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たかが夢、されど夢

 そして、目覚めてから一年半が経った。あれから私は電気づくりの方法を何度も繰り返し書いた。最初の内は疲れすぎるからとそのことに難色を示していた周囲も、一年を過ぎた頃からそれを生温い目で見守ってくれるようになっていた。たった一人を除いて……


「おまえまたそんなもん書いてんのか」

といって、ノートを取り上げ、隙あらば捨てようとするのは、私の兄。でも、残念でした。取り上げられたって、もう全部頭に入っちゃってるよ、お兄ちゃん。


 どれだけ資料を集めても、転移するのはどうせこの身一つだ。結局は記憶だけが頼り。だから、完璧に覚えるまで何度も書いたんだからね。

「んなもん書いたところで、また夢に戻れる訳ゃないんだから……」

で、お兄ちゃんはノートを取り上げた後、渋い顔で決まってそう言う。どんなに夢見がよくっても、それは所詮夢。戻れっこないのだと。ただ、他の人が言わないそのことをお兄ちゃんが言うのは、逆に私ならやりかねないと思っているからだろう。

 幽霊としてングリーアスに行っていたんだから、幽霊になればまた行ける……要するに自殺の心配をしているのだ。でも、私はそんなことをする気はない。確かにそうかもしれないけど、もし死んでもあっちに行けなかったとしたら? ホント、死んでもしにきれないじゃない。


 ま、お兄ちゃんが心配するのもわからなくはないんだ。正直な話、ここのところのわたしの体調はあんま良くない。ちょっとした気温の変化ででも熱がでるようになっているから、温度湿度一定の自室から出られない状態になっている。さながらクリーンルームで精密機械を作っているよう。ま、精密ってことで言えば、人間もかなり精密にできてはいるよね……話がそれちゃった。まぁ、そう遠くない内に、私の地球での人生は終わるんじゃないかなと。

 だから、私はそれまでに一目でいいからジル・サンダーに会いたいのだ。せめて、

「雷作るの手伝えなくてゴメン」

だけでも言いたい。

  ……だぁーっ、もう! 私はあの薄紫の瞳のヘタレワンコが好きなんだよっ!! 悪いか。

 私がそれを自覚したのはこっちに帰ってきてからだけどね。ま、それ以前に自覚してたとしてもどうにもならないのは変わらなかったけど。


 そんなことを悶々と考えていたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。窓の外が暗くなってる……ん? 違う、これ木の扉だ。why? 私の部屋の窓ってばごく普通のガラスサッシだったはずだけど。

 ……ってか、この扉チームサンダーボルトの工房のじゃ…… うん、そうだよ! この扉工房のだ!!

 私がそう思ったとき、工房の扉がキィと懐かしい音を立てて開いた。扉の向こうにいるのは……ジル・サンダー! って、ことはつながったの? 何で今? ま、いいや。とにかく閉まらない内に行かなきゃ。

 私は、渾身の力で車椅子を抜け出すと、工房の扉の先に飛び込んだのだった。私の後ろで、

「みのり!」

と叫ぶお母さんの声がする。ゴメン、今度は戻ってこれないかもしれないけど、私、行ってくるわ。


 ……そして、私の意識は闇に刈り取られた。

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