も難しいし、たまたまPKプレイヤーがいたって事も考えられるけど、もし相手が4日でマリーさんを排除する作戦を考え、それを実行に移せるような者達なら」

「林の襲撃だけで終わる訳ないって言いたい訳ね。目的はわからないにせよ、『慈悲王』が死ねば都市マリアが荒れるかもしれない。その点も踏まえてウチ達にどうしたいか聞きたいってとこかな?」


 レイが言いたいことをズバリ言い当てるアヤメ。プレイヤーとしてはまだまだレベルも低く、技量も足らないアヤメであるが、こういった部分での洞察力には目は見張るものがある。

 

「さすがアヤメちゃん。説明の手間が省けて助かるよ」

「ウチ達の意向はキータ達にも話してからになるとして。それでレイさんはどうしたいの?」

「出来ればマリーさんを助けたいかな。命の危機があるってわかってる状況で知らんふりはさすがにねぇ」

「さすがはレイさん。阿修羅からわざわざ私達を助けようとしたくらいだもんね。そりゃ助けようとするよね」


 アヤメはうんうんと何度も頷く。そんなアヤメの頭にある疑問が浮かんだ。


「そういえば、何で『慈悲王』は自らソーラまで救助に来たんだろ。『慈悲の心』は数あるレギオンの中でも最大規模を誇るレギオンよ。他にも有力プレイヤーならいたでしょ。いくら幹部の妹だからって、生きてる可能性が低い者を助けるのにリーダー自ら出向くってなんか不自然じゃない?」

「そうなんだよねぇ。当事者であるアロスが率いて救助に行くなら理解も出来るんだけどね。こればっかしは本人に聞かないとわかんないことかな」


 顎に手を当て難しい顔をするレイ。このまま考えても埒が明かないと考えたレイ達はひとまずキータ達にも相談しようと家へと戻った。








ーーーーーーーーーー



 その日の深夜。

 

「それで? あのプレイヤーについて何かわかったか?」


 コロン村から一番近い場所にある森の中で、複数の人影が密談を交わしていた。


「それがさっぱり。頭に聞けば何かわかるかもしれませんが聞くことは出来ませんし。今わかっているのはソーラから新人プレイヤーを連れてマリアに向かっていた者ってぐらいしか・・・」

「ちっ。使えない野郎だな。簡単に『慈悲王』を殺れるっていう話だったから、頭に黙ってこの話を受けたのによ。あれがもし『慈悲王』に付いていくならやっかいなことになるぞ」


 苛立たしげに舌打ちを打つのはリーダー格と思われる男。

 先の林での戦い。たった一人のプレイヤーによって戦況を大きく覆された。

 周囲を取り囲み、狙撃兵が狙うポイントまで「慈悲王」を誘導。そこまでは完璧だった。

 しかしBK250に乗ったプレイヤーの狙撃とBK250を爆発させるという奇襲により「慈悲王」を包囲していた隊列は崩壊。

 それだけで無く、狙撃兵の圧倒的優位な戦場から「慈悲王」を助け出した。

 もしあのプレイヤーが「慈悲王」の護衛に回るようなことになれば、「慈悲王」を仕留めるどころか、こちら側が殺られる可能性もある。

 ただでさえ用意していた25人の人員のうち半分以上である15人が、戦闘不能もしくはあのプレイヤーの戦いぶりを見て逃げ出してしまっていた。

 のこり10人で「慈悲王」だけでなくあのプレイヤーまで敵に回すことは避けたい。

 

 そんなリーダー格の不安を察したのか、先ほどまでコロン村に偵察に行っていた男は、入手した情報をリーダー格に伝える。


「それについては大丈夫だと思います。あのプレイヤーには『慈悲王』への接触禁止を言い渡しているらしく、ソーラに着いて行くことは絶対ないらしいです」

「そうか。だが念には念を入れるべきだろう。ザグ、お前はあのプレイヤーを見張ってろ。もし俺らの邪魔になるようなら始末しても良い」

「えっ!? 俺っすか? まぁ人を殺れるなら俺は誰でも良いですけど。でも『慈悲王』と側近の守備兵の子は俺が来るまで待っててくださいよ? どうせすぐには殺さないんでしょ?」


