第八話 魔族を守る者の責務と、魔族を衰退させた者の責務
「絶対……ぜーったい、嫌だからなっ! け、けけけ結婚とか、わらわにはまだ早いと思いますっ」
目を泳がせながらノエルは首を横に振る。どうも彼女はお年頃な女の子みたいで、そういう男女の関係に過敏なリアクションを取っていた。
「だいたい、どうしてわらわが結婚しないといけないのだっ? そんな話、初めて聞いたぞ!」
ノエルも俺と同じく初耳だったようである。ともすれば俺以上に彼女は驚いているみたいだった。
「嫌ですか? それは困りましたね……」
ツキノはノエルが嫌がっているのを見て、悩ましそうにため息をつく。
「魔王様には申し訳ないのですが、こればっかりは言うことを聞いてもらわなければなりません。魔族のためにも、ノエルちゃんは結婚して彼を旦那様にする必要があるのです」
「魔族のため? わらわが結婚したら、どんな風に魔族のためになるのだっ?」
ノエルは前のめりになりながらツキノへと詰め寄っている。その顔は真っ赤だった。相当恥ずかしいんだろうなぁ。
そんな彼女に、ツキノは容赦しない。
「彼と結婚して、魔王様が子供を作ったとしましょう」
「こ、子供!?」
「はい、子供です。結婚するのですから、もちろんエッチなことだってしなければなりません。あと、ノエルちゃんは魔王なんですから、未来の魔族のためにしっかりと子供を産まないといけないんです」
淡々とした口調ではあるものの、ツキノは言い聞かせるように言葉を続ける。
「彼はノエルちゃんの父君でさえも遠く及ばない、桁違いの強者です。そんな方との間に生まれた子供は、さぞかし才能に溢れていることでしょう。私たち魔族は現在、圧倒的に戦力が不足してるのです。魔族再興のためには、彼の遺伝子を引き継いだ子供が必要なのです」
先程、ツキノが俺にしたこととほとんど同じ説明をノエルにもしている。
え? 俺、ノエルとも小作りしないといけないの!? てっきりツキノとだけそういうことしてればいいと思っていたのだが……ツキノの考えは俺の想像を越えていたみたいである。
「……でも、さっきはそなたがポチと……え、エッチなこと、しようとしてた! ツキノはそれでいいのか!? 浮気だぞっ」
「はい? 浮気だなんて、考える余裕が今の魔族にあるとでも? 男性魔族がいないこの状況で、優秀な遺伝子を保有する男性が一人だけなのです。女性魔族で共有するべき資源ではありませんか」
生々しい話である。ってか、本人の前で資源とか言うな……いや、別にいいんだけどさ。俺はここでのんびり過ごせたらそれでいいので、どんな風に扱われても気にしないから。
それに、聞いた感じだと、俺は複数の女性とエッチなことができそうなのだ。それは、まぁ……ありかなしかで考えると、断然ありだなって思います! なんかハーレムみたいで、悪くない。
「ノエルちゃん。あなたは魔王になりました。経緯はどうあれ、今はノエルちゃんが『魔王様』として魔族のみんなを守らないといけません。分かりますか?」
「で、でも……っ」
「魔族を守る者の責務は果たさなくてはなりません。だから、わがままを言ってはいけませんよ?」
幼いながらに、ノエルは魔族の王である。魔族を守らなくてはならないから、何が何でも俺との間に子を成さなければならない――と、ツキノは言っているらしい。
「魔王様の子が生まれたら、他の魔族たちもきっと喜びます。魔族再興のための象徴として大活躍してくれるでしょう」
「う、うぅ……」
ノエルは顔から火を吹き出しそうになるくらい真っ赤だった。プルプルと震えながら、唇をもにゃもにゃさせている。やっぱりお年頃なので、そういう話題は恥ずかしくてたまらないらしい。
だが、なおもツキノは言葉を続ける。魔族ためなのか、あえてノエルに厳しい言葉をかけているようにも見えた。
「ノエルちゃんには、彼の正妻になってもらいます。私や他の魔族は彼の妾になる予定ですが、正妻であるノエルちゃんに配慮して、二人がそういう関係になるまでエッチなことはしません。ですが、魔族のために……一刻も早く、子供を作ってくださいね?」
しかしツキノは冷徹ではなかった。むしろノエルのことを愛しているので、こういった配慮をしたのだろう。さっきは俺におっぱいを触らせてくれそうだったが、彼女はノエルのことを思うからこそ俺との約束を反故にしたのである。
――魔族のために。そう言われては、ノエルも反論できなくなるようだ。
「っ……そんにゃぁ」
涙目になりながら、彼女は俺に視線を向ける。さっきまで睨んでいたのに、今はもう捨てられたペットのような目をしていた。
「で、でも、ポチの意思はどうなる? ポチは、こんな……愛のないエッチなこと、してもいいのかっ?」
……まぁ、そのことに関しては、思うところがないわけでもない。
しかし俺の言葉を、ツキノは許さなかった。
「彼に拒否権はありません。だって、魔族をこんなに衰退させたのはこの方のせいなんですよ? 責任は取ってもらわないといけないでしょう?」
魔族を衰退させた者として、俺には魔族を再興させなければならない義務があるとツキノは言いたいようだ。
「異論はありませんよね? 『ご主人様』?」
……なるほど。ふと、気付いた彼女が俺のことを『ご主人様』と呼ぶ理由に気付いた。
こいつは最初から、俺に魔族再興の手伝いをさせるつもりだったのである。魔族の主人として、俺を利用しようとしてたのか。
「……はい、ないです」
無表情だが、反論は許さない威圧感を覚えて俺は首を縦に振った。
まぁ、魔族がこんなに衰退したのは俺のせいである。だから、その責任は取るべきかなって思ったのだ。
「というわけで、ノエルちゃん……魔王様。頑張ってください」
ともあれ、ノエルに言い逃れる術はない。彼女はいよいよパニックになったのか、目をグルグルさせていた。
そして、彼女は叫ぶ。
「ば、ばかー!」
子供らしい稚拙な捨て台詞の後、ノエルは部屋から逃げていくのだった――
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