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破滅した世界にて~銃とゾンビと邪神 ~  作者: ルルエル=テン
第二章
7/21

出会いと葛藤と勇者

 鬱蒼と生える草花に仰向けになって銃を構えていた人物は、眩い光に驚きの声をあげる。


「もうぅ! 何なのよぉ! あれじゃ何処にいるかわからないじゃないぃ!」


 その人物は奇声のような声を出し、スコープから目を外すと、立ちあがり地団駄を踏む。


「本当に最悪だわぁ~。服も髪も汚れるしぃ、おまけにターゲットには逃げられるしぃ。ほんとどうしたものかしらぁ」


 語尾を伸ばす特徴的な口調で大きな独り言をこぼす。


「失敗したのは残念だったけど仕方ないわよねぇ。ここで失敗しても考えがあるからって言ってたしぃ。それにこれ以上ここにいるのは、あたしの精神衛生上良くないわぁ」


 そう言って大きな独り言を終えたその人物は、服に着いた土や草を丁寧に取り除き、独特なステップを踏みながら山の中へと消えていった。





ーーーーーーーーーー


 レイのトーチボムを用いた奇策により、狙撃兵から何とか逃げることが出来たレイ達は、林を抜けて広原まて来ていた。


「あっあの!」

「ん? どうした?」


 危機は去ったというのに、何故か酷く緊張した様子でレイに声をかけるマリー。

 緊張を解すように大きく深呼吸をしたマリーが次の言葉を口にしようとした時。背後から怒声のような声が聞こえてきた。


「そこのお前! 今すぐマリー様から離れろ!」


 背後から現れたのは、レイもスコープ越しに確認していた、マリーの仲間である8人のプレイヤー。

 その内の5人は右目に包帯を巻いたり、腕を一部欠損しているなど、酷い怪訝をしているようだった。

 マリーやアリシアはその様子を見て茫然とし立ち尽くす。

 

 そんな怪我人の多い集団の中、無傷で先頭に立つ長身の男が銃口をレイに向けたまま近付いてくる。


「アロス! 銃を下げて下さい! この御方は私とアリシアの命の恩人です!」


 レイに銃口を近付けるのを見て、マリーがすかさずレイを庇うようにして前に立ち、手を広げる。


「いくらマリー様の言葉でもそれは出来ません。私達は今さっき襲撃にあったばかりなのですよ。助けてくれたからと言って、簡単に気を許されてはいけません」

「マリー様はもっと自分の身を案じて下さい」

「ジーク。しかし、この人は・・・」


 アロスは銃口をレイに固定したまま目の前まで近寄り。右目に包帯を巻いているジークと呼ばれた男は、残った目でマリーにこちらに来るよう目配せを行う。

 その場を動こうとしないマリーであったが、レイが両手を上げたまま、マリーに心配ないとウインクを見せると、渋々ジークの元へと向かった。


「一体何が目的だ?」

「目的? 言ってる意味がわからないんだが、しいて言うならマリアに向かってた」

「何でマリアに?」

「まるで尋問みたいだねぇ。僕達はソーラからやって来たんだよ」


 顔の中心に銃口を持っていき、嘘は許さないとばかりに尋問のように質問を繰り返すアロス。

 非人道的な行いに、マリーやアリシアがアロスを非難しようとするが、近くにいたジークにより止められてしまう。

 レイは銃口を向けられたまま、これまでの経緯について、一つ一つ丁寧に答えていく。


「ってなわけで、今頃10人の新人プレイヤー達がコロン村にいるはずだよ。嘘だと思うなら行ってみるといいよ」


 淀みなく答えたレイに何故か小さく舌打ちを鳴らすアロス。

 アロスが言葉につまっていると、アリシアが割り込むような形で尋問に参加してきた。


「その新人さんの中に兄を探していた子はいなかったですか!?」

「えっ? 兄貴がZWやってるって言ってる女の子のプレイヤーならいるけど」

「それは誠でありますか!? アロスよ、もしかしたらお前の妹かもしれないぞ! 望みはまだある!」

「あ、あぁ。そうだな・・・」

 

