お友達?が出来ました
誕生日パーティーから一ヶ月が経ちました。
本日はセリーナの主催するお茶会にお邪魔します。
お茶会とは女性が主に参加するパーティー。
そのため、お茶会に出席するのはご令嬢ばかりとなる。
つまりはお友達ゲットのチャンスだ!
私はこの日のために『成功率驚異の35%!これであなたもナンパ男の仲間入り。※玉砕してもくじけない鋼の心をご用意ください。』を熟読してきたのだ。
これでお友達ゲットは確実だろう。
今まではカルロスの婚約者ということで嫉妬の対象となり、陰口を言われていたせいでなかなかお友達ができなかった。
話しかけても巻き込まれたくないと皆逃げてしまうのだ。
だが、婚約破棄をされた今の私にはお友達を作るのに何の障害もない!
ということで、今日は気合を入れて準備をし、馬車に乗り込んで出発しようとしたところでアビーが声をかけてきた。
「お嬢様。その手にお持ちの本は本日のお茶会にお持ちになられるのですか?」
「えぇ、馬車の中でも読み返して復習をしようと思うの。これで私にもお友達が10人くらいできるわよ!」
「・・・・・・お嬢様。その本をわたくしに見せていただきたいのですが。」
読む前からこの本の魅力に気づくなんてさすがアビーだわ。
「いいわよ。」
アビーは私から本を受け取るとパラパラと本の中身を確かめると笑顔で
「お嬢様。この本の内容を一刻も早く記憶から抹消してください。この本に書かれていることは決して使ってはいけません。もし使われた場合、お嬢様の好物であるチキンサンドイッチのレタス部分をすべてゴーヤにします。しかも生の状態でお出しします。」
レタスの部分が全て生ゴーヤに?!
アビーったらなんて恐ろしい発想をするのかしら。
ここは大人しくこの本の知識を使うのは諦めよう。
そうしないと今後私の食事が生ゴーヤ祭りになりそうだ。
「・・・・・分かったわ。分かったからゴーヤ詰め放題のチラシを見るのをやめて!」
私はアビーからチラシを奪うとポッケにしまい。馬車を出発させた。
レヴィ伯爵家に到着するとセリーナが出迎えてくれた。
「ソフィ様、本日はわたくしのお茶会にいらしてくださり、ありがとうございます。」
セリーナはドレスの裾をつまみながら優雅に礼をした。
私も優雅に礼を返し、
「こちらこそ、お茶会にお招きいただき嬉しいですわ。」
そうして一通りの社交辞令を済ませるとセリーナはまだ出迎えがあるとのことで私だけ先に会場へと向うことにした。
アビーは馬車でお留守番だ。
会場はサムナーの誕生パーティーが行われたバラ園だそうだ。
会場には今日も色とりどりのバラが美しく咲き誇っている。
テーブルの上には様々な種類の茶葉やお菓子が所狭しと並んでいる。
すでに会場へと到着していたご令嬢たちは、いくつかのグループになりおしゃべりに花を咲かせている。
私は期待に膨らむ胸を落ち着かせ。
会場の奥の方に居る一番大きな集団に近づいていく。
だが近づいていくにつれ、そこだけ空気がおかしいことに気が付いた。
よく見ると、バラの植木を背に立つ青い髪の色をしたサラサラロングの1人のご令嬢を囲う様に人が集まっている。人が邪魔で顔が良く見えない。
会話の内容に耳を澄ませると、どうやらいじめにあっているらしい。
「男爵家のあなたがこんな高価な首飾りを持っているのはふさわしくありませんわ。」
「返してください!それはお母様の形見なのです。」
「あら、ダメよ。これはもう私の物だもの。」
自分の首にかけた首飾りを見ながらそういうご令嬢の後ろに私は静かに近づいていくと首飾りの金具を外し、スルリと取り去った。
今までつけていた首飾りがいきなり消えたせいで驚いて後ろを振り向いたご令嬢に私はニッコリと笑いかけ
