第二王子が現れた!
廊下へ出ると、アレクが壁にもたれて待っており、ソフィーが出てきたことに気づくと笑顔で「母付きのメイドから今日は泊まると聞いてますので、僕が案内しますね」
と言って前を歩き出したのでソフィーはアレクの背中を追って歩き出した。
アレクに部屋へと案内される途中で、廊下の先から第二王子のエリックがこちらへと歩いてきた。
エリックはこちらに気づくと真っすぐ向かってきてアレクの目の前で立ち止まった。
ソフィーは慌てて前世の記憶を辿る。
確かエリックはヒロインよりも一つ下。ということはソフィーの一つ下ということになる。
見た目は金髪碧眼の王子の中の王子というような見た目をしているが中身はまだまだ子供で悪い大人に利用されやすい。また、素直なためどこか憎めない性格をしている。
と公式には書かれており、確かにヒロイン目線ではちょっと生意気な弟を見ているような感覚だった。
ライバルキャラは……クレア。
クレアはエリックの見た目に一目惚れし、猛アタックを掛けるがヒロインとエリックがいい感じになると、登場して嫌がらせをしていく。最後には「私が目の前で死ねば一生忘れられないでしょう?」とエリックとヒロインの前で首を切って自殺する。
アレクのルートでもアレクを刺して処刑されるか、自殺するかの二択のクレアだがエリックのルートでは自殺一択という、クレアには死しか待っていない。
ソフィーなんてアレクのルートではヒロインに足引っかけて転ばせて水を掛けるだけの登場だったのに……。
必死に思い出して、スッキリしたところでソフィーは挨拶をしようとドレスの裾をもい揚げたところですぐに手を離した。
エリックがソフィーの事など見もせずにアレクに話し始めたからだ。
「兄上は今日も俺と違ってお忙しいようで。いつもブラブラと外へ出て行っては何をしているのだろうと、使用人が噂してますよ」
「エリック、お客様の前だ」
アレクが静かな声でそう言うと、やっとソフィーの存在に気づいたエリックにソフィーはドレスの裾を持ち上げた。
「ソフィ―・マクリーンと申します。以後お見知り…」
エリックはソフィーの挨拶を最後まで聞かず、ニヤリと笑ったかと思うとアレクに向かってまた喋り出す。
「あぁ、マクリーン家の。そう言うことですか、兄上はそれで後ろ盾を得て俺に勝とうというのですね?ですが、有力貴族のほとんどが俺についていますし、王妃とはいえ伯爵家の出ですからね。侯爵家の母上から生まれた俺と、兄上とじゃ血の尊さが違うんですよ」
……はぁ?
ヒロイン目線ではもう少し可愛げがあったのに何でこんなにイライラするんだろう。
まず、人の上に立とうという人が挨拶でさえ最後まで聞かないのはアウト。
それにいくら血が尊くてもここまで馬鹿だと話にならない。
自分が貴族の操り人形にされそうになっていることに気づいていないのだから。
それでもソフィーは一応この国の第二王子だし、と自分を抑えて黙って話を聞いてたがエリックは今度はソフィーに視線を向けた。
「そう言うことだ。今の話で分かっただろう?こんな兄に付くよりも俺に付いた方が色々と得だ。何なら婚約破棄された可哀想なお前のために新しく婚約者を見繕ってやってもいい」
アレクがエリックの言葉を遮ろうと何かを言いかけたが、ソフィーがそれを目だけで止めると、ソフィーは目の前のエリックと向かい合う。
エリックは得意げな顔で笑っている。まるで自分に着くのが当然のように。
ソフィーは一つ深呼吸をすると、笑顔を作った。
もう、我慢の限界だった。
「それでお話は全てですか?」
「あぁ。そうだ。で?どうするんだ?」
「失礼ですが、このお話はお断りさせていただきますわ」
「はっ、兄上に着くと?そりゃさぞかしいい未来が待ってるだろうよ」
見下したように笑うエリックにソフィーは笑顔のままだ。
「えぇ、そうですね。少なくとも貴方につくよりはいい未来が待っています。それに何か勘違いなさっているようですが私はただのお友達ですので後ろ盾も何もありませんわ。アレク様はマクリーン家の力などなくても自分の力のみで王位を勝ち取れる力がありますもの」
「なにを……」
「そうですね、貴方様にも分かるように簡単に言いますと……、誰がお前なんかに付くかバーカ」
ご令嬢からはとても出てきそうにない言葉にエリックは口を開けたまま固まってしまった。
ソフィーは笑顔で裾をつまんで挨拶をすると、
呆然と立ち尽くすエリックを横目にアレクと共にその場を立ち去ったのだった。