 ザグと呼ばれた男は下卑た笑みを浮かべながら、愛用のハンドガンを手元でクルクルと回す。


「わかってるよ。お前の分はしっかりと残しといてやるから。まぁお前がちゃんと仕事をこなしていればだがな。そう考えるとあの時狙撃から「慈悲王」を守ったあいつには感謝して良いかもしれねぇな!」


 ザグだけでなく、その場にいた全員の下卑た笑い声が森に響く。


「襲撃は『慈悲王』がソーラの隠し通路を出た時だ。お前ら抜かるなよ」






 

ーーーーーーーーーー


 

 翌日の正午。

 日が高く昇ったコロン村には大きな背伸びをするレイの姿があった。

 昨夜キータ達にも話をしたレイ。

 さぞかし不安な思いにさせるのではないかと思っていたレイの予想に反して、キータ達から返って来たのは以外にもあっさりとした反応だった。


「レイさんがやりたいようにすれば良いと思います」


 話を全て聞いたキータが発した最初の言葉である。


 それを聞いたレイはキータ達が話の内容を理解していないのではと、マリーを救出しようと動くことで起こりうる危険性を再度説いたが、キータ達はそれを理解した上でレイの好きなようにすれば良いと返答した。


「レイさんが助けたいと思ったのであれば、それは助ける必要があることなんだと思います。僕達はそんなレイさんに助けてもらったんですから」


 キータを含めた全員から誇らしげ見つめらたレイは、こそばゆいやら恥ずかしいやらで一言「ありがとう」と返すのが精一杯だった。


 結局全員がマリーを助けることに賛成してくれたことで、レイは接触禁止であるマリーにアロスの事を話そうと決断。

 翌日、マリー達の休んでいる家へと向かおうとしていた。


 (あぁ~昨日は何て切り出そうか悩んで、寝るのが遅かったからな。アヤメ達も起こしてくれたら良かったのに・・・。さてさて。今からどうなることやら)


 念の為にアヤメ達はヒノにお願いしてヒノの家の裏にある倉庫に避難してもらっている。

 アロスやジーク達がもしレイを敵だと認識すれば、アヤメ達までその疑いをかけられるからだ。

 レイの事を勇者だと思っているヒノはレイの申し出を快諾。興奮気味に「私の命を捨ててでもアヤメちゃん達は守ります」と両手で握り拳を作っていたので、レイは「ヒノさんの命を第一に考えてください」と落ち着かせるのに苦労した。

 

 実は勇者だと思っているレイから優しさ言葉をかけられたヒノは、落ち着くどころか更に役割を全うしようと密かに使命感を燃やすことになっているのだが、レイはそれに気付いていない。


 村の中央広場を抜けて、マリー達のいる家に向かっていると、ジークを含めた5人のプレイヤーが、家の前まで集まって何やら話をしていた。


「本当に大丈夫であろうか」

「しかし、マリー様の意思は固かったからな」

「そうだが、止めるべきだったのではないか?」


 口々にマリーを心配する内容の話をする「慈悲の心」のメンバー達。

 何事かとレイがジーク達に近寄ると、ジークがレイの姿に気付く。


「おやどうかしましたか?」

「あの大変申し上げにくいのですけど、マリーさんに至急伝えたいことがありまして。あれならアリシアさん伝手でも良いので、許可をもらえないでしょうか?」


 レイのマリーに伝えたいことがあるという言葉に、一瞬目を細めるジークであったが、すぐに表情を戻すと首をゆっくり横に振る。


「すみませんがそれは出来ません」

「やっぱり俺が怪しい見た目だからですか?」


 レイが少し落ち込んだ素振りを見せると、ジークは怪訝そうな顔をした後、ハッとした顔に変わると咳払いを一つする。


「あの時は大変失礼なことを。そうではなくマリー様もアリシアも既にコロン村にいないのですよ。日の出と同時に出発致しました。移動兵器で向かっているので、今頃は中腹辺りまでは着いているかと」

「そっそうですか。それは仕方ない」

 

 既にマリーがソーラに向かっていると聞いたレイは内心焦りながらも、平常心を保ちながら残念そうなフリをする。


 (まさか日の出と共に向かっているとは考えてなかった。多分車型の移動兵器を使用しているんだろうけど)