「あなた、いい首飾りをしているわね。」
私の顔を見て青ざめたご令嬢は慌てて頭を下げ、
「そ、ソフィ様」
「ごきげんよう。ダイナさん。この首飾り、私にくださる?」
「そ、それは・・・」
「いいわよね?だって人から奪い取ったものですものね。」
「!!」
「このことをあなたのお父様に話されたくなかったらもうこんなことはやめるのね。そこにいるあなた達もよ。分かったわね?」
視線を向けると
びくっと肩を跳ねさせた後、
「は、はい!今後このようなことは二度とないようにいたします。」
頭を一斉に下げてからそそくさと去っていくご令嬢たちを横目で見ながら
「はい。こういう大事なものは服の下に隠しておくか、大切にしまっておきなさい。」
私は首飾りを渡しながら初めて青い髪のご令嬢の顔を見て思わず固まった。
(やってしまった・・・。)
私の気持ちなど知らない青い髪のご令嬢は首飾りを受け取った後、固まっている私の手を掴み
「ありがとうございます!お姉さま!!」
そう言ってキラキラした目で見てくる彼女の言葉に
「お姉さま!?」
と、驚いた私の声がバラ園の中に響き渡った。
「コホンッ。改めまして、わたくしクレア・ベイルと申しますわ。」
「えぇ、それは分かったのだけれど・・・・。どうしてこんなにくっついて座っているのかしら?」
あれからすぐにお茶会が始まってしまったのでとりあえず席に着いた私の隣にクレアが気づいたら座っていた。
そこまでは別に良かったのだが、距離が。隣との距離がゼロ距離なのだ。
しかも、このクレア・ベイル『ドキプリ』のアレクルートの悪役令嬢だったりする。
ゲームでは王子に一度だけ助けられたことにより王子を好きになってしまうが全く相手にされない。
そのため、王子に近づくヒロインに対して嫉妬し、嫌がらせをするが全て王子の手によって阻止される。
ついには刃物を持ち出しヒロインを殺そうとするが、王子がかばい代わりに刺される。
バッドエンドだと王子はそのまま死亡。
クレアは王子を殺してしまったことで「王子がいないなら生きている意味はないわ」と言って自殺。
ハッピーエンドだと、王子は一命をとりとめヒロインと婚約し、クレアは処刑。
どう転んでも死亡エンドのクレア。
そんなクレアを助けてしまった訳だが、いや、助けたことに後悔はない。
後悔はないのだが・・・・・
なぜ、私は『お姉さま』になってしまっているのだろう。
このままでは非常に不味い。
家には王子がすでに週一で出入りしている。
クレアまでもが家に頻繁に来るようになってしまったらいつか王子とバッタリ!なんてこともあり得る。
そうなったらゲームのように王子にアピールしだすかもしれない。
家で血は見たくないのだ。まぁ、これからも見たくはないが。
それに私はクレアのお姉さまになるつもりもないし、これ以上ゲームに登場してくる人たちと仲良くなりたくないのだ。
とりあえず、一番簡単そうな物理的距離を離そうと、椅子を横にずらそうとするがピクリとも動かない。
不思議に思って下を見ると、クレアの足がガッチリと椅子の足に絡んでいた。
こうなってしまっては椅子をずらすのは無理。だからといってお茶会が始まっているのに席を立つわけにもいかないので、クレアに言うしかない。
「クレアさん。もう少し離れて頂きたいのだけれど」
「クレアとお呼びください。それに、恥ずかしがらなくても大丈夫ですのよ。私とお姉さまの仲じゃないですか。」
「どんな仲?!私たち出会ってからまだ一時間もたっていないわよ!?」
「愛に時間は関係ありませんよ。」
「愛!?」
どうしてもクレアは離れてくれない。
しかも愛とか言い出してる。
どうしたらいいのかと悩んでいると、私の斜め前に座っていたセリーナが助け舟を出してくれた。
