アイプチを求めて
ダイエットを始めて1週間がたち、体重が72㎏になっていた。
まずまずの出だしだろう。
この1週間、私は毎日一時間のウォーキングをし、食事は自分で栄養バランスを考えながら作った。
スープにいろいろな豆を入れたり、ニンジンを星型に切って入れてみたりして、見た目をカラフルに、楽しくなるように工夫してみた。
また、最近キノコをよく食べるようになった。
キノコはほぼゼロカロリーに近いので、ダイエットにはうってつけである。
今まで、サラダはハンバーグの付け合わせ位の量しか食べなかったが、
ダイエットを始めてからは食事の半分をサラダに変更した。
また、食事の量は朝から夜にかけて少なくし、夜は炭水化物を摂らないようにしている。
大好きだったクッキーは週に1回3枚までと決めて食べている。
クッキーの日以外のおやつは『きゅうり』になった。
少し自分に甘い気がするという声が聞こえてきそうだが、前世の経験上無理してダイエットをするとすぐにリバウンドを起こすため、ストレスをなるべくためないようにすることが大切である。
そんな前世の経験を生かしたおかげか、1ヶ月経つ頃には体重は70㎏にまで落ちていた。
70㎏になって少し身軽になった私は、
ある日鏡を見て、開いているか分からないような一重をどうにかしないといけないという思いに駆られた。
正直メイクはやせてから頑張ればいいと思っていたが、目だけなら今の状態でもどうにかできるのではないかと思ったのだ。
そう思い立った私は街に買い物に出ることにした。
同行してくれるのは私付きのメイド・アビーだ。
アビーは私が5歳のころから仕えてくれている。もう長い付き合いになるメイドだ。
街に行くのにマクリーン家の令嬢だとバレると面倒なので町娘の格好をして出かけることにした。
もちろん日焼け対策もばっちりだ。
長そでの服を着て、サングラスをかけて、鼻の上までスカーフを巻いて、頭にも布を巻いた。
「さぁ、行きましょ!」
と元気よく出かけようとする私に同じく町娘の格好をしているアビーが待ったをかけた
「お嬢様。本当にその格好でお出かけになるのですか?」
「あら、どうしたのアビー。そんなに怖い顔をして」
「お嬢様。大変申し上げにくいのですが、その格好は不審者に間違えられて通報される恐れがあります。」
「えぇ!?そんなに怪しいかしら?」
「・・・・怪しいところしかありません。」
「で、でも日傘をさしていたら目立つじゃない?」
「商人の娘という設定なら日傘をさしていても周りは気にしません。最近じゃ日傘は貴族以外にもちょっとした金持ちのご婦人はさしていますし。
・・・それよりも、目のあたりにかけている黒いものは何ですか?それをかけているだけでアウトですよ」
「そ、そうなの?日傘はありなのね。あと、この黒いのはサングラスと言って日の光から目を守るための物よ。今日のために作ったんだから!ガラスにね、黒いペンキを水で薄めて塗って・・・」
「作り方は聞いておりません!それより、そんな怪しいものを作っている暇があるなら歩いたらどうですか?」
「うっ・・・。確かに。日傘がありならこれはいらないわね。でも、歩くのと同じくらい疲れたのよ?
それに、ガラスを切る時なんか暑くて、歩いているときより汗をかいたわ」
「でも、その黒いのは使いませんよね?使わせませんよ?」
「アビー。そんなにサングラスの事を悪く言わなくてもいいじゃない。私が無駄に頑張ってしまったみたいで悲しくなってくるから。できるなら褒めながら外すよう促してほしかったわ」
「お嬢様、そんな怪しものを作るなんてさすがですね。はい、では早くその格好から着替えて出かけましょう。でないとすぐに日が暮れてしまいますよ。」
私は褒められているのかどうかいまいち分からなかったが、アビーの手際の良さにより、頭の布とサングラスを取られた。
スカーフは顔バレを防ぐために巻いていくことをしぶしぶ了解してもらった。
と言うことでスカーフを鼻の上まで巻いたまま、私は街に出かけた。
今日はメイク道具を買いに来たのだ。
実はこの世界、『ドキプリ』にメイクアップ機能がついていたせいか、
前世の日本で出回っていたファンデーションやアイブローに似たようなものが存在しているくらい
化粧道具が発展していた。
メイクアップ機能では顔全体を自分好みに化粧することができ、
目の形も変えることができた。
目の形を変えることのできる『ドキプリ』の世界であり、メイク道具が発達した世界なら私の探し求めるもの・・・
そう、『アイプチ』もあるのでは?と思ったのだ
早速アビーに今回探すものを説明する。
「その『あいぷち』?と言うやつを探すのですね。かしこまりました・・・が、お嬢様どうやって探すのですか?」
「まずは、人に聞くのが一番手っ取り早いわよね!」
そういって私は近くを通りかかったパッチリ二重のお姉さんに声をかけた
「そこのおねーさん。その目はもしかしてアイプチ?一緒に私のアイプチ探しに行かない?」
と声をかけるとお姉さんはヤバイものを見る目つきで私を一瞥し、足早に去って行ってしまった。
「あれ?ちゃんと本の通りにやったのにダメだったわ」
その様子を見ていたアビーが
「お嬢様。その本はどのような本なのですか?」
「ちゃんとした本よ?確か題名が・・・『これで今日からあなたも一流のナンパ男!女を落として落としまくれ!!※イケメンに限ります』だったわ」
「お嬢様。そんな何の役にも立たないようなものはスッパリ忘れて、普通に聞き込みをしてください。」
「や、役に立たない・・・・。分かったわ、次から普通に聞くわ!」
「はい。普通に、お願いします。」
『普通』に力を込めてお願いしてくるアビーを見ながらそんなに嫌だったのかと思い、
私は次の人から普通に『アイプチ』について聞いて回るのだった。
・・・オレンジに染まる空を見ながら私は落ち込んでいた。
街にある化粧品のお店をすべて回っても『アイプチ』はなく、人に聞いても誰も知らなかった。
(まさか、アバターのメイクアップで目の形が変わっていたのは自力だったとでも?
【伏目がちな目】は常に薄く半開きにしていて、【いつもより大きな目】は常に全力で見開いていたとでも!?)
だとしたら、目の周りの筋肉が違い過ぎる。絶望しかない。
そんなことを考えながら露店の近くに置いてある椅子に座りうなだれる私にアビーが
「また、探しましょう。マクリーン領に無くとも他の領地に行けばあるかもしれませんし、私の知り合いが王都に居ますので聞いてみますから・・・ですから元気をお出しください。」
と優しく元気づけてくれる。