 アリシアはアロスの背中を強く叩き、我が事のように喜ぶ。

 しかし本人であるアロスは歯切れの悪い返事をした後、黙りこくってしまう。

 

 ひとまずは銃口からは解放されたレイであったが、完全に信用された訳ではないらしく。アリシア監視の元で、コロン村まで向かうことになった。


 重苦しい雰囲気に、めんどくさいことに巻き込まれたとレイは肩を落としながら歩き出す。

 しかし幸いにも監視に着いたアリシアは自身が助けられたこともあり、レイに対して不信感をもっていなかった。

 重苦しい雰囲気どころか監視の役目も忘れ、喋り出したアリシアはレイが聞いてもいないのにマリー達がここまで来た経緯について教えてくれた。


「まさかマリーさんが『慈悲王』とは。それに妹ねぇ」


 アリシアの話では、「慈悲の心」の幹部であるアロスの妹がソーラにいる可能性が高いと考えたマリー達が、ポータルでコロン村に飛び、ソーラを目指して進んでいた矢先に襲われたとのこと。


 (なんかきな臭い話に感じるのは俺だけかな? さっきのアロスの反応といい、まるで待ち構えてたかのような襲撃といい、何か引っ掛かるんだよなぁ)


 思考に耽りながら、ふとマリーの方を向くと、マリーは何故か熱の籠った瞳をこちらに向けてきていた。

 

 (そういえばマリーさんはさっき何を話そうとしていたんだろ。気になるけど、今の俺はマリーへの接近禁止命令出されてるからな。不用意に近付けば迷惑になるか)


 尋問の後、アロスとジークからマリーへの接近禁止を言い渡されたレイ。

 理由の1つに見た目が怪しいと言われた時には酷く気分が下がった。

 そんなレイにとって完全アウェーの中、唯一のオアシスであるアリシアが、小さく「あっ!」と声を出す。


「そういえば名前を伺ってないでありますよ」

「そういやそうだね。俺の名前はレイ。よろしく」

「レイ? はて何処で聞いたようなそうでもないような」

「ははは! どっちだよ」

「笑うほど変なことは言ってないでありますよ」

「てかそのやたらと語尾に『あります』ってつけるのは癖なの?」

「『あります』は私のアイデンティティーであります」

「あはははは! アリシアは面白い子だね」


 思いの外仲良くなったアリシアと談笑しながらコロン村に向かうこと30分。レイ達はコロン村に到着した。

 


 木製の簡素な家が立ち並び、周囲を木で出来た柵で囲われている寂れた村。

 村の周囲には薄い膜のようなものが張られており、ガードクリスタルが村の何処かに置かれているのだとすぐにわかった。

 

 レイが村の入り口に入ると、すぐさまアヤメやキータが飛んできた。


「みんな無事だったか?」

「心配してなかったけどレイさんも無事みたいね。どうやらガードクリスタルがあるって予想は正しかったみたいね。後1人だけだけど、村人を見つけたわ。みんなはその人に案内された空き家で休んでるところよ」


「そちらの可愛らしい少女はもしや?」


 アヤメがレイに村のことについて話していると、後ろからアリシアが顔を出す。


「この子がさっき言ってた子なんだけど」

「そうか! おいアロス! 例の子がいたぞ! どうだ!?」


 アリシアは声を張り上げて、殿を務めていたアロスに伝えるが、アロスは無言で首を振る。


「・・・そうか。違うのか」


 (やっぱり怪しいな。わざわざ探しに来るほど大事な妹なのに、遠目から見て確認するだけなんて。全く似てなかったってこともありえるが、あまりにあっさりしすぎてる)


 残念そうに頭を垂れるアリシアの隣で、レイはアロスの行動に強い違和感を覚える。


 (それに妹がいるかもしれないってのに、ああも落ち着いて殿を務められるもんかね。普通なら村に真っ先に向かいにいきそうなもんだが)


