みんながおきあがる日
神様を頼る機会は、意外と早く訪れることになりました。
村のある国と、その隣の国。
村の人が年を取らない秘密を欲しがっていた彼らは、村をめぐって戦いを始めたのです。
最初は村から離れた場所で小競り合いをするだけでしたが、だんだんと戦いは激しくなっていきます。
参加する人数も増えていき、ついには村を戦場として大勢の兵士が戦います。
どちらの国の兵士も、このような命令をされていました。
「敵に秘密を渡すな。手に入れる事よりも、これを優先しろ」
普通は住むところを戦場にされれば、当然被害はでます。けれど、敵は別にいるので積極的に攻撃されることもありません。
村の人たちは、敵に秘密を渡せないからと両方の兵士から攻撃を受けました。
なんとか逃げられたのは、ほんの数人だけ。
戦いが終わり、兵士たちが引き上げた村に、生き残った人たちは戻ってきます。
何もかもが焼け、壊れ、無事なものは一つとしてありません。
長い時間をかけ、少しずつ良い場所にしてきた村。それがめちゃくちゃになってしまい、彼らは泣くことも出来ずへたり込みます。
しばらく呆然としていた生き残りたちは、神様の言葉を思い出しノロノロと立ち上がりました。
死んでしまった仲間たちも、山へ持って行けば生き返るはず。
そうしてみんなが生き返った後は散り散りに逃げれば、普通に生きていける、かもしれない。
そんなことをして、意味があるのか?二つの国に追い立てられて、今度こそ全滅してしまうかもしれないのに。
その時、山から音が聞こえてきました。大きく低い、体の大きな動物があげる声のようにも聞こえる音。
山に住む神様が、自分たちを憐れんで泣いてくれている。
最初はそう思った村人たちの頭に、別の考えが浮かびます。
神様は、自分たちに指示を出している。『ある事』をしろと。
それをして、何が起こるかまでは分かりません。けれど彼らは、悪い事は起こらないと確信しています。
これ以上に悪い状況なんて、想像ができないのですから。
村での戦いからしばらくたって、二つの国は攻め滅ぼされました。
それをしたのは、村の戦いで死んだ兵士たち。
生き残りたちによって、山に持ってこられた死体が起き上がったのです。
かつて村人が『老い』を取られたように、彼らは『死』と『心』を奪われています。
刀で切られようと、槍で突かれようと彼らはひるみもせず、かつての仲間を手にかける事もためらいません。
また、起き上がったものたちは『心』を奪われていても、敵を倒す技や知識、知恵は持っています。
不死身の体でそれを振るえば、生きているものはひとたまりもありません。
そうして彼らに倒された者もまた起き上がり、仲間に加わっていきます。
火で焼いたり重いもので潰せば、長く足止め出来る。
そのくらいしか打つ手が無いと分かったころには、起き上がったものたちの数が生きた兵士よりも多くなっていました。
死者の群れに押しつぶされて、二つの国の城は落城することになります。
攻め滅ぼしてしまったものの、国取りがしたい訳ではなかった山の神様。
自身にとって都合の良い形になるよう手を加えて、起き上がったものたちを元に戻してしまいました。
年寄りを捨てる決まりを無かったことにし、税を安くして、兵士の体を強くします。
この国の税が高かったのは、周りの国に攻められないよう武器や兵士にお金をかけていたから。
お金をかけなくても強い兵士が用意できれば、税を安くしても問題は無いのです。
人々が抱いていた『だれも年を取らない不気味な村』だという考えも、消してしまいました。
これをそのままにしておけば、また似たような事が起こるかもしれません。
村の人たちは、また年を取るようにしてもらえただけではなく、他の問題まで解決してもらえた事をとても喜びました。
村はめちゃくちゃになってしまいましたが、神様のおかげでまた一からやり直していくことができます。
明日は今日よりも良くなる。
今を生きるのに精一杯でもなく、終わりが見えないまま生き続けるでもなく、これからに希望を持って生きていける。
最初の一人が帰ってきたその日から、村人たちはそれを求め続けてきました。
村の人たちは、子が産まれる喜びと看取られる幸せを手に入れ、世代を重ねていきます。
そうしてご加護が必要なくなっても、山の神様は奉られ続けました。
死と縁遠くなった子孫たちが、神様の声を聞くことはなかったそうです。
今度こそ、めでたしめでたし。