第五話 衰退した魔族の事情
テーブルの上に並んだ食事を見て、俺は我が目を疑っていた。
魔王とは、魔族の王――つまり、魔族で一番偉い者のはず。だというのに、食事のメニューはとても質素なものだった。
味気ない乾パンと干し肉。ただそれだけである。
人間の王族はこれと比較にならない食べ物を口にする。いや、この食事内容であれば、庶民の中の貧民と比べても劣るかもしれない。
「いただきまーす!」
しかしノエルはまったく気にした様子もなく、元気よく食べていた。まるでこれがいつものことだと言わんばかりの自然な態度である。
「ご主人様も、どうぞ遠慮なく」
俺が何か言いたそうにしているのをツキノは気付いているみたいだ。何か含んだような目でこちらを見ている。たぶん、後で説明するから今は何も聞くなと言いたいのかもしれない。
先ほどからなんとなく察してはいるのだが、彼女たちには何か事情があるのだろう。たぶん、ノエルの前では言えないような何かがあるはずだ。
後でツキノから色々と聞いておく必要がありそうである。
「分かった。いただきます」
まぁ、食事にこだわりがあるタイプなので別に文句があるわけではなかった。正直に言うと食べられればなんでも良いと思っているくらいだ。
「ごちそうさまでした! ツキノ、今日もあんまり美味しくなかったぞっ」
ごはんを終えて、ノエルは笑顔ではっきりと感想を口にする。乾パンと干し肉だとやっぱり味は素っ気ないので仕方ないだろう。
「そうですね。明日はもう少し美味しいごはんが食べられるといいですね……魔王様、そろそろお風呂の時間ですよ。準備は済ませてあるので、どうぞごゆっくり」
「むぅ……」
「まさかとは思いますが……魔王様ともあろうお方が、おひとりでお風呂に入れないとは言いませんよね?」
「も、もちろんだぞ! わらわはお風呂くらい一人で入れる……入れるからな!」
微笑ましいやり取りの後、ノエルはダイニングルームから出て行く。その後ろ姿を見送った後に、ツキノはこちらに意識を向けた。
「色々と、気になっていることがあるようですね」
「……まぁな」
俺の肯定に、ツキノは重々しくため息をつく。
「ご説明します」
それから、彼女は色々と教えてくれた。
「私たち魔族は、現在絶滅の危機に陥っております。あなたとの戦闘で力ある男性魔族は全滅しました。魔王候補も全てあなたに戦いを挑み、敗れております……そして唯一、魔王の血を継ぐ者がノエル・サタン様なのです。本来なら女性魔族が魔王になるのは不可能なのですが、現状彼女しか魔王になれるものが居ないため、そうなりました」
「……なるほど」
力こそ全てを掲げる魔族が、通常ならあんな子供を魔王にするわけがない。やっぱり深い事情があったようだ。
「魔族の男にとって、戦死とは栄誉です……彼らは強者であるあなたに殺されることこそが最高の死に方だと思っていたみたいですよ。だから、どれだけ仲間が死のうと気にせず、あなたに戦いを挑み続けていたのです」
勇者時代、俺は毎日と言っていいほど戦闘に明け暮れていた。来る日も来る日も魔族に挑まれていたのだが、その理由が今ようやく理解できた……やっぱりこいつら、どうしようもないくらいに戦闘狂である。
まさか男性魔族が全滅するくらいだったなんて……って、え? 全滅!?
「ちょ、男性魔族って全滅したのか!?」
嘘だろと思いながら問いかけてみる。まさかそこまでではないだろと思ったのだが、ツキノは首を縦に振った。
「はい。みんな幸せそうにあなたに殺されました」
「こ、子供は!? 俺、子供を倒したりはしてないけど!?」
「将来有望な少年の魔族は、こことは違う世界に避難しました。大人になったら帰ってくるかもしれませんが……今はもう、この魔界に居りません。ここにいるのは、魔界にとって不要と判断された力のない者たちばかりです。つまり、女性しか存在しません」
……想像以上に、現在の魔族は衰退していた。これ、俺が殲滅しなくても、放っておいたら勝手に絶滅しちゃうんじゃないか?
「正直なところ、かなりまずい状態です。現状、戦えるのは私だけですし……そのせいで、魔物を討伐することもままなりません。金銭の入手にも手間取っており、毎日の食事さえ満足にできていないのです」
魔物を討伐すると、お金やアイテムを入手できる。故に、全盛期の魔族は多くの魔族を討伐することで富を得ており、かなり繁栄していた。だが今は魔物を討伐する者がいないので、食事さえも最低限しか購入できないみたいである。
だとしたら、食べ物を自給自足すれば良いのだが……常夜の魔界には太陽が出ない。そのせいで植物が育たないため、自給自足は難しいのだ。
「だから、私たち魔族にはあなたが必要なのです」
「……俺が? なんで?」
「あなたは、この魔界に生息する唯一の男性なのですよ? つまり――あなたと交われば、男の子の魔族を産める」
そして、ツキノが俺に身を寄せてきた。
「え? は、はい? 俺と交わるって……えぇ」
「先程、言いましたよね? 私の胸が触りたい――と。どうぞ、構いませんよ? 私も最初から、そのつもりでしたから」
恥ずかしげもなくそう言い切るツキノ。
好きにしろと言わんばかりに俺に身を預ける彼女を前に、俺はびっくりしてしまうのだった。
ど、どうしよう!?
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