 レイが難しい顔をしながら思考に耽っていると、そこにジークが声をかけてくる。


「先程はマリー様を助けてもらったのにすまないことをした。アロスも妹が心配で気が立って攻撃的になってるだけなんだ。元は気の良いやつだからそう悪く思わないでくれ。しかし念のためマリー様への接触はまだ止めて欲しい。アロスが何するかわかったものではないからな。マリアに行くならこれを門番の兵に渡すといい。問題無く入れるはずだ。あっそれと私の名前はジークだ。マリアではまた会うこともあるだろう、よろしく頼む」


 ジークは深々と頭を下げることで、感謝と謝罪の念をレイに示す。

 レイが返事をすると、ジークは封書をレイに渡し、アリシアやマリー達を連れて空き家の中でも一際大きい家の中へと入っていった。


 その後、アヤメとキータに案内されて借りている家へと入ったレイは、個室に用意されていた簡易な藁で出来たベッドにダイブする。

 藁の香りをかぎながら、今後のことについて思案するレイ。


 (さてさて。俺の予想が正しければマリーさんは今相当危険な環境にいる訳だが。部外者である俺が何か言ったところで信じてくれる訳じゃないしな。どうすれば良いのやら)


 ひとまずあらぬ疑いは解消された。けれどもアロスが何かを隠していて、それはマリー達が襲われたことにも多分関与している。

 それを伝えようにも、アリシアの様子を見る限りアロスはレギオン内でそれなりの地位と信用がある。

 下手にアロスについて伝えれば逆にこちら側が怪しいと捉えられるだろう。

 唯一話を聞いてくれそうなマリーは接触禁止命令のせいで近づけない。

 強引に動けば話すぐらいは出来るかもしれないが、アヤメ達を危険に晒してしまうことはしたくない。

 

「うーん。マリーさんはマリアを拠点にしている『慈悲の心』のリーダーだったよな。リーダーがもし死んだなんてことになれば『慈悲の心』ひいてはマリアにどんな影響があるか・・・そんな不安要素がある場所にアヤメ達を送るわけにはいかないな」


 レイは少しの間頭を悩ましていたが、1人で考えても仕方ないと、アヤメ達のいるリビングへと向かった。


 









 マリー達は空き家に入ると、リビングにあるテーブルを囲みながら、今日の襲撃に対しての意見交換を行っていた。


「ジーク。私達と離れた後何があったのか聞いて良い?」


 マリーが聞いたのはジークや他のプレイヤーの怪我についてであった。

 回復やバフを得意とする援護兵であるマリー。特に回復のサブスキルはマックスまで上げており、シールドの回復だけでなく、身体の怪我まで治すことができる。

 そのマリーでも欠損部位の再生は行うことが出来ない。ジーク達もそれは知っており、部位欠損するような大きな怪我だけはしてこないとマリーは考えていた。

 

 そんなマリーの質問の意図がわかったのだろう。ジークを含め、怪我をしている面々は面目なさそうに顔を歪める。


「申し訳ありません。油断していたとは言いませんが。不覚をとりました」


 ジークは絞り出すように答えると、事の経緯について話し出す。


 マリーにバフかけてもらった後、ジーク達は林に潜む敵を発見。そこまで技量の高い者達ではなかったこともあり、撃退することに成功した。

 ここでジークは敵の情報を得る為に敵を1人捕らえようと、逃げる相手を追いかけた。

 しかし、追いかけた先には、センサー式の罠であるアイアンスピンが多数設置されていた。

 ジーク達は不用意にそのトラップ地帯に踏み込み、アイアンスピンのセンサーに引っ掛かってしまう。アイアンスピンは地中から人の腰辺りまで飛び上がると、無数に空いた穴から小さい金属の玉を飛び散らせ、ジークの右目と他の者の腕を奪っていった。


