お坊ちゃまはOKなんだ
「でさ、折角死守してくれたのは嬉しいんだけど、コレ、片づけて」
顔を洗って、元のイケメンに戻ったジル・サンダー(本名長いし、何より本人が拒否ってるんだもん、ニックネームと思えばいいじゃん)に私は、机の片づけを命じる。
「えーっ、なんで?」
と言いながらも、ジル・サンダーは机を拭き始めた。
でも、私は机を拭きながら聞く、
「ねぇ、ミニョーリの世界には他にどんな機械があるの?」
ジル・サンダーの質問の答えに困る。
「どんなって……いろいろあるよ」
テレビにラジオにパソコンに電子レンジに洗濯機……数えたらきりがない。それをいちいち彼に分かるように説明したりなんかしたら一体どれだけかかるだろう。そもそも説明しきれるのか? いや、私は暇だからしてもいいんだけど、そんなことしてたらいつまで経ってもミシンの話に戻れなそう。
「それはおいおい話してあげるから。今はコレに集中する!」
私はそう言って昨日の図面をひろげてもらい、各部品に狂いがないか確かめていった。いざ部品ができても、組み上げられなきゃゴミ以下だもんね。
そしてできあがった図面を金型屋に持ち込む。どうやらごひいきの店らしい。
「エラく変わった部品ばっかだな、坊」
そう言った金型屋の大将のガルマさんは、昔冒険者でもやってたかのようなムキムキマッチョ。ファンタジーで言えばドワーフって感じかな。ただ、ファンタジーと違うのは彼が長身だって事。
あれっ、なんでガルマさんの言葉が解るんだって? あれから、ジル・サンダーとは言葉が解るだけじゃなく、書いた文字も日本語で私には表示されることがわかって、要点だけこっそり書いてもらうことにしたんだ。
「こういう物を作りたくてね。布を縫う機械なんだ」
「機械で縫い物を?」
一体何の風の吹き回しだいと、首を傾げるガルマさんに、ジル・サンダーが完成予定図を出して説明する。しかし、箇条書きに馬鹿正直に坊って普通に書いてるのはワロタw。殿下には反応するのに、坊には反応しないんだ。ま、殿下はもろ王族だけどお坊ちゃまはお金持ち全般を示すか。
やがて、ジル・サンダーの説明が進むと、俄然ガルマさんの目も輝き出す。そうだよね、新しい技術ってワクワクするよね。
「ほう、その足の踏み板でハンドルを回して針を動かすのか。水車の原理だな。
だが、これだとおんなじトコばっか縫っちまわないか」
的を射た質問がポンポン飛ぶ。
「だから、ここで下の傾斜の付いたギザギザが活躍する。布が少しずつ前に進むんだ」
「へぇ! 針が動くんじゃなくて、布の方が動くのかい。こりゃ、考えたな。だが、何で足で踏むんだ?」
ハンドルに持ち手をつけて回せばいいだろうと言う、ガルマさん。
「うん、それでも縫えないことはないけど、勝手に布は前に行くとは言っても、ちゃんと両手で押さえてないと、歪んでいかないかな……
それに、足で動かす方が速度が出る? とか……」
それに対して、ジル・サンダーはしどろもどろでそう答える。正直、彼は私が横で説明しているのを、棒読みでスライドしているだけだからね。
やがてできあがった部品を組み立てて試作品が完成した。
お披露目の稼働はもちろん、ジル・サンダーが。だって、この機械の(一応)開発者だし、彼にしか私の声は聞こえないから。
ジル・サンダーは、
「えっと次はここに糸を通して……でいいんだっけ。それからっと……」
と、おっかなびっくりで稼働の準備をする。
何とか糸をかけ終わって布をセットすると、ジル・サンダーは大きな深呼吸の後、ガンガンと踏み板を動かした。