 レイの頭の中では既にマリーは何者かに命を狙われているのは確定している。そしてアロスがそれに関与していることも。

 しかもマリー達は半分の人数である5人。またあの時のような襲撃に会えば間違いなく助からないだろう。


「どうかしましたか?」


 目の前で黙りこくったまま、顔を僅かにしかめるレイの姿を見かねて、ジークが声をかけてくる。


「いや何でもないです。王の名を冠するプレイヤーに会ったのは初めてだったので、最後に挨拶をと思ったんですが」

「そうだったのですね。ではもうマリアに向かわれると?」

「準備を終えてからになるので、すぐにではないですが。準備を始めると慌ただしくなると思い、前もって挨拶だけでも済まそうと思っていたんです。けれどもソーラに向かわれたのであれば仕方の無いことだよねです。マリーさんが帰ってきたらよろしくお伝えください」


 挨拶をしたかったと聞いたジークは何処か安堵したような表情になり「必ずお伝えしときます」と返事をすると、踵を返して仲間の元へと戻っていった。













「もう出発した!? 『慈悲王』は何を考えてるの!? もしかしてただの馬鹿なの!?」


 倉庫にアヤメの驚愕の声が響き渡る。

 相手はZWに10人しかいない名プレイヤーであるのだが、そんなことはお構い無しにマリーを罵倒するアヤメ。


「正直、襲撃に合った次の日に応援も呼ばずにソーラに行くとは予想してなかったよ」

「予想も何も、ウチには『慈悲王』が自暴自棄になっているようにしか見えないわ!」

「アヤメちゃん凄い怒ってないかな・・・?」


 何故か怒ったようにマリーのことを強く非難するアヤメ。レイがアヤメの発する怒気にたじたじになっていると、隣にいたキータがその理由について小声でレイに伝える。


「レイさんが助けようと動いてるのに、当の本人が危機感のない行動をとっていることが気に入らないんですよ」

「キータ。あんたまた余計な事を言ってないわよね・・・?」


 素早い動きで銃口をキータの顔面に向けるアヤメ。


「ちょちょっと! すぐに銃口を向けないで下さいよ! 間違って発砲でもしたらどうするんですか! てか少しは素直になったらどうなんですか!? ツンデレとか今時流行らないです! 古いです!」

「誰がツンデレよ! てかウチが間違って発砲するとか、それウチがアホだって言いたいのよね!? いいわ! その喧嘩買ってあげる!」


 この数日でめっきりたくましくなったキータとツンデレ少女のアヤメがメンチを切りあう。

 

「ちょいちょい。それ以上は洒落にならないから」


 レイの制止により矛を収める両者。アヤメはいまだ顔を赤くして怒っているようだが、キータはそんなアヤメを見ようともせず、即座に頭を切り替える。


「『慈悲王』が既にソーラに行ってしまっているとなると、話をするってのは無理になりましたね。レイさんはこの後どうするつもりなんですか?」


 キータは試すような視線をレイに向けながら、今後の動きについてレイに聞いてくる。


「うーん。もちろん後を追ってでも助けた方が良いとは思ってるんだけど。それが中々難しそうなんだよね」

「残った『慈悲の心』のメンバーね」


 キータへの怒りを何とか静めたアヤメがレイの懸念を代弁するように呟く。


「もし無理にでもソーラに向かおうとすれば、あの人達に見つかるもんね。泊まってる家は丁度ソーラ側に一番近い家だし。迂回して行こうにもソーラへの方角は見晴らしが良すぎてすぐに発見される可能性がある。もし『慈悲の心』に睨まれるようなことをらすれば最悪マリアに入れなくなるかもしれないし」

「正直に話すという手は駄目なのでしょうか?」


 キータがジーク達に事情を説明するのはどうかと案を出すが、アヤメはそれを即座に否定する。


「それは駄目よ。『慈悲の心』ってレギオンはね、質の悪い宗教法人みたいな側面があるのよ。確かに新人プレイヤーや困っているプレイヤーを助けるレギオンではあるけど、自分達の意にそぐわないプレイヤーには酷く冷たいのよ。排他的って言うと言い過ぎだけど、身内を大事にするレギオンだから、その人達にあなた達の仲間が裏切ってますよなんて言えば、間違いなく衝突が起きるわ」

「僕と同じ新人なのによくそんな事知ってますね。しかも妙に実感がこもってるような」


 何故か経験談のように語るアヤメに首を傾げるキータ。


「一時期、兄貴が『慈悲の心は何で俺のZW楽しみ方が理解出来ない! どう楽しもうと俺の勝手だろう』って毎晩ご飯の時に叫んでたから気になって聞いたことがあって。そしたらやれあいつらは身内贔屓が凄いとか、集団でよってたかって俺が悪いと言ってくるって悪口が凄くてね。それがあってゲームを始める前に少し調べたのよ」