「そうですか。そんなことが・・・半分の数が戦闘不能になってはソーラに向かうのは厳しいですね」

「そんな! 俺の妹はどうなるんですか!?」


 マリーの言葉にアロスは焦ったように席を立つと、すがるような目つきでマリーに詰め寄る。


「しかし襲撃してきた者の正体もわからーー」

『助けないと。私が守らないと』

「・・・っ!」

「マリー様!?」


 アロスを説得しようとした矢先、マリーの頭に自分と同じ声が響く。

 マリーは苦しそう頭を抱えると、そのまま押し付けるように机に伏せる。

 アリシアが苦しそうに悶えるマリーを見て、焦ったように声をかける。


「すみません。最近頭痛が酷くて。もう大丈夫です」


 しばらくして顔を上げたマリーは周囲を心配させまいと気丈な態度で振る舞う。

 いつもと変わらないマリーの様子に周囲の面々から安堵した雰囲気が漂う。


「本当に大丈夫でありますか? この世界に来てから頭を抱えている姿を何度も見ますが」


 そんな中、アリシアだけはマリーを心配そうに見つめていた。


「大丈夫です。それでアロスの妹についてですがーー」


 アロスの顔に緊張が走る。


「残ったメンバーで何とかソーラまで向かいましょう。実際に今回の救出作戦には反対意見も多く出ていました。今戻って新たな戦力を連れていくとなれば、時間がかかるかもしれません」

「マリー様しかし・・・」

「アリシア。マリー様が決めたことですから」

 

 あまりに無謀なマリーの決定にアリシアが異論を唱えようとするが、それをジークによって遮られる。

 

 その後の話し合いで、明日ソーラに向かうのはマリー、アロス、アリシアを含む5名のみで、ジークを含む5名はコロン村に待機となった。

 

 話し合いを終えたマリーが用意された個室に向かおうと廊下を歩いていると、護衛として背後を歩いていたアリシアが待ったをかける。


「マリー様」

「アリシア・・・どうしました?」

「あの・・・本当に大丈夫ですか? ここに来てから特に辛そうに見えたもので・・・」


 アリシアは泣きそうな顔でマリーを見る。


「心配をかけてごめんなさい。でも本当にもう大丈夫だから。少し明日の事で考えたいことがあるから部屋にいます。何かあれば教えて下さい」

「・・・わかりました」


 アリシアは目を伏せたまま扉の横に立つ。マリーはそのまま部屋の中へと入ると、それまで息を止めていたかのように荒い呼吸を繰り返す。


「ハァハァ・・・」

『助けないと。守らないと』

「うる・・さ・い」

『早く行かないと間に合わない。急がないと』

「もうやめて」

『早く助けないと。保護してあげないと』

「私を・・・助けてよ・・」


 頭の中に響いてくるもう1人の自分の声。マリーは声が聞こえなくなるまで、怯える少女のように頭を抱えて蹲っていた。


 


 







「あれ? いないな」


 リビングに着いたレイがアヤメ達の姿を探して周囲を見渡すが、人っ子一人見当たらない。

 何処にいるのだろうと部屋中を言ったり来たりしていると、空き家の裏庭から賑やかな声が聞こえてきた。

 裏庭へとレイが向かうと、そこにはアヤメ達と20代中盤の見知らぬ女性が火を囲って何やら楽しそうに話をしていた。


「ここにいたのか。部屋中探して損したよ」

「あっ! レイさん」


 アヤメはレイに気が付くと、得意気な顔で木製の器をドーン!っと効果音が響いて来そうな勢いでレイの前に差し出す。


「これは・・・?」


 木製の器には様々な根野菜の入ったスープが入っていた。


「これヒノさんに教わって私が作ったの! もちろん材料もただじゃなくて農作業を手伝ってその代価としてもらった物を使ったわ! レイさんばかりに施しを受けるのはフェアじゃないから今日は私達のおごりよ!」


