花火が綺麗ですね
ソフィーはエリックのいた場所から遠ざかると先ほどまでの笑顔を消して眉間に皺をよせており、アレクはその顔を見て口元に少し笑顔を浮かべていた。
「ソフィー、そんなに眉間に皺を寄せていると、後が付いちゃいますよ」
「だって!なんなんですか、あのいい方は!」
「エリックはいつもあんな感じです。隠し事が出来ない分扱いやすくはありますが。それよりあんなこと言ってしまって良かったんですか?今ならまだ間に合うかもしれませんよ?」
ソフィーは最後のバカ発言に対して後悔など微塵もしていなかった。
「今更言葉を撤回するつもりもありませんし、それにここに来る前にお父様にエリック王子に付く可能性を聞いてきたら死んでも付かないと仰っていたので大丈夫です」
「そうなんですか?てっきりマクリーン卿はエリックに付くというと思っていました」
「…お父様曰く、貴族の操り人形の王などつまらん。との事らしいですの」
「では、期待に沿えるよう頑張らなくてはいけませんね」
アレクはクックッと笑いながらまだ眉間に皺を寄せているソフィーの顔を見つめる。
「……ところで何でアレク様はさっきからうっすら笑ってるんですか」
頬を膨らませて眉間に皺を寄せて不機嫌を全力で表すソフィーにアレクの口元はますます緩んでいく。
「いえ、ソフィーが僕のために怒ってくれてるんだなと思うとなんだか嬉しくなってしまいまして」
「なんですか、それは」
とソフィーが更にむくれそうになったところで、窓の外で大きな花火が打ちあがった。
「わぁ!」
「あぁ、そういえば今日は街でお祭りがあるんでした」
途端に無邪気な笑顔を浮かべるソフィーにアレクはスッと手を差し出した。
「花火がもっと綺麗に見えるところがあるのですが、一緒に行きませんか?」
「えぇ!是非!!」
ソフィーがアレクの手を握ると、二人は城の最上階へと向かった。
「すごい!」
最上階に着くとソフィーが感嘆の声を漏らした。
そこはバルコニーのようになっており、城下町を一望でき、街はまるで宝石箱をひっくり返したように輝き、花火も真上に咲いておりソフィーが今まで見たどの景色よりも綺麗だった。
暫くソフィーがその景色を楽しんでいるとアレクの顔にふと、不安げな色が浮かんだ。
「僕は本当にこの国の王になって良いのでしょうか」
「どうしてです?」
「時々、不安になるんです。もし僕が王になったらこの国の人たちの笑顔を守っていけるのかと。こういう笑顔が溢れる時に強く思ってしまうんです」
「おかしいですよね」そう言ってアレクはぎこちない笑顔を浮かべて花火の明かりに照らされた人々を見つめていた。
その横顔がどこか苦しそうで、ソフィーは胸がぎゅっと締め付けられて気づいたらアレクの手を握っていた。
「アレク様はきっといい王様になります!」
アレクは驚いてソフィーの方へ顔を向けると、ソフィーの瞳には力強い光がともっていた。
「上手く、言えませんが。転んで泣いてる子供に手を差し伸べて、涙を拭ってあげた後に鼻水がべったりついてるのを見て少し落ち込んでるような人が悪い王になるとは思えません!それに、たびたびに町に降りては民の生活をよく見ているあなたなら絶対いい王様になると、私は信じているのです!」
ソフィーはそう言い切ると握っていた手をそっと放した。すると今度は逆にアレクがソフィーの手を握り、ソフィーが驚く番だった。
「ありがとうございます、ソフィー。そう言ってもらえて少し楽になりました」
その時のアレクの瞳は今までのどの時よりも一番優しい光をともしていてソフィーは思わず見惚れてしまったがすぐにハッとなり、慌てて平静を装い会話を続ける。
「アレク様と私は友達じゃないですか。友達を信じるのは普通の事ですよ。」
そういってニッコリと笑いかけると、アレクは少し寂しそうな顔をしてソフィーを見つめる。
「そういえば、お友達でしたね。」
「えぇ」
「……僕は選択を間違えたかもせれませんね」
ぽそりと呟いたアレクの言葉にソフィーが首を傾げていると、アレクは握っていた手をグッと自分に引き寄せると、ソフィーを抱き寄せ耳元で囁いた。
「覚悟してくださいね。ソフィー。僕を本気にさせたんですから」
と。
突然の事に頭が追い付いていないソフィーはアレクの腕から解放された後も固まったまま、空にはいくつもの綺麗な花火が打ちあがっていた。