雷について一講釈ぶってしまいました
「君、死神? 僕を迎えにきたの?」
「違ーう! 私はそんなんじゃない」
涙目でそう言うジル・サンダーに私は大きく首を横に振った。
「そもそも、迎えに来たんだったら、雷に突進していくの止めないし。止めたら連れてけないじゃん。ってか、私にはそんな目的なんてないし。ただの幽霊だよ」
とため息混じり続けるが、自分で言っててそれもなんだか変だと思う。
とにかく、私は怯えまくるジル・サンダーに、こことは別の世界からきたと説明すると、彼の顔に少し赤みが戻った。まったく……何度も言うけど私は死神じゃないって! 変なフラグ立てないで欲しいわ。
で、改めて今朝からの説明をする。その最中、
「トラック?」
と、妙な所に食いつかれて、
「うん、トラックに轢かれた」
と、答えた私。
「デカいからたぶん即死だよ」
とこめかみを押さえてそう言う私に、ジル・サンダーは、
「その……トラックって何? あ、轢かれるんだから、馬車みたいなもの?」
首を傾げながら真顔で言ったのだ。思わず前につんのめってしまう。ま、浮いてる私はそれでも転んだりしないんだけど。にしても、ば、馬車ぁ?? なので、
「あのー、因みに自動車って知ってる?」
と遠慮がちに聞いてみると、
「聞いたことないよ。第一車が勝手に動いたら危ないじゃないか」
と、斜め45度の答えが返ってきた。
後日これは、この世界にはない『自動車』を『勝手に動く車』と翻訳した『同時通訳』君にもその一端がある事が判明したが、そうじゃなくても、この時点でこの世界に自動車が存在しないことはよーく解った。まぁ、そうだよね。電気を捕まえに行くとか言った時点で、その可能性はないわな(ため息)
そして、
「それでさ、ミニョーリは雷が使えるんだよね。
君って生前は魔法使いだったの?
『自動車<勝手に動く車>』は魔法で動くんだよね」
と続けるジル・サンダーにまたコケる。
「魔法? そんなものはないわよ」
今度は私をお伽の国の住人にでもするつもり? 憮然としてそう答えた私に、
「でも、雷の使い方は知ってるんだよね」
と言うジル・サンダー
「使い方もなにも、そもそもアレを受け止めようと思ったら、相当頑丈な装置が要るわよ。大小はあるけど、今のその箱位ならまず間違いなく爆発して終りね」
「へっ、爆発?」
爆発の言葉に目を丸くするジル・サンダー
「雷の電力って、一説では一億ボルトって言われてるからさ」
「一億ボルト……」
電気が実用化されてない世界では、ボルトなんて単位としては存在しないのかも知れないけど、それでもジル・サンダーは一億の数字に言葉を失ってしまう。
「それに、威力はデカいけど、一瞬だから取れる電気はホント少ないのよ。
電気エネルギーって所謂生ものなの。電位という位置エネルギーを使って高い所から低い(あるいはゼロの)所に運ぶことはできるけど、保存が難しくて、そんなにいっぱい詰め込めない訳。
初期の湿電池なんて、容量のわりにものすごくデカいもんねと、畳みかけるように電気を扱う難しさを説く。地球だって、いろんな人が何人も何年もかかってできあがったものだ。たった一人では荷が重い。早めにあきらめた方が得策ってことで。
でも、ジル・サンダーは簡単には引き下がらなかった。
「じゃぁ、ミニョーリたちニホンの人たちはどうして電気を使えるの?」
と言うので、
「それは、ダムとか作ってタービンを……だっけかな」
とつぶやくが、電気の博物館で図解したのを見ただけだし、正直細かいシステムとかいまいち分からない。でもそれを聞いたジル・サンダーは、
「お願いミニョーリ、僕にデンキの作り方を教えて」
と、そう言いながら私の手に縋りつこうとうした。当然、それはスカっとすり抜けて前につんのめることになるんだけどね。しまった、生半可な知識なんか口にするんじゃなかった。ジル・サンダーは、
「雷で物を動かすのは僕の長年の夢なんだ」
とその美しい紫色の目をキラキラさせて懇願する。その超絶キレイなワンコ姿に……私は根負けした。
「しゃーないなぁ。私も電気の技術者とかじゃないから、詳しいことは分からないけど、分かることはアドバイスするわ」
と渋々言った私に、
「ホントに!」
解りやすく色めき立つジル・サンダー。私はそれを人差し指を立てて制止しながら、
「ただーし、その前にあんたには別の物を作ってもらうわ」
と言うと、
「別の物?」
とあからさまに不安な顔をする。ジル・サンダー<ワンコ>》。私は彼に、
「電気を作りだすにはとんでもなくお金がかかるの。
実現するためには、まず資金づくりよ」
そう言ってウインクしてみせた。
そう、新しい物を開発するのには膨大なお金がかかる。コレ、常識。
で、作る物はもちろん機械の代名詞のアレ……