「クレアさん。ソフィ様にご迷惑をお掛けしていては立派な『妹』にはなれませんわ。」
その言葉にクレアはパッと離れ後、赤くなった顔を両手で押さえながら
「申し訳ありません。お姉さまにご迷惑をおかけしていたなんて。私、少し浮かれてしまっていましたの。」
「えぇ、それはいいのよ。でも私はあなたのおねえ・・・・」
「わたくし、お姉さまが恥をかかないように立派な妹になって見せますわ!!」
私がお姉さまを否定するより前にクレアは立派な妹になります宣言をすると、そこからは私にくっつくこともなく、完璧なご令嬢として振る舞い、無事にお茶会は終了したのだった。
私が馬車に乗って帰ろうとするとセリーナとクレアが見送りに来て
「ソフィ様。またお会いできる日を楽しみにしていますわ。」
「お姉さま。わたくし今度お姉さまにお会いする日はお姉さまに恥をかかせない立派な令嬢になっていますので楽しみにしていてください!」
私は今が脱・お姉さまになるチャンスだと思い話しかける
「えぇ、セリーナ。私も楽しみにしているわ。クレア、私はあなたのお姉さまではな・・・・」
ーバタンッ
「お姉さまではないわよ」と言い終わる前にクレアの手によって馬車の扉が締められ、そのまま屋敷へと馬車は出発してしまった。
アビーに馬車の中でお友達は10人出来ましたか?と聞かれ、それまですっかり忘れていた目標を思い出した私は目標達成どころかゲームキャラのお姉さまになってしまったことに落ち込みながら帰ったのだった。
屋敷に帰り調べてみたところ、クレアの住んでいるところから私の家まではかなりの距離があることが分かったので、王子やサムナーのように頻繁に家に来ることはないだろうから、王子に出会って恋に落ちる可能性は低そうだなとあまり深く考えないようにしてたら、
お茶会から一週間後にクレアから手紙が届いたのを皮切りに一週間に一回手紙が届くようになりました。
それを見たアビーに
「良かったですね。念願のお友達ゲットですよ」
と言われ、複雑な気持ちになったことは黙っていようと思う。
★現在のデータ★
名前 ソフィ・マクリーン(16)
身長 154㎝
体重 43㎏
現在の評価:肌がもう少し白くなるといいのだけれど・・・・。あら、またあなた宛に手紙が届いたわよ。文通仲間ができて良かったわね。
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~クレア視点~
自分の屋敷へと帰った私はすぐに裁縫セットを取り出し、ソフィお姉さまのお人形を作りながらお姉さまの事を思い浮かべていた。
今日はじめてお会いしたお姉さまはいじめられている私を颯爽と助けてくれて、まるで物語の王子様でしたわ。
今まで出席したパーティーでお会いした殿方よりよっぽどかっこよく、気品に満ち溢れていてまるで後光が差しているかのように輝いて見えました。
ですが、今日は私がお姉さまにご迷惑をおかけしてしまいました。
このことは立派な妹になるためには反省しないといけません。
私は今日から立派で、可愛い妹を目指して頑張ろうと決意しましたが、
どうやったら立派で、可愛い妹になれるのか私一人では思い浮かばないので、
今日『妹同盟』を組んだセリーナ様に来週くらいに相談に行こうと思います。
お姉さまには会いに行くのが難しい距離なのでお手紙を毎日・・・は嫌われてしまいそうなので、週に一回くらいの頻度で出すことにします。
あぁ、早くお姉さまにお会いしたい。
お姉さまの事を思うと胸が張り裂けてしまいそう!
ですが、私は会えない辛さを見事乗り越えて見せますとも!
そうして気合を入れたクレアは完成したばかりのソフィ人形を胸に抱き、その夜はぐっすりと眠りました。