 無い胸を勢いよく張りながら、鼻息高くそのスープを作るのがどれだけ大変だったかを語り出すアヤメ。


「アヤメさんあんな言い方してますけど。本当はレイさんに少しでも恩返ししたいだけなんです」


 アヤメが語る中、キータがこっそりとアヤメの心中をレイに伝える。


「ははは!」

「何よ! てかキータ、また変なことをレイさんに言ったんじゃないでしょうね!」

「ちょっと何で銃を構えてこっちに来るんですかぁ!」


 キータを追い回すアヤメを眺めながらスープを一口啜るレイ。

 塩味のシンプルな味ながら野菜の旨味が汁にとけだしている。

 この世界に来てから初めての温かい食事は、思考の連続で疲れていたレイの身体にゆっくりと染み入るのであった。





 賑やかな食事を終えたレイは、酷く疲れた様子のキータを尻目に、アヤメからヒノと呼ばれた村人の女性に声をかける。


「野菜を恵んで頂きありがとうございました。お蔭様で温かい食事をとれました」

「いえそんな! むしろこんなもてなししか出来なくてすみません」


 レイが丁寧におじぎをすると、ヒノが両手を前に出して、恐縮しながら首を横に振る。


「そんなことないですよ。今まではパンや簡易食ばかりでしたから、こういう食事は本当に助かります」

「そこまで言って頂けるなんて光栄の極みです」


 顔を赤らめながらも、仰々しい態度で接してくるヒノを見て、レイは初めは奥ゆかしい人だと思っていたが、よくよく観察しているとどうもそういう訳では無いらしい。

 アヤメやキータと話しているヒノは親しみやすいお姉さんといった感じなのだが、レイと話す時だけはかしこまった口調に変え、まるで目上の人と話すような態度になる。

 極めつけにヒノからレイには絶対に声をかけて来ない。何かしらの理由で避けられているのかとも思ったが、どちらかというと畏れ多くて話しかけられないといった様子だ。

 

 アヤメもヒノの態度を不思議に思ったのだろう。スープを啜りながらその疑問をヒノにぶつける。


「ねぇヒノさん? なんでレイさんだけ喋り方が変えてるの?」

「えっ!? それは・・・」


 ヒノは豆鉄砲でも食らったよう顔をした後、ジロジロとレイの顔を見ながら口ごもる。


「あ、あぁ~あれなら席を外そうか。俺いない方が良いみたいだし・・・」

「そうじゃないんです! ただ私が勝手に想像してるだけと言うか、そうであったら良いなと思ってるだけと言うか・・・」


 その場を離れようとしたレイを呼び止めたヒノは、要領を得ない内容の話をボソボソと呟くように話す。


「無理に話さなくても大丈夫だよ。とりあえず嫌われていないことがわかって安心したし」

「まさか嫌うなど! むしろ逆で・・・あっ!」


 思わぬ失言にしまったとばかりに口元を手で隠すヒノ。しかし時すでに遅く、レイだけでなく近くにいたアヤメやキータにも聞こえてしまっていた。

 

「ふ~ん。どういうことかなヒノさん?」


 アヤメは良い玩具を見つけた子供のようなニヤニヤ顔で先の失言について問い詰める。

 

「アヤメちゃん。あんまりプライベートな部分に土足で踏み入るのは大人として感心しないぞ」


 レイがヒノを庇うようにアヤメを諭すが、心なしか顔が赤くなっているせいで説得力は皆無であった。

 キータですら、アヤメを止めようとはせず、この後どんな展開になるのかワクワクした様子で静観を決め込んでいる。

 その後、一向に退こうとしないアヤメの猛攻に、堪忍したようにヒノが口を開いた。


「わかりました! 話します! その私はレイ様を一目見た時から・・・」


 顔を赤くしながら、最後の言葉をひねり出そうとするヒノ。


 ヒノの告白を前に、否が応にもレイの心拍数は上がり、顔は耳まで赤くなる。

 高校生の時はバイトで、卒業してから正社員として、父の代わりに遮二無二なって働いていたレイは、女性というものに全く縁のない生活を過ごしていた。

 もちろん告白なんてされたこともない。むしろ血色が悪く、目の下にクマがある姿から、一部の女子からはゾンビと言われていたくらいである。

 そんな恋愛においてはアヤメやキータ以上の新人プレイヤーであるレイが、告白をしてくる女性を前にして普通にしていられる訳がなかった。

 

