アレクからのお誘い
「Oh、G」
私がサムナーに手を握られたまま呟くと
「なんですかその言い方は」
アレク様がそういいながらこちらに近づいてきて、笑顔のまま
「まぁ、それはどうでも良いです。ソフィ、こちらの方は?」
サムナーを示しながら聞いてくる。
「こちらはレヴィ伯爵家のサムナー様です。」
アレク様はそうですかと言いながら笑顔でサムナーに手を出し
「僕はアレク・ミールこの国の王子です。よろしくお願いしますね。レヴィ領では良質な絹が多く生産されていると聞いています。一度見に行きたいと思っていたのです。……ところでいつまで手を握っているのですか?」
その言葉にサムナーは私の手を握りしめたままだったのを思い出したのかパッと手を離すと、立ちあがり王子の手を握り返す。
「お会いできて光栄です。王子。是非、今度私の領地にある製糸場をご案内させていただきたいです。」
サムナーは最後の質問には触れずに笑顔で挨拶を返す。
アレク様は楽しみですとサムナーに向けて言うと、私の方に顔を向けて
「ソフィ、この後少し良いですか?」
王子の言葉に私は困ってしまった。
この国の王子に向かって今日はサムナーが先約ですので無理ですなんて言えるはずもなく、かといってここまでわざわざ片道2時間かけて来てくれているサムナーとセリーナに帰る様になんて申し訳なくて言えない。
さて、どうしたものかと悩んでいるとサムナーは察したかのように
「では、私は失礼させていただきます。ソフィ嬢、本日はとても楽しかったです。では、また。」
サムナーはそう言ってセリーナを連れて部屋を出ていってしまった。
見送りはアビーに頼むことにした。
アレク様はサムナーが出ていくのを確認すると、
私の手を取り、マッサージをしだした。
突然の行動に戸惑い、
「あの、アレク様」
「なんですか?」
「なんですか?はこちらのセリフなのですが。何故、手のマッサージをしてくださっているのです?」
「……先程、手を握られていたじゃありませんか」
先程とは、サムナーに握られていたことを言っているのだろうか?
それとこのマッサージがどう関係しているのか全く分からず首を傾げると
王子は手をモミモミしながら
「ソフィ、王都へ行きませんか?」
と、いきなりそんなことを言いだした。
私は聞き間違えたのかと思い、思わず聞き返す。
「今、なんとおっしゃいました?」
「王都へ行きませんか?」
「……ルビがおかしい」
私がそういうと、王子はクスっと笑い、
「まぁ、デートは冗談です。実は、私の母である王妃があなたに会いたいと言っていまして」
「王妃様が!?」
「はい。ダメだと言ったんですが、病弱なのにどうしても会いに行くと言って聞かないのです。なので、ソフィに来ていただければと思たんですが……あぁ、母の我儘なので断っていただいてもかまいませんよ。」
王宮には攻略対象の第二王子であるエリック王子がいるので正直なところは断りたいが、例え王妃様が許してくれてもお母様が許してくれない気がする。
断ったことがバレると地獄を見そうな気がする。
例えばゴーヤとか、筋トレの回数が倍になるとか、ゴーヤとかゴーヤとかゴーヤとか……
悩んでいる私を見てマッサージを止め、鞄からゴソゴソと何かを取り出した。
「僕としては会っていただきたいのですが……」
「行きます!」
「本当ですか?ありがとうございます。母も喜びます。」
アレク様はそう言ってゴーヤを手にニコニコしていた。
これは王妃様からのお誘いだから断れなかっただけなのだ。
けして三食ゴーヤが嫌とかお母様が般若になるとか5センチくらいしか考えてない。
私は純粋に王妃様からのお誘いを受けただけなのだ。
……素直に王都に行くのでゴーヤをアビーにお土産ですと言って渡そうとするのを阻止しても良いだろうか?
それから王妃様からのお誘いがあったことをお母様とお父様に伝えた後、アレク様と日程を話し合い、1週間後に王都へ行く事が決まった。ゴーヤは無事にお持ち帰りいただいた。