第三話 元勇者は幼女のペットになる
金髪のツインテール。碧眼のくりくりした目。純白のワンピース。胸元にはぬいぐるみ。
恐怖の欠片もない様子を散りばめた幼き少女だというのに、そんなあの子は魔王だという。
「こんなちっちゃい子供が魔王とか……魔族式のジョークか何かか?」
もちろん、俺が信じられなかったのも仕方ないことだろう。
魔王とは恐怖の象徴だ。力こそ全てとかいうふざけたスローガンを掲げる魔族が唯一忠誠を誓っている存在なのだから、どの魔王も見な屈強で凶悪だった。
それなのに……
「ち、ちっちゃい!? 今、ちっちゃいってゆった! ツキノ、こいつ立派な魔王であるわらわに無礼を働いた! 今すぐに殺すのだ!!」
「……立派な魔王なら、ご自分で殺せるのでは?」
「ひぐっ……だ、だってぇ」
涙目でツキノの袖を引く幼女。凶悪さの欠片もない彼女を見て、俺は少し考え込んだ。
「……ツキノ、この愛らしい生物が今の魔王っていうのは、間違いないな?」
「はい。この可愛くてふわふわしてて怖がりで臆病でちょっと口は悪いのですが根は優しいこの子が、魔王様でございます」
「ぐぬぬ。わらわは魔王なのにぃ……可愛いとか言うな!」
ツキノの後ろからキャンキャン吠えるノエルは無視。
とりあえず俺がやるべきことを整理しよう。
俺は魔王である彼女からこの魔界に滞在する許可をもらわなければならない。そのために機嫌を損ねるのは悪手である……が、もう遅い。ノエルが魔王と紹介されて動揺してしまった俺の発言に彼女はむくれてしまっている。
「ツキノ! なんで忌々しい勇者と一緒にいたのだっ。こんな奴、さっさと殺してしまうのだ!!」
ノエルは俺の生存を許してくれそうになかった。口の悪さだけは歴代の魔王と肩を並べられるみたいである。
「……魔王様がそのようにおっしゃるのなら、ご命令通りに致します。でも、本当に良いのですか?」
「良い! 殺せ!!」
「彼、とても痛がると思いますよ? 泣き叫ぶと思いますよ? いくら勇者と言えども、可哀想とは思いませんか?」
「むぅ…………確かに、わらわも痛いの苦手だし……分かった! 殺さない! じゃあどうすれ良いのだ!?」
殺さないのかよ。口は悪いけど普通にいい子だった。魔王感が皆無でびっくりする。俺の前ではほとんど無表情だったツキノがさっきからデレデレな理由も分かる気がした。
「できれば、一緒に暮らしてあげると彼は喜ぶと思います。住むところがないと言ってたので」
「で、でもぉ……わらわ、怖い」
「怖いですか? それは困りましたね……」
ツキノはチラリと俺を見てくる。この調子だと命までは奪われないだろうが、魔王城と呼ばれているこの古ぼけた屋敷で暮らすことはできなさそうだ。
「ゆ、勇者ってあのお父様を殺したのだぞっ。あんな死んでも死にそうにない怖いお父様を倒したのだぞ!? もっと怖いに決まってるのだ……!」
彼女にとって俺は恐怖の象徴であるらしい。つまり、その恐怖を拭い去ってあげれば、もしかしたらこの屋敷の滞在も許可してくれるかもしれない。
よし、そういうことなら、考えがある。要するに俺が安全な存在であることを彼女に教えてあげれば、それで良いはずだ。
そのために、俺は彼女にこんなことを言う。
「ふーん? 魔王が俺を怖がってるのかー。へー? 魔王っていつからそんなに臆病になったのかなー? 今までの魔王だったら、俺程度の人間を怖がるはずなんてないのになー?」
「ぐぬぬっ。わ、わらわは立派な魔王なのだ! おくびょーなんかじゃない!!」
「じゃあ、決闘しようぜ! 立派な魔王様だったら、俺を倒すくらい楽勝だよなー?」
「もちろんだ! 立派な魔王であるわらわならそなた程度らくしょー……って、決闘!? 今、決闘ってゆった!?」
売り言葉に買い言葉。まんまと俺に載せられた彼女は決闘を了承した。
よしよし、いい流れだ。俺の狙い通りである。
「じゃあ、早速行くぞ! 魔王、勝負だ!!」
ノエルに逃げる隙を与えずに、俺はノエルの両脇に手を突っ込んで持ち上げる。彼女は大粒の涙を流して首をブンブン振っていた。
「ぎゃぁああ!! わらわはちっちゃいので食べても美味しくないです! 食べるならおっぱいが大きいツキノが美味しいです!!」
ちゃっかり仲間を売って自分だけ助かろうとしていた。卑怯だな、こいつ。
「俺はちっちゃい子の方が好きなんだ。お前を食べてやる」
「ひぃいい! さてはそなた、ロリコンだな!? くそぅ、わらわはまだ死にたくないのだ……美味しいごはんをいっぱい食べたいのだ!! ぅにゃぁああああ!!」
最早取り繕う余裕もないのだろう。ギャン泣きしながらノエルはちっちゃな手を振り回してポカポカ叩いてくる。まったく痛くなかったが、とにかく攻撃されたという事実は変わらない。
この時を待っていた。
「ぐぁぁ……やられたー」
ノエルの手が触れると同時、俺は力尽きたふりをする。床に倒れこんでもがき苦しんで見せた。
「さ、流石は魔王だ……強かった。俺なんて足元にも及ばなかった」
我ながら下手な小芝居である。ツキノが「は? こいつ何やってんの?」みたいな目で俺をジッと見ていた。やめろ、死にたくなる。
だけど、俺がこの魔王城に滞在するには、ノエルの恐怖心を拭わなければならない。そのためには、彼女が俺に抱いている『強い』という印象を消す必要があった。
故に、俺は決闘を仕掛けて負けてみせたのである。
その結果、素直で純粋なノエルは――
「え? か、勝ち? わらわ、あの勇者を倒した……!? 強い! わらわは強いのだ!! こんな虫けらのような男にお父様は負けたのか!? フハハ、つまりわらわはお父様を超えたのだな!?」
――めちゃくちゃ喜んでいた。
俺に対する恐怖心は一瞬でなくなったらしく、倒れる俺をツンツンしながらニヤニヤ笑っている。
「こんな雑魚にわらわはなんで怯えてたのだ? むふふっ。大したことないのだ……うむ。仕方ないから、この屋敷に住んでも良いぞっ。わらわのペットとして飼ってやってもいいのだ!」
ほんの一瞬でありえないほど調子にのったノエル。若干イラっとしたが、まぁとにかくこれで俺は屋敷滞在の許可を貰えたのだ。
「ありがたき幸せ……流石は慈悲深き魔王様! ペットとしてよろしくお願いします!!」
「うむ! わらわがいっぱい遊んでやるぞっ。感謝するがいい!」
そして俺は、幼女のペットとしてこの屋敷に住む許可をもらえたのである。
うん……色々と思うところはあるが、まぁいいだろう。とりあえず住むところを手に入れたのだ。それだけで、良しとしておこう――
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