ミニョーリの取扱説明書
一応存在を認められた私だったが、正式に住民登録することになって、意外なところから横槍が入った。なんと王様が私をトリスタン殿下の娘に、つまり自分の孫にすると言いだしたのだ。げっ、それってバリバリ王族じゃん。
しかもトリスタン殿下は一人っ子で、すでに結婚して子供も2人いるけど、今の私よりも小さい。ミラクロアでは王位継承権に正側は問われないらしいので、私はいきなりトリスタン殿下に次いで王位継承権第2位に躍り出ることに……いや、ないよそれ。
「どこの馬の骨かもわからない異世界人に王位渡してどうすんですか!」
と言った私に、
「余は向いておると思うぞ」
と笑う王様。
「向いてる向いてないって、そんな問題じゃないと思いますけど?」
そりゃ、養子縁組で法律上は親子になれるだろうし、一般人ならそれでいいのかもしれないけど、王族でしょ? 国民が納得しないよね。王族は王様の血を引いてなんぼでしょうが。それに対して、
「血のつながりを懸念しておるのならそれは問題ない。ゆくゆく其方はアレングリアと添うつもりなのであろう? あれは間違いなく余の血筋。『伝説の宰相』の子が王配ならば、国民の誰も異を唱えはせん」
安心せいという王様。要するに間接的にジル・サンダーに王位を譲るとそう言いたいわけね。まったく……どうしてそう、ジル・サンダーを王様にしたいの?
首を傾げた私に王様は、自分はジル・サンダーのお父さんとは腹違いなのだと告げた。しかも、ジル・サンダーのお祖母さんの方が正妃様で、先に生まれたというだけで優秀な弟を差し置いて即位したことを未だに悔いているらしい。だから、いつか弟に譲位するべく、勧められても絶対に側室は迎えなかったとか。うーん、でも8年間ただ見てるだけだったけど、意外と善政しいてると思うけどな、私は。
それはともかく、
「だからって、その息子に譲るのはまた別の話です。
だいたい、ジル・サンダーは雷が鳴ったらダッシュで捕まえに行くような奴ですよ」
到底王様に向いてるとは思えない。
「そこは、其方がうまく手綱を引いてくれれば良いのだ。
それにだな、これは其方のための縁組でもあるのだぞ」
へっ、私のため?
「やはり自覚がないのだな。
其方の知識はこのングリーアスにとって黄金財宝に匹敵する、あまたの国が喉から手を出してでも欲しがるものだ。
ただ、今まで其方は実体を持っておらず、その功績はチームサンダーボルトの総力ということになっておったが、今はこうして其方は体を得ている。もちろん、全力で秘匿はするが、もし、この新しい知識が其方一人の発案だと知れれば、其方は非力な幼子であるし、工房の皆も学者寄りで武術に長けた者はおらん。しかし、あの狭い工房では、護衛を置く場所もないではないか」
これでは、早晩拐かされてしまうだろうと、王様は大げさにこめかみを押さえる。確かに工房は職場だからね、遊んでるスペースなんてないよね。
「それに、この国の常識も学んでほしいしな。
確かに、この国の常識にとらわれないことが其方の最大の強みではあろうが、それはまた其方の素性を暴いてしまいかねない諸刃の剣だ。城ならばそれを教える者は山とおる」
……いや、この際だからお姫様教育しちゃおうって魂胆が見え見えなんですけど……
でもまぁ、それってジル・サンダーが、そして彼のお父さんが愛されている(いた)証拠だよね。ジル・サンダーが政に携わるのはちょっとアブナいかもとは思うけど、先に即位するのはトリスタン殿下だし、殿下とジル・サンダーってそんなに歳も変わんないから、殿下がながーく在位してくれればいいのよ、うん。
それに、力があった方がいろいろ新しいこともやり易いかな。
と言うわけで……私、早坂みのり改め、ミニョーリ・ハヤシャカ・ウイズドゥム・ディファー・オブワールド・ミラクロアはお姫様になりますっ!
(実はこれ、早坂みのりは異世界の知恵っていう英語なんだけど、ここじゃ英語なんてだーれも知らないしね。だって、王族の名前は長くなくちゃってみんなが言うんだもん……なんだかなぁでしょ)
そして、お后様たち女性陣に着せ替え人形としても愛でられて、げんなりとなるのはこの少し後のこと……ううっ、愛されるってなんか辛い……




