お土産
「うふふぅ~、みんなにお土産があるんだよね」
離宮の工房への引っ越しが完了した後、私はそう言って工房の壁を指さした。首を傾げている工房のメンバーを後目に、私の合図を聞いて、護衛騎士(速攻で王様につけられちゃったんだよね)のお兄さんたちがでっかい紙をそこに張り付けた。そこに書いてあるのは……
「何? コレ。数字がいっぱい……」
「今更、数字の勉強? 毎日算盤の勉強してるのに?」
私がどや顔で取り出したものに数字ばかり書かれているのを見て、みんなはさらに首を捻る。
「算盤のグレードアップのためにつくりましたぁ」
幽霊時代に算盤を提案したのは私なんだけど、私自身は算盤を小学校の算数の授業でしか習ったことがなかった。玉の動かし方は一応知っていたから足し算と引き算は教えられたけど、実はかけ算わり算の仕方は知らなかったんだよね。だから、弾く速度なんてユージーンはもちろん、工房メンバーのほとんどに勝てなかったと思う。教えた方が実は下手だったとか、ホントシャレにならないでしょ?。
だから、日本に戻ったとき、私は1から算盤を習ったんだよね。っていうか、今はインターネットの算盤教室もあって、体調がよほど悪くない限り練習できたので、工房とおんなじように、毎日15分はやるようにしていた。おかげで、こっちに来るちょっと前に3級取ってます(どや顔)
で、話を元に戻すと、壁に貼ったのは、九九の一覧表。でも、書いてあるのは1×1から12×12までなので、正確に言うと九九ではない?(じゃぁなんて言えばいいんだろ)
まぁね、たまたまングリーアスも10進法だったから別に9×9まででもまったく問題はないんだけど、日本で仕事してたとき、発注は結構グロス(12×12)で頼むことが多かったし。12っていろんな数で割れるから、結構使い勝手がいいというか。それに、私の記憶に間違いがなければ、フランスは12×12で習ってたはず。(ちなみにインドは19×19だったんじゃなかったかな)ま、こっちではだれも『そんなの九九じゃないじゃん』っていう人もいないので、12×12まで覚えてもらうことにしちゃった。
その横で私は文字の練習。実体はなかったけど、8年間暮らしてきて言葉はわかるけど、文字は書くことなんてなかったし……ってかその前にほこりも小麦粉もないきれいな工房じゃ書けないし、ミシンの時みたく、わざわざジル・サンダーに撒いてもらうのもなんだかでしょ。
ただ、ここの言葉は表音文字なので、文字数が28文字しかないのは救いだったりする。今から日本語ぐらいの文字数を覚え直すのは、正直ヤだもん。でも、表音文字とはいえ、聞こえたとおりの綴りじゃなかったりするのはあるあるなので、結局膨大な単語を覚えなきゃならないってことには変わらないんだけどね。
それでも、いままで模様にしか見えなかったングリーアスの文字が、ちゃんと言葉としてわかるのって宝探ししてるみたいですんごく楽しい。この間、マウリッツのお兄さんが(私を定期的に診察しに来るのだ)忘れていった医学書を読んでいたら、
『そんな小難しいものを読んでよく疲れないな』
とビーンにあきれられたけど。確かに専門用語が多くて?? ってなるところはいっぱいあるけど、周りの単語から推理して読むのって嫌いじゃないのよね。縦しんばそれが間違ってたとしても、私が治療する訳じゃないしね。
んで、その楽しさを他の子どもたちにも味わってほしいなと思った。ミラクロアの一般人の識字率はあまり高くない。ま、義務教育を9年も受けて識字率ほぼほぼ100%っていう日本の方が普通じゃないのかも知れないけど、文字が読めれば本でいろんなことを調べられるし、計算ができればお釣りの計算でだまされるなんてこともなくなるだろうし。
私は、工房の利益を使って、学校を建てることにした。学校といっても、教えるのは読み書き算盤ぐらいなので(歴史とか地理なんか私の方が知りたいぐらいだし)、寺子屋みたいなものなんだけど、識字率と計算力が上がれば、ミラクロアの人たちが新しい発想で何か生み出してくれるような気がするんだよね。




