即席ホワイトボードと……
「それならあるけど……」
何に使うのさと首を傾げながらジル・サンダーが台所から持ってきたのは『小麦粉』の壷。私は、ホコリレベルを動かせるんなら、小麦粉だって大丈夫だと踏んだのだ。幸いにもサンダーボルト家のテーブルは濃い茶色。薄くはたいて即席ホワイトボードにするのだ。
で、なぜサンダーボルト家に小麦粉があるかと思ったかというと、おひとり様だという彼の食生活は日本の独身男たちとさして変わらないんじゃないかと。どうせ外食中心だろうし、見たところ、このングリーアス、日本みたくコンビニなんてなさそうだし、食堂だって良い子が寝る時間には閉まってしまいそう。なので、夜中に小腹が空いて食べようと思ったら自分で作るしかないと。
で、私が
「じゃぁ、そのテーブルの上にある物を全部どけて中身を撒いて」
と言うと、ジル・サンダーは、
「へっ?? まさか、その服を作る機械って、パンでできてる!?」
とまたあり得ない方向で推理を巡らす。ったく……パンで設計図って……完成模型にするにしたって、膨張率とか考えなきゃならないし、どんだけ計算要るのよ(ただ、絶対にできないとは言わない)
「んなわけないでしょ。今からここに#部品__パーツ__#を描くから、紙かなんかに写し取って」
とため息つきながら返す。
「はいはい」
そう言う事ねと頷きつつ、ジル・サンダーは一旦テーブルから下ろした紙を取った。そして、私が描いた各#部品__パーツ__#をサイズ込みで書き込んでもらう。もちろんサイズは覚えてはいないから、テーブルの隅にものさしを置いてもらってそれと指と照らし合わせながらだけどね。
で、ここではさっきとは打って変わって同時翻訳君が大活躍。私がメートル法で言うと、ジル・サンダーにはこっちの単位で伝わっていた。やればできるじゃん、同時翻訳。
書き込むところがなくなったらまた粉撒きを繰り返し、その作業はすべてのパーツを書き終え、ジル・サンダーが寝落ちするまで続いた。そのあと私はどうしたのかって? そのまま起きてましたよ。寝ようと思えば寝れるのかもしれないけど、別に疲れてないし。ジル・サンダーの妙にかわいい寝顔をみながら、#部品__パーツ__#の組み上げ手順を再確認。それが終わったら、外に出て(ドアは開けられないけど、通り抜けられるもんね~)高台に上ってングリーアスの朝日を眺めた。不思議と地球に帰りたいとは思わなかった。だって地球に帰ってもたぶん死ぬだけじゃん。そう思ったら、ここでジル・サンダーをあごで使っていろんな事をやるのも面白いかなと。
そしてサンダーボルト家に戻ると、30後半位の女性が真っ白な机に突っ伏して寝ているジル・サンダーをガンガンに揺り起こしていた。お母さんと言うには少し若すぎるような気もするけど、お姉さんというにはちょっと……って感じの微妙な年齢だ。でも、奴はガンガンに揺すぶられているのに、ピリッとも起きる気配をみせない。相変わらずジル・サンダー以外の人の言葉は解らないけど、
「ジェラルドシス、ウルシファダミソカーラ」
と、ジェラルドだけは聞き取れた。
で、ジェラルド呼びで何度か揺すぶった女性は、それでも目を覚まさないジル・サンダーに向かって、
「アレングリアソレート、ウルシファダミソカーラ」
と言い方を変える。後半が同じなので、それはたぶん起きなさいなんだろうけど、前の方は何を言ってるんだろうな。
すると、その言葉にようやく目を覚ましたジル・サンダーは、彼女に向かってこう言ったのだ。
「エウリア、だからデンカは止めてって言ってるでしょ、デンカは」
へ? 電化?? いや、ここには電気はないからそれはありえない。たとえ、こいつの苗字がサンダーボルトだったとしても。じゃぁ……あ、殿下???
殿下って……ジル・サンダーってば実は何者なの?