そして、ミニョーリは今日も暴走する
数年後……
「ひーめーさーま、やっぱりここにいらしたんですね」
(ヤバっ、もう見つかった)
私は隠れていた車のトランクの中から近衛兵につまみ出された。そして、目の前にはエウリアさんが仁王立ちしている。ううっ、絶体絶命……
「さぁ、お部屋に戻りますよ」
というエウリアさんに、
「いやだぁ、私もタリーゼ行くぅ~」
なけなしの抵抗をしてみるものの、鍛えられた近衛兵にがっちりとホールドされているので、数ミリの隙間すら作れない状況。
エウリアさんは、私が日本に戻ったとき、自分が私をミラクロアから追い出したと、それこそ自害してしまいかねない勢いだったが、ジル・サンダーが彼女以上に憔悴してしまったため、つきっきりでお世話している内に私がこっちに実体を持って戻ってきて、無事復活。今は、私の侍女頭兼教育係として、あのロッテ〇マイヤーさんよろしく、私の一挙手一投足に目を光らせている。
「やっと発電器が日の目をみるんだよ、その場に立ち会わせてくれたって……」
最初の図面引いたの私だよ。
そう、明日このングリーアスで初の発電器が稼働を始めるのだ。タリーゼの温泉を利用した地熱発電。
ここにきた当初は水力発電から始めようと思っていたんだけど、ダムの工事は大がかりなので、意外とコストがかかる。それよりも、間欠泉の勢いを利用した方が、設備もコンパクトにできるだろうっていう……ま、完全な思いつきだったんだけどね。今や、国中から集められたオタクたちががんばってくれたおかげで、発電器作れちゃいましたぁ!(どや顔)
「姫様、此度は電気の正式なお披露目、工房の者だけではないのですよ。その中で幼気な姫様がおられるだけでも不自然なのに、姫様は問題点など見つけようものなら、喜々としてご指示なさるでしょう」
そりゃ、そうですよ。問題点を挙げてディスカッションする、コレ、開発の常識です。
「そのようなことをなされば、姫様が真の電気の発案者だと暗に言っているようなものです。姫様は、余程悪い輩に攫われたいようですわね」
無意識に頷いちゃった私に、エウリアさんはそう言って頭を抱える。にしても、中身はもちろん、外見ももう幼気なんて歳じゃないんですけどね。
「それにさ、君が無事離宮を抜け出したとしてもさ、騒ぎにならないとでも思ってた?」
そこに、私が見つかったと聞いてここに来たジル・サンダーがそう言って、ニヤニヤしながら私の頭をポンポンする。がるるるる……私はその手に噛みつこうと頭を上げるが、うまくスルーされた(泣)
「いーきーたーいー!! 私もタリーゼ行くのぉ!!!」
「ダーメ。
大丈夫、もうちょっとの辛抱だよ。秋には社交界デビューなんだから」
そう、秋になれば社交界デビューではあるのだ。貴族は社交界デビューさえ果たせば、晴れて大人……って、その社交界は秋っていってもずいぶん寒くなってからじゃないよぉ。あと半年以上も先なんだけど。ぶぅ……ふくれっ面のままの私に、
「あ、そうか、ミニョーリはタリーゼの温泉に入ったことがないんだっけ。
だったら、今度みんなでタリーゼ行こうよ。それでいいでしょ」
と、笑顔でそう提案するジル・サンダー。ちがーう、私は旅行がしたいわけじゃないんだ。温泉は……入りたいけど。
こうして、工房の面々は私をおいてタリーゼに向かって走り出した。
でもね、言っとくけどその車(ガソリンではなく食用廃油で走るタイプ)も私が作ったんだからね!
置いてかないでよぉ~
ミニョーリ・ハヤシャカ・ウイズドゥム・ディファー・オブワールド・ミラクロア(早坂みのり)
後の世には『ミラクロアの賢者』と言われた人物。彼女の生み出した蒸気機関車・自動車・段ボールは流通に革命をもたらした。
特に、電気の発明は人々の生活を飛躍的に向上させ『ングリーアスに魔法をもたらした』と『ミラクロアの賢者』の二つを冠することとなる。
また、庶民の教育にも尽力し、自身の発明で得た財を全てなげうって学校を設立し、識字率、計算力の向上に大いに貢献し、優秀な人材を多く排出する技術大国となる礎を築いた。
40歳で父王トリスタンから王位を継承するが、早々に議会を設立させて、政治権限を譲渡。王位には留まるものの、緊急時以外は口出ししない『象徴王政』を確立したことでも有名。
政治権限譲渡後は、再び開発者として最前線に立ち夫アレングリア共に、発明三昧の日々を送った。一男二女。
80歳で永眠。
-The End-