「いや・そういうのは・・もっとお互いを知って・・と言いますか・・その・・」


 しどろもどろに言葉を紡ぐレイの背後ではアヤメが「キャー」と手で顔を覆いながら、指の間から決定的瞬間を見逃すまいと、眼光を光らせる。

 いつの間にかレイとヒノを囲むように人が集まり、野次馬と化した時、意を決したヒノが大きな声を張り上げる。




「一目見た時から勇者様の生まれかわりだと思ってましたぁ!」

「「「・・・え?」」」

 



 あれだけ騒がしかったはずの裏庭が一気に静寂に包まれる。

 全員がヒノの発言の真意がわからず固まっている中、唯一ヒノだけが一世一代の告白を終えたかのように顔を真っ赤にし、クネクネと身をよじっていた。


「ヒノさん・・・ごめん説明プリーズ」


 いち早く混乱から立ち直ったアヤメがヒノに先程の告白の心意について聞いた。


「えっ! だからレイ様は伝承に伝わる勇者様の生まれ変わりじゃないのかって言ってるんですよ! 恥ずかしいから何度も言わせないで下さい!」


 ヒノの言葉を聞き、全員の心に去来したのは、だからどういうことだよという気持ちと、何故恥ずかしがるのだろうという疑問であった。

 

「そっそういうことね! じゃあ本当にレイさんがその勇者様かどうか確かめないとね! あぁ~ちょっと肌寒くなって来たわね。せっかくだしヒノさんのお家にお邪魔しても良いかしら? 勇者様の話を今すぐにでも聞かせてほしいの!」

「ええ! もちろん大丈夫ですよ! 先に戻って出迎えの準備をしておきます!」


 アヤメは混乱しているレイ達を見て、ひとまずヒノをこの場から連れ出すことを選択。

 半ば強引なトークでヒノを家へと帰すと、レイとキータを引っ張るようにして裏庭を出た。







「先程はすみません! 感極まってしまい公衆の面前であんなはしたないことを」

「あぁ大丈夫ですよ。聞き慣れない勇者という言葉に少し驚いただけですから」



 大きい田畑の隣にある家の扉を開けると、深々と頭を下げたヒノがそこにいた。

 あれから何とか通常状態へと戻ったをレイは、ヒノに顔を上げるように促す。

 ヒノの家はレイ達が借りている空き家より狭く、物が異様に少なかった。

 簡素な椅子に着いたレイ達は、先程名前の出た勇者についてヒノに聞く。


「ヒノさん。俺達はこの世界に来たばかりで、この世界の事を良く知らないんだ。だから勇者とか言われてもいまいちピンと来なくて。良ければ教えてもらえないかな?」

「祖父と祖母から聞かされた内容でよろしければ」


 

