第十二話 太陽のような笑顔
「それで、そなたはどうしてここに来たのだっ。わらわに嫌がらせしに来たのか?」
ノエルが怪訝そうな顔でこちらを見ている。ベッドにちょこんと腰掛けている彼女は俺が居るせいか居心地が悪そうにしていた。まるで早く帰れと言わんばかりの態度である。
「ちょっと言いたいことがあるんだよ。そんな邪魔そうにしないでもいいだろ? よしよし」
なんだか不機嫌らしいので頭を撫でながらなだめてみる。しかしノエルは余計にむくれてしまった。
「子ども扱いするな! わらわは12歳! もう子供を産める年齢なのだぞっ。立派な大人だ!!」
「……まぁ、それはそうなんだろうけど」
肉体的に子供が産めるからって大人とは言えないような気がする……そうやって大人ぶるのも子供っぽいけど、それを言及したら余計に拗ねてしまいそうなのでやめておいた。
「少しだけ! 本当に、ちょっとだけだから!! ほら、この通り……土下座だぞ! 元勇者の土下座されるとか、お前は今とても貴重な体験をしているんだぞ? だから言うこと聞けよ」
「な、なんで強気なのだっ……もーっ! 分かったぞ、分かったから、床に頭を打ち付けるな!」
誠心誠意、頭を下げて頼みこんで彼女はようやく俺の話を聞く気になったみたいだ。
さっきから何となく察していたけど……この子、押しに弱い。多少強引に頼み込めばなんでもやらせてくれそうな気がする。
根は優しい子なのだろう。そう思うと、なんだか微笑ましかった。ツキノがこの子を幸せにしたいと思う理由がなんとなく分かるな。
「仕方ない奴だなっ。そなたはエッチだから嫌いだけど、わらわは寛大だから話を聞いてやるのだ! 感謝するがいい!」
生意気で多少イラっとする子だが、そこも愛嬌と認識しておこう。とりあえず話を聞いてくれるみたいなので、俺は早速言いたかったことを口にするのだった。
「ごめんな」
今度はふざけてではなく、真剣に頭を下げる。今回の言葉は冗談ではなく本気の言葉だった。
「……ふぇ?」
ノエルの方も、いきなりこうやって謝られるとは思っていなかったのだろう。どう反応していいか分からないみたいで、おろおろしていた。
そんな彼女に、俺は言葉を続ける。
「お前の父親を手にかけた。そのことに後悔はない……でも、人間にとっては敵でも、やっぱり娘であるお前にとっては肉親だ。そのことについて、謝らせてくれ」
俺なりのけじめというか、これに関しては適当に流してはいけないことだと思っている。今後、彼女と生活を共にするのなら、なおさらしっかりと謝らなければいけない件だと思っていた。
「正直なところ、お前には憎まれても仕方ないと思ってる。どんな理由であれ、俺がノエルの父親を手にかけたことは事実だからな……お前にとって俺は仇だ。嫌われて当たり前だし、許してもらおうだなんておこがましいことも言えない」
そして、もう一つ。これもまた伝えておかなければならないことだった。
「もし、ノエルが本当に俺が嫌いで、顔も見たくないって思ってるなら……正直にそう言ってくれ。俺はここから出て行くよ」
人間界から半ば追放された形で魔界と一緒に封印された俺には頼れる存在がいない。そのため、できれば魔王城から離れたくはなかったが……ノエルの意思に反してまでここに残ろうとは思っていなかった。
今まで他人のために生きていたから、これからは自分のために生きたいと思っている。だけどやっぱり、ノエルに嫌な思いをさせてまで俺が幸せになる権利はないだろう。
俺のせいでノエルは家族を失った。
俺のせいでノエルは魔王になってしまった。
俺のせいでノエルは美味しい食べ物を食べきれなくなった。
俺のせいでノエルはこんなボロ屋敷に住むことになった。
俺のせいでノエルは、人間界に出て太陽を見ることもできなくなった。
だからこれ以上、俺がノエルを苦しめてはいけないと――俺はそう考えている。
「もちろん、俺はここにいたい。お前が許してくれるなら、ここで穏やかに過ごしたい……もう帰る場所もないし、住む場所もないからな。でも、ノエルに従うよ……どうする?」
これで言いたいことは全て言い終えたので、ノエルの返答を待つことに。
彼女は未だに戸惑ったような顔で俺を見ていた。
「……確かに、わらわはそなたが嫌いだ。エッチだし、無礼だし、わらわを子ども扱いするしっ! でもな、わらわは……その、そなたに感謝してもいるのだ」
そしてノエルは、少し恥ずかしそうにしながらも、ぽつぽつとこんな言葉を口にした。
「わらわはな……お父様のこと、怖かった。お父様の周りにいる大人も、みんな怖かった。ツキノだけがわらわの味方で、他の大人はわらわのことを見下しておった……力がないわらわはお父様の娘だから生きることを許されていたのだ。魔王の血を絶やさないことだけがわらわの使命だった。ずっと窮屈な思いをしていたのだぞ……だから、そなたには感謝してる。あの、怖いお父様を倒してくれて、ありがとう。怖い大人を倒してくれてありがとう。ようやくわらわは、自由になれたっ」
――憎まれていてもおかしくないと、そう覚悟していた。
だけど、俺が思っていたより、ノエルを取り巻く事情は悪かったみたいである。
だから彼女は、俺にこんなことを言ってくれたのだろう。
「そなたなんて嫌いだっ。でもな、出て行く必要はない……わらわは恩をきちんと返せる立派な魔王だからな! ここに住みたいのなら、住んでもいいぞっ」
太陽のような明るい笑顔をノエルは浮かべる。
それを見て、なんだかとても救われた気がした――
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