第十一話 年頃の女の子はよく分からない
扉を開けて中に入ると、そこには裸の幼女がいた。
「ふにゃぁああ!?」
突然やって来た俺を見て、裸の幼女――ノエルは叫び声をあげる。慌てたように胸を隠していた。
「へ、変態!」
「…………」
涙目になりながら彼女は俺を睨んでくる。対する俺は何も言えずに口を閉ざしてしまった。
さて、困った。ツキノから彼女たちの過去を聞かされて少し気合が入ってしまい、勢いに任せてノックもせずに扉を開けたわけだが……まさか裸だったとは思わなかったなぁ。
うん、これは俺が完璧に悪いし、言い訳はできないな。
ここは素直に謝ろう。
「ごめん! その、大丈夫だ! お前のおっぱいはまだほとんどないし、興奮するなんてできないし! これはノーカンにしよう!!」
「こ、こ、このぉ……ばかー!!」
素直に謝ったのに、ノエルの怒りは消えない。むしろ余計に怒ってしまったようだ。たぶん発言の選択を間違えたのだろう。性的なことが苦手らしかったので興奮してないよと言えば大丈夫だと思ったのに、ダメだったか。
「じゃ、じゃあ……ごめん、さっきのは嘘ついた! 本当はちょっと興奮してる! ノエル、お前は将来的にいい女になりそうだな!」
「あほー!」
今度は逆のこと言ってみたのに、それもダメだった。年頃の女の子は扱いが難しすぎる。
「とにかく後ろを向くのだ! 変態!!」
「お、おう……分かった」
言われた通り後ろを向くと、ノエルは慌てたようにバタバタと動き出す。聞こえてくる衣擦れ音から察するに、たぶん洋服を着ているのだろう。
「なぁ……お前、なんで裸だったんだ?」
「お、お風呂上りだったから、暑かったのだっ。まさかノックもなしに部屋に入るような変態がいるとは思わなくて、油断してた……!」
やっぱりまだ子供なので代謝がいいのだろう。この子は結構暑がりみたいだ。
「……もういいぞ」
しっかりと洋服を着た後、許可をもらったのでもう一度ノエルの方を振り向いた。彼女はお風呂前に着ていたのとは少し違うワンピースを着ている。
太ももくらいのスカート丈。わきが完全に見えるノースリーブ。ぱっくりと開いた胸元……裸を見られた割に、ノエルは結構露出が多い。暑がりなのだろう。まぁ、胸元が開いているのは単純に胸がないだけかもしれないけど。
「お前、そういう恰好似合うよな。可愛いんじゃないか?」
「かわっ……!? そ、そうやって機嫌をとろうとしてもダメだからなっ! わらわはまだ怒ってるんだからな!!」
そう言い張ってはいるものの、可愛いと言われてノエルは明らかに喜んでいた。ちょろいな。
念のためもう少し機嫌を取っておこう。そう思った俺は、何か褒めるところはないかと部屋の中を見渡してみた。
ノエルの部屋は、一言でざっくり説明すると『可愛い』という感じである。ここは古ぼけた屋敷だというのに、彼女の部屋だけ家具や装飾品がやけにファンシーだ。
特に、ベッドの上に大量に散乱しているぬいぐるみが目立つ。どれもノエルに似合う愛らしいぬいぐるみだった。そのうちの一つをノエルはギュッと抱えている。
「ぬいぐるみ、好きなのか? 可愛らしい趣味だな」
「……子供っぽいと言いたいのか? うるさいのだっ」
あれ? さっきと同じように可愛いって褒めたのに、今度は不機嫌になってしまった。女の子はやっぱりよく分からんな。
「別にそう言いたいわけじゃなくて……ほら! ノエルもぬいぐるみっぽくてふわふわしてるし、俺も抱きしめてみたいなーって!」
「変態! やっぱりそなた、変態だ!! わらわはそなたに抱きしめられたくないのだっ」
あれだな。俺には人を褒める才能がない。ノエルはたぶんちょろいと思うのだが、俺のおべっかが下手くそすぎて彼女の機嫌を取ることができそうになかった。これ以上墓穴を掘る前に、もうやめておくか。
「ふんっ。子供っぽいって言われても、わらわにとってこのぬいぐるみは大切なものなんだぞっ……ツキノが人間界から持って来てくれた物なのだ。そなたが何と言おうと、わらわにとっては宝物だからなっ」
ノエルは完全にふてくされたようである。唇を尖らせていた。
「ふーん? これ、人間界から持ってきたのか」
もう何を言っても機嫌を直してくれそうにはないので、それは諦めて俺は彼女の隣に腰を下ろす。散乱しているぬいぐるみを手に取ってみると、それが人間界の動物をモチーフに作成されたものだと気付いた。
「犬とかうさぎとか猫とか……こういう動物も好きなのか?」
「……まぁ、嫌いではないのだ」
「そうか。確かにあいつら、可愛いからな」
人間界には魔物はいないが、その代わりに動物と呼ばれる生物がいる。魔物より無害な生物で、中にはペットとして飼う種類もいた。
「……そうなのだな。わらわも、いつか見てみたいなぁ」
俺の言葉に、ノエルは羨ましがるような声を上げる。
それも無理はないだろう。何せ、魔界には動物がいない。凶悪な魔物しかいないのだ。
ノエルは動物を見たがっている。あ、これは彼女の機嫌をとるいい機会では?
そう思って、俺は早速こんなことを言ってみた。
「じゃあ、いつか人間界に連れて行ってやるよ」
これを言えば、彼女の俺に対する好感度が上がると思っていたのだ。
しかし、ノエルは嫌そうな顔でべーと舌を出す。
「嫌だ! そなたとなんて、絶対に行かない!!」
……どうやらノエルは、俺が思っている以上に俺のことを嫌っているみたいである。
やれやれ、年頃の女の子はよく分からないなぁ――
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