 ヒノは一度佇まいを直すと、ガリステア王国に伝わる勇者の伝承について話し始める。




 遥か昔、まだガリステア王国が生まれる前の事。地に降りし邪神により、この地は未曾有の危機に瀕していた。

 当時のガリステアは邪神討伐の為に王家に伝わる召喚魔法を実行。召喚された勇者は特殊な武器を用いて邪神を封印した。

 邪神を封印した勇者を召喚したガリステアはその後、この地を平定しガリステア王国と名前を変えた。


「勇者が邪神を封印したか・・・」

「レイさん。その情報はゲームでもあったの?」

「いやゲームでの設定はガリステアは既に邪神に滅ぼされたところからだった。その前に一度封印されていたとか、ましてや勇者なんて名前すら出てきてない」


 ゲームでは語られていなかったこの世界の歴史を知ったレイは、出来る限りの情報を得ようと、ヒノに邪神について質問を始める。


「ヒノさん。わかる範囲で良いから邪神について教えてくれないかな?」


 邪神というキーワードを聞いたヒノは一瞬顔を強張らせる。


「邪神についてですか・・・私が知っているのは、人をゾンビに変化させる力を持ち、現在人を管理している者としか・・・」

「人を管理ですか・・・?」


 ヒノから出た物騒な言葉に反応したのはキータ。


「はい。実はこの村の名前は正しくはコロン村という名前ではないんです」

「違う名前がつけられているってこと?」

「はい。この村の正式名称は人間牧場A―2。この村、いやこの国はもはや邪神にとって、ただ人間を増やし管理するだけの場所なのです」

「そんな酷い・・・」


 この国に蔓延るあまりに残酷な現実を知り、レイは苦い顔を、キータは青褪めた顔をし、アヤメは顔を手で覆った。


「これまでは10年に一度、邪神が各地を回り、気に入った者を連れていっていたらしいですが、約20年前に多量の人間を連れていってからは姿を見てません。その時に祖母と祖父も・・・残ったのは私ともう数人だけで、その人達も既に全員亡くなりました」

「それは・・・辛いことを思い出させてしまいすまない」


 膝の上で拳を強く握りしめているヒノの姿を見て、レイは胸が痛くなるのを感じた。

 小さい時からこんな世界で20年以上、いつ邪神に連れていかれるかわからない環境の中生きてきたヒノの事を思うと、邪神に対して憤りや怒りという言葉では表現出来ない強い感情が沸き上がる。

 レイが酷く顔を顰めているのを見たヒノは、話題を変えるように、勇者の話を再度始めた。


「祖父と祖母はよく勇者様の話をしてくれてたんです。邪神に連れていかれる日も、必ず勇者様がヒノ達の前に現れて邪神を封印してくれるって。だから諦めずに生きて欲しいと。だからかわかりませんが、1人ぼっちになってもいつか勇者様が来てくれると信じて、強く生きていけることが出来ました。お陰で皆さんと出逢えましたし」

「ヒノざぁぁん。づらがったよね! ざみじがっだよねぇ!」


 あまりに健気なことを言うヒノに、アヤメの涙腺が崩壊。涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらヒノに抱き付く。

 強く抱き締められたヒノは一瞬困った顔をするが、久々に感じる人の温もりに顔を綻ばせる。

 ひとしきり泣いたアヤメは、涙と鼻水に塗れた顔のままヒノから一歩下がると、胸を張り上げ、両手を腰に当てて、ニカッと歯を見せる。


「ヒノさん。今まで辛いことばかりだったかもしれないけど、もう大丈夫よ! 何故ならここにいるレイさんが勇者なんだから! 必ず邪神を倒してこんな世界終わらしてくれるわ!」

「あぁやっぱりそうだったんですね! 祖父と祖母の言っていたことは間違っていなかったんですね! アヤメさんありがとうございます!」


 まるで自分の事のように誇らしげにレイを勇者だと言い張るアヤメに、それを真に受け涙を流しながらアヤメの手を両手で強く握るヒノ。



「レイさんどうするんですか?」

「いやぁ。こんなヒノさんの姿を見てしまっては、さすがに否定する訳には・・・とりあえずアヤメちゃんは後で説教だね」

「ですよね。でも邪神を倒すことが目的なのは変わりないですし、あながちレイさんが勇者ってのも間違ってないのでは?」

「キータまで止めてくれよ。召喚された者が勇者であるなら、キータやアヤメだって立派な勇者だぞ」


 アヤメとヒノが手を握りあっている姿を見ながら、レイとキータは小声で会話をする。

 

 ヒノを励まそうとした故の行動なのはわかるのだが、アヤメの勝手な発言のせいで、レイはヒノの前では勇者でいなければならなくなった。

 村で1人っきりだと聞いてしまってはこのまま放っておく訳にはいかない。マリアに行くにしても連れて行くことになるだろう。

 新たな悩みの種を抱えてしまったレイは大きくため息を吐いた。


「あっそういえば、ヒノさんは何でレイさんを勇者の生まれ変わりだと思ったんでしょうか?」

「確かに何でだろうね。気になるけど、今聞くのは無粋ってもんさ」





 後々。ヒノが何故レイを勇者の生まれ変わりだと思ったのか、予期せぬことで知ることになり、それを知ったレイは酷く落ち込むことになるのだった。


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