第六話 童貞は迷う
目を見張るような美女が俺に身を預けている。自分の体を好きにしていいと口にしたツキノはとても無防備だった。
今の発言は冗談でも嘘でもないのだろう。本気で彼女は、俺にエッチなことをされてもいいと考えている。
「っ……!」
さっきは冗談半分でおっぱいを触らせろと言った俺だが、いざそういう状況になるとなんだか緊張してしまった。
本当にいいのかな? なんだか強引に催促した気分なので、少し後ろめたい。
そうやってためらっている俺を見てなのか、彼女は説明を付け加えた。
「遠慮する必要はありません。私たち魔族がゲートの封印を解くために、力のある男性魔族が必要なのです。あなたの血を引く子供は、恐らく十分な強さを誇る魔族となってくれるでしょう。あなたは気持ち良くなれるし、私たちにもメリットはあります。お互いがお互いのためになることなので、後ろめたさなど覚える必要はありませんよ?」
……そんな口実めいたことを言われては、心が大いにぐらついた。
ツキノがそこまで言うのだから、もう触っちゃっていいのではないだろうか? いや、ここまで女性に言わせたのだから、むしろ最後までいかないと失礼になってしまうような気がする!
よし、触ろう! 迷いは消えて、俺はふくよかな胸を凝視した。
さてさて、どうやって触ってみるか……実は初めてなので、どんな感じでしたらいいか分からない。勇者時代は戦いばっかりだったので、こういう知識は疎いのだ。興味はあったが実行する機会もなく、童貞のまま生きてきたのである。
やっぱりこういうのってドキドキするものだ。
「……触らないのですか?」
俺がいつまで経っても何もしないので、ツキノの方は少し焦れているみたいだ。ジッとこちらを見ながら首を傾げている。
「もしかして、ゲートの封印を解かれることを危惧しているのでしょうか? 人間界を守るために、そういうことはできませんか?」
ツキノの問いかけに、俺は微塵も迷うことなく答えを返す。
「違う。俺はもう勇者じゃない……人間界を守るなんて、そんなことまったく考えてないよ」
本当に、これっぽっちも考えてない。だって俺は、今まで人間のために頑張って来たのに、最後は不要と判断されて魔界に封印された身である。
人間界に思い入れはなかった。
「俺の役目はもう終わったよ。後は好きにしてくれ……今まで人のために生きてたんだから、今度からは自分のために生きたいんだ」
勇者時代、俺は人間界を守るだけの機能でしかなかった。自分というものを押し殺し、ただただ役割に徹してきた。
それは立派でこそあったかもしれないが、とても疲れる生き方である。もう二度とあんな風に人生を送りたくない。
「ほら、あれだよ。俺、こうやって女性の体に触れたことないから……ちょっと戸惑ってるだけ。童貞特有のやつだ」
「……そういうことですか」
俺の言葉に、ツキノは小さく頷く。
そして、本当に少しだが……俺に向けて優しく微笑んでくれた。
「良かったです。またあなたに敵対されると、もう二度と人間界に行くことはできそうにありませんから」
どうやら彼女にはゲートの封印を解きたい事情があるらしい。
「なんで、人間界に行きたいんだ?」
気になったので聞いてみると、ツキノは優しい表情のまま答えてくれた。
「魔王様に……ノエルちゃんに、太陽を見せてあげたいのです。この夜しかない世界は、彼女に似合わない。あの子にはもっと、明るい世界がふさわしいんです。こんな殺伐とした世界で、力があれば何でもしていいと思うような野蛮な一族のことなんて忘れてほしい……ノエルちゃんには、幸せになってほしいですから」
ツキノの笑顔は、愛する者を思うが故のもの。
彼女はノエルという少女を心から思っているのだ。さっきまで彼女のことを『魔王様』と呼んでいた彼女だが、うっかり『ノエルちゃん』と口にしている。そうやってボロが出るほどに、ツキノはノエルのことを大好きに思っているみたいだ。
なるほど……太陽を見せてあげたい、か。
確かにノエルには太陽が似合いそうだ。月の光は彼女には暗すぎる。
「だから、私に子供を産ませてください。遠慮なんて不要ですから」
「っ!」
……ヤバいな。今の一言に、理性が飛びかけた。
なんというか、大好きな人を思うツキノの笑顔がとても魅力的に見えたのだ。この子の全てを手に入れたいと、男性の本能が叫んだのである。
もう、これは最後までいくしかないよな? やり方とか手順とかは知らないけど、勢いに任せてもいいよな!?
「じゃ、じゃあ……遠慮なく」
そうして俺は、いよいよ童貞を卒業しようとした――その瞬間だった。
「ツキノっ。お風呂入った! 一人できちんと入れたぞ!! 肩まで使った100数えたし、髪の毛と体もちゃんとゴシゴシした! ふふん、わらわもやればできる子なのだ……って、ふぇぇ?」
ダイニングルームの扉が勢いよく開け放たれて、お風呂上がりのノエルが飛び込んできた。
彼女は最初偉そうな態度をとっていたが、俺とツキノがくっついているのを見て顔を真っ赤に染めた。
「な、何をしておるのだ……? だ、男女でそうやってくっつくと子供ができるのだぞ!? エッチなのはいけないのだっ」
そう言って、ノエルは俺とツキノを引き剥がす。彼女は俺の方を警戒するように強く睨んでいた。
「ポチ! そなた、さては変態だな!? わらわはエッチなことが大っ嫌いなのだ……!」
どうやらノエルは、性的な話題が苦手なお年頃らしい――
お読みくださりありがとうございます!
もしよろしければ、評価やブックマークをいただけると励みになります。
どうぞよろしくお願いします!