 アヤメは思い出したくないのか、眉間を強く押さえながらその時調べた情報を話す。


「じゃあ『慈悲の心』の人に説明をして助けに行くというのは難しいね。どうしたもんかね」

「もう、レイさんの実力で全て解決! 強硬突破作戦! で良くない? 『慈悲王』助ければ『慈悲の心』は荒れることも無いし、むしろリーダーを救ったなら厚待遇でマリアに迎え入れてくれるわよ。レイさんなら余裕で助けられるでしょ?」

「信頼してくれてるのは嬉しいんだけど、強硬突破をするとアヤメちゃん達が危険になるかもしれないからね。俺としてはそこは譲れないな」

「つまり『慈悲王』を助ける為には『慈悲の心』の人達にバレないようにコロン村を出る必要があるということですね。ふむふむ・・・」

「キータ何か気持ち悪い顔してるわよ」


 レイとアヤメが良い案が浮かばず顔を顰めている中、キータ一人だけが、なんとも言えないニヤケ面を晒していた。


「ばれないようにコロン村を出なくてはいけない。けれども見晴らしが良い高原では見つかってしまう。困りました。ああ困りました」

「キータどしたの? 何かキャラ変わってない?」


 大袈裟に身振り手振りをつけながら落胆した様子を演出するキータにアヤメはヤバい奴を見るような目を向ける。


「あっという間に高原の先までいければバレずに助けにいけるのに・・・」


 アヤメのジト目を気にすることなくキータはそのまま演技を続ける。


「何処かにそんな便利な物があれば。でもそんな都合が良いことなんてーー」

「ああああ!! もったいづけないで早く言いなさいよ!! あんたいつからそんな生意気になったのよ!!」


 キータのあまりに長ったらしい下手くそな演技に、痺れを切らしたアヤメが青筋を浮かべながらキータの額に銃口を当てる。


「わっわかりましたよ。実はレイさん達の悩みを解決する方法が僕にはあります」

「それは本当かい!? もしそうなら是非教えてほしい!」

「見栄張るんじゃないわよ。知識も技量もないあんたがどうやって解決するのよ」


 アヤメはキータの言葉を全く信じていないようでジト目をキータに向ける。

 しかしそんな視線ぐらいなんのそのとキータは自信に満ちた笑みを浮かべる。


「まず僕の兵種は何でしょう?」

「え? いきなり何よ。キータの兵種は機械兵でしょ?」


 急にキータの兵種について聞かれたアヤメは怪訝そうな顔で答えを返す。


「そうですね。そして機械兵の一番代表的な専用兵器は?」

「そうね。色々あるけど一番って言われたらやっぱりポータルじゃない? ・・・ってあんたもしかしてあの時言ってた事を実行してたの!?」

「少しでも力になりたいと、勢い余って・・・」


 アヤメは怪訝そうな顔から一転、口を半開きにしたまま驚愕した顔になる。


「話が見えてこないんだけど、教えてもらえないかな?」


 二人が何の話をしているのかがわからないレイが説明を求める。


「実は僕今ポータル使えるんです。森を抜けてレイさんと別れた時に、自律兵器スキルに残ったスキルポイントを全部注ぎ込んだので」

「えっ!? なんでそんな事を?」

 

 ポータルとはマンホールぐらいの大きさがある、一方通行の転送装置である。マーカーと呼ばれる手の平サイズの三角錐を置いた場所に瞬時に移動出来る物であり、置けるマーカーは2ヵ所までで最大転送人数は10人まで、更にガードクリスタルの範囲から3キロの圏内には設置出来ない。

 ZWではこのポータルの転送人数がそのままパーティーの一般的な人数になっていた。

 ポータルは一方通行しか出来ないということもあり、1つは拠点の近くに、もう1つは探索先に設置して行き来するのが基本的な使い方であり、また一度転送すると再度マーカーを置き直す必要がある。

 

 当時ソーラ脱出まではその戦力の低さから輸送兵以下の扱いを受けていた機械兵だったが、農村部に入って以降、無駄な移動時間を削れるポータル欲しさに機械兵を求めるパーティーが急増。一躍人気兵種になった。


 そんな機械兵の代名詞であるポータルを使えると話すキータに、レイは戸惑ったような顔を見せる。


 レイはキータ達のレベル上げをしていた時、スキルポイントはある程度余らしておいた方が良いとアドバイスしていた。

 それは一度スキルポイントを割り振ってしまえば、基本的にはやり直しが利かないからだ。

 レベル上限があるようにスキルポイントにも上限がある。兵種が同じでもプレイスタイルは様々であるZWにて、自分達が何が得意で、どのようなスタイルが合っているのかわかるまでは、スキルポイントに余裕を持たせるようにレイは忠告していた。

 

 そんなレイの忠告を無視してまで残っている全てのスキルポイントを自律兵器スキルに割り当てたキータはその行動の理由を話す。


「実はレイさんと別れた後、自分も何か手伝えないかなって思って、色々考えたんです。その時思い付いたのがポータルを使ってレイさん達の逃げ道を作ることでして」


 理由は簡単に言えばレイの役に立ちたかったというものだった。

 キータの考えた方法は、まずレイと別れた場所にマーカーを設置。そしてコロン村の付近、出来ればソーラとは逆方向にもう1つのマーカーを設置。

 その後ポータルでレイと別れた場所へと戻り、必要であればコロン村までの避難ルートとして使ってもらうというものであった。


 しかし頑張ってマーカー設置をしたまでは良かったのだが、設置を終えた頃には既に遠目からレイ達がコロン村に来ているのが見えていた。

 役に立ちたいと奮起したキータの働きは無に帰るはずだったのだが・・・


「それってまだあの森の入り口辺りにマーカーが設置されてるってことだよね?」


 思わぬところで役に立った。


「そうです! それを使えば五キロ先の離れた森の前まで行けます! すぐに森の中に入れば見つかることはありません!」

「凄いよキータ君! 確かにあそこならコロン村から見えることはない」


 レイはでかしたとばかりにキータの肩をつかむ。キータはレイの役に立てたと嬉しそうに破顔する。

 何処か面白くなさそうな顔をしてるのがアヤメだった。


「何よ。私だって色々情報とか相談とか頑張ってるのに。そりゃ兄貴の受け売りってのは否めないけど、それでも私なりに役に立とうとしてるのに・・・」


 1人でぶつぶつと呪詛の様に言葉を紡ぐアヤメを見たキータは、気を利かせ、大きめの声でアヤメの功績を語り出す。


「でもアヤメさんが居て良かったですね! アヤメさんの情報が無ければ、うっかり『慈悲王』を助けに行くことを『慈悲の心』の人達に話していたかもしれません! ねっ? そうですよねレイさん!?」

「そうだね。アヤメちゃんにはいつも助けられてるよ」

「そっそんなの当然の事してるだけよ! 煽てても意味はないんだからね!」


 口では純度100%のツンを発揮しているアヤメも照れているのか顔が赤い。

 アヤメの機嫌取りを終えたキータは、ポータルを出現させる。

 出現したポータルは銀色のマンホールぐらいの円盤の中央に魔方陣が書きこまれており、縁からうっすらと光の幕のようなものが漏れ出ている。

 この魔方陣を踏むことでマーカーが置かれた場所に飛んでいける仕様になっている。


「時間もないですし、行って下さい。僕たちも一緒に行っては邪魔になりますから」

「もし、俺がいないことがジークさん達にばれても、キータ達は絶対に知らぬ存ぜぬで通すんだよ? もしその事で身の危険を感じるようなら俺に脅されてポータルを使わされたとでも言えばいいから」


 ポータルに入る前に懸念していることについての指示を出すレイ。

 キータ達が深く頷くのを確認したレイはポータルを強く踏み込む。途端にポータルの縁から光の輪が漏れだし、レイを包む。


「じゃあ行ってくるね」

「早く『慈悲王』助けて戻って来なさいよ」

「無理だけはしないでください」


 ぶっきらぼうに早く戻れと言うアヤメに、少し心配そうな顔を見せるキータ。

 言い方や態度は違えど、二人のに共通しているのは「レイに無事に帰って来て欲しい」という気持ち。


 レイは転送される寸前、二人にサムズアップを見せる。

 アヤメとキータが二人してサムズアップを返してくれた瞬間。


 レイは森の前